軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第405話 それぞれの動向

ドレスカレイ公爵を助けて10日が過ぎた。

もう半月ほどこの帝都パトランタに貸し与えられた、それなりの建物に住んでいる。

アレンたちはその建物の一室で長細い円卓のテーブル席につき、昼食を待っている。

「ドレスカレイ様は、元気でおられますか?」

「そうですね。ヘビーユーザー島の開拓も手伝ってくれていて助かっています。今日はご自身や皇后様が住まわれる別荘を作られていますよ」

「まあ! 私も是非行ってみたいですわ!」

カルミン王女がアレンの話で大きなリアクションを取る。

(朝も聞かれたが、やっぱり一緒に島に送った方がいいのかな。だけど、変に疑われたくもないし)

カルミン王女からは、朝食の時も聞かれたのだが、食事の度に同じ質問が飛んでくる。

これは、10日前にプロスティア皇族家の皇后と一族郎党と臣下たちを救出したのだが、この建物内に置いておくわけにはいかなかった。

この建物は基本的にクレビュール王家に貸し与えられた状態になっており、イグノマスの配下の騎士たちが勝手に入ってくることはない。

しかし、毎日イグノマスの配下の役人がやってきて、魔導具の状況を聞きに来る。

役人がやってくる中、脱獄させた皇后やドレスカレイ公爵がいたら困る。

部屋の奥に籠ってもらっても、見つかる恐れがあるためだ。

助けた人数も数十人と多く、この建物に匿うのも厳しいと判断して、ヘビーユーザー島にある魚人たちの住むクーレの町に鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」を使って移動してもらった。

何もせずにいるとプロスティア帝国のことを思うだけの日々だと不安に思うだろうからと、ヘビーユーザー島の開拓を手伝ってもらっている。

浮いた島から見る光景がとても気に入ってくれたのか、プロスティア帝国の件が落ち着いた後は、たまに遊びに来る別荘みたいなものが欲しいと言い出した。

プロスティア皇族家用の避暑地があっても面白いかもしれないと、今住んでいる建物とは別に魚人たちと別荘を作っている。

また、ドレスカレイ公爵たちを救出した翌日にも、役人がやってきて魔導具の状況を確認しに来た。

とりあえず、順調に点検が進んでいることをアレンが伝えた所、「そうか。間に合わなかったら分かっているな?」と言われる。

話がそれだけだったので、「昨日大きな物音が宮殿の方でしたようですが、いかがしましたか?」とアレンが白々しく聞いたところ、「何でもない。お前たちには関係のないことだ」と役人は答えた。

皇后やドレスカレイ公爵が逃げ出したかもしれないことを公にはできなかったのだろうと推察する。

そして、疑いの目も感じられなかったので、アレンたちの仕業であると思っていないだろう。

宮殿での玉座の間などでも、アレンたちを疑うような会話はなかった。

「それで、キールの話は、セシルはそれでいいのか?」

ドレスカレイ公爵の近況にカルミン王女が納得したので、セシルに話を振る。

「……お父様は何か言っているのかしら?」

「キールが決めたことならそれでいいらしいぞ」

これは昨日、グランヴェル子爵は反対していないことをアレンは召喚獣を使い確認している。

「お父様が反対しないなら、私が何か言う話ではないわ」

グランヴェル家としては何も問題ないとセシルは言う。

(そっか。難しそうにしているからな。割り切れない部分もあるかな)

