作品タイトル不明
1-3
大型トレーラーのコンテナは広いが、居住部分が凄まじく手狭なのは、三分の一をコレが埋めているせいだ。
とはいえ、文句は言えない。
貧弱な列島人が〝多少動ける〟程度の現地人に並ぼうと思えば必須の〝 強化外骨格(エグゾスケルトン) 〟を整備するための設備なのだから。
「個人認証開始っと」
吊られるような形で安置されているのは、民生用モデルの中でも高い人気を持つユキノシタ・ヘヴィ・インダストリ製の軽強化外骨格、 M(モデル) 2現代軽甲冑だ。海兵隊で使っていたモデルと操作感が近いこともあって、個人的に気に入っている。
黒い艶のない装甲が各所に設置された軽外骨格は、前線でバチバチに殴り合う想定ではなく、同社製の密閉型のスキンスーツに装甲を被せる特殊戦仕様になっている。単騎、あるいは数人で小隊を組んで後方に浸透し、情報収集をしたり破壊工作をしたりする装備で、ダンジョンハックの斥候を務めるには過不足のないものだ。
といっても、本当に過不足がないってだけで、上を見れば一杯いいのがあるんだけどね。
彼方工業が誇るフラグシップの〝落葉〟モデルは少々扱いがトリッキーだけど、機動力だけみればM2の倍以上はあるし、豊発重工が去年リリースしたレクシアMk-Ⅲは、軍用モデルのセンチュリアMk-Ⅳをソフト面だけ民生用にした「法律大丈夫?」といいたくなるスペックをしている。
それらが聖なる鎧やオリハルコンの甲冑だとすれば、私のこれは皮の鎧……とはいかないが、まぁ、かなり評価してやっても鱗の鎧ってところかな。
優れているところもあるんだけどね。枯れた技術の結晶であるから、大量に参画したサードパーティーの品が使えるし、軽さの割りにペイロードにも余裕があるからカスタマイズも自在。
何より安価だ。落葉やセンチュリアを一機、予備部品込みで買える値段で一個分隊を調達できるとあれば、最低限の性能を兼ね備えていれば、そりゃ傑作機とも呼ばれるさ。
別の意味での〝特別〟がほしかったんだけどね、私は……。
端末を翳して個人認証を終えたM2Lの背中がばっくりと開き、迎え入れてくれるので足先から体をねじ込んだ。
そうすると自動で装甲板が閉じ、整備器機各所で折りたたまれていたアームが伸張。追加装甲板を貼り付けると同時に、ボルトで止めて簡単に脱げないようにしてくれた。
それから仮面のように降りてきたヘルメットが顔に吸い付けば、後頭部で装甲が折りたたまれて密閉される。プシュリという空気が圧縮された音は、頸部の装甲と接続が完了し、気密が保たれた証拠だ。
私達列島人は脆いからな。毒のブレスなんて貰った日にゃ、七孔噴血して死んでもおかしくない。最悪、爆発四散したとかゲル状に溶けたなんて話を聞いたこともある。
故に、ただのダンジョンハックでも化学戦装備が必要なのだ。
「OS立ち上げ開始、個人認証……ヨシ、各パラメータ正常、感覚素子良好」
簡易チェックリストを読み上げつつ、強靭な外皮が体に馴染んでいくのを感じる。そして、背中に背嚢を固定するためのバックパック基部が取り付けられ、接触型神経接続で一対二本のサブアームが起動した。
「サブアーム稼働良好。装備装着開始」
器用に動く針金めいた細い腕が三日分の飲料水や流動食、予備弾薬を詰め込んだハードケース形バックパックを背中に装着し、各ベストに弾倉をねじ込んでいく。
そして、整備器機から吊り下げられていた私のメインアーム、クニトモ・ライトアームズ社の傑作〝対怪異小銃〟のMk-4バトルライフルが捧げられた。
コイツは50口径12.7mmを使う列島人相手には火力過剰にもほどがある代物だが、とかく頑丈なダンジョンの怪物にはこれくらいでやっと最低限。されど、軽妙に動ける限界重量と大きさで火力を両立しているのが素晴らしい。
逆を返せば、大手ダンジョン探索会社のマークスマンが使うような20mmは重すぎて装備できないので、コイツを頼りにおっかないびっくり進むしかないんだけど。
あとは細々した装備を身に付け、 火器管制系(FCS) と無線接続されてエラーがでないことを確認すると――安全性のために持ち主しか撃てない使用だ――チェックリストは完了。
