軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4-3

スキンスーツに上下一体型のツナギという格好は、何となくだが傭兵っぽくないなと陽菜乃は思った。

翌日、コンテナに備蓄されていた食事とシャワーでじっくり休み、揺れとも波音とも、ロードノイズや世界晶エンジンの唸りとも無縁の十時間睡眠から復帰した彼女は、社用端末以外が使えないことを除いて不自由なく過ごして十二時を迎えていた。

「スキンスーツはどうかな?」

「いや、見た目と違って着心地いいッス……じゃなくて、いいです!」

「無理して繕わなくて良いよ、言葉。海兵隊とか口悪いヤツいっぱいいたし、お国言葉を無理に直すこともない」

「はぁ……言うて自分ら、内地と殆ど言葉変わんないんで……」

陽菜乃は初めてのスキンスーツに驚くほど違和感を抱いていなかった。最初は、あまりにペラペラで頼りなく、自分より一回り小さいサイズに発注ミスかと思ったのだが、説明書通りに着てみれば、ボディラインを表にし過ぎる以外文句が見つからなかった。

「しかし凄いッスねコレ。こんなピッチピチなのに全然突っ張らないし」

「生体電気に反応して収縮するんだ。ちょっとした破片くらいなら止める防弾製もある」

「はえー、すげぇ……じゃなくて、すごい!」

「それは第二の皮膚だ。内側のマイクロマシンが垢を分解してエネルギーにするし、汗を吸って飲み水にも変えてくれる。あんまり頻繁に脱ぎ着しないほうが、むしろ長持ちするくらいだよ」

「え? 汗を濾過ッスか……」

嫌悪感が顔に滲んだ彼女に江月は慣れろと笑った。

それに、広い目で見れば地球だってデッカい濾過システムだ。雨水だって元を正せば、誰由来の液体か分からないのである。

それが排尿・排便パックに吸われているだけで拒否感を感じていては、潔癖症にもなろうというものだ。

「戦闘中は補給できないことも多い。自分に気にしないよう言い聞かせておいたほうがいい」

「ウッス……」

「じゃ、とりあえず、色々大事なことを先に教えていくから」

コンテナの前部3/1、プライベートスペースには踏み入らず、整備スペースのコンテナに腰を下ろした江月は、世界晶探索者事業のしおりという自作らしいパンフレットを渡しながら言った。

「まずこれ忘れがちなんだけど、結構大事だから最初に言っとくな。何があっても、自分を傭兵と名乗らないように」

「え? PMCって傭兵なんじゃ……」

「オペレーター、あるいは探索者ね。自虐で傭兵稼業って言うのはいいけど、自分は傭兵ですって名乗るのはNGだから、マジで」

首を傾げる陽菜乃に、江月は理由を分かりやすく説いた。

傭兵であると名乗れば、金で雇われて戦争に巻き込まれる可能性があるからだ。

故に世界晶探索者事業は、自分達のことを努めてオペレーターであるといい、雇われて戦争に参加したりはしませんと依頼主に断る。

これは大前提であり、自分達はあくまで警備会社の社員であり、その特種調達部という世界晶探しの専門家であることを忘れてはいけないのだ。

「現地の紛争に巻き込まれちゃたまらんでしょ。業務外行為だから普通に怒られるぞ。護衛依頼とか来ても断るようにね。あくまで私達は“特種調達課”であって警備部じゃないから」

「な、なるほど。分かりました」

「了解、あるいは元気よく了! でよろしい」

「りょ、了!!」

結構と頷いて、江月は色々とした事務的なことを教えた。

申請書の書き方、不受理で終わった時の再提出手順、物品の管理。

並んでコンテナの中身をチェックすれば、流石にこればかりは手を抜かぬカンパニーは、ちゃんと必要な物を詰めてくれていた。

「で、コイツが三枚目の肌にもなる強化外骨格。ユキノシタ・ヘヴィ・インダストリ製のM2軽現代甲冑だ」

「おおー! やっぱ民間のと比べるとゴッツいッス!」

「ああ、たしか父君と祖父君が……」

「はい、猟師ッス! 入植時代から猟師の家系ッスよ マキノタの使ってました!」

「マキノタか、民生用じゃいいチョイスだ。乗ったことは?」

危なくて触らせても貰えませんでしたよと言われ、まぁそんなもんかと納得する。ただ、江月の現役時代、地元が農家だった戦友は私有地だからと六歳の頃からトラクターに乗らされ、コンバインやハーベースターも操り、果ては果樹収穫にロングアーム型の外骨格にまで放り込まれたと言っていたのだが。

