軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第185話 限界の先

『君、見ない顔だね。名前は?』

カップを配り終わったあたりでネフティラと言う魔族から声が掛かる。

(そういえば、さっきも名前を聞いてきたな)

名前を聞かれるのに霊Bの召喚獣は答えた。

『エリーと申しますデスわ』

普通にアレンが名付けた名前を名乗る。

『エリーはどう思う? なぜ100万の我らが軍勢が敗れたと思う?』

『さあ、私には分かりかねますデスわ。ただ推測でいいなら』

『ん? もちろんだよ。いろんな意見があることが大事なんだよ』

『例えば、帝国が勇者を派遣したとかいかがデスか?』

『む、それは予想しなかったゴフ。勇者がやって来ているなら、この敗戦の理由になるゴフ』

ハイエナ顔のヤゴフがそうかそうかと頷いている。

『いや、それはないよ。そのために200万の軍勢を中央大陸に派遣したんだからね』

グラスターに確認するようにネフティラが見る。グラスターはそうだなと頷いている。

(ほうほう、これで中央大陸と情報の連携が出来ていることも確定だな。あとは、作戦を誘導してみようかね)

アレンは霊Bの召喚獣に次の内容を吹き込んでいく。

『なら、ここにはエルフの霊薬という回復薬があると聞いておりますデスわ。瀕死の重傷で滅びそうだったのでそれを使い、エルフ達は回復し持ち直した。その状況を理解していない我らが油断して大敗を喫したかと思いますデスわ』

『なるほど。それも、ヤゴフが言っていたね』

『言ったゴフ。エルフ共の兵の数が報告と合わないゴフ。負傷兵が少ないゴフ』

『もし、そうだとしたら、薬が尽きた今なら容易く勝てるはずデスわ』

(あまり奇をてらった作戦をされると対応できないんだけど。このまま残りで攻めてほしいわ)

霊Bの召喚獣がニヤリと笑い勝利を宣言する。

『いや、薬がまだあるかもしれないからね。同じ作戦はできないよ。そうですよね、グラスター様』

『当然だ。次は海洋と二手に分けて攻めよと魔神レーゼル様から言われておる』

(また作戦を変えてくるのか。それも次は海洋からも来るのね。・・・エリー無理しない程度に扉前にでも立って話を聞いてくれ)

話の内容が、敗戦の原因から次の作戦に変わったように思える。

これ以上話しかけてこないようなので、霊Bの召喚獣はトレーを持ったまま扉の前まで下がって待機する。侍女がお茶の御代わりや片付けのため扉の前に立つように、自然に振る舞う。

エリーのその行動に対して魔族達は視線すら動かさず話を進めていく。

『その作戦ですが海洋からですか。女王のいる街まで海獣に乗せて軍勢を運ぶと言うことですか?』

ネフティラがグラスターに作戦の詳細を確認する。

『いや、最南端にエルフ共が避難した街がある。あそこを攻めて、魔獣共の腹を満たせと言っておいでだ』

魔神レーゼルから聞いたとされる作戦についてグラスターが話をする。

戦況を判断し、予備兵力をそろそろ中央大陸かローゼンヘイムのどちらかに向けて派遣しないといけない。

どうも中央大陸では回復部隊がいなくなったはずの5大陸同盟軍が随分粘っているようだ。

しかし、ローゼンヘイムは大陸の半分を超えて占領できた。こちらを確実に征服したい。

そのため、北部から上陸する軍勢と海洋からネストに向けて侵攻する軍勢に分ける。

こうすれば南端の避難民を食料にできるので、南進した軍勢に対する食料などの兵站負荷を抑えることができる、みたいな話だった。ネストの街だけで200万を超えるエルフの避難民がいる。

ネストの街を蹂躙した後、ティアモに向けて北進させ、北からの軍勢と挟み撃ちにすると言う作戦のようだ。

(二手か。まあ単純に軍勢の数を増やすだけではないと。これはさっき言っていた大精霊使いや大魔獣使いに対応した作戦だな。それにしても、昨日の今日で随分作戦というか情報の連携が早いな)

100万体の軍勢が惨敗だった。このまま200万体や300万体で攻めても勝てる保証もない。

なぜ負けたのかの原因も含めて、情報が不十分な状況でも戦略指針を出さなくてはいけない。戦争は時間との戦いでもある。

今回の作戦を聞いて、敵であるエルフ側に強力な使い手がいてもそれが1人であるならば、二手に分けて対応できなくすればよいという解決策も含めた作戦なのかと思う。

グラスターという魔族の話を受けて、魔王軍側にも魔道具通信のようなものがあり、随時ローゼンヘイムの首都フォルテニアや、魔王がいる大陸にあると思われる魔王軍の本部とかなり密に連絡を取っている事も分かった。