数日前、アレン軍と勇者軍の共同演習の状況に合わせて1つの報告を受けた。

何でも、ラターシュ王国が、エルマール教国並びに連合各国を救った礼をするという話であった。

ラターシュ王国のためにしたことではないが、こういった世界で行った貢献についても、出身国が褒美を与えることはよくあることだ。

特に魔王軍との戦いの中で、ラターシュ王国とは直接関わらない戦果を上げることも多い。

直接は出身国に関わりが無くても、出身国を統べる王家などが代わりに礼をくれるらしい。

・ドゴラ、クレナは名誉男爵から男爵

・グランヴェル家は子爵家から伯爵家

・カルネル家は男爵家から子爵家

グランヴェル家の変で王領となった領地も返還され元の広さになる

キールの話ではこの3点が決まっているらしい。

何でも、5大陸同盟がちゃんとお礼をするようにラターシュ王家に圧力をかけたことにより決まったと言う。

これでドゴラとクレナは世襲制の貴族家となった。

名前をそのうち考えるようにと言われている。

グランヴェル家は元々伯爵家にするという話があった。

今回のセシルの働きで正式に決まったらしい。

そんな中、一番褒美が多いのはキールだ。

教皇見習いのキールに対して、エルマール教国は一番助けてくれたと正式に発表している。

そういうわけで、元々の子爵家になること、元あったカルネル領が全て返還される運びとなるという。

そのような状況でキールは1つの話を持ち出した。

セシルはその話を聞いて難しい顔をしたが、父であるグランヴェル子爵が納得するならそれでいいと言って、これ以上何も言わないらしい。

分かっていても割り切れないこともあるのかと考えていると、昼食が運ばれてくる。

(ふむ。プロスティアの食事もうまいからな。うまい飯でも食って気を落ち着かせてほしいぞ)

プロスティア帝国にやってくるときは、かなりふやけた地上の食事だったのだが、帝都パトランタにやって来てからは完全に海底名物の食事になった。

今日の昼食は平べったい饅頭みたいなものが数枚に、魚のムニエルだ。

この平べったい饅頭みたいなものはほとんど毎食運ばれてくるので、プロスティア帝国の主食に違いないと思っている。

海底だと、米のように水中でバラバラになったり、パンのように水を吸収しにくい饅頭的なものなのかと思う。

「ルコマンか! 相変わらずかなり旨いぞ!!」

(俺このルコマン好きだぞ)

出された傍からルークが両手で掴んでモリモリ食べている。

ルコマル草という海藻の茎と根を叩いて柔らかくして、練って茹でたものだ。

甘味の強い餡を中に入れているため、甘党のアレンもかなり気に入っている。

前世で、田舎の祖父母の家で毎回出てきた、ひらべったい饅頭のような味がする。

「クーレの町でも栽培しようか」

「おう! いいなそれ!!」

ヘビーユーザー島が活動を開始して半年ほど経つが目ぼしい特産品はない。

ルコマル草は狭い場所に大量に植えることができ、収穫量も多いので狭いヘビーユーザー島でも育成できそうだ。

街中に行く機会があれば、苗をいくつか買ってみようと思う。

(む、お? これは)

「なんだか楽しそうだな。ん? どうしたのだ?」

アレンの表情が一瞬変わったことにシアが気付いたようだ。

「いや、もうちょいでスキルレベルが上がりそうだからな」

「そうなのか」

アレンはいつも楽しそうにスキルレベル上げをしている。

アレンは食事中であっても、スキルレベル上げを止めることはない。

マナーに厳しい王侯貴族が多いこの場であっても、もう誰も気にしなくなった。

なお、魔導書は、カルミン王女やイワナム騎士団長は見ることはできない。

カルミン王女やイワナム騎士団長がこの場にいるのだが、あまり内密にしていると、今後の行動に支障が出るので、ある程度のことは話すことにしている。

また、作戦上、カルミン王女やイワナム騎士団長と話を合わせないといけないこともあるかもしれない。

カルミン王女もイワナム騎士団長もアレンの召喚した虫Aの召喚獣など、アレンの力を知っている。

どうやって宮殿の中を調べているのかとか、細かいことは答えるつもりはないが、あれこれ聞いてくることもない。

(決して状況が詰んだからスキルレベル上げに勤しんでいるわけではないのだ)