これは相当愛された娘さんだ。何があっても無事に返してやらねばと思いつつ、江月は搭乗手順を教えた。

「コイツはパラミリ……準軍事企画だから、パワーも装甲も比べものにならないよ。正面だと7.62mmだって余裕で弾く」

「じっちゃの猟銃が!?」

「今の歩兵携行火器は最低でも12.7mmだからね。猟銃くらい耐えられなきゃ準軍事用とはいえないよ」

でもそんな大口径、食うところなくなるんじゃと猟師の娘らしいことをいう陽菜乃に江月は遠い目をした。

そう、普通は彼女の言う通りなのだ。.50MBGなんぞ喰らった生物は、着弾点から粉微塵になるのが当たり前。ましてや今回、この外骨格とセットで搬入された20mmなんぞ掠っただけで煙のようになる。

はず、なのだが……まぁ、ちょっとこの世界の生物はおかしすぎる。

「その心配は要らないかな……これでも若干威力が不足だよ。食べる部分はたっぷり残るくらいに」

「えぇ……船の中で眠れないからWiki見てたんスけど、マジッスか……」

現在の軍がハードターゲット向けに主力で採用している45mm砲はドラゴンの鱗で余裕で弾かれるし、外骨格の機動力を活かして戦車にトップアタックをかますことが設計思想であって、その主たる標的は装甲車両や戦車である。

それを生物相手にブッ放し、あまつさえ〝火力不足〟を感じるとは。

全く以て異世界とはあまりにも常識に優しくなさ過ぎる。

それにしても、転移してきた時代が本当に良かった物だと江月は思う。もしこれが転移より更に半世紀前。外骨格はテストヘッドしか完成しておらず、歩兵は5.56mmなんて豆鉄砲を携行し、120mm滑腔砲が有り難がられている時代だったらどうなっていたか。

少なくとも、列島人だけでのダンジョン探索なんてことはできなかっただろう。あるいは、異世界人の力に負けて列島が占領されていた可能性さえあった。

「で、これだけは何があっても守ってね。西方で生き延びるコツだから」

じっと目を見られて言われたので、これは相当に大事なことなのだろうと陽菜乃は背筋を正した。

「外骨格で誰かを轢きかけても変に止まらないこと。むしろ思いっきりいけ」

「了! ……はい?」

了解から疑問に言葉は変わった。

何を言っているんだこの人は。普通、人を跳ね跳ばしそうになったら急ブレーキ、何なら自分がガードレールをぶち破ってでも他人様に迷惑をかけるなというのが普通ではなかろうか。

「まぁ実際に体験してみんと分からないだろうけどね……頑丈なんだよ、西方人は」

「はぁ……」

「私はね、一度茂みでしゃがみ込んでいた人が見えなくて、バイク撥ね飛ばしかけたことがある。80kmは出てたかな? 急ブレーキをかけて自分が投げ出されて、全身打撲だ」

「そ、その人は……?」

「……突っ込んだバイクを受け止めて無傷だった。しかも、壊さないよう気を付けて、上に跳ね上げて捕まえてくれてた」

「……は?」

ものすごく間抜けな声を出す陽菜乃に、後ろ手を組んで背を向けた江月は紛れもなく、本当に遠いどこかを見ていた。

「大丈夫かお兄さんと、助け出されてしまったくらいだ。まぁ、それくらい生物的強度に差があるんだ。うん」

「えぇ……西方人コワ……」

「な、怖いよな」

妙な精神的な絆を育みつつ、簡単な〝西方での常識〟レッスンが進む度、陽菜乃は間抜けな声を上げるのであった…………。