軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第313話 エルメア教会

1000年ほど昔のことになる。

中央大陸北部に興ったギアムート帝国に若き皇帝が誕生した。

時の皇帝は、のちの世で恐怖帝と呼ばれることになる。

この恐怖帝という呼び名は現代のギアムート帝国でも呼ばれているので、どれだけのことをしてきたのかという話だ。

当時、既に中央大陸の大半を支配していたギアムート帝国であったが、この恐怖帝によって中央大陸全土の統一を果たすことになる。

それは人族以外にとっての絶望の始まりだった。

人族第一主義を掲げる恐怖帝は、中央大陸で人族以外の種族を弾圧した。

そのため、当時から高度な技術を持ったドワーフ族や、精霊魔法を使う長寿のエルフ族は支配を嫌い、中央大陸から去った。

それらの他種族が去った後に遺された文明は基本的に破壊されることとなり、1000年経った今となっては、遺っているものは極めて少ない。

ギアムート帝国にとっても有用と判断されたダンジョンのシステムが辛うじて遺された程度だ。

アレンが学園で歴史を学んでいた時に、ダンジョンの仕組みの歴史が1000年以上前で途切れていたことに気付いたのは、それが理由だ。

中央大陸から去らなかった他種族はというと、もちろんギアムート帝国によって弾圧されることとなった。

そんな他種族の中で最も酷く弾圧を受けたのが獣人族なのだが、これに抗議した組織があった。

それが冒険者ギルドとエルメア教会だ。

冒険者ギルドは、国家に束縛されない運営を旨とし、人々を魔獣から守ることを第一に考えていた。

それゆえ他種族への弾圧に抗議した結果、冒険者ギルドはギアムート帝国と対立する形となり、本部を他国に移すことになった。

しかしその後、恐怖帝はいなくなり、しばらく経ってギアムート帝国が落ち着いたころ、再び本部を帝国に戻した。

エルメア教会の信仰や思想信条はギアムート帝国の恐怖帝による考えと真っ向から対立した。

エルメア教会が創造神エルメアの教えの下、博愛を教義としているからだ。

エルマール教国にはその博愛の思想により、人族以外の種族も多く見られる。

当然、他種族の神官もいる。

そんな創造神エルメアだからこそ、全世界で最も信仰されている神なのだ。

この博愛の精神を持つが故に、恐怖帝の考えに真っ向から対立することになった。

冒険者ギルドと違い、神兵などはいたものの、その数は少なく、戦える神官などほとんどいなかった。

そのため、大勢のエルメア教の神官が他種族と同様に弾圧を受け、多くの血が流れた。

中央大陸の北部に帝都を構えるギアムート帝国の弾圧から逃れるため、南へ南へと逃れ、海を渡り、今では連合国と呼ばれる国家群の一角に国を興すことになる。

それがエルマール教国だ。

最初に流れ着いた場所に教都テオメニアを作り、そこで創造神エルメアへの信仰を続けた。

しかし冒険者ギルドと違い、恐怖帝がいなくなったからと、本部を教都テオメニアからギアムート帝国へ移管することはしなかった。

そもそも帝国主義や国王による王権というものが、エルメア教の思想に反することがその理由だ。

人々を救済するため、帝国と王国しかない中央大陸にも多くの教会を建ててきたが、あくまでも本部は教都テオメニアに在り続けた。

そして1000年という長い年月をかけ、宗教国家であるエルマール教国は繁栄を続けてきた。

しかし、ギアムート帝国はその後に内乱が勃発し、国土を分かつことになる。

「ひどいわ」

アレンの後ろに座るセシルの声が漏れる。

エルマール教国内にいる邪教徒を、全てではないがほぼ片付けたので、アレンたちは朝から教都テオメニアを目指した。

そこで目にしたのは、1000年かけて繁栄し、そして多くの祈りが捧げられてきた教都テオメニアの変わり果てた姿であった。

教都テオメニアは、バウキス帝国のような成金主義の煌びやかさと違い、木々に水、そして石造りを基調とした景観であった。

それが今では、既に火の手は収まっているとはいえ、街を彩っていた木々は燃え尽き、石造りの建物も黒ずみ、既にかなりの数の建物が倒壊してしまっている。

そこかしこには、意思があるのか無いのか分からないような挙動で、大勢の邪教徒が街中を歩き回っている。

アレンは街の中央に目を向ける。

そこが最も黒く焼け焦げており、ニコライ神官が見たという巨大な火柱が発生した場所と考えられる。

シア獣王女が邪神教の教祖グシャラを捕まえ、宗教裁判に時間がかかったこと。

非道を続けた教祖グシャラの処刑を見せしめにしようと、各地にその処刑を伝達したことにより、さらに時間をかけたこと。

そして邪神教の信者たちが教祖グシャラの処刑を止めようと、処刑場の広場に収まりきらない程大勢集まったこと。これら全てが大いに災いした結果であろう。

中央広場には辛うじて何であったかが分かる焼け焦げた柵がある。

邪神教の教祖と信者の間を隔てていたものだ。

こんな大ごとをして何をしたいのかはっきりしない。

フレイヤの神器を奪い、信者を邪教徒に変える何かがここで行われたことだけは分かる。

「あそこに魔神がいるんだな」

『そうだ』

ニールの街では、ほとんど姿を現さなかったメルスが答える。

そして、そこまで言うとどこかへ飛んで行く。

当然、メルスが離れていくのは、これから戦うことになる魔神を闇討ちするためだ。

これだけ多くの人々が犠牲になる事態を引き起こしたのだ。魔神に慈悲を与えるつもりはない。

