軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第45話 見学②

2体のグレイトボアが林の隙間にできたこの広場に走ってきた。釣り班の2人が必死に走り、ボア狩りの仲間のところに全力で向かう。

「な!? レイブランドよ!! ボアが2体やってくるぞ!!!」

騎士団長が慌てて高台の下で隊列を組んでいる副騎士団長のレイブランドに討伐の指示を出す。領主とボア狩りの参加者を守るためだ。

副騎士団長が大声を発し、突撃しようとしたその時であった。

「申し訳ございません。騎士団長」

「ぬ? なんだこのような時に!?」

先ほどの会話同様に平然と騎士団長に話しかける。

「まだ、狩りの途中でございます。騎士団は引き下げていただけませんか?」

「「な!?」」

一緒に聞いていた領主も驚く。

「昨日お話しした通りです。今、領主様に討伐達成を得心頂ける狩りをお見せしております。まだ狩りは途中でございます」

な!? いまそのようにと言うところで、2体のボアはすぐそこだ。もう騎士たちも間に合わない。

その時だ。

「2体来たぞ!!! お前ら気合入れろおおおおおお!!!!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

一気に気合を入れる参加者たちだ。そこに怯えもためらいもない。今まで以上の掛け声でロダンの激励に応える。少し前進し、既に止めを刺したボアの前に陣を張る。

そこにやってくる釣り班の2人だ。2つの大盾の間を全力で駆け抜けていく。

それからほとんど時間差もなく、2体のボアがそれぞれの大盾に激突した。

先ほどと違い、2人で1体のボアの進撃を止めないといけない。グレイトボアの鼻先の角が一気に大盾を凹ませる。

1歩また1歩と後退をする2つの大盾。大盾は大きく凹むが破れない。進撃が止まるボア2体。

「止めたぞ! 二手に分かれて囲め!!!」

ゲルダの声とともに囲み班が二手に分かれる。そして長槍隊も二手に分かれて囲み班の後方から槍で突き刺す。40人で参加している。囲み班が半分になっても十分な数がいる。

ロダンら止めを刺す隊も動き出す。4つに分かれて2体のボアの両側から首の急所を狙い、槍を前に突き出す。

(よし1体倒してからの2体目3体目のタイミングはばっちりだったな。練習しておいてよかったぜ)

アレンは村のボア狩りに対して抱いていた疑問があった。それはなぜ1体しか狩らないのかということだ。釣り狩りの基本は、出てきた敵は全て狩るということだ。残すなどありえない。

しかし、ボア狩りを見学して見たのは、1体だけ釣って、2体以上いた場合は1体以外は陣に寄せ付けないように誘導するという釣り方だった。

1体しか狩れないから1体を狩っているのだろう。2体狩れるならそうしている。無理だから1体しか狩らない。それは分かった。

そこから思考は次の段階に行く。

なぜ1体しか狩れないのかである。問題は、レベルでも武器でもない。もちろん人数でもない。

元ゲーマーのアレンの分析結果は防具であった。グレイトボアの攻撃に耐える防具を農奴は装備していなかったのだ。麻布ではとても防ぎきれない。10年以上狩りに参加しているロダンですら一撃で瀕死の重傷を負う。

じゃあ防具を揃えたらいいのではと思うところだが、報酬は肉の塊だ。それも家族のために消費される。とても防具を買う余裕もない。もちろんボアの進撃を止めるような鋼鉄の大盾は、以前アレンが武器屋で確認した短刀の値段では済まない。

装備が更新されず、槍だけが変わっていった。

2メートルの槍は、槍の中ではとても短い。それはボアの進撃で折れないようにするため、短くしている。しかし短すぎると角や牙でやられてしまう。折れづらく、ボアの角と牙を躱せるちょうど良い長さだ。

そんな装備で10年以上続けてきた。

狩りの基本は、狩りをしながら装備を更新していき、より効率的に狩るものだ。

そのアレンの考えのもと、盾をそして、鎧を身に着けた農奴たち。それは、2体のボアを同時に狩るのに十分な装備のグレードアップであった。

アレンはその様子を見てうまく作戦が機能してほっとしている。2体同時狩りはまだ2回しかやっていない。今回で3回目だ。

(もうすこし、遅く来てくれたら、もっと練習できたんだけどね)

