軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第355話 見習い

「何で俺がこんなことしないといけないんだよ」

「まあ着ている法衣は同じだし」

「おい、アレン。お前めんどくさいことを俺に押し付けていないか?」

「そんなことないぞ」

「こっちを見て言ってくれないか?」

笑いを我慢するアレンを、チンピラみたいな目でキールが睨みつけている。

「あ、あの。キール様。あまり動くと法衣が」

キールが普段着ている法衣の着付けを複数人のシスターがしており、あまり動かないでほしいと言う。

「わ、分かったよ」

キールは眉間に皺を寄せつつも「納得いかない」を全力で飲み込んだ。

現在、アレンたちがいるのはエルマール教国のニールの街にある最も大きな建物の中だ。

アレンたちは3日前、エルマール教国にやって来た。

そして、ニコライ神官に、今回起きたことの顛末を報告した。

邪神教の教祖グシャラ=セルビロールの討伐をしたことを伝えた。

原始の魔神キュベルが暗躍していたことや、人々を邪教徒に変えて命を集めていたということは結構濁した報告になった。

ニコライ神官は、その話をさらに教会の上層部に伝えると判断したようだ。

ここでしばらくお待ちくださいと言われ、建物で待機することになった。

当然、そんな暇はないので、待っている建物内に「巣」を作って、ローゼンヘイムの北部への応援に行った。

魔王軍は絶対逃がさないスタイルで殲滅作戦を行い、無事に魔神を1体狩ることができた。

お陰でレベルが92に上がった。

魔神なんて何体狩っても困ることはない。

ローゼンヘイムには魔王軍の魔獣が50万体ほどやって来たと聞いているが、そのほとんどを既に殲滅できたと考えている。

ローゼンヘイムが終わったのでゼウ獣王子、十英獣も参加してもらって、中央大陸の魔王軍と戦っている。

中央大陸の魔王軍は当初100万体の大軍勢であったが、そのほとんどの殲滅は終わっている。

虫Aの召喚獣が生んだ子ハッチの方が、魔獣より数が多いほどだ。

「1体残らず」を旨にしているため、後方からも囲い込むように戦っている。

あと何日もせずに敵軍大将と思われる魔神ごと狩れそうだ。

なお、シア獣王女はまだゼウ獣王子と会っていない。

中央大陸やローゼンヘイムの戦いも大事だが、彼女にもクレビュール王国との間でいくつかすることがあるようだ。

ニールの街には教都テオメニアから逃げてきた、エルメア教会を取り仕切る神官たちが大勢いる。

アレンたちが、こっそり抜け出すようにローゼンヘイムでの魔王軍との戦争に参加している間に話がまとまったようだ。

まとまったことは2つある。1つ目は、アレンたちとの接点であるニコライ神官の話では、まず今回の一件が解決したことの区切りとしての「神事」をこのニールの街で行いたいという話であった。