アレンたちが見ているのは教都テオメニアの北部にある巨大な神殿だ。

街並みからはっきりと隔絶した存在にするため、盛り土が行われた高い場所に神殿は位置し、そこからは街並みと、人々の営みを見渡せるようになっている。

幾つもの文様のある正門から中央の広場、そして長く続く階段を上がった末に、創造神エルメアを祀る神殿に至ることができる。

この街の作りからは、創造神エルメアへの想いと、1000年の長き歴史を感じさせられる。

そんな人々の想いが詰まった神殿の屋根の中央は大きく破壊され、神殿の内部から何やら青白い光の柱が上空へと上がっている。

その先のさらに上空で角度を変え、南へ真っすぐ光の柱が向かっていく。

「何があんだ? アレン」

「さあ、分からないが。ドゴラ、それもこの神殿にいるという魔神に聞こう」

ドゴラの問いに、アレンは聞くべき相手が神殿にいると答える。

鳥Bの召喚獣から降りて神殿に入って行く。

転職を繰り返したアレンの仲間たちにとって、鳥Bの召喚獣の大きさと機動力には善し悪しがある。

神殿の内部はそこまで天井が高くない。

しかし鳥Bの召喚獣は象くらいの大きさがあって結構大きい。

大剣や大斧を振るっても、一切揺れることなく飛び続けるので踏ん張りが効き攻撃もしやすい。

離れた位置から魔法や矢も放つことができる上に、敵との距離を自動で取ってくれるので戦いに集中できる。

この神殿は天井までの高さが10メートル以上はありそうだが、S級ダンジョンに比べるとかなり狭い空間だ。

これでは鳥Bに乗って戦うには動きに制限がかかってしまうので、皆降りて戦う選択をする。

神殿は神を祀るための建物なので、ごちゃごちゃした部屋や通路が少なく、シンプルな作りの構造が多い。

ここもそうなのだろう。

扉もなく、大きく開けた、石造りの建物に入って行く。

真っ直ぐな通路が続いているので進み続ける。

道幅はかなり広く巨大な石像が立ち並ぶ。

(豊穣神モルモルか。で、その横は火の神フレイヤだな)

アレンもこの世界に長くいるので、神がどんな姿をしているのか知っている。

そして、クレナ村にある教会の石像より数倍スケールの大きいものの内の1体に目が行く。

髪をまっすぐ伸ばし、うつろな視線の女性だ。

真っ白な石像で出来ているが、本当は真っ赤な髪をしていると聞いた。

精霊神ローゼンの話では、火の神フレイヤは神器を奪われたことで、急速に力を失っていっているそうだ。

バウキス帝国の名工ハバラクにオリハルコンを加工してもらおうとして知ったフレイヤの話は、確実に現実のものになっていっている。

既に神器を奪われたという話を聞いてから半年ほど経ったが、2、3年で火の神フレイヤの力が無くなるという話は本当のようだ。

通路を抜けると広間になっていた。

「お前が魔神リカオロンか?」

(リカオンの獣人っぽいな。魔神は魔族が進化したんじゃないんだっけ)

メルスが来てくれたおかげで、魔族と魔神の関係も大体分かってきた。

魔神とは、魔族が年を重ねて力をつけたものを言うらしい。

一定以上の力ある者は魔神で、それに満たないものが魔族だという。

前世の記憶を持つアレンは、大きさでイルカとクジラを分けているがそれに近い基準なのかなと思った。

なお、ステータスが全体的に1万以上は魔神で、それ未満が魔族らしい。

ただし、これも魔王の出現以降、理が壊されており、最近の魔神はステータス3万前後ある者が多くなったと言う。

その理由は『言えない』とのことだった。

『そうだ。我が魔神リカオロンだ。……第一天使メルスはお前たちの仲間になったのか。これはご報告が必要だな』

青白い光の柱を背にして、魔神リカオロンが答える。

軽装な恰好をしており、メルスが戦っているところを共有して見ていたがかなり素早い。

魔神リカオロンは、つい先日攻めてきたメルスとアレンたちの来訪を関連付ける。

その後、どういう魔神なのか調査するため何度か再戦したが、勝てずにいる。

「この青白い光の柱は何だ」

魔道具か何か、盆のようなものから照射された光の柱が天井を突き抜け伸びている。

何かを祀る「祭壇」が一番近い表現かなとアレンは思う。

アレンは攻撃を開始しない。

今必要なことは情報だ。

何が起きたか分からないので、少しでも情報を得るのが先決だ。

『ふん。そんなこと言うはずないだろう? お前らがアレンとその仲間たちか。キュベル様から聞いているぞ。なんでも、頭が回るらしいではないか』

リカオンの顔をした魔神は不敵に笑い犬歯を見せる。

質問しても教えてはくれないようだ。

アレンに何も情報を渡すなという指令が降りているかもしれない。

(さて、メルスが聞いても何も教えてもくれなかったしな。始めるとしよう)

「そうか。仕方ない。じゃあ破壊させてもらおう」

『何?』

「メルス今だ! それを破壊しろ!!」

『な!? 馬鹿な! だが!!』

メルスがリカオロンの後ろにいきなり現れる。

そして、何かよく分からない怪しい何かの破壊を試みる。

話の途中で祭壇の破壊を試みるとは思ってもみなかった。

しかし、リカオロンは素早さに特化していた。

一気に後方に飛びメルスの拳が祭壇に当たる前に、リカオロンはメルスの拳を受け止める。

「後ろががら空きだ」

『ふん。それで、策を講じたつもりか? 遅すぎるわ』

メルスが祭壇を攻めたと同時にアレンが剣を握りしめ、リカオロンの背面に斬りかかるが、寸前で体をよじられて躱される。

「がは!」

そして、メルスの拳を握りしめたまま、アレンの脇腹を蹴り飛ばしたのであった。