軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第216話 卒業

アレンがローゼンヘイムを発って10日が過ぎた。

今は3月の下旬だ。

アレン達は、学園都市にあるそれなりに高級なレストランにいる。

それなりに良い個室でアレンは仲間と共に食事を取っている。

「そういうことがあったんだな」

「まあ、だいたいこんな感じだけど、そっちの情報とそこまで乖離はないんじゃないのか?」

「うんうん、まさか200万の軍勢が攻めてくるってどういうことだよって父も言っていたよ」

アレンの目の前には華奢な少年が座っている。

この少年はハミルトン伯爵家の嫡男であるリフォルだ。

学園都市に戻ってきたのだが、リフォルをレストランに呼び出して一緒に食事を取っている。

アレン達は、学園都市から急な形でローゼンヘイムへ行き戦争に参加した。

出発までの準備期間は1日もなかった。

できることが限られた中、目の前に座るリフォルに1つのお願いをしていた。

「リフォルさん、俺の家の者を見てくれてありがとう」

「キール、私達は学園の同級生だよ。さんはいらないよ」

キールが囲んで座るテーブルの席で頭を下げてお礼を言う。

リフォルにはキールの妹と使用人全員をハミルトン伯爵家の館で世話をしてもらっていた。

頼んだ時にリフォルは2つ返事で了承してくれた。

リフォルのハミルトン家はお取りつぶしにあった旧カルネル家とグランヴェル家の寄り親だ。

キールもキール妹も使用人もカルネル家ではなくなったが、快く引き受けてくれた。

そして、貴族家の娘とその使用人と言う形で迎えてくれた。

今日はそのお礼と情報の共有のために呼び出した形だ。

そして、軍属であるハミルトン伯爵家と、今回起きた戦争のラターシュ王国側の状況について情報を共有している。

リフォルの話では、魔王軍との戦いは5大陸同盟のうち中央大陸の盟主であるギアムート帝国が、中央大陸における勝利宣言をしている。

ラターシュ王国から参加した軍も、戦争中は200万の軍勢と戦うため1つの要塞に移動したが、これから元居た要塞に移動を開始する。

今回の戦争が終わっても、兵が帰還するわけではないようだ。

(リフォルの情報網は相変わらずさすがだな。ラターシュ王国については、平常運転に戻りつつあると)

アレンはテーブルの上に積まれてある皿の1つを見る。

皿の上には饅頭ほどの大きさで、パンとクッキーの中間のようなものがいくつも置いてある。

それを1つ、小さな両手に取って必死にかじりつくモモンガがいる。

(何かついてきたな。というか女王からソフィーに契約が替わったということか。そんなことより精霊神は飯が必要なんだな)

ローゼンヘイムの戦争が終わり、アレンとその仲間達は帰還した。

そのときソフィーとフォルマールも当然のごとく、ローゼンヘイムを離れることにした。

ソフィーは王位継承権を持つ王女であるが、女王は「世界のためにアレン様と共に戦ってきなさい」と同行を許可した。

「リフォルさん、ありがとうございます。お陰で中央大陸の状況は分かりました」

ソフィーがリフォルにお礼を言う。

中央大陸全体の状況についてはギアムート帝国からの情報で把握しているが、改めてお礼を言う。

「い、いえとんでもありません」

キールには「さん付け」不要と言ったが、5大陸同盟の盟主の1つであるローゼンヘイムの王女には、そんなことは言えないようだ。

「リフォル、ローゼンヘイムもほぼほぼ戦争が終わった感じだな。簡単に説明すると」

そう言ってアレンがローゼンヘイムの状況について説明する。

700万にのぼる魔王軍の軍勢を3ヵ月近くに及んだ戦争で倒した。

アレン達の活躍は適当に濁すことにする。

リフォルは「どうやって700万もの大軍を」という疑問符を浮かべてアレンを見るが、アレンに答える気はない。

「リフォルさん。あなたがキールさんのご家族を快く引き受けてくれたおかげで、キールさんが今回の戦争において、ローゼンヘイムで心置きなく活躍できました。フォルマール」

