軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第209話 魔神レーゼル戦②

クレナのエクストラスキル「限界突破」は、魔神レーゼルにダメージをほとんど与えられなかった。

圧倒的な強さを誇り、学園都市のダンジョンやローゼンヘイムの戦争でも活躍したクレナのエクストラスキルが全く効かない。

絶望的な表情がアレンの仲間達の顔に浮かんでくる。

「クレナ! 攻撃を止めるな! 手数を増やせ!!」

「うん! 分かった!!」

そんな絶望の空気を消し去るようにアレンはクレナに指示を出す。

(思った以上の耐久力と攻撃力の差だな)

ヘルミオスから魔神の強さについて聞いていた。

ある程度魔神の強さは予想していたが、クレナと魔神レーゼルでステータスにとんでもない差を感じる。

ダメージは、攻撃するものの攻撃力と、攻撃を受けるものの耐久力で決まる。

さらに厳密に言うと、

・自らのステータスと武器の攻撃力の合計にスキルやエクストラスキルによる効果を計算した威力

・攻撃を受ける側のステータスや防具の合計の耐久力

・急所を狙ったクリティカル

こういったものが複合的に計算され、体力を削るダメージとなる。

今回、限界突破を使ったクレナは、防具のない首元を狙い、さらに急所を攻めてほぼダメージ無しだった。

クレナと魔神レーゼルにどれだけのステータス差があるのかを窺える一撃となった。

魔神レーゼルとの距離を詰め、剣戟をクレナが繰り返していく。

エクストラスキルの時間は有限で、一度使うと丸1日使えなくなる。

クレナはどこか焦っているようだ。

必死にエクストラスキル発動時にスキルを使おうとしているようだ。

ここにきて、発動しなければ負けてしまうという危機感がクレナにもあることを感じる。

魔神レーゼルは、そんな必死なクレナの攻撃を手の甲で、虫を振り払うかのようにはじいていく。魔神レーゼルの動きと、大剣を握りものすごい威力の一撃を繰り出すクレナの動きが合っていない。

「で、できないよ……」

クレナの周りを覆う陽炎のようなものが消えていく。

エクストラスキルが終わってしまったようだ。

『エクストラの門は閉じたか。剣聖であろうが、所詮は門の前にたたずむ者だ。その程度の力であろうな』

「門の前にたたずむ者?」

『そうだ。門を開き、そして越えた者だけが開放者と呼ばれる。お前のようにな』

(ん? 門を越えるってことは解放者じゃなくて、開放者って意味なのか。ってことは、俺は何か誤解していることがあるんじゃ? エクストラスキルってもしかして)

魔神レーゼルの言葉をアレンは理解する。

恐らく魔神レーゼルはアレンのことをエクストラモードと呼んでいる。

ノーマルモードとエクストラモードの間を隔てる門を開き、ノーマルモードの限界を超えた者と言う意味が「開放者」にはあるのだろう。

「ちょっと、強すぎるわ! アレンどうするの!?」

アレンが魔神レーゼルの言葉を検証する中、セシルの声が響く。

戦闘開始からずっと魔法を打ち続けているセシルが、今後どうするのかアレンに確認する。

「ああ、これは思った以上に強かった。退散する必要があるな」

『ふん、もう小賢しい作戦は終わりか? だが、今更逃がすと思ったか!』

アレンとセシルの話を聞いていた、魔神レーゼルが笑みを浮かべ、逃がさないと宣言する。

(よし、完全に油断してくれたな)

すると1体の獣Bの召喚獣が壊れた天井の隙間から突っ込んでくる。

3つの頭のあるケルベロスの姿をした獣Bの召喚獣が凶悪な牙をむき出し、魔神レーゼルの背後に迫る。

『ぐるる!』

『ふん、また背後からか。何度も同じ手を食らうと思ったのか!!』

獣Bの召喚獣が攻撃する前に、魔神レーゼルは片手で振り払うかのような攻撃を獣Bの召喚獣に与える。

あまりのステータス差に、獣Bの召喚獣は一気に光る泡に変わってしまう。

『こんな雑魚を何体出しても……』

アレンに対して、何体出しても無駄だと言おうとしたその時だった。

光る泡の先から、金色の鎧を着た水色の髪の青年が、同じく金色の剣を握りしめ迫る。

魔神レーゼルは何かを言おうとしたが、それ以上何も言えなかった。

勇者ヘルミオスが、獣Bの召喚獣の背中の影に隠れていた。

「神切剣!!」

『な、貴様はヘルミオスか!? な、なぜここに、がはっ!!』

「ああ、死ぬといいよ?」

陽炎のように屈折したヘルミオスは、エクストラスキル「神切剣」を使い、魔神レーゼルの背中にオリハルコンの剣を突き立てる。

魔神レーゼルの胸元から防具をも貫通し剣が突き出る。

しかし、それだけでは威力が殺せず、魔神レーゼルをうつ伏せにし、地面に叩きつける。

魔神レーゼルが叩きつけられた衝撃で床材の石板が広い範囲で円状に粉砕され、深々と地面にめり込む。

(相変わらずとんでもない威力だな。クレナが全くダメージを与えられない相手だったんだけどな)

