軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第461話 鍛錬の果てに

アレンたちは、ヘビーユーザー島のペロムスの家の一室にいる。

エルフたちの精霊魔法によって改築したペロムスの家は2倍以上の大きさになった。

まるで王国の王城のように大きくなったおかげで広い会議室がある。

アレンのパーティー、アレン軍の将軍たちと、団長たちも集まってもらって今後の話をする。

「儂はおらんでもいいんじゃないのか?」

アレンが話を始めようとする中、開口一番に名匠ハバラクが自らは会議への参加は不要だと言う。

「いえ、ハバラクさんも会議に参加してください」

「そうか」

ハバラクは取り憑かれたように鍛冶に精を出している。

アレン軍に加わるようになって、鍛冶に必要な素材が大量に手に入るようになったのも理由の1つだ。

ハバラクが必要だという素材は、軍の潤沢な資金にものを言わせて世界中から取り寄せている。

このような会議の時間よりも炉や武器、自らが握りしめる鎚と向き合っていたいのだろう。

アレンがこの場にいるように言うと、ハバラクはこれ以上何も言わないようだ。

「それにしてもアレン、結局めちゃくちゃな会議になったわね。魔王もやってくれるわ」

セシルが昨日の会議の様子について話をする。

この場には5大陸同盟の会議に参加してない者も多い。

まずは情報の共有だ。

「そうだな。セシル。自己主張の強い魔王だな。いや、まあ、これは想像どおりか」

せっかく、プロスティア帝国も交えて世界が1つになって、魔王軍と戦おうという雰囲気がぶち壊されてしまった。

「アレン殿は魔王の人物像について、見識があるということであるな」

獣人部隊のルド将軍がアレンの考える魔王の人物像を問う。

アレンは魔王の前世が恐怖帝の可能性が高いと分かった時、これまでの行動についてもある程度説明がつくなと考える。

「魔王は前世の皇帝であったころの行動原理や体験を元に今も行動している可能性が高いってことです」

アレンは改めて自らの分析について口にする。

魔王は前世で恐怖帝と呼ばれる皇帝であった。

世界征服をしているのも前世からの行動の続きであった。

思考や態度は「皇帝そのもの」なことは水晶花の上での会話からも分かる。

「自らの野望や尊厳を誇示すると」

シアもアレンが言いたいことが分かったようだ。

そんなシアは獣王位を捨てた話を先ほどルド将軍にしていた。

ルド将軍からは「そうですか。最後までついていきます」と言っていた。

ルド将軍の態度から話は聞いていなかったようだが、シアの行動が予見できたようだ。

(人物像が分かると、その後の行動も読めてくると)

アレンは、1つ不思議に思っていたことがある。

なぜ、魔王は100年ほど前に自ら名乗りを上げたのか。

魔王史では、魔王は世界を滅ぼしにかかる何十年も前に一度世界に対して「俺は魔王だ。大人しく征服されろ」と名乗りを上げている。

存在を誇示してから世界を征服するよりも、黙って敵も作らず着々と計画を立てていた方がよっぽど合理的で確実だからだ。

しかし、魔王は自らを魔王と名乗り、世界を征服すると宣言した。

魔王の行動は世界を征服する過程も楽しむ前世の恐怖帝そのものだった。

皇帝としての誇りが行動原理や思考に大きく関わっているなら納得がいく。

「これで魔王は恐怖帝とはっきりしたわけだからな。ルド将軍よ。アルバハル獣王国の動向は引き続き見ておくのだ。もちろん、周辺の獣王国についてもだ」

「シア様、畏まりました」

ガルレシア大陸からやってきたムザ獣王を筆頭に、各国の獣王たちが席を立ち会議から出ていった。

その様子にローゼンヘイムの女王は困惑し、バウキス帝国の皇帝は様子を見ている状況だ。

今後も魔王軍の攻勢が厳しくなると予想される状況で、各国の分裂は絶対に避けなければならない。

ギアムート帝国の皇帝レガルファラース5世は、いつから魔王の存在が自らの皇帝の転生であることを知っていたのかあれこれ説明を求められるだろう。

5大陸同盟内でのギアムート帝国の立場の低下は否めない。

「あとは、ララッパ団長、魔王が魔導具に割り込んでいた原因は掴めたか?」

「今解析中よ。だけど、通信の魔導具に情報を割り込ませたってとこかしら」

アレンは魔導技師団のララッパ団長に、魔王が何をしたのか情報収集を依頼した。

解析すると言い、魔導板はラターシュ王国から拝借してきた。

あの魔導具は、掲示板やスクリーンのように使っていたが、元々通信の魔導具を改良したものだとララッパ団長は言う。

外部から通信の魔導具に情報を伝え、画面に表示されるものを書き換えたが、詳細は昨日の今日なので解析中だと言う。

「アレン、そんなことを調べてどうするのよ?」

「セシル、俺が魔王だったら世界の魔導具を使いものにならないようにする。それもここ一番の大事な時にな」

(これはハッキングだろ。魔王軍はハッカー集団なのか)

