作品タイトル不明
第百七十三話 ユータ
しかし、お昼を迎える頃に異変が起きた。
異変を察知したのは、馬に乗っていたスラちゃんだった。
ふりふり、ふりふり。
「えっ、いま捕まえたのは過激派?」
スラちゃんの話を聞き、僕はかなりビックリしてしまった。
しかし、たまたま僕の隣にいたこの人はかなり冷静だった。
「主な者を、大教会内に避難させる。王家の護衛についている五人は、直ぐに動くように」
「「「「「は、はい!」」」」」
ゴードン様の指示で、上級官僚の五人は直ぐに誘導を始めた。
ちびっ子たちは途中で治療を止めることになり、かなり不満そうな表情をしていた。
とはいえ、急ぎの事態なので王妃様と魔物と共に教会内に避難した。
その間に、僕は超広範囲探索魔法を発動させた。
シュイン、シュイン、もわーん。
「おお、すげー」
「流石は【蒼の治癒師】ね。凄い魔法だわ」
目の前に複数現れた魔法陣に、炊き出しに並んでいる多くの人が感嘆の声を漏らした。
あっ、これはマズい。
「ゴードン様、建物の陰に複数の反応があります。あと、大教会の裏手にも反応があります」
「流石はケンだ。そこまで分かればいい。兵を向かわせて、待機させる。実際の攻撃……」
ズドドドーン。
バシン、バシン!
ゴードン様が周囲に指示を出している最中に、何と僕たちではなく町の人を目掛けて魔法が放たれたのだ。
しかし、スラちゃんが攻撃を読んでいたので、直ぐに迎撃に入った。
「では、住民の避難を開始せよ。犯罪者が紛れているかもしれないから、十分に確認する様に」
「「「「「はっ」」」」」
ゴードン様の指示で、住民の避難が始まった。
素早く対応しているので大騒ぎする人もおらず、大教会への誘導はとてもスムーズに行われた。
勿論チビスライム総出で不審者の確認をしており、不審者を見つけ次第拘束魔法で捕まえていた。
「うむ、順調な避難だな。後は、多くの人を害しようとする者を一人残らず捕まえるのだ」
「「「「「はっ!」」」」」
ゴードン様の指示で、兵がそれぞれの場所についた。
僕もいつでも魔法を放てるように準備をし、クリス、ミュウさん、ティオさんも剣を手にした。
シュイン、ズドドドドーン!
シュッ、シュッ。
「「「「「うおー!」」」」」
複数の魔法が放たれたかと思ったら矢も複数放たれ、剣を手にした人も突っ込んできた。
でも、僕も魔法を事前に準備していました。
「スラちゃん、迎撃お願い!」
スラちゃんは、了解と触手をふりふりとした。
その間に、僕は地面に手をついて複数の魔法を合体して一気に魔力を放った。
シュイン、シュイン、バリバリバリ!
「「「「「ウギャ!」」」」」
ピンポイントエリアスタンで、魔法や矢をを放った悪者を一気に昏倒させた。
更に誘導魔導弾も放ったのだが、数人が誘導魔力弾を迎撃していた。
バシン、バシン、バシン!
相手が放った魔力弾や矢は、全てスラちゃん達によって迎撃された。
更に、クリスも身体能力強化魔法を使って剣を持った悪者に一気に近づいた。
シュイン、シュッ。
「えい、やあ!」
ザシュ、ザシュ!
「「ぐはぁ!」」
クリス、遠慮なく悪者の腕などを切り落としているな。
ザシュ、ザシュ。
「ティオ様は、流石の剣の腕ですわ」
「ミュウさんこそ、素晴らしい腕前ですわよ」
ミュウさんとティオさんは、お互いに話をするだけの余裕もあった。
僕はというと、誘導魔力弾を複数放って一気に悪者を制圧していた。
「おーおー、派手にやったな。他の連中は、全員おねんねかよ」
すると、大剣を肩に担いでいる口髭をはやした大男が、ニヤニヤしながら僕たちに話しかけてきた。
この人は、僕の誘導魔力弾を全部防いだんだ。
すると、ゴードン様が大男を見るなり驚きの声を上げた。
「貴様、ユータか!」
「正解だ。久し振りだな、ゴードン。おっと、俺はただ歩いているだけだぞ」
何と、二人は顔見知りだったのです。
しかも、このユータという男からかなりの雰囲気を感じた。
迂闊に飛び込むのは危険な気がした。
クリス達も同じみたいで、剣を構えたまま大汗をかいていた。
「おーおー、【蒼の治癒師】様も嬢ちゃん達もよく分かっているな。下手に飛び込まない方がいいぞ。じゃあ、またなゴードン」
ドーン!
「「「「「わあっ!?」」」」」
突如としてユータの足元から濃い煙が立ち上り、僕たちも視界を遮られてしまった。
そして、視界が晴れるとユータの姿はどこにもいなかった。
スラちゃん曰く、とんでもないスピードで姿を消したという。
「ちっ、まさかユータがいるとは。だが、これで敵の姿が何となく分かったぞ」
ゴードン様は、直ぐに通信用魔導具を魔法袋から取り出してあれこれ指示を出した。
その間に大教会に避難していた人たちが外に出たのだけど、想像以上の大乱闘に驚いていたようだ。
奉仕活動はもう少しの間続き、僕たちは王城で開かれる緊急会議に参加する事になった。
「あの、私も参加してもいいのでしょうか?」