狩りの時期になってすぐ、10月の中旬に領主がやってきた。それまで何度も練習できなかった。

「おお! 止めを刺したようだぞ」

2体目の首筋から鮮血が噴き出る。どうやら急所を刺せたようだ。そして、ほどなくして3体目からも鮮血が噴き出る。

「3体倒せましたね。良かったです」

「それにしても、素晴らしい。3体同時に倒すとは。あと17体だな」

3体倒せたので、この調子ならあと17体も倒せるなという騎士団長だ。

「いえ、この3体で今年10体倒せたことになります」

「「な!?」」

領主が来ることが分かって、既にボア狩りに何度も出かけている。これで4回目の狩りだ。

「ですので、目標の20体は来月にも達成できるでしょう」

3体倒して、喜ぶボア狩りの参加者を見つめる領主だ。吊目なきつい顔立ちだが、どこか優しい表情をしている。

「ほう、そうか。これなら安心して村の皆にボア狩りを任せられるな」

領主が任せると言った。それは、騎士が介入したり、よそから農奴を入れたりしないということだ。

「ありがとうございます。しかし2点のお願いがあります。今後の狩りのためにも聞いていただけたらと思います」

「ん? 願い? まだ何かあるのか? 十分な狩りであったろう?」

騎士団長の顔に疑問符が浮き出る。どこも心配のない狩りであった。

「1つは、まだ装備が整っていない参加者もいます。それに大盾をできればあと2つ欲しいです」

「ふむ」

アレンは説明をする。防具もそうだが、大盾が3つあれば3体同時もそのうち可能になる。4つ目の大盾は予備だ。耐久実験をまだ4回の狩りでしか試していない。壊れた時の予備にしたい。

「なるほど、来年以降の狩りのために装備を良くしたいと言うのだな」

「はい、そしてもう1つは懸念になります。この懸念を払拭しないと狩りが成立しなくなる恐れがあります」

アレンはボア狩りに一抹の不安があった。それは狩りに成功すればするほど大きくなる。それは家族にも影響するので、できればこの場で伝えて理解してもらいたいと思っている。

「言うてみよ」

領主がボア狩りの問題を言うように促す。

「はい、領主様。このままだと狩りに行く意欲が失われていくのです。参加者も減っていく恐れがあります」

「ん?」

すぐには分からなかったのでそのまま話を続ける。

「まず足りないもので言うと酒になります」

「「酒?」」

話が見えてこないので言葉を復唱してしまう。

そのまま話を続ける。このままだと、狩りを続ければ、早い段階で村でのボア肉の価値が暴落するという話をする。

今まで10体しか狩っていなかったボアを20体30体と狩れるようになる。今はまだ肉の供給がそこまでではないが、いずれ飽和する。そして、ボア肉の価値が落ちていく。

塩や薪の交換にも今まで以上のボア肉が必要になってくるだろう。

「なるほど、分かるぞ。だからやる気を出すために酒なのだな」

騎士団長が理解を示す。

「もちろん、やる気を出させるためですが、肉と酒を交換させることで、肉の価値を保つことができます」

飲めばなくなる酒にボア肉が変わる。ボア肉が村の中から消えていく形になる。酒屋はわざわざ、ボア肉の溢れるこの村で塩や薪に交換しない。肉の少ない隣村や領都に運ぶだろう。

「なるほど、肉の価値を一定に保ち、そして酒はそれ自体に参加するものにやる気を出させると」

騎士団長が感心する。

「はい、そのとおりです。別に酒ではなくても果物など消費されるものならなんでもいいかと思います」

これは、今回の褒美で平民になれなかった場合、アルバヘロンの肉の価値を下げないようにするためでもある。農奴たちの狩りの意欲も保てるので一石二鳥である。

「ふむ、いい考えであるな。即答はできぬゆえ、しかし検討の余地があるな」

「ありがとうございます」

「そうロダンが言っておったのだな?」

領主がアレンに確認をする。アレンが言う前に領主が確認する。

「はい、父ロダンが言っていました」

そうかと言って黙る領主だ。沈黙が生まれる。

「どうされますか?」

ボア狩りが終わったので、これから村に戻りますかと尋ねる騎士団長だ。

「そうだな。アレンよ。案内ご苦労であった。ロダンとゲルダには村に戻ったら、村長の家に来るように伝えなさい」

「はい、分かりました!」

(お? 褒美くれんのか? 平民がいいぞ平民)

こうして、領主が見学する中でのボア狩りは大成功という形で終わったのであった。