軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第260話 邪神教

ゼウ獣王子が配下を引き連れ、激怒した様子で店の中に入ってくる。

(あらあら、ウルは失敗したのか。もっとうまく聞けよ。つうか、そんなに怒ることだったっけ?)

アレンは獣人のウルに調べ物をお願いした。

しかし、ゼウ獣王子がこんなに激怒する内容だったかと疑問に思う。

アレンたちのテーブルにゆっくりゼウ獣王子が近づいて来る。

「あ、ゼウ獣王子、あなたも一緒にどうですか?」

アレン同様に獣人たちに囲まれている状況であるが、ヘルミオスも眉1つ動かさずゼウ獣王子に声を掛ける。

「ヘルミオスか。これはギアムート帝国の策略か何かか?」

「え? 何のことでしょう?」

ヘルミオスには一切何のことか分からない。

何のことかと、ヘルミオスは何か知ってそうなアレンを見るので、視線がアレンに集中していく。

「ああ、それなら、たぶん私のことですよ」

アレンはそう言って、ゼウ獣王子の後ろで、申し訳なさそうにする狼の獣人ウルを見る。

「アレンだったか。お前が獣王国を嗅ぎまわっているのか。ねずみの癖にいい度胸だな」

平然とした表情でアレンが果実水を飲みながら言うので、ゼウ獣王子が感心する。

「嗅ぎまわったというのは心外ですね。調べていたのは連合国の方で、そう言われたら獣王国も関係していますね」

(なるほど、結構関係してるな)

連合国とはローゼンヘイムの南にある大陸で、中小の国家が政治的に、そして経済的に1体となった国家群のことだ。

「ウルさんに確認しようと思ったことがあったのですが、ゼウ獣王子様がいらっしゃったのは丁度いいです。どうぞ、席は空いていますよ」

アレンはまだこのテーブルに席は空いていると言う。

「何だと?」

この状況で席につけというので、ゼウ獣王子の表情がさらに険しくなる。

アレンの仲間の中で一番ビビりのキールが心配そうな顔をしている。

「おい、大丈夫なのかよ」という言葉を飲み込んでいるようだ。

「あれ? 獣王国ではねずみにライオンが怯えるのですか?」

(話が進まないからとりあえず座ってくれ)

「お、おお、面白いぞ。実に面白い。そうだな。歩いて喉が渇いた。余もな、何かの、の、飲むことにしようぞ」

あまりに怒りすぎて、ゼウ獣王子の滑舌が大変なことになっている。

余裕を見せるために作ったぎこちない笑顔で、ゆっくりと空いている席にゼウ獣王子は座る。

ヘルミオスはちょっとやり過ぎだよとアレンを視線で諫める。

囲んでいた配下の獣人の1人が飲み物を注文するため、カウンターで何事かと見ている店員のところに向かう。

「それで何故、獣王国を嗅ぎまわっていたのだ?」

「先ほども言いましたが、調べていたのは連合国の方です」

「そうか。だが、獣王国も関わっているという話ではないか。何故調べていたのか?」

ゼウ獣王子もアレンには礼をまだしていないことを思い出す。

言葉使いは少し丁寧にしようかと思う。

エールを飲んで、気持ちが落ち着いたようだ。

「ん? 念のために確認ですが、これは情報の交換という認識でよろしいですか?」

「な!? 何だと、貴様!!」

せっかく芽生えた獣人を救った感謝の気持ちも、アレンの言葉で、今一度怒りが頂点に達する。

獣人たちに義理堅い獣王子とウルから聞いているが、結構短気なようだ。

髪に神経が通っているのかと思うほど、一気に髪が逆立つのだなとアレンは暢気に思う。

「当然でしょう。私の情報とゼウ獣王子の情報の交換です。これは取引ですよ。なぜ吐かせることができると思ったのでしょうか? ここにはローゼンヘイムの王女も、勇者ヘルミオスもいるというのに」

「む? だが、んぐぐ」

アレンは無理やり情報を吐く道理はないと言う。

そして、ソフィーとヘルミオスに視線を送る。

獣王太子でもない獣王子より、ソフィーの方が王族としての格は上だし、ヘルミオスのパーティーはゼウ獣王子の仲間より力がある。

「アレン君、挑発はそこまでだよ。有益な情報だと私たちは思っています。ちょっと、まだアレン君が何を知りたいのか聞いていませんが、ここは情報の交換といきませんか?」

ヘルミオスは間に入り丁寧にゼウ獣王子に話をする。

「本当に有益なのだな?」

「もちろんです。こちらが先に話をしてもいいですし、もしも有益ではないというのであれば、ゼウ獣王子からの情報はいりません。それでどうですか?」

ヘルミオスがさらに説得をする。

「そこまでか。ふむ、分かった。中央大陸の英雄がそこまで言うのであればな。お前たちも好きなところで飲んでいていいぞ」

「「「へい」」」

大事な情報の交換という認識をゼウ獣王子も持ったので、アレンたちのテーブルの周りを囲んでいた獣人たちを散らせる。

「それで、アレン君。話はお願いね」

「はい、ヘルミオスさん」

(さすが、勇者。ゼウ獣王子の顔も立てつつ、最後はうまくまとめたな)

