作品タイトル不明
第百八十四話 久々の国境へ
ピピピピ、ピピピピ。
カチャ。
「うーん……」
翌朝、僕は鳴り響く目覚まし時計型魔導具を止めた。
まだだいぶ早い時間だが、今日は国境の基地に行かなくてはならない。
僕はムクッと体を起こし、枕元にいるスラちゃんの体を揺すって起こしたのだった。
「国境の基地の司令官は、ピーターというものに変わっている。名門軍事貴族シザース侯爵家の出身だ。だが、当人は頭は良いがちょっと危うい性格だ。十分気をつけるように」
朝食時に食堂でハーデス様と一緒になり、国境の基地の司令官について話してくれた。
うーん、何というか面倒くさい性格みたいだなあ。
因みにハーデス様はショートスリーパーらしく、いつも朝早く起きているという。
僕だったら、時間が許すのなら何時までも寝ていそうだよ。
さてさて、朝食も食べ終えたし早速国境の基地に向かおう。
どーん。
「あの、僕とスラちゃんは馬に乗れれば大丈夫ですよ?」
「ケン様は、子爵家当主であって宮廷魔導師でもあらせられます。それなりの対応をしないとなりません」
まさか、馬車に乗って軍の基地に向かわないといけないとは思ってもいなかった。
しかし、迎えに来た軍の兵は、僕が馬車に乗るのは絶対らしい。
「ケンは、国境で帝国の侵攻を何回も食い止めた英雄だ。それに、今も軍人の治療をしている。だからこそ、軍もそれなりの配慮をするのだ」
ハーデス様にもそう言われてしまい、僕は断れなくなった。
ここはご厚意に甘えようと思い、僕とスラちゃんは馬車に乗り込んだ。
そして、国境の基地へと出発したのだった。
ポチポチ、ポチッ。
「よし、これで定期報告は終わり……うん?」
馬車内で通信用魔導具を扱っていたら、例のピーター司令官の実家のシザース侯爵家から連絡が入った。
「えーっと、『息子が馬鹿な真似をしたら、遠慮なく叩き潰す様に』って、中々刺激的な文面だね」
僕は、「なるべくそうならない様に頑張ります」と返信を打った。
すると、ヘルナンデス様からもシザース侯爵とほぼ同じ文面が送られた。
うーん、ハーデス様も要注意人物だと言っていたけど、実際に会ってみないと分からないなあ。
国境の基地まで二時間かかるので、その間僕は魔法袋から本を取り出してスラちゃんと共に勉強していたのだった。
パカパカパカ。
「わあ、久々の国境だね!」
僕とスラちゃんを乗せた馬車は、予定よりも少し早く国境の基地に到着した。
見た感じとても平和だけど、講和会議がもうそろそろ始まるのもあってか警備はかなり厳しかった。
「あっ、おはようございます。久しぶりです」
「おっ、ケンか、久しぶりだな。スラちゃんは変わらないな」
「遂に、成人になったのか。最初に会った時は、ガリガリのちびっ子だったのにな」
馬車を降りた僕とスラちゃんに、顔見知りの兵が出迎えを兼ねて話しかけてくれた。
ニコニコしながら僕の成長を祝ってくれてたが、スッと僕に顔を寄せた。
「あの司令官だがな、ありゃちょっと危険だ。仕事はできるが、何を考えているのか全く分からない。十分に気をつける事だ」
僕の耳元で小声で話してくれたけど、まさか兵も警戒するレベルなんて。
ということで、僕は念のために司令官室に入ったらあることをする事にした。
ぴょーん。
「コイツは預かっておくぞ。何かあった時に、一緒にいる奴が必要だからな」
顔見知りの兵がスラちゃんを預かってくれ、早速過激派が紛れているのか確認する事にした。
そして、僕は兵の案内を受けながら司令官室へと向かった。
コンコン。
「失礼します、アスター子爵様がお見えになりました」
「入りたまえ」
司令官室の中から、少し偉そうな声が聞こえてきた。
そして、僕は意を決して司令官室に入った。
ガチャ。
「失礼します」
「【蒼の治癒師】、よく来た」
僕を出迎えたのは、ナルシストっぽい人だった。
長身金髪ロングヘアの超イケメンで、一見すると王子様っぽい感じだった。
でも、アーサー様やルーカス様とはちょっと雰囲気が違う気がする。
うーん、まさに軍人というゴードン様やジーグルド様とは全く違う感じだ。
ピーター司令官の側には、背の低い紫髪おかっぱの眼鏡をかけた知的な人が控えていた。
同じ女性でも、シーリアさんの方が軍人っぽい気がするぞ。
悪い人って感じはしないんだけど、警戒しないといけないと体が感じていた。
取り敢えず挨拶をしないと。
「はじめまして、ケン・アスター子爵です。宮廷魔導師に任ぜられています」
「うむ、素晴らしい挨拶だ。私はピーター・シザース。シザース侯爵家の三男で、今年司令官に着任したばかりだ」
ピーター様は、ニコリとしながらガッチリと握手をした。
ここまでは全く問題なかったのだが、ここから完全に予想外の展開になってしまった。
スッ、クイッ。
「えっ?」
「うん、とても良い瞳だ。流石は【蒼の治癒師】と言えよう。引き込まれるようだ……」
えっ、なんで僕がピーター様に顎クイされているの?
ピーター様は真剣な表情でとんでもない事を言っているし、僕は衝撃で思わず身体が固まってしまった。
しかも、ピーター様の目がキラキラとしているよ……
あわわわ、どうしよう……
「ピーター様、そこまでです」
シュッ、スパーン!
「あたー!」
その時、ピーター様の側に控えていた女性が、思いっきりピーター様の後頭部をぶっ叩いたのです。
女性が手にしているのって、もしかしてハリセンじゃないかな?
何はともあれ、助かったのは間違いない。
この間に、僕はスススとピーター様から距離を取ったのだった。