大勢の人々の前で解決したことを伝えてほしいそうだ。

街を追われ、家族を失った者が大勢いるので、その者たちの希望になるから、ということだ。

2つ目は、現在教皇が不在の状況で、キールに教皇にならないかという話があった。

「断る!!」というのが、キールの第一声であった。

実は、キールを教皇にというのは、アレンたちがニールの街から出て3方にチームを分ける前からあった。

エルメア教にとって、僧侶や聖女など回復職の才能は創造神エルメアからの贈り物であるという考えがある。

そして、身分の低いものから高位の才能が生まれるこの世界で聖人や聖女を見つけ、教皇を務めるというのがエルメア教会の考え方だ。

なお、獣人からは聖人や聖女は生まれない。

獣神ガルムから与えられる回復系統の才能は祈祷師や巫女などで少し系統が違うらしい。

キールには聖人を超えた聖王の才能がある。

グシャラを倒し、邪悪なるものから人々を救った。

しかし、才能だけでキールを教皇にという話ではなかった。

キールを絶対に教皇に、と神官たちに思わせたのはここからであった。

浄化魔法をかけられ清められた教皇の骸骨になった躯、法衣、杖、冠をエルメア教会に届けてあげた。

これはキールが「墓に入れてあげないと」という小さな思いであったのだが、それに教会の神官たちは涙して感銘を受けた。

多くの者が心の拠り所であった教皇を、慈愛をもって救済したキールに信仰に近い感情を抱いたことは言うまでもない。

優しく遺品を抱きかかえるキールを見て、膝をつき、頭を地面に下げ、感謝の言葉をキールに捧げた者も大勢いた。

その教皇やエルメア教会の肩書だが以下のようになっている。

教皇と枢機卿は教会内の選挙で選ばれる。

教皇を選ぶことができるのは大司教までの神官たちだ。

大司教から司祭までは推薦で選ばれる。

それ以下は試験であったり任命で選ばれる。

・教皇 エルメア教会の長。創造神エルメアから神託を受ける

・枢機卿 教皇を補佐し、数名いる

・大司教 各国のエルメア教会の長。大国にも1人しかいない

・司教 大司教を補佐し、数名いる

・大司祭 領都、大都市、ダンジョン都市に設けられたエルメア教会の長

・司祭 司教を補佐し、数名いる。そこそこの大きさの街の長

・助祭 小さな街や村の教会の長。鑑定の際、不正がないように助祭が責任者を務める

・神官 助祭以下の役職。エルメア教会の神官全般のことをいうこともある

・神官見習い 未成年であったり、まだ神官に任命されていない者

全会一致で教皇はキールで固まった。

困ったのがキールだが、クレナからは「教皇になるんだ。すごいね」と暖かい目で見られ助けてくれなかった。

他の仲間たちも大体同じような感じだ。

魔王軍との戦いが終わったら、カルネル領に帰るつもりだという話をしたら、さらに神官たちは感動する。

このキールという奇跡の青年はエルマール教国とこの大陸を救うだけではなく、魔王軍から全世界の人々を救うという崇高なる使命があることを知った。

キールは、エルメアから指し示された聖なる道を歩んでおり、その過程に自分らがいただけであることを神官たちは悟る。

よぼよぼで皺だらけになりテオメニアでの厄災から命からがら助かった神官たちは、教都を追われ絶望に打ちひしがれた。

しかし、キールの存在に、自らの使命を認識し力強く立ち上がった。

キールを教皇にするまで死ねないと多くの神官が思ったそうだ。

「そういうつもりで言ったのではないんだ。少しは俺の話を聞いてくれ!!」というキールと神官たちの攻防は続いていく。

アレンたちはローゼンヘイムの魔王軍と戦っていたのだが、この状況なのでキールには1人でヨボヨボの神官たちと話をまとめてくれと残しておいた。

なお、ドゴラはローゼンヘイムの戦いには参加していない。

随分動けるようになったのだが、大事を取った形だ。

ローゼンヘイムの魔王軍の魔神はセシルに止めを刺してもらった。

話し合いの結果、キールは「教皇見習い」という立場で折り合いがついた。

アレンはそれを聞いて何となくほぼキールの完敗のような要職に就いた気がした。

さすがに帝国とも渡り合うエルメア教会のトップたちとの話し合いだなと思った。

この「教皇見習い」という聞いたことのない立場とセットで、カルネルの街の教会が改築されるらしい。

20年ぶりにSランク冒険者になったアレンと違い「教皇見習い」という職は本来存在しない。

これから教皇になるキールのためにエルメア教会が用意した特別職で、枢機卿と同じ程度の立場であるという。

神官見習いから教皇見習いに驚異の出世を果たした。

冒険者ギルドは魔獣から人々を守るために必要な存在だが、エルメア教会は人々の心の拠り所になる存在だ。

その教会のほぼトップにキールが就いたことになる。

大国であろうと、無下に扱えば人民の心が離れてしまう。

そういった存在にキールはなったことになる。

なお、「見習い」はキールの心根1つで、いつ外してもいいらしい。

本日をもって、救難信号を発信したエルマール教国は完全な形で救援が完了されたこと、および新しい教皇見習いのキールの誕生が世界各国に魔導具を使って伝えられた。

併せてSランク冒険者アレンの仲間であること。