昨日の今日で既に次の作戦が決まっていることにも驚きだ。これは知力数千に達した魔族達との狡知を尽くした戦いであることを、身に染みて感じさせられる。

(エリーはこのままこの魔族共の世話をしつつ情報を収集してくれ)

霊Bの召喚獣は『承りましたデスわ』と声に出ない声で返事をした。

ここは、ティアモから北に10キロメートル以上離れた場所だ。

「ふう、あまり時間がないな。やはりエルフ達に魔石の回収を頼むか」

「そうなの?」

「ああ、既に魔王軍は次の一手に移っているぞ」

アレン達は、死体にした2万体の魔獣を目の前にして現状を皆に共有する。

「じゃあ、魔族がラポルカ要塞にいて魔獣達に命令しているのですね」

「ああ、ソフィー。ただ、どうもフォルテニアに魔神がいたり、魔王のいる忘れ去られた大陸からの命令を強く受けているみたいだ」

「そうなのか。で? その魔族は強そうだったか?」

「ドゴラ、まあ学園で聞いていたAランク相当っていうのは、なんとなく間違いなさそうだな。グラスターとかいう奴がボスで、かなり強いかもしれないな」

座ってぶつくさ言ってお茶を飲んでいただけなので、どれだけ強いのか分からないとも付け加える。

「だが、魔神もいるんだろ?」

「ああ、魔神レーゼルっていうのが、この戦争のボスのようだな」

そんな会話をしている中、数多の魔獣の骸を前に意気消沈している少女がいる。

「またできなかった」

あまりにショックで、アレンが伝える潜入活動の話が耳に入ってこないようだ。

「クレナ、絶対にできるから自分を信じるんだ」

「でも、何度やってもできないよ?」

「いや、絶対にできる。できないと誰が決めたんだ」

アレンがクレナに諭す。

(難しいか。でもできるはずなんだ。クレナのエクストラスキルは、その半分も真価を発揮できていない。真価を発揮すれば、エクストラスキルを発揮していない勇者に近い戦力になるはずなんだ)

魔導書でヘルミオスとクレナのステータスを比べる。

・ヘルミオスのステータスの合計(ステータス、職業スキル、装備)

攻撃力 10400(2400、3000、5000)

耐久力 10400(2400、3000、5000)

素早さ 8400(2400、3000、3000)

・限界突破時のクレナのステータスの合計(ステータス、職業スキル、限界突破、装備)

攻撃力 10200(2400、1800、3000、3000)

耐久力 9500(1700、1800、3000、3000)

素早さ 8400(1600、1800、3000、2000)

クレナは素早さ1000アップの指輪を2つ着けている。

限界突破時の剣聖クレナは、勇者ヘルミオスの域に達したように見える。クレナとヘルミオスが戦えば、体力が自然回復するクレナの方に軍配が上がるように思える。

しかし、そんなことは全くない。恐らくヘルミオスとクレナが戦えば、ヘルミオスの完勝だろう。相手にならないとさえ言える。

「スキルなんて使えないよ。頭がワーってなって! ひぎゅ!」

限界突破したときの状況をアレンに必死に訴える。

すると、アレンは両手でクレナの頬をぎゅっと抑える。

「いいか、誰が限界突破時にスキルが使えないと決めた。エルメアか? それともクレナか?」

「わ、私?」

クレナはエクストラスキル時にバーサーク状態に入って、向かってくる敵を皆殺しにする。

しかし、その攻撃はスキルを使用せず、ただ武器を振るうだけの通常攻撃だ。

これでは、石Bの召喚獣を瀕死に追い込んだヘルミオスの攻撃には到底及ばない。

スキルを使えば、クレナの攻撃は2倍にも3倍にもなる。

「限界を決めるな。常識に捕らわれるな。絶対にスキルは使える」

アレンも最初にドラゴンと戦った時、クレナのエクストラスキルはそういうものだと思った。

しかし、セシルがエクストラスキル発動時に全魔力を消耗したとき、ふと疑問に思う。

なぜクレナはエクストラスキル発動時にスキルが使用できないのかと。

クレナのほっぺをにぎにぎしながらアレンは説得する。

今、常識を決めてしまえば、これからも成長できない気がする。

「わ、分かった。ありがとね」

「うむ、あまり時間がないが。1日1回だからな。クレナよ、鬼特訓だ!」

「イエッサー!」

前世の話をした後、前世の返事の仕方についてクレナに教えておいた。

(うしうし、全く根拠ないけどクレナならきっと限界突破時にスキルを使えるようになれると信じている)

またいつもの何かが始まったなと、キールを筆頭にため息をつく。

アレンとクレナのやり取りを見て、このパーティーでアレンを除いて唯一エクストラスキルをまだ発動できていないドゴラは、強く斧を握りしめるのであった。