軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第396話 貢物②

アレンはプロスティア帝国へ貢物として納めるために、帝都パトランタの10倍の範囲を300年浄水することができる魔導具を持ってきた。

「なぜ、このようなものが……」

タイノメ局長は驚愕しながら、アレンにこれは何だと視線を送ってくる。

さっきまでの冷たい扱いから随分変化してきたようだ。

(ふむ。すぐに誰かに報告に行く感じもないし、さすが、この大きな港を任された局長だな)

タイノメ局長は誰かに報告に行かず、そのまま状況を確認するようだ。

アレンはタイノメ局長など、ある程度権力がある者とこれからの話をする予定であった。

お陰で話がスムーズに進められるなと思う。

「これは、先ほどもお伝えした通り、バウキス帝国から皇帝陛下への献上品となるかと思いますので、少し経緯を説明させてください」

圧倒的な性能の魔導具を持ってきた。

この港を取り仕切るタイノメ局長はこれから帝都パトランタの宮殿で、さらに上の立場の者から説明を求められるだろう。

その時、困らないようにとアレンは説明を始める。

事の発端は、邪教徒と呼ばれる人ならざる魔獣たちにクレビュールの王国が荒らされたことから始まった。

甚大な被害を受け、プロスティア帝国にも多大な迷惑をかけてしまった。

「それが、この魔導具と関係があるのか?」

「もちろんです。被害が甚大であったので、各国の協力を得る機会を得たのです」

「各国の協力とな?」

ペロムスやフォルマール、イワナム騎士団長が様子を伺う中、アレンとタイノメ局長の話は続いていく。

アレンの話では、クレビュール王国の現状を見かねた同じ大陸内にある連合国の各国が共同で、相談を持ち掛けてくれた。

「クレビュール王国を今年の盟主にしていただいたのです。そして、3か月ほど前になるのですが、5大陸同盟の会議に参加することができたのです」

「ほう?」

(ここまでは真実だからね)

嘘ばかり言うとボロが出る。

虚実織り交ぜることが、人を騙すには大事だと考える。

ここまでは、真実で、クレビュール王国で甚大な被害が出たことを理由に盟主となり、各国との会議に参加する。

5大陸同盟の会議に参加すると、各国の代表の目の前に甚大な被害を受けたと聞いているクレビュール国王がいる。

各国の代表が会話をする機会があれば、少しは援助をという話に自然となるわけだ。

お陰で、物資の支援などいくつも得ることができた。

なお、各国から頂いたクレビュール王国への支援金についても、プロスティア帝国に報告するため、今回持参した報告書にまとめてあるという話を付け加える。

同じく被害を受けたエルマール教国やカルバルナ王国もあるのだが、それでもクレビュール王国が選ばれたのには理由がある。

エルマール教国はエルメア教の総本山とも言える国なので、盟主とならなくても全世界から支援は受けられる。

カルバルナ王国は、プロスティア帝国の稀少品の取引ができるクレビュール王国と違い、他国に比べてうま味がない国とも言える。

各国がクレビュール王国に支援するのは、純粋なだけの人道的な支援ばかりではない。

いつの日か困った時に「あの時、助けましたよね」と恩を売る意味もある。

売れる恩の少ないカルバルナ王国が盟主になっても、支援があまり受けられない。

そういうわけで、クレビュール王国が盟主となった。

支援を受けたクレビュール王国はエルマール教国やカルバルナ王国にも分配をしていた。

この分配についても報告書にまとめているという言葉を付け加える。

クレビュール王国はプロスティア帝国の属国だが、地上にある連合国の一員でもあるので、連合国各国とこれまでも協調してきたことは報告済みのことだ。

こういった各種報告書も、今回のアレンの嘘に真実味を持たせるために一役を買っている。

「それの支援が、この魔導具というわけか?」

(まあ、魚人の価値を差し引いても、この魔導具の価値は大きいからな)