「え?」

リフォルが何の話だとさらに疑問符を顔に浮かべる。

「は!」

そんなリフォルを置き去りにして、フォルマールが席から離れたテーブルの一角に置いていた木箱を丁寧に両手で持ち上げリフォルの元にやってくる。

「こ、これは?」

どういうことだとアレンを見るが、アレンは受け取れという視線をリフォルに送る。

「リフォル、ローゼンヘイムからのお礼みたいだ。開けてみるといいぞ」

「う、うん」

つづらのような木箱の上蓋を開けると、赤い桃のような実が10個ほどきれいに並べて入れてある。

「こちらは、リフォルさんもご存じのとおり、エルフの霊薬にてございます。それほど数はございませんがお受取りください」

その言葉にリフォルは理解したようだ。

エルフの霊薬がローゼンヘイムから送られ、兵達が奇跡の回復を見せた。

その回復効果は聖女の回復魔法を凌駕し、広範囲に亘って欠損も魔力も全回復する。

まさに奇跡の御業であり、お陰でかつてないほどの軍勢で攻められたにもかかわらず、これまでで一番犠牲が少なかったと言われている。

エルフの霊薬1つを買おうと思えばいくらするのかという話だ。

「あ、ありがとうございます」

「キールの家族をよろしく頼むな」

さらに今後もキールの妹と使用人の面倒を見てくれとアレンがリフォルに念を押す。

「あ、ああ。だが戦争も終わったし、学園が始まるけど学園都市に戻さなくていいのか?」

まだ僕の実家で世話をするのかとリフォルが尋ねる。

来週には学園の授業が再開される。

また、キールの妹や使用人達を学園に戻して、キール達と一緒に暮したほうがいいのではとリフォルは尋ねた。

アレン達は戦争に呼び出されたが、まだ学園の2年生だ。

学園は3年制なのであと1年ある。

「いや、すまんがリフォル。もう俺たちは学園を卒業するつもりだ」

(学園なんかに通っている暇はないのだ)

「え? どういうことだよ?」

「学長に話をつけて卒業させてもらう予定ってことだよ」

3年制の学園で2年までしか通わずに、そんなことできるのかと思いながらも、リフォルはアレンの仲間達を見るが、誰も問題ないという風な顔をしている。

さっきから何を言っているのか分からない。

リフォルは話が一段落したら、テーブルの上で料理を食べる小動物は何なのか聞こうと思っていたが、そんなことはどうでもよくなった。

それからほどなくして、リフォルとの食事会は終了する。

店から出て、リフォルと別れると、アレンはソフィーに話しかける。

「もう、話はついたかな」

「問題ないかと、アレン様」

「じゃあ、学園に行こうか」

そう言って、アレン達は春休み中の学園を目指す。

魔導列車に乗って移動し、学園の校内に私服で入って行く。

(なんだか、気持ちは卒業生だな)

制服を着ずに学園内に入ると、なんだか前世でも体験したことのある気持ちになる。

学長のいる建物に入り、学長室の扉をノックする。

「アレンです」

「うむ、入ってくれ」

学長とは違う人の声が、学長室に入っていいと言う。

部屋に入ると、学長席に学長はいない。隣に置いてある会議用のテーブルに座っている。

そこには学長以外にも2人のエルフがいた。

学長が息を呑んで驚いたような視線をソフィーに送る。

無事に戻ってこられたことが信じられないと思っているのかもしれない。

「ルキドラール、話の方はついておりますか?」

「もちろんです。ソフィアローネ様」

そう言うと、エルフの大将軍であるルキドラールが席に着いたまま、頭を下げる。

「では、卒業は問題ないということですね」

アレンが卒業できるか念を押す。

「もちろんじゃよ。5大陸同盟に基づく約定のどこにも抵触するものではありませんのじゃ。前例がいくつもあるしの。卒業証書はすぐに作らせますのじゃ」

テーブルの上に置かれた資料を手に取った、よぼよぼの年を取ったエルフがそう言う。

この爺さんエルフはローゼンヘイムの内政を取り仕切る長老の1人だ。

ローゼンヘイムから2人に来てもらった。アレン達がリフォルに状況を確認し、キールの家族の件で礼をしている間に話をつけて貰った。

(俺は別に卒業しなくてもいいんだけどな)

アレンは学園の卒業に拘りはない。たぶんドゴラやクレナもそうだ。

実はローゼンヘイムの学園をしっかり卒業しているソフィーやフォルマールは、2度も卒業する必要はない。

しかし、セシルとキールの2人はそうはいかない。

セシルはラターシュ王国の貴族として学園を卒業する必要がある。

貴族に戻る予定のキールも、できれば学園を卒業させておきたい。

アレンは5大陸同盟の盟主の1つであるローゼンヘイムを統べる女王にお願いした。

手段を選ばず、何らかの方法でセシルとキールを卒業させてほしいと。

そこで派遣されたのが、ルキドラール大将軍と長老の1人だ。

学長は、今回戦争の命令を受けたアレン達の卒業には反対しないようだ。

既に学ぶものはないと思ったのかもしれない。

学長も協力的なお陰で、アレン達の卒業が問題なく認められたようだ。

「お手数をおかけしています。ちなみに、国王への謁見はどうでしたか?」

「アレン殿は政治もできますのじゃな。もちろん、我らがやってきたのに謁見を断る理由はラターシュ王国にはないのじゃ」

長老がニコニコしながらアレンの質問に答える。

ローゼンヘイムの重鎮2人がラターシュ王国に入ってきた。

そして、王位継承権を持った王女もここにいる。

ラターシュ王国には国王への謁見を求めて貰っていた。

「では、問題なく謁見はできるということですね」

「当然じゃな」

「じゃあ、俺たちも乗り込むとしようか」

こうしてアレン達は、学園を無事に卒業し、ラターシュ王国の国王への謁見に臨むのであった。