私は整備器機に固定されていた外骨格をロックから解き放ち、車外に出た。
そして、傍らに駐めてあった高機動車両のカバーを勢いよく剥いだ。バイクだけじゃ成果物を持って帰るのが大変だと半年ずーっと要請し続けて、先月やっと届いた、待望の長距離移動ができて荷物が載せられる足である。
五人乗りのオープン型車両は堅牢かつ整備性に優れたトヨハツ・モータリゼーションの軍用品を民間仕様にしたもので、ペイロードに優れハードに使っても中々へこたれないので重宝している。海兵隊時代に使ったこともあるので、使い慣れている点も高評価だ。
運転席は外骨格仕様になっていてシートがなく、ハードポイントが増設されており、座ればそのまま固定される仕組み。ガチリと音を立てて体が固定されるのと同時に、高機動車のOSが立ち上がって世界晶式エンジンが無音で立ち上がった。
「快適快適、やっぱ申請してよかったー」
高機動車は高度な自動操縦機能が身についているため、私の思考を読んで走ってくれるから楽で良い。外骨格と接続することが前提だから、ハンドルもアクセルもついていないので、街中に駐めていてもパクられる心配がないのも有り難いね。
誰か飛びだしてきてもうっかり撥ねないよう気を付けながら郊外を走り抜け――まぁ、こっちの人類は車で撥ねられたくらいじゃ死なないけど――ギルドの前までいくと、もう一党の皆が準備を終えて待っていた。
とはいえ、準備といっても皆、軽装だ。私が荷物係を兼任していることもあって武器を持って来ただけで、大きく外見が変わったのはドレスに追加装甲を付けたアゼリアくらいのもの。
「これは素晴らしいです。私も欲しいです」
真っ先にリズが後部の荷物置きに〝身の丈ほどもある戦槌〟を放り投げたせいでサスペンションが一瞬悲鳴を上げた。
巨大な異形を一撃で叩き伏せるだけの鉄量は、さて一体何百キロあるのやら。多分、この軽外骨格じゃ持ち上げるのも厳しそうだな。
「失礼します。現地まで、お願いします」
一方で軽装のリリムは握り拳ほどもある世界晶を先端にいただいた杖だけが荷物なので、負担が少なくて有り難い。傲岸にも後部で胡座を組み、ドアに頬杖を突いているリズの隣に楚々と腰掛けるとシートベルトも付けてくれるのが有り難かった。
まぁ、リズくらい屈強なら、私なら即死するような大クラッシュを起こしたって「びびったー」くらいのノリで起き上がるだろうから、別にいいんだけどね。この世界には道交法でしょっぴいて来る警察官や警邏ドローンはいないんだし。
「頑張って、案内しますね。任せてください」
佩いていた剣を腰から外して抱えつつ乗り込んできたアゼリアの手には、組合が用意してくれる地図があった。ヘルメットの光学素子でスキャンして車に読み込ませれば、あとは通信衛星を介して自動運転してくれるのだけど、助手席に座るのだからと意気込んでいる彼女の心遣いを無駄にしないためにも、私はいつもナビをしてもらっていた。
いや、言葉が通じない分、丁寧に接しないと恐いからさ。特に腕相撲なんてしたら、腕が使い終わった楊枝のようになりそうな、生物として上位にある人物を相手にしてると。
「出しますね」
「ひゃっ!?」
バックするために体を大きく捻り、後方の座席を掴むように体を捻ると、体が近寄りすぎたのかアゼリアが驚いて下がった。コンソールを興味深そうに覗いていたので、胸が当たりかけたのかもしれない。
「すみませんでした」
「気にしないでください」
何故か顔を真っ赤にした彼女は――甲冑越しにでも男性に触れるのは恥ずかしいのだろうか――手をぱたぱたと振っていたので、私はそのままUターンし、街を出る道に出た。
本当は背部カメラを使えば振り返らないでも行けるんだけど、やっぱり主視覚素子に頼った方が、よく見えるからな。
その後はトラブルもなく市街を素早く抜けて、地面を均しただけの街道を疾駆すること三時間。アルテンハイム外れの村に辿りついた。
本当はスルーして直ぐ現地入りしてもいいのだが、アゼリアはダンジョンが近くにできて不安がっているだろう村民の心を慰撫するべく、常に一声かけることにしているのだ。