そんなことがあるのかとタイノメ局長が思う。

「それが、どうも最近、地上では転職ダンジョンなるものが誕生し、バウキス帝国のS級ダンジョンが賑わいを見せているのです」

段々アレンの話が真実から離れていく。

「S級ダンジョンが今賑わっているだと?」

入国管理局を取り仕切るタイノメ局長であっても、そこまで詳しく地上のことを知っているわけではない。

「ちょうど5大陸同盟の会議が始まる少し前に、このような規模の浄水の魔導具がS級ダンジョンから出たのです。その時、私はバウキス帝国を担当していまして」

かなり規模のでかい浄水の魔導具が出た。

アレンは他国と外交を任せられる部門に籍を置き、バウキス帝国を担当するクレビュール王国の外交官であった。

5大陸同盟の会議にも、出席した際、何がクレビュール王国に必要かバウキス帝国の皇帝に聞かれたと言う。

「ほう、バウキス帝国の皇帝直々にか」

「はい。ププン3世皇帝陛下には常日頃からよくしていただいていますので。それに、私がプロスティア帝国へ納品する魔導具の買い付けもしております」

そこでバウキス帝国の皇帝に話を持ち掛けたと言う。

クレビュール王国は、今回の邪神教の一件でプロスティア帝国の信任を大きく失ってしまった。

もしよかったら、つい先日出た浄水の魔導具を、地上の大国であるバウキス帝国から魚人国家に対する友好の証としていただきたい。

クレビュール王国からプロスティア帝国に献上すれば、関係悪化の修復も出来て大変助かると話をした。

さらに、この恩は必ずバウキス帝国の利益になると強調した。

(まあ、バウキス帝国の名前を借りているが、何の話も通していないがな。どうせ、バレないし。バレてもどうとでもなるし)

バウキス帝国の名前を使いまくっているが、バウキス帝国の皇帝も臣下もこんな話は知らない。

プロスティア帝国はバウキス帝国と直接の取引は一切していないことは確認済みである。

もし、バウキス帝国に今回の話が届いてしまっても、「そんな嘘をついて」とクレビュール王国に言うことはないだろう。

商売っ気の強すぎるバウキス帝国なら金勘定を考え始めるに決まっている。

きっと商売に繋げてくるので、そこから上手く取引をすればよいだけのことだ。

「それでこの若さで特命全権大使に任命されたのか」

交渉事が得意な者が、バウキス帝国から貴重な魔導具を手に入れることができた。

これを材料にプロスティア帝国との関係を元に戻すよう、特命全権大使に任命され派遣されたとタイノメ局長は理解する。

「多少、考えるところがあったようですが、快く見舞いの品としていただく運びになりました」

特命全権大使など身に余る立場で緊張していますと白々しく言うことも忘れない。

これで、バウキス帝国からクレビュール王国にこの浄水の魔導具が届いた経緯を説明した。

「しかし、よく渡してくれたな」

タイノメ局長は、話は分かったが、全ての話が事実であっても信じられないという顔をしている。

「地上に行かれないから、分からないかもしれませんが、貴重なのは私たち魚人国家にとってだけなのです。地上の国にとっては、同じ帝都であったとしても、もっと規模の小さいもので事足りるのです」

(そうだよな。ペロムスがいて助かったぜ。この特製の浄水の魔導具はプロスティア帝国では金貨3800万枚するからな)

アレンは、クレビュール王国とプロスティア帝国からの輸出入の記録から、帝国が何を欲しているのか調べた。

輸入しているものは魔導具がとても多く、その中で一番目立ったのは浄水の魔導具だ。

そして、ペロムスのエクストラスキル「天秤」を使えば、国単位でも価値を調べることができる。

今回持ってきた浄水の魔導具を、ペロムスが「天秤」を使った結果

・バウキス帝国 金貨250万枚

・ギアムート帝国 金貨200万枚

・ローゼンヘイム 金貨40万枚

・ラターシュ王国 金貨0枚

・クレビュール王国 金貨0枚

・プロスティア帝国 金貨3800万枚

相場はもちろんのこと、相手側の懐事情も調べることができる。

小国のラターシュ王国とクレビュール王国では金貨0枚と出た。

必要であるが、高価すぎて買えないという意味だ。

ローゼンヘイムでは、精霊の力で水を清めているので需要が低く、他の大国に比べて価値が低くなる。

(ララッパ団長に3日3晩かけて作ってもらった特製の浄水の魔導具だからな)

アレンが持ってきた、浄水の魔導具は単純にダンジョンの宝箱から出たものをそのまま持ってきたわけではない。

アレンは、S級ダンジョン最下層ボスのゴルディノ討伐報酬の金箱から出た、浄水の魔導具(特大)にさらに加工を加えた。

今回の作戦のために魔導コア3つを組み込み、とんでもない効果になるよう調整したものだ。

なお、魔導コア1つ追加する度にプロスティア帝国での、浄水の魔導具の値段は金貨1000万枚上昇した。

魔導コア4つ使ったところで、プロスティア帝国の予算を超えて、価値が金貨0枚となった。

お陰で、プロスティア帝国の国家予算も大体把握済みだ。

「しかし、これをどう説明したものか……」

事実であってもこれから宮殿に説明に行くにはどうしたらよいか首をかしげている。

信じてもらえなかった時のことも考えているようだ。

(お? 信用できないか。まあ、プロスティア帝国の国家予算に匹敵するほどの値段だからな)