アレンは前世のゲームで、どうしても先に進むための鍵が見つからなかった時、扉を開ける魔法を覚えて力業で解決したことがある。

現状はそんなことではないと考えている。

この10日間の間もベクを追っている。

ベクが内乱を起こして半月以上経っているが、ベクの足取りは追えていない。

アルバハル獣王国に対して攻め込んでくるわけでもなく忽然と姿を消したように思える。

ベクが宮殿にいなかったということもあり、探索範囲を広げた。

地上にあるアルバハル以外の獣王国についても、ベクの足取りがないか探してもらっている。

アルバハル獣王国のある大陸では、獣王家がいくつかあるのでたまに小競り合いが生じており、アルバハル獣王国の敵対国家もある。

そして、それ以上にシアに危機感を持たせていることがある。

「やることはやっているんだ。焦ることはないぞ」

「分かっている。だが、イグノマスは、軍事力を拡大させ続けておる。イグノマスの話が現実味を増しておるのだ」

イグノマスの行動を魚Dの召喚獣で観察し続けてきたのだが、プロスティア帝国を自らの帝国にしようとしている。

帝都パトランタ周辺の貴族を呼び出して、自らへの忠誠を約束させている。

税制の優遇や、プロスティア皇族家の宝物庫を解放し、金にものを言わせて懐柔を計っている。

プロスティアの皇族は既に力が無く、そして第一帝国軍も第二帝国軍もイグノマス側についている。

そんな中、プロスティア皇族家はいなくなったが、貴族の立場は保証してくれる。

お金をくれて税制の減免措置もとってくれる。

また、プロスティア皇族家に冷遇されていた貴族家まで優遇してくれる。

中にはプロスティア家の逆賊としてイグノマスに反対する貴族もいるようだが、その勢力は小さくなっていくばかりだ。

どうやら、プロスティア帝国を長年支えてきたアジレイ宰相の入れ知恵もあるようだ。

貴族たちとの交渉にはアレンたちが持ってきた浄水の魔導具の効果を期待しての行動も大きい。

プロスティア帝国の国家予算に匹敵するほどの魔導具だ。

この魔導具が稼働を開始したらどれだけの予算を削れるか試算を命じている様も確認が取れている。

そんな状況にシアには危機感があり、昼食に手が進まない。

イグノマスが宮殿を制圧したときには多くの血が流れたようだが、その後、第一帝国軍と第二帝国軍には地上を制圧しようということで、武器を用いない説得をした。

そして帝都周辺の貴族に対しては金の力で従わせようとしている。

イグノマスのとった行動は、兵力を無駄に浪費することなく内乱を成功させようというものだ。

何故兵力を浪費しないかというと、そこにはイグノマスによる地上制覇の話が絡んでくるのだろう。

兵力の使い道があるので、帝国軍や貴族たちと戦いになるべく浪費させたくないという思いがあるのだろうとシアは推察する。

お金など、これから地上を占領して、奪い取れば良いという目算もあるのかもしれない。

イグノマスの行動は、ドレスカレイ公爵から聞き出した情報に合致している。

1つ大きな心残りがあるのはベクがその場にいないことだ。

そして、これまで聞きだしたイグノマスの話が全て本当なら最初に攻め込むのは、アルバハル獣王国になるだろう。

姿を見せないベクが、魚人たちを引き連れアルバハル獣王国の王都へ向かい、自らの反乱分子である、ゼウ獣王子やシア派の王侯貴族を攻め滅ぼす。

そして、獣王の証たる3種の装備を身に着け、「我が獣王だ」と獣人たちに力をもって示すだろう。

脳筋の多い獣人なら、それも獣王の在り様かと受け入れる可能性はかなり高い。

(だが、本当にそれだけなのか)

アレンにはもう1つ気がかりのような、言葉にできない可能性がある。

「やはり、イグノマスを叩くべきじゃないかしら?」

いつもアレンに対して拳で語ってきたセシルも脳筋みたいな発言をする。

「そうだとしてもそれは最後だろ。イグノマスを泳がせてきたんだ。今はまだ必要な情報はたくさんあるしな、っておお!!」

(イグノマスを泳がせるって。魚だけに。お、面白いぞ!)

皆には通じなかった冗談がアレンの口から放たれる。

イグノマスを討つことは簡単だし、殺さずに地上侵攻を諦めさせる方法もある。

ただ、それよりもすべきこと、できることをやった方が良いとアレンは言う。

そして、会話しながらも、食事しながらも絶えずスキル経験値を稼ぎ続けたところ、魔導書の漆黒の表紙にとうとう待望のログが流れたのであった。