作品タイトル不明
第百九十七話 帝国からの使者を見送ります
いよいよ、帝国側の使者と先発隊が出発する朝となった。
僕、クリス、ナッシュさんも帝国側の使者を国境で見送るために、朝早くから準備をしていた。
出迎えの際に過激派の襲撃があったから、帝国側の陣地に着くまで安全に送り届けないといけない。
かなり重要な任務だ。
「短い間だったが、非常に快適な滞在だった」
「こちらこそ、この程度のおもてなしで申し訳ない。道中の無事を祈る」
レーベンス大将とハーデス様は、お互いにガッチリと握手をしていた。
こうして色々と無事に終わったのも、ガルフォース辺境伯家と軍がガッチリと警備をしていたのもあった。
「またきてねー!」
「ええ、いつかまた訪れたいわ」
ランディちゃんとビクトリア皇女も、にこやかに握手をしていた。
王国と帝国との通商が再開されれば、きっと二人も再会するはずだ。
そして、僕達も馬車に乗り込んだ。
「では、出発する」
ナッシュさんの掛け声で、一行は出発した。
途中で王国の先発隊は麓の軍事基地に向かい、帝国の使者と僕達は国境へと向かう。
「では、我々はここで失礼する。道中気を付けるように」
「こちらこそ、有意義な滞在だった。今回の経験を、是非生かしたいと思う」
ヘルナンデス様とレーベンス大将が、分かれ道でガッチリと握手をした。
ビクトリア皇女も、ルーカス様とにこやかに握手をした。
そして、改めて馬車に乗って国境へと向かった。
「あっ、魔導船が出発したよ。あっという間だね」
「最新型の魔導船なら、一日で王都に着くもんね。それに、調印文章を王都になるべく早く運ばないといけないね」
「何だか、とっても大変だね。でも、こうして無事に終わって良かったね」
馬車内でクリスと外から見える光景について話していたが、僕もスラちゃん達も無事に終わってホッとしていた。
こういう大きな行事に参加したのはとても大変だったが、その分得られた経験は大きかった。
「皆様方、長旅お疲れ様でした」
「出迎えご苦労様です。少し、休憩させて頂きます」
国境の基地に到着すると、ピーター様が恭しくビクトリア皇女を出迎えた。
しかも、相手は帝国の皇女様だから接触も最低限だ。
うん、ピーター様は変態だけどやっぱり仕事ができるなあ。
荷物の積み替えや馬の休憩をしている間、僕達は司令官室に行く事になった。
因みに、スラちゃん達、ナッシュさん、クリスは準備があると司令官室に行かなかった。
流石に、ピーター様も帝国の皇女様の前で変態行為はしないと思うよ。
「無事に調印ができ、私も大変嬉しく思っております。王国と帝国との関係がより一歩進む事により、両国国境にも変化が訪れるでしょう。その時に、ケンがキーになる事は間違いないでしょう」
「私もそう思う。【蒼の治癒師】様の二つ名は、帝国でも有名だ。是非とも帝国に招待したいと思っている」
あの、司令官室に着くなりピーター様もレーベンス大将も僕の事をもの凄く持ち上げていないかな。
ビクトリア皇女も、ピーター様の後ろに控えているニーナさんもうんうんと二人の意見に同意していた。
すると、ビクトリア皇女が凄いことを言ってきた。
「そうそう、ヘルナンデス様とルーカス様には伝えているのですが来年私の結婚式が行われるのです。その際に、王国の方をご招待したいと思っておりますわ」
わお、ビクトリア皇女だけでなくこの場の全ての人が僕の事をニコニコしながら見ているよ。
あの、そういう重要な事は陛下に決めてもらわないと。
とりあえず、後で通信用魔導具で各所に連絡しないと。
みんなで談笑をしている間に出発の準備が整ったので、僕達は司令官室を後にした。
「帝国からの使者を、安全且つ速やかに帝国の陣地に送り届けるように。諸君らが重要な任務を果たすことを期待する」
「「「「「はっ」」」」」
ピーター様の訓示を聞き、部隊の騎馬隊は威勢のよい声を挙げた。
因みにスラちゃんたちも一緒についていくので、万が一魔法攻撃などを受けても大丈夫だ。
僕も、何故か一緒に馬に乗って護衛するけど。
「色々と対応頂き、ありがとうございました」
「では、皆さまのご無事を祈ります」
ビクトリア皇女は、ピーター様とガッチリと握手して馬車に乗り込んだ。
すると、ピーター様が僕に顔を向けた。
えっ、もしかして僕が出発の合図をするの?