アレンは感心しつつ、ゼウ獣王子にオリハルコンの発見から、火の神フレイヤが神器を奪われた話までを丁寧に説明する。

そして、これから起きることまで包み隠さず話をした。

精霊神はフカマンにかぶりついており、話を止めたり、何かを言ってくることもない。

ゼウ獣王子は何度か動揺しながらも、しっかりと話を聞いた。

「なるほど。そうか。随分突拍子もない話であるが、そうだったか。だが、良いのか? 余にこのような話をして」

中央大陸と獣王国は仮想敵国だ。

表でこそ、5大陸同盟で軍事的に結ばれているが、それは表の話に過ぎない。

また、いつ獣王国が中央大陸に侵攻を開始するのかも分からない状況だ。

そんな中での、神器が奪われた結果、魔王軍と直接戦争をしているギアムート帝国が惨敗するかもしれないという情報だ。

「いえいえ、転職制度も始まるので」

「転職だと」

転職についても、アレンは話をする。

今調整中であるが、来年にも始まろうとしている制度があり、対抗策もあるという。

「事実ならそれも貴重な情報であるな。そんな話と獣王国が関係していると?」

話の内容が分かったのでふむと強く頷く。

神器が奪われた話も、転職の話も獣王国に何が関係するのかという話だ。

「いえ、先ほども言いましたが、連合国です。連合国の『邪神教の教祖討伐』に獣王国が関わっているという話です」

「ほう、たしかに。ふむ、なるほど。それでシアを調べていたのだな?」

アレンはウルからこの数ヶ月の間に獣王国についていくつもの話を聞いた。

その中で、獣王位継承権についても詳しく聞いている。

アレンにとって誰が次期獣王になるのか。

どうすれば、次期獣王をベク獣王太子から変えられるのか知る必要があった。

獣王国では、第一子が基本的に獣王になる。

しかし、優秀な子供が第一子以外からも生まれるなんてことはよくあることだ。

第一子が凡君であったり、二子以降に才能が秀でた子供が生まれる。

そんなときは、二子以降の子供に大きな試練を与え、その試練を乗り越えた者は第一子でなくても獣王を継ぐことができる。

ゼウ獣王子の試練はS級ダンジョンの初攻略だ。

試練の塔と呼ばれるこのS級ダンジョンは、ゼウ獣王子にとって超えねばならぬ試練であったりする。

しかし、与えられた試練はゼウ獣王子だけではない。

末子にして戦姫と呼ばれたシア獣王女がいる。

人格にも戦いにも優れたシア獣王女にも厳しい試練を与えた。

それが、邪神教の教祖討伐だ。

この邪神教は連合国の1つの国で誕生し、連合国に広がっていったと言われている。

もう何十年も前に生まれ、少しずつ信者を増やしていった。

何でも、信仰すれば魔王軍からの侵攻はされないとかそういった話を吹聴しているらしい。

実際に魔王軍は連合国に来ることは一度もなかった。

そういうこともあって、ゆっくりであるが着実に信者を増やしていった。

そして数年前、その教えは海を越え、獣王国にも渡って来た。

連合国と獣王国は交易があるので、交易と一緒に邪神教の教えまで伝わってきたのだ。

そして、獣王国にも邪神教の教えはゆっくり広まっていた。

その状況に激怒したのは現獣王だ。

アルバハル獣王国は獣神ガルムを信仰している。

絶対神にして唯一神として崇めている。

故に、末子である獣王女に邪神教の教祖討伐を命じた。

連合国も獣王国に協力的であったとアレンは聞いている。

「はい、もしかして、神器が邪神教に渡るのではと思っています」

魔王軍は常に計画を立て、先を見越して動いている。

もし、神器を奪ったらその使い道は何なのかということを何日も考えてきた。

前世の記憶のあるアレンにとって邪神教の教祖は魔王と同じくらい討伐の対象だ。

前世では邪神教の教えは知らなくても、教祖は何度も倒してきた。

邪神教の教祖は絶対良くないことをするという偏見すらある。

シア獣王女の追っている邪神教の教祖に神器が渡り、信仰を集めて何かよからぬことを始めるのではとの考えに行きついた。

「なるほど、だがしかし、それはないな」

神器の行きつく先について邪神教が怪しいというアレンに対して、ゼウ獣王子は絶対にないと断言した。

「え? どういうことですか?」

(む? 何故、そんなことが言い切れるの?)

「つい先日、シアから手紙が来たぞ。邪神教の教祖を捕まえエルメア教の本部に引き渡したとあったぞ。まもなく宗教裁判にかけられる手筈だ」

「え? ああ、そうだったのですね」

(何だ捕まったのかよ。ちゃんと裁判はするのね。さすがエルメア教の本部だ。っていうことは、次期獣王は末子のシア獣王女か)

連合国の1国にエルメア教の総本部のエルマール教国がある。

エルマール教国も全面的に協力してくれたおかげで、早く捕まえることができたともゼウ獣王子は教えてくれる。

(それにしても、これは完全に当てが外れてしまったな。邪神教って聞いてもしやと思ったが、創造神エルメアや獣神ガルムを信仰する者にとってのことだったのか?)

ドヤ顔で予想して恥ずかしいくらいである。

信仰や宗教に寛容ではないから邪神教と言っていたのかもしれない。

「これから宗教裁判で何をしてきたのか調べられ、まあそうだな。信徒への扱いについても聞いているが恐らく処刑になるはずだ」

ゼウ獣王子には邪神教が結構悪いこともしてきたことまで耳に入っているようだ。

その後、いくつかのダンジョンの話や今後の話をした。

神器は世界で何らかの形で使われる。

もし、神器らしきものについて何か耳にしたら、調べないといけないという認識だけ最後に共有し、その日は解散することになった。

そしてゼウ獣王子が席を立ち、一言口にする。

「次から、シアのことを調べる場合は余に直接聞きに来い。よいな?」

「はい、そうします」

(なんだ。ただの妹好きの兄ちゃんか)

どうやら妹を心配しての行動だとアレンは思ったのであった。