軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第181話 ティアモ攻防戦④

1人のエルフが必死に走っている。

その横には明らかに異形の集団が、同じ進行方向に向かっていく。

数十万に及ぶ魔王軍の魔獣の集団だ。

そのエルフは、何でこんなことをと思っているようだ。今はローゼンヘイム存亡の危機だ。決してこんなことをしている場合じゃない。情報収集をしろというなら、敵軍に落とされた街への潜入も辞さないと思っている。それが女王陛下を守ることに繋がるなら命すら惜しくはない。

しかし、斥候部隊の上官の指示は絶対だ。指示された物を限界まで袋に詰め込んで、ティアモの街に目掛けて走っている。

エルフ達が作った3層からなる石積みが、魔獣達で埋め尽くされていることに息を飲む。

そして、走るエルフは安堵する。

北側の外壁はまだ抜かれていなかった。

そのまま、ティアモの街東側の門へと回り込むように街に入って行く。当然門は開けられない。門番用の通用口が開いているので、ほとんど失速することなく突っ走っていく。

大通りにはエルフはいない。誰もいない街を全力で走り、街の北側を目指す。

「魔石を持ってまいりました!!」

北側の外壁の内側には、斥候部隊の上官がいる。命令を達成した報告をする。

「うむ、ご苦労であった! アレン殿の下に行き、指示を仰ぐように」

「は!」

皆、この2人のやり取りを見ている余裕はない。必死に魔王軍の魔獣を外壁に近づけないために戦っているからだ。

外壁の内側からも、外壁上の指揮官からの指示で回復職が回復魔法をかけ、精霊魔法使いは攻撃魔法を飛ばし、また弓隊も矢を射続ける。

外に出よと言われ、閉ざされた巨大な門の隣に設けられた門番用の通用口から、躊躇わず魔獣のいる外に出る。

(ふう、間に合った。戸惑わずこっち来い来い)

まもなく魔石が無くなるところ、無事魔石を持ってきてくれて安堵する。既にBランクの魔石は3000個を切っている。

「えっと、すみません。この穴に魔石を流し込んでください!」

「え?」

「早くお願いします!」

「は、はい!」

アレンの正面には、1メートル四方の穴が空けられている。深さも1メートルくらいだ。

斥候部隊のエルフは、急かされ訳も分からず、大きな袋を開け、袋一杯に詰め込んだ魔石を流し込んでいく。

「これでどれくらいの魔石ですか?」

「5000個くらいです」

「助かりました」

「は、はあ」

斥候部隊のエルフが意味も分からず、一杯になって溢れるんじゃないのかと思うほどの魔石を流し込むと、何故か魔石の嵩が減っていく。1メートルしかない穴にどんどん吸い込まれていく。

(うしうし、これなら魔導書が見えないエルフ達からも魔石が補給できるぞ)

この穴はモグラの形をした獣Fの召喚獣に掘らせたものだ。

1辺1メートルの立方体に掘ってもらい、その中に収納ページを開いた魔導書を置いてある。

エルフの斥候には魔導書は見えないが、どこに魔石を入れてもらうか、穴を掘ることにより見える形にした。

(これで、まだ戦えるぞって、お! 来た来た!! どんどん来たぞ!!!)

アレンが歓喜の表情で、鳥Eの召喚獣から見える光景を確認する。10人以上のエルフ達が、大きな袋を持ってどんどんやって来ている。

そして、エクストラスキルにより考えられないような速度に達した斥候部隊のエルフ達が、門番用の通用口を抜けてアレンの下にやってくる。鳥Eの召喚獣が視認してからそれほど時間が経っていない。

「「「持ってきました!!!」」」

さっきと同じように説明し、どんどん魔石を流し込んでいく。兵たちは、何処に流れているんだという疑問を持ちながらも、作業に徹するようだ。

斥候部隊は理不尽な指示を受けることがかなり多い。今回の魔王軍の総数や進行方向を確認したのも斥候部隊の役目だった。当然、無理難題を押し付けられ、戦場で最初に死ぬのは斥候部隊と言われている。

魔獣相手ということで偽装が通じず、見つかったら殺されるのが常の状況だ。

昔戦ったダグラハという斥候崩れが、世界を恨み、上官である貴族達を恨み暗殺者に身を落としていた理由も、学園で斥候の役割や戦場について勉強して分かった。

(これでBランクの魔石は5万以上になったな、まだまだやって来るな)