「え? そ、そんなこと」

「なるほどね」

セシルは意味不明という顔をする。

仲間たちも同じだが、ララッパ団長だけ何が言いたいのか分かったようだ。

「例えば、魔導板に割り込みを入れることができるなら、飛んでいる魔導船を落下させることだってできるはずだ」

「なるほどね。でも、通信の魔導具じゃないから、そう簡単にはいかないわよ」

ララッパ団長はそう簡単にはいかないと言う。

通信の魔導具に別の情報を伝えるよりも難易度は高いようだ。

しかし、人々よりも一歩先を行く技術を持つ魔王軍の底力は分からない。

「だが、対策は必要だ。せっかく敵が自らの力を明らかにしてくれたんだからな」

「ええ。分かったわ」

起こりうる対策は必要だと言うアレンに対して、ララッパ団長も同感のようだ。

「それで、転職はどうするのよ。全員は無理じゃない。私は転職したいわ」

セシルは自らの願望を真っ直ぐに言う。

「ふむ。転職ポイントをどう使うかだな。俺の方針を言うぞ」

先ほどの今だが、アレンの方針は固まっている。

「方針?」

転職について触れる。

「星が4つ未満の者のパーティーを優先して星4つにする。これに該当するのはルークだな」

イグノマスはパーティー加入前から星4つの槍王だ。

ロザリナはパーティー加入後に星4つの歌王に転職した。

ついでにララッパ団長は既に転職済みで、星4つの魔技匠となっている。

「おお! 俺強くなれるのか!!」

1人だけ星の数が2つと少なかった。

「そうだ。ルークは新たな転職ダンジョンが追加された時優先して転職してもらう」

「おう!!」

ルークが漆黒のイタチの姿をした精霊王ファーブルの頭をワシワシと撫でながら返事をした。

ロザリナも「これで私の美声に磨きがかかるわね」と満更ではないようだ。

「次に、ハバラクさんを星5つにする」

「ぬ? 儂をか」

ここにきて星4つのハバラクを転職させるとアレンは言う。

アレンの考えでは、今後の強敵との戦いのことも考え、オリハルコンをスキル「造込」を使用して強い武器にする必要がある。

防具についても同じで、そのためにはハバラクを優先させて転職させることが必要だ。

オリハルコン装備が増えてきたので、これは仲間たち全体の強化に繋がるとアレンは説明する。

「それで、皆を星4つにして、ハバラクさんを星5にしたあと、どうするのよ?」

これでパーティーメンバーは全員星4つになる。

その後の優先順位はどうするのかセシルは聞きたいようだ。

「その後は魔王軍の工作対策にララッパ団長も星5つにしたい」

今回の5大陸同盟会議での魔王のハッキングでララッパ団長の転職することが必要だと再認識した。

「はあ? そのあとは?」

セシルの顔が険しくなり、手に力が籠っていく。

「エクストラモードでレベルとノーマルモードで手に入れたスキルをカンストしたものから転職させていく。恐らくだが、最初はドゴラになるだろう。次はシアの順だな」

(クレナは既に剣帝の才能があるし)

クレナの才能はパーティー唯一の星5つの剣帝なので、新たな転職ダンジョンに行く必要はない。

「はあ? なんでそうなるのよ! 私の魔法はディグラグニに通用しなかったじゃない!!」

「へば!?」

(な、なぜ!! だが、優先順位は変えないぞ。く、くるちい)

