作品タイトル不明
第百七十九話 ユータとの手合せ
「ちょっと、あんた何言っているの。ケン君は結婚間近なのよ。怪我でもしたらどうするのよ」
ここで、ローリー様がユータの前に進み出た。
スラちゃんもいるし、瀕死にならなければちょっとくらいの怪我なら大丈夫な気もするけど。
すると、ユータの側にいたスキンヘッドの大男がニヤリとしながらローリーに話しかけた。
「ローリー、後輩に結婚を先に越されて焦っているらしいな。まあ、お前は昔からがっつく性格だから……」
ブオン、ドキャン!
「ドイルさん、命が要らないみたいね……」
「おーこわ。だから、お前は昔から可愛げがねーんだよ」
ローリー様のごっつい杖のフルスイングを、ドイルと呼ばれた男はニヤリとしながら剣で受け止めた。
なんというか、この二人は因縁の相手みたいだ。
「じゃあ、俺はライツのおっさんを相手にするか」
「お前は、未だに口が悪い。でも、何故か結婚して子どもまでいる」
「おとーさん、頑張ってー!」
娘の声援を背に受け、オーフレア様も前に出てきた。
相手をするのは背の低い魔法使いで、もしかしたら魔法の技術戦になるかもしれない。
「では、私は【蒼の治癒師】様の婚約者にしようかしら。ああ、自己紹介をしていなかったわね。私はスィーパー、見た目通り剣士よ」
「クリスだよ。私も、お姉さんに負けないんだから」
そして、何故かクリスまで相手が決まってしまった。
えーっと、この後どうしようか……
「住民は大教会の前に移動し、魔法兵が魔法障壁を展開して周囲を守る様に」
「「「「「はっ」」」」」
「「「「「おおー!」」」」」
ゴードン様の素早い判断に、住民はとても盛り上がっていた。
年末の奉仕活動もほぼ終わったので、ついでに後片付けまでしていた。
僕も、素早い対応に思わず苦笑しながら魔法袋から剣を取り出した。
「ユータ、周囲への被害を最小限に抑えるように」
「それは、アイツらに言ってくれ。もう、ドンパチしているぞ」
ゴードン様の声に、ユータは呆れながらある方向を指差した。
そこでは、ローリー様とドイルの激しい打撃戦が行われていた。
ガキンガキン!
「あなたは、いつもそうやって人のことを揶揄って!」
「おっと、お前が簡単に引っ掛かるだからだろうが」
ローリー様の魔法使いらしくない戦い方に、僕はかなり苦笑してしまった。
とはいえ、二人も熱くなりながら一応周囲を気にしているみたいだ。
住民は、激しい戦闘を前にしてかなり盛り上がっていたけど。
「とりあえず十分間な。はじめ!」
「うおー!」
ガキン、ガキン!
ユータが身体能力強化魔法を全開にして突っ込んできたので、僕もある程度身体能力強化魔法を使って迎撃した。
やはりユータは力押しではなく技術もかなり高く、僕の剣術を簡単に防いだ。
「ほお、俺の剣を盗もうとしているのか。中々だな」
「僕の今の実力では、どう足掻いてもユータには勝てません。なら、少しでも経験を得ます」
「ははは、やはりケンは親父とは全然違うな。面白い!」
僕とユータみたいな手合わせは、クリスとスィーパーでも行われていた。
キンキンキン!
「この、手が速い!」
「お嬢ちゃんは、旦那様に比べて猪突猛進ね。でも、悪くないわね」
クリスも身体能力強化魔法を全開にしてかなりの手数を放っていたが、完全にスィーパーの方が腕が上だった。
それでも、クリスは負けずに頑張って剣を放っていた。
シュイン、ズドドドドーン!
「うむ、腕を上げた」
「そりゃどうも。じゃなければ、部下に笑われてしまうぞ」
オーフレア様とライツは、複数の魔法を迎撃し合う技術戦を見せていた。
こちらは、腕は殆ど互角みたいですね。
ブオン、ブオン!
「うおりゃー!」
「ったく、お前は魔法使いじゃないのかよ」
うん、ローリー様とドイルの打撃戦はそのままにしておきましょう。
周りにいる人も大盛り上がりだし、結果オーライだ。
ギン、ギリギリ……
「ぐっ、強い……」
「ははは、ケンはいいな! ここまで俺を楽しませたのは、最近ではケンだけだ」
やはりユータはとんでもなく強く、僕は段々とジリ貧となってきた。
それでも少しでも経験を得ようと、僕は遂に身体能力強化魔法を全開にした。
シュッ、ガキンガキン!
「せい、やあ!」
「うおっ、まだ奥の手を隠していたのかよ。こりゃすげーな」
僕は手を休めずにどんどんとユータに斬りかかるが、それでもユータは僕の剣を軽々と受け止めていた。
クリスもできるだけの事をしようと頑張っているが、スィーパーに完全に受け止められていた。
「そこまでだ」
「「「「「うおー! すげー!」」」」」
こうして、僕たちは時間を忘れながら打ち合っていた。
だが、ゴードン様の声を聞いた途端思わず膝をついてしまった。
それはクリスも同じみたいだが、それでも僕たちはお互いの相手に視線を向けていた。
「ははは、こりゃ面白かったな。ケン、もっと強くなれ!」
「クリスも、もっと強くなれるわ。鍛錬を怠らなければね」
ユータとスィーパーは、まだまだ余裕たっぷりだ。
それでも、これ以上僕たちの相手はしなかった。
「おい、もう終わりだ。良い加減にしろ!」
「オーフレア、離して! あのバカの顔を殴らないと気が済まないのよ!」
「まるで猛獣だな。オーフレア、手綱をしっかりと握っておけよ」
ローリー様の事をオーフレア様が後ろから羽交いじめにしていたが、僕も流石にローリー様の事が怖いと思うよ。
「ゴードン、後は頼んだぞ」
「ああ、任せておけ」
そして、ユータ達は大教会の前から去っていった。
何と言うか、何もかもレベルが違って僕もクリスも完敗だった。
だけど、まだあんなに強い人がいるのだと少しワクワクした。
「さあ、後片付けよ。みんなも手伝ってね」
「「「「「はい!」」」」」
王太后様がこの場をしめて、僕たちは再び動き出した。
こうして、年末の奉仕活動はちょっとした事もあったが何とか終わりを告げたのだった。
「おーい、逃げるなー!」
「ローリー、良い加減にしろ!」
うん、ローリー様の事はオーフレア様に何とかしてもらいましょう。
何だかんだいって、年末の奉仕作業は平穏無事だったね。