最初の斥候部隊の一団から、そんなに時間を空けずにエルフの部隊がどんどんやって来る。どうやら今度は30人以上いるようだ。

今回魔王軍の攻めはとてもシンプルなものだ。数の暴力により、敵軍の長であるエルフの女王がいると思われるティアモの街を陥落させることだ。

それに対して、アレンの作戦も単純なものだった。

まず、3日3晩かけて、魔王軍の正面から魔獣を倒し続ける。魔王軍は構わず突っ切っていくので、突っ切られたら、再度正面に回り込んで同じことをする。

その結果、この魔王軍の進行方向には、アレン達が3日3晩かけて倒した魔獣の死体が40万体ほどある。ティアモの街から北に真っ直ぐ、延々と魔獣の死体が並んでいる状況だ。

その魔獣から、エルフの部隊3000人に魔石の回収をさせた。回収した魔石は、素早さを上げることができるエクストラスキルを持つ者100人に、まとめて持って来てもらうようにした。

今まさに、大袋一杯に魔石を詰めたエルフ達が、ティアモの街を目指して続々とやってくる。エルフは途切れることなく100人全員がやって来て、穴の中に魔石を流し込んだ。

(魔石が30万個以上になった。これで目途が立ったな。いやギリギリだったな。ずいぶん押し込まれたぞ。さて始めるか)

アレンは竜Bの召喚獣を一度削除して再生成を行い、新たに20体の竜Bの召喚獣を出す。

「お腹が空いたな。この飢餓を終わらせよう。ドラドラ達、怒りの業火を全力で使う時だ」

『『『待っていたぞ!! 我が主よ!!!』』』

傲岸不遜な性格の竜Bの召喚獣達がニヤリと笑い、巨大な顎を開くと虚空から何かを飲み込んでいく。

すると、特技の数倍の光が口の中に現れ、そして、魔獣達に光り輝く炎をぶちまける。

焼き尽くすというより、消し去るといった表現の方が正しい威力のブレスを、20体の竜Bの召喚獣が一斉に吹き出す。

消し炭になる1000体近い魔獣達。

するとアレンは、高速召喚を使い、さらに竜Bの召喚獣20体を削除し、再生成する。

「どんどん行くぞ! 怒りの業火をぶちかませ!!!」

『『『おう!!!』』』

アレンは竜Bの召喚獣に、クールタイムが1日の覚醒スキル「怒りの業火」を使わせ続ける。

そのために、20体でBランクの魔石580個を、再生成の都度に消耗していく。

アレンは状況により、魔石の消耗速度を変えている。

最初のティアモ攻防戦では在庫1000個になるまで減ったので、挟み撃ちにする形で時間をかけ、虫Bの召喚獣主体で戦った。

次に行った100万の軍勢に対する遅滞作戦の時は、竜Bの召喚獣を多めにし、1日当たり2万個強の魔石を消耗した。

今はその比ではない。1時間に5万個は使うのではという勢いで魔石を使い、魔獣達を消し炭にしていく。

そして、この時初めて、アレン達が前に進みだした。

アレン達の殲滅速度が魔王軍の進行速度を、とうとう上回った。

鳥Bの召喚獣に乗ったまま、ゆっくり前に進んでいく。竜Bの覚醒スキルの攻撃範囲に魔獣がいるようにするため、前に進んで行く。

既に3層目の石積み付近まで押し返し、それでも向かってくる魔王軍を殲滅していく。

そして、とうとう魔王軍の隊列の終わりまで殲滅が終わった。

「よし、魔王軍の行軍はなくなったぞ。俺たちは西側に回り、倒し切れなかった魔獣達を倒すぞ」

「「「おう!!!」」」

アレンが魔石を大量消費するまでに、北壁の東西にバラけてしまった魔王軍が30万体近くいる。

北壁の西側から殲滅をしていく。東側には精霊使いガトルーガがいる。弱い方に加勢する形だ。

「ば、化け物だ……」

外壁の上にいる兵達が、思わず口にした。それはあまりにも一方的な虐殺であった。

今度こそは外壁と挟みこむような形で、魔王軍の数を減らしていく。

外壁上から見ていて分かるほどの殲滅速度だ。

魔獣がいなくなっていき安堵すべきなのに、震えが止まらない。魔王軍を一瞬で燃やし尽くしていく。それは、人智を超えた一方的な大虐殺であった。

こうして、一部の魔王軍の魔獣が撤退を始めたが、外壁の北側に数十万の魔獣の死体が広がる形で、100万の魔王軍の軍勢との戦いが終わったのであった。