アレンの答えが気に食わなかったのか、セシルから締め技を食らってしまう。

「あ、あの? アレン様、どういうことでしょうか」

「ソフィーまで!?」

この状況で、困った顔をするソフィーもアレンを助けないようだ。

どうも、自分を星5つにするよりもドゴラ、シアを優先することに納得がいかないご様子だ。

アレンはセシルの怒り自体は理解している。

セシルはこれまでエクストラスキル「プチメテオ」に対する自負があった。

魔王軍を率いる魔神レーゼル、魔神リカオロン、上位魔神グシャラを倒したのもセシルの「プチメテオ」だ。

パーティーでも圧倒的高火力を自負してきた。

S級ダンジョンの最下層ボスであるゴルディノ戦でも大活躍だった。

しかし、ディグラグニは片手で「プチメテオ」を受け止めた。

とうとうノーマルモードでは通用しない敵が出てきた。

上位魔神たちにもどれだけ通じるか分からない。

魔王や六大魔天と呼ばれる魔王直属の配下たちにどれだけ通じるかといった状況だ。

セシルは自らの力をつけるため、一刻も早く転職して強くなりたいと言う。

「単純な話だ。エクストラモードをカンストさせたものを転職させた方がステータスの底上げができるからだ」

「はあ?」

「まあ、聞いてくれ」

狂暴になったセシルを諭すようにアレンは説明する。

エクストラモードになるとレベルは99になる。

転職すればステータスの半分が引き継がれるだろう。

今回の条件はレベルと職業レベルをカンストすることが条件だ。

全身全霊のような元エクストラスキルは職業レベルアップに関わらない。

これは、ドゴラで確認済みだ。

(この辺は緩和措置だな。職業スキルをカンストしろとなるとかなり厳しかった)

職業レベルと職業スキルは違う。

職業レベルはそれぞれの職業のレベルで、アレンなら「召喚士」やドゴラなら「破壊王」だ。

職業スキルは、アレンの「強化」であったり、ドゴラの「全身全霊」だったりだ。

今回の条件は職業レベルのカンストが目標なので全身全霊をカンストさせる必要はない。

この言葉にキールが不安になった。

「そこまで上げて、スキルもレベルも転職して最初に戻すってことか?」

そこまで上げ切るのにどれだけの鍛錬を求めるのか。

ドゴラはこの1ヶ月、1日1万回のスキル使用を続けている。

「そうだ。今は環境がいいからな」

「か、環境?」

キールはちょっと何を言っているのか分からなかった。

「スキルをいくら使ってもいい魔力回復薬、圧倒的な最大魔力、誰にも邪魔をされない環境。最高の環境だろ」

そのために時間をかけてアレン軍を用意した。

「違いねえな」

キールが息を飲む中、ドゴラは理解した。

アレンがどれだけ苦労してスキルレベルを上げてきたか知っている。

学園にいたころは魔力が足りないが魔石も十分に取引できない。

それに比べたら自分は恵まれた状況であるとドゴラは理解し、クレナも頷いている。

「とりあえず、ドゴラには職業レベルをカンストしてもらう。クレナもできるだけ急いでくれ」

魔王の動きからもあまり時間はないかもしれない。

【転職ポイントの割り振り】

・星2つのルーク

・星4つのハバラク、ララッパ団長

・星4つのエクストラカンスト組(現時点で、ドゴラ、シア)

(ドゴラやシアもとなると全然ポイントが足りないな。仲間たちがエクストラモードになっていくと、さらにか)

ポイントが全然足りない。

この星5つにするのに転職ポイントが10必要なのは、かなり足元を見られている気がする。

魔神なら10体倒さないといけない。

「だが、これも譲歩案だからな」

「え? アレン、どういうことよ」

セシルは何を言ってるのか分からなかった。

「もし、魔王との戦いがもっと長期戦でいいなら、転職回数は1回でも多い方がいい」

「え? それって」

今回の方法は、強化はしたいがそこまで時間がないための折衷案だとアレンは言う。

本当にステータスの底上げをしたいなら、転職はぎりぎりまでしない方がいい。

先にエクストラモードになれば、少しでもステータスを上げることができる。

アレン語録に「ステータスの1を捨てる廃ゲーマーはいない」がある。

魔王軍は待ってくれないためエクストラモードで2度3度ステータスを上げる時間がない。

ルークはとっとと星4つまで上げるということだ。

「ちょっと、それはついていけないわね。ドゴラみたいなことする人、海底にいなかったわよ」

ロザリナはドゴラがS級ダンジョンの最下層で行っていることを思い出す。

アレン特有の思考がロザリナにもだんだん理解できてきたようだ。

ぶれないアレンの考えにセシルも責める気が無くなっていく。

キールも相変わらずだとため息をつく。

コンコン

会議室の扉をノックを鳴らす者がいる。

「失礼します」

「どうぞ」

アレンが入室を許可すると魔導技師団の1人のドワーフが会議室に入ってくる。

「間もなく、竜神の里に到着します」

空を飛ぶヘビーユーザー島が、神界に繋がる「審判の門」があるという竜神の里に到着した。

「おお、竜王の住む里か。新たな冒険が待っているぞ」

(この世界には魔王も邪教徒の教祖もいたし、当然のように竜王もいると)

アレンは、目を輝かせ立ち上がるのであった。