「……す、すごい」

クレナが魔神レーゼルを一撃で屠ったヘルミオスに感動をしている。

ヘルミオスは魔神レーゼルの背中に突き立てた剣を引き抜き、剣に着いた紫色の血を振り払う。

「アレン君の作戦がうまくいったね。お陰で確実に倒すことができたよ」

「いえいえ、流石に聞いたところ攻撃を与えられそうになかったので助かりました」

アレンは、魔神レーゼルへの決定打となる攻撃がアレンと仲間達にはないと判断した。

そのためにヘルミオスのエクストラスキル「神切剣」に頼ったのだが、神切剣も一度使うとクールタイムは1日だ。

確実に勇者ヘルミオスのエクストラスキル「神切剣」を魔神の急所に当てる必要がある。

作戦を練って、魔神レーゼルを嵌めないといけない。

そのために、こっそり勇者をローゼンヘイムに連れてきた。

ヘルミオスがこのローゼンヘイムにいることを中央大陸にいるほとんどの者は知らない。

情報封鎖もギアムート帝国にお願いしてある。

魔王軍を倒し、自分らは強いと勘違いをしたアレンとその仲間達が魔神に向かってきたと魔神レーゼルは思っただろう。

作戦をいくつも設け戦えば、その全ての作戦を打破したとき魔神レーゼルは油断する。

最も無防備な状態に持って行くことが、魔神レーゼル相手に有効だと判断した。

「仲間も自分すら囮に使うなんて、簡単にはできないよ? いい仲間を持ったね」

「いえいえ」

ヘルミオスが仲間達を見て称賛する。

今回の作戦は魔神を相手するには力不足のアレンの仲間達も囮に使った。

力差があればあるほど、魔神を油断させることができるからだ。油断をすればするほど隙を生む。

会議室で言ったアレンの作戦に誰も反対するものがいなかった。

(さて、中々しぶといな)

アレンは魔導書の表紙に表示されるログをさっきからずっと確認をしている。

魔獣を倒した時に、経験値が手に入るので、止めを刺したか確認ができて便利だからだ。

さっきから見ているが、魔導書には『魔神を1体倒した』のようなログが一切流れない。

虫系統と竜系統は死ににくく、ログが流れるのが遅いのだが、ヘルミオスが魔神レーゼルに攻撃してからそれ以上の時間が過ぎている。

「ヘルミオスさん。まだ倒せていないようです。止めを刺しましょう」

「え? うん。そうだね。まだ死んでいないのかな?」

そう言ってヘルミオスが腰に一旦差した剣を柄から引き抜こうとした時だった。

『……いつの間にか勇者を連れてきていたのか。なるほど、これだけの準備をしてきたわけか。お陰で3つある心臓のうちの1つが潰されてしまったぞ』

ヘルミオスの後ろの凹んだ地面から声が聞こえる。

「「「な!?」」」

そして、胸元を大剣で貫通された魔神レーゼルがゆっくり立ち上がり、凹んだ地面から出てくる。

(くっ、やばい。殺し切れなかったか)

アレンもアレンの仲間達も動揺しながらも武器を手に取り身構える。

『どうした? もう来ないのか? ならば見るがよい。我は力を得るために全てを捨てたのだ!! 我は世界樹を手に入れるために開放者になったのだ!!』

アレンは敵の強さを測ることはできない。

しかし、それでもわかる明らかな魔神レーゼルの変化が目の前で起きる。

魔神レーゼルの体が防具を破りながら膨れ上がり巨大になっていく。

肉食の恐竜を思わせる巨大な足に変わり、爬虫類を思わせる翼が生え、肩と脇から腕が生えてきて、6本の腕になる。

憎悪を体現したかのような魔獣のような顔にうごめくように変化したその顔は、エルフの面影が消えていく。

「こ、これは、ちょっとまずいね。僕が時間を稼ぐから逃げる算段を」

そう言うとヘルミオスが剣を握りしめ、魔神レーゼルに向かっていく。

『ふん、たかだか勇者が! 門も越えられぬ者が何人集まろうと相手ではないわ!!』

「がはっ!!」

6本になった腕のうち3本の腕が拳を作り、ヘルミオスを殴りつける。

魔神レーゼルから一番離れているキールやセシルの、さらに後ろにある壁までヘルミオスは吹き飛ばされる。

轟音とともに、壁は粉砕され、瓦礫の中でヘルミオスが横たわる。

『誰も逃がしはせぬわ!』

そう言うと、アレン達目掛けて、変貌を遂げた魔神レーゼルが向かってくるのであった。