「たしかに、報告する際に困るでしょうから、この場で試運転しますか? 多少騒がしくなるかもしれませんが」

「音がするのか。いや、そうだな。少し動かしてくれ」

それは助かるとタイノメ局長はホッとする。

派手な音がした方が逆に分かりやすいとさえ思う。

「はい。では、バウキス帝国から頂くことのできた浄水の魔導具を試運転させていただきます。ルーティ、出番だ。教わったとおり、起動させてくれ」

「おう! 分かった!!」

(ちょっと声を張りすぎかな。見た目のとおりで逆に違和感がないか)

様子を見ていたルークがノシノシとやってくる。

タイノメ局長が見つめる中、ルークは浄水の魔導具の元に近づき、ララッパ団長に教わった操作方法で魔導具に触れる。

タッチパネル式のボタンのようなものがいくつもあり、それらを順番にペタペタ触れていく。

ブウウウン!

すると唸るように魔導具が起動を開始し、幾何学的な模様が箱型の漆黒の魔導具の前面に生じる。

光はどんどん強くなり、強い光が港全体を明るく照らす。

確かに起動音があるが、タイノメ局長はそこまで音がしないなと思うが、音などどうでも良い効果が直ぐに分かった。

「お、おおおお! こ、これは素晴らしい。どんどん綺麗になっていくではないか! 帝都でこの透明度を見ることができるとは!!」

タイノメ局長が目を輝かせ身を震わせた。

この港の水は、人口100万人を超える大帝国にあるため、人々の生活から出たものか、少々濁り汚れている。

それが、すごい勢いで、一切穢れのない水に浄化されていく。

水晶花以上の明るさで照らされているため、浄化の効果が一層際立って見ることができた。

水の中にいることすら忘れるほどの透明度である。

タイノメ局長はもちろんのこと、周りの魚人たちも、アレンたちもはっきりと魔導具の効果が体感できる。

(ふむ。ララッパ団長の話だと、そろそろかな。お、きたきた)

ピイイイイイイイイイイイイ!!!

1分ほど経過すると、港の一角で警報のような警戒音が鳴り始めた。

赤色にランプのようなものが光を放つ。

警報は、はじめは一か所だったが、他の場所でもけたたましくなり始める。

港で物資を運んだり、船を整備している作業員たちが慌ただしく動き始めた。

「な、何事だ!? ど、どうしたのだ!!」

「やはり、こうなりましたか……」

アレンは目をつぶり仕方ないですよねという顔をする。

「な!? どういうことだ。アレクよ。何が起こっているのだ!!」

(俺の名前、ようやく呼ぶようになったね)

「異常値です。魔導具が誤作動を起こして異常値を出しております」

「異常値?」

「はい。恐らく、あまりに水を清らかにしたために、水質管理の魔導具が故障したと誤作動をした模様です」

そう言って、アレンは魔導具の警報がけたたましくなるこの状況を説明する。

水質管理の魔導具は、水質を0から9までの10段階で水の汚染度を数値で管理をしている。

水質が4を超えると人体に影響が出るため警報が鳴り始める。

これは水質が命に係わる魚人のためにあるような魔導具だ。

当然この大きな港にも水質管理の魔導具が設置してある。

「故障を自ら知らせるために水質0の場合も警報が鳴るように設計されているはずです」

その数値が低すぎても鳴ることがある。

それが水質の汚染度が0の場合だ。

完全に汚染が除去された状況を、魔導具の機能が停止したと誤認識し、故障を訴えて警報を鳴らす。

これは水質管理の魔導具の安全装置としての役割を果たしている。

「水質0……。そ、そのようなことが……」

水質が0になるようなことがあるのかとタイノメ局長は考える。

魚人がいれば、水質は悪くなるもの。

人里離れた自然だけの場所でも完全に清らかにすることはできない。

水質0になることはないと想定している。

それ故に水質0を機能停止に設定してあったはずだ。

これもアレンが事前に調査した情報のとおりだ。

プロスティア帝国は水質管理の魔導具も大量に購入している。

水質を管理することは帝国の勤めであるようだ。

「おっと、港の外に広がり始めましたね」

「港の外……」

港の遠くの方でも警報の音が聞こえ始めた。

水の中だと、警報の音が良く響くなとアレンは思う。

「はい。この魔導具は帝都パトランタの10倍相当の範囲で水を浄化しますので」

「都全土で同じことが起きていると言うのか……そ、そのようなことが、いや我にも聞こえるぞ……」

浄水の魔導具を中心に、波紋を広げるように帝都パトランタ全体に水質管理の魔導具が真っ赤に輝き始める。

帝都パトランタにある全ての水質管理の魔導具が異常値を訴える警報を鳴らし始めた。

全長100キロメートルはあるのではという水晶花の表面が、水質管理の魔導具によって真っ赤に輝いてしまったのであった。