キールの聖道に立ちふさがる者はエルメア教会が対応することも併せて伝えられた。

「やっぱり少し変じゃないのか? 俺が冠を被るって、見習いで」

「いえいえ。枢機卿が被るわけにはまいりませんので」

まあまあと法衣を着せているシスターが言う。

シスターたちが着せている法衣も装備している杖もS級ダンジョンでアレンたちが出したものだ。

普段一人で着ているのだが、皆に見てもらうのでと着せてもらっている。

今日は新しい教皇見習いが誕生したということもあり戴冠式をするという。

なお、骸骨教皇相手に獣人たちのエクストラアタックを使ったため、冠はかなり破損してしまった。

これは予備の冠であるという。

教皇の冠を枢機卿が代表して教皇見習いのキールに被せるらしい。

ニールの街の広場で行う新たな教皇見習いの誕生と神事が、ニールの街の民の希望になると言う。

教皇以外のものが冠を被った史実はないらしいのだが、現状は、ほぼ教皇という肩書なのだろう。

本人だけが見習いであると言い張っている説すらあるなとアレンは思う。

「お兄様、凄いかっこいい!」

「そ、そうだな」

この着せ替え室にはキールの妹のニーナもいる。

そして、カルネル家の使用人たちもいる。

ニーナはアレンの弟マッシュと同じ年で、今年から王都にある貴族院に通っている。

そんなニーナを、貴族院を休ませて世話役の使用人たち共々連れてきた。

今日はキールの晴れ舞台だからというと「行く!」と2つ返事だ。

そろそろお時間ですといい、これから街の中央に設けられた張りぼての台の上で枢機卿が冠を被らせるという。

そのあと広場に集まる多くの者のために一言をと言われたが、それだけはできないというので、最後の締めは枢機卿が行うらしい。

皆が他人事のようにキラキラした目線で見つめる中、キールが連れて行かれる。

本来であればこの戴冠式はテオメニアの神殿の階段の上で行う。

多くの民が上を見て、新たな教皇の誕生を祝うのだが、今回は木を組んだ張りぼての上で行う。

どうやら、ニールの街など主要な街には、教都テオメニアの神殿と神殿へと繋がる階段に因んだセットがあるようだ。

これも何らかの神事を行うための張りぼてのセットだと思う。

アレンたちも上がって隅の方で見ていてもよいということなので、キールの戴冠式を見つめることにする。

「すごい人数だ!」

メルルが10万人を超える群衆を見て目を輝かせる。

簡易的に20段の階段を作り、階段の上の広くなった台の上にアレンたちとニーナと使用人たちはいる。

なお、シア獣王女たちも、ルド隊長、ラス副隊長と一緒に見に来た。

(ん? メルル?)

まだ、誰もこの台の上の中央に立っていない。

アレンたちも隅でこれからキールがやってくるのを待っているところ。

待っていたメルルが何となく、群衆に引かれるように前に前に進んでいく。

「おい、誰か止めなくていいのか?」

ドゴラが神事なのにこのままでいいのかと言おうとしたところだった。

「むん!」

メルルがカッコいいポーズを取り始めた。

群衆がいる。

それはカッコいいポーズをする機会だとメルルが思ったようだ。

これまで検討してきたものを流れるように群衆に見せつける。

群衆たちが待ちに待った新しい教皇見習いが、とうとう私たちの前に現れたのかと待っていたら出てきたのは小さなドワーフだ。

階段も20段ほどあるので、さらに小さく見える。

その小さなメルルが全力でカッコいいポーズの切れを確認している。

(もうちょいみたいだな)

そろそろ、キールも裏から上がってきて戴冠式が始まりそうだ。

「なあ、ドゴラも折角だから皆の前に出てみろよ」

「は!? どういうことだよ」

「いや、英雄目指すなら顔を売っておかないと」

(なんでも、お前の力は火の神フレイヤと密接に関わっているらしいじゃないか)

火の神フレイヤの使徒になったドゴラについてある程度の分析が進んでいる。

ここで皆の前に立つことは決して悪い事でないとアレンは知っている。

『おお、そうであるな!! 人々がこんなに大勢おるのだ。行かぬ手はないぞ! ドゴラよ前に出よ!!』

すると神器カグツチを通して、火の神フレイヤが強く反応する。

ドゴラも前に出てカッコいいポーズを取れということだろう。

「いや、待て。俺が目指しているのはそういうのじゃない」

どんな英雄を目指しているのか決めていないが、これは違うとドゴラは断言できる。

『何を言う。そなたはわらわの使徒よ。いいから早く出るのだ!』

「うわっち!? な、なにするんだ!!」

熱が無くなり冷めた鉄のようになっていた神器カグツチが真っ赤になる。

火の神フレイヤは、少しは力が回復したようだ。

そして「火攻撃吸収」できるはずのドゴラの尻が燃え始めた。

どうやら、フレイヤのちょっかいは別物のようだ。

熱と痛みと共にドゴラが台の上で飛び跳ねる。

「あ、あの。そろそろ、神事を始めたいと思います」

そう言って、隅で騒いでいるアレンたちに気まずそうにニコライ神官が言う。

メルルも、やんわりと神官たちに捕まり隅に追いやられるようだ。

(お、キールだ)

そして、キールが枢機卿に連れられアレンたちのいる階段の最上段の広くなったところまで上がって来た。

こうしてキールの戴冠式が始まろうとしているのであった。