軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-5

『皆さん、しばらく、忙しいです、よ』

そういって談話室に現れたアゼリアは、何やら嬉しそうに卓上に書類を広げた。

組合が公募している書類ではなく、上質の羊皮紙に書かれた――貴族は保存性のため、列島の漂白紙以外を使うこともある――依頼の数々であった。

『大物ばかり、ですね』

久し振りの仕事だと舌舐めずりしながら、リズはどれどれと書類を取り上げる。

彼女は難しい字を読むことはできないが、これが討伐依頼書であることは分かる。何故ならば、請け負う側に標的が分かりやすいよう絵が描いてあるからだ。

そりゃあね、家の一党がおかしいだけで、冒険者なんて基本はヤクザ稼業だ。字が読めるヤツなんて一人いれば御の字だから、向こうさんも気を遣ってくれるのさ。下級向けの依頼書はモンスターの絵を使った判子と、流石に数字くらいは読めるだろってくらいで書いてあるくらいだ。

「ワイバーン、グリフォン、ヒッポグリフにダイアウルフ?」

おうおう、また錚々たる面子だな。どれも往年の名作RPGで、経験値稼ぎのためにぶん殴ったり、ボスとして対峙したことがある怪物ばかりだ。

『……場所が、かなり、バラバラ、ですね……』

『そうなのか?』

リズが首を傾げたので、私は端末を使って卓上に地図を投影した。そして、依頼票に振ってある地点に赤いマーカーを輝かせた。

比較的容易いダイアウルフは近郊、辺境伯配下の男爵家からの依頼だな。

『なんですか、大狼くらい、領主の猟師で狩ればいいでしょう』

『その猟師が、食べられた、そうです』

おっと、そりゃ穏やかじゃないか。ダイアウルフは図体に見合って脳がデカイ。つまり普通の犬よりも大分賢いのだ。

『それで、次は、ヒポグリフですか。これも、地元で、何とかできるの、では?』

『卵を、産んで、います。簡単には、引き、ません』

不和と不義の象徴として、存在するだけで認識阻害を起こすヒポグリフはちと厄介なのだが、どうやら最辺境付近の廃寺院に巣くったそうだ。

ただ、ヒポグリフは賢いし行動範囲が広いから、巣を焼くだけで諦めて逃げるだろうから、楽な仕事だろう。最悪私一人で忍び寄って、C7で吹っ飛ばせばカタが付くな。

いや、卵は珍味として人気がある。どうにかして持って帰るか?

『……グリフォン……これは、大変、です……』

『はい、まず、一番に、対処すべき、です』

代わりにグリフォンは中々にキツい。音速以上で飛ぶ上、高高度を飛べる怪物の最も得手とする攻撃は大地を使った跳躍。

つまり、視界外から接近し、掴み上げて即死の高さから放り投げてくること。

これがまぁおっかない。ヒット&アウェイで一人ずつ墜落死させられ、全滅する冒険者や傭兵、怒りに触れて皆殺しにされる隊商が季節に幾つも出るほどだ。

「グリフォンか……ダンジョンの外だとセンサーの補足外を飛ぶ上、一度捕まると死ぬから相手したくねぇな……」

これが街道付近にふらりと飛んできて、巡察騎兵隊を半壊させたそうだ。

しかも最悪なことに騎士自体が殺られたようで、現地は討伐どころではないらしい。

『コウヅキ、民のため、です』

「ええ、分かっておりますよ王女殿下」

ま、我等が頭目が態々仕事を貰ってきたのだ。否はないさ。

ちょっと装備イジって対空センサーの感度上げとくか。つっても、アイツら小型ドローン並に電波に引っかかりづらいから、アクティヴセンサーがイマイチアテにならないんだよな。

となると、週単位でドローンにストーカーされる訓練の成果を見せる他あるまいね。

『……そして、亜竜……』

『アゼリア、もしかして、面倒で、美味しくない、仕事ばかり、取ってきて、いませんか?』

そして、一等最悪なのがワイバーンだ。

強いて言うならグリフォンの完全上位互換というところだろうか。

亜竜という低位の竜で、たまーに軍用騎獣として扱われることもあるが、野生のそれを侮ってはいかん。

装甲は私のバトルライフル程度では揺らがず、Wiki情報だが外骨格携行用の地対空誘導弾にすら耐えるらしい。その上で、列島の制空戦闘機よりも旋回半径が小さいんでやがるの。

挙げ句の果てに種類によってはブレスを使うし、デカさもグリフォンとは段違いだ。成獣なら体高2m、尾長抜きでの全長4mってところかな?

まぁ、ドラゴンを空飛ぶ主力戦車とするなら、コイツは歩兵戦闘車両ってところだ。

「全部屋外か……野戦はキツいな」

私は後頭部を掻きながら、思わず愚痴った。

どれもダンジョン内であれば大したことはないのだが、如何せん外だとキツい。

何処までも開けた空を自由に飛び回られて、得意戦法を選ばれると骨が折れるどころじゃない。最悪、下手を打ったら死人が出る。

となると、益々斥候として私が仕事をせにゃならんわけだ。

「さて、どうやって降りてきて貰おうかしらね」

うーんと顎に手をやっていると、リズが自信たっぷりに腕を曲げ――可愛らしいおててと、力こぶなんてない二の腕だ――自分が囮になると言った。

『血の、臭いを、させて、彷徨いていれば、すぐ、寄って、きます』

「いやそんな危なっかしい……」

『アタシが、ちょっと、高い所から、放られたくらいで、死ぬと?』

いや普通は死ぬ……死……死……いや死なねぇかコイツ。

そういや似たことあったわ。まだ一党が結成して間もない頃、グリフォンに浚われたリズを大慌てで追いかけたことがあったんだけど、コイツあろうことか空中でグリフォンを縊り殺して、その死体をクッションに生還しやがったんだよ。

普通に300mくらいの高度はあったはずだったんだが。

いやまぁ、旧地球人でも一万メートルから落っこちても生き延びた記録があるらしいけど、何かもっとこう……死んでほしいわけじゃないんだけど、常識のためにも生きてられると反応に困るというか……。

『……私も、囮に、なれます……』

「いや、それもあぶな……」

……ああ、いや、そうだわ、フェアルリリム、ナチュラルに空飛べるんだった。なんだっけ、我々が世界晶エンジンとか使って必死こいて、コッチに来てから完成された抗重力技術を杖一本でやっちゃうんだよな、この子。

ほんと常識に優しくない土地だ。やはり零様の動画を定期的に見て、列島の常識を思い出すのは必要経費だな。今晩も配信あるから、忘れず赤スパしよ。

因みにふと思いだした、M2の生存保障転落高度は――足を下にしてとの条件だが――70mまでである。

で、アゼリアは二人ほど頑丈じゃないんだけど、尋常じゃなく〝カン〟が良いんだよな。それこそセンサーに引っかからないタイプの敵を〝何となく〟で見つけ出したことがあるくらいに。

やっぱりおみそは私一人か。

『順番に片付けましょう! 今日から早速やりますよ!』

気炎を上げる王女様の興奮度合いに、我々は不思議そうな表情をしたが、やる気があるのは良いことだ。

では、私は最適かつ効率的な移動経路を考えて、最も効率的に人命被害を減らせそうな作戦案を提示するとしましょうかね…………。