騎馬隊も、僕は適任だとニヤリとした。
「ごほん、では出発!」
「「「「「はっ」」」」」
僕の合図で、馬車と護衛の騎馬隊は出発した。
念の為に周囲を探索魔法で確認しても、怪しい反応は全くなかった。
しかし、兵もスラちゃん達も気を抜くことなく周囲への警戒を続けていた。
こうして、僅か十分間だけど無事に馬車の護衛をする事ができた。
「ケンには、最後まで色々してくれて本当に助かったわ。また、会いましょうね」
「【蒼の治癒師】様の力の一部を改めて見る事もできた。今度は、お互いの力を平和の為に使わないといけないな」
僕は、ビクトリア皇女とレーベンス大将だけでなく他の帝国の使者ともガッチリと握手をした。
レーベンス大将の言う通り、僕の魔法の力ももっと良いことに使いたいと思った。
そして、僕達は帝国の使者と別れて国境への基地へと戻ったのだった。
ものすごくホッとしたのは事実で、これで無事に一連の事が終わったと思った。
ところが、国境の基地を出発してもう少しでガルフォース辺境伯領の領都に着くところでとんでもない事件が起きた。
パカパカパカ。
「あれ? 僕達の前に誰かいますね」
「えーっと、大人二人と子どもが二人だね。何をしたいのかな?」
僕達を通せんぼする立ち位置にいて、正直とても危ない。
僕もクリスも何だろうと思っていたら、とんでもない声が聞こえてきた。
「おい、さっさとあいつらに魔法を放て!」
「お前ら、また殴られたいのか?」
「「嫌だよ、怖いよ!」」
あっ、あの大人の男は過激派だ。
魔法が使える子どもを脅して、僕達を襲撃させるつもりなんだ。
鑑定魔法を使って、バッチリ確認できた。
「ナッシュさん、過激派二人を撃退します!」
「やってくれ。私も、あの馬鹿をぶっ飛ばしてやりたい」
おお、ナッシュさんも過激派の狼藉にガチギレモードだ。
ここは、サッサと終わらせないと。
僕は、馬車の窓から体を乗り出した。
シュイン、ズドドドドーン。
「「ごふぁ!」」
「「えっ?」」
あっ、僕だけでなくスラちゃん達も怒りの魔力弾を過激派に向けて放っていた。
勿論全弾過激派に命中し、二人は思いっきりぶっ飛んでいた。
うん、拘束してから適当に治療をしよう。
その間に、僕は通信用魔導具でハーデス様に領兵の追加をお願いした。
「「げふっ……」」
「全く、小さい子どもにこんな事をさせるなんて信じられない!」
「ピィ!」
馬車から降りて過激派を縛り上げるクリスとピーちゃんも、過激派の馬鹿な行動に憤慨していた。
シロちゃんが軽く治療したから、拘束された過激派はもう大丈夫だろう。
その間に、僕は男の子二人に話しかけた。
うん、鑑定したら孤児って出てきたよ。
「もう大丈夫だよ。軍のお兄さん達が君達を保護して、教会の孤児院に連れて行ってくれるって」
「「怖かった、うわーん!」」
僕は、抱きついてきた二人の頭を優しく撫でながら回復魔法を使った。
体のあちこちにあざがあったから、この二人に酷い扱いを受けていたのだろう。
まだまだやる事は沢山あると、僕は改めて思ったのだった。