一際立派な名主の家の前に車を止め、アゼリアに外交を一任して我々は待機する。たまに荷物をちょろまかそうとする不届き者がいるのもそうなのだが、滅多に外からの刺激がない冒険者の到来は村民達にとって娯楽に等しいのだ。
「濶ッ縺乗擂縺ヲ縺上l縺セ縺励◆!!」
「譛ャ蠖薙↓蜉ゥ縺九j縺セ縺?!」
「蜃?>縲∬サ翫□!縲?蛻昴a縺ヲ隕九◆!!」
わらわらと人がやってきて喋りかけてくるせいで翻訳AIの機能を越えて、上手く通訳が働かない。あと、ここら辺の人達は訛りが強いせいか、諸所エラーを吐くので――まだ民生用は標準語にしか対応していないのだ――私はヘルメットの下で愛想笑いをするばかり。
対して人好きのする上、社交にも明るいリズは戦槌を持ち上げて力強さで村民を安堵させてやったり、子供を数人纏めて抱き上げてやったりとサービス精神旺盛だ。
対してリリムは人集りが苦手であるため車から降りようとしないため、私がドアの前に立って身振り手振りを交えつつ、エラーを吐きまくる翻訳を何とか読み取ってできるだけ標的にならないで済むように振る舞った。
「縺セ繧九〒蜍輔¥骼ァ縺?縺ェ縺」
「縺阪▲縺ィ蜃?¥蠑キ縺?s縺?縺?」
「菴輔◎縺ョ繝?ャ繧ォ縺??!縲?隗ヲ繧峨@縺ヲ!」
「危ないから触っちゃいけません!!」
子供達の興味が私に移り、外骨格や銃を触ろうとするので押し止めるのに必死になる。可動部に指を挟んだら下手すると千切れるし、重量が14.2kgもある銃に押し潰されれば、場所に寄れば怪我をする可能性もある。
私達はこの村の安全を守るためにやってきたのだから、そんなことで民心を揺さぶったら、中で名主の話を聞いているアゼリアに申し訳が立たん。
わぁわぁ必死こいて子供を抑えていると、やっとこアゼリアが帰ってきた。
彼女は威厳ある口調で喋り――騒音に紛れて、やはり翻訳が上手く働かない――農民を家に帰してくれたおかげで、何とか落ち着いた。
ふぅ、外交官仕様だとパーティーのために何十人喋っていても問題ないそうだが、貧乏所帯のウチがサブスクできるような品だと、どうしても数人以上が喋るとキャパを越えてしまうんだよな。
かといって自弁するのも悔しいし、そこまで手取りも多くないわけだから我慢だ我慢。
「急ぐ必要が出てきました。ダンジョン外に異形がいます」
アゼリアの言葉を聞いて、私達は一瞬で思考を切り替えた。
ダンジョン内の異形は基本的に中の世界晶を守るための守衛であるが、時に規模が大きい物だと外に這いだしてくることがある。
地域一帯がダンジョンと化す例外事象ならまだしも、通常の迷宮型や洞穴型であるとすれば拙い。
進出してくる、というより往々にして外征してくるのはダンジョン内でもヒエラルキーが低い生物が〝追い出された結果〟であるが、それでも大した武装を持っていない農民には大いなる脅威だ。
早々に排撃し、ダンジョンを破却しなければ被害が広がってしまう。
仮に人的被害がなくとも、家畜に被害が出れば相当な被害だ。こればっかりはこちらの世界より数段上の農畜産技術を誇る列島と同じ尺度で考えてはいけない。彼等にとって牛とは高級トラクターであり、馬とは高級スポーツカー、そして鶏は日々のタンパク質を提供してくれる貴重な資源。
「民のため、急ぎ、駆除しましょう」
「ゆっくりしていられません」
「……参りましょう」
やる気を出している三人に応えるべく、私も安全のために外していた弾倉を装填して戦闘準備を終える。
これからはまず、斥候である私の仕事だ。
「先行偵察してきます。通信機を」
情報を共有するためのサブデバイスをアゼリアに渡してから、地図を展開する。HUDに浮かび上がるのは、企業が打ち上げた地上監視衛星が測距して作った高精度地図データだ。
衛星通信から受け取った写真を立体投影して――月額定額契約なので、これは使いすぎても怒られない――車のボンネットに広げると、村長から話を聞いてくれたアゼリアが異形の発見された地域を指さしてくれる。
村の東北、林業用の林があるあたりか。たしかにダンジョンは人知れずひっそり発生する傾向にあるらしいから、ここが発生源だと考えるのが妥当だろう。
では、貧弱な私にできる、私なりの仕事をするとしよう。
お賃金分の働きくらいしないと、ここにいる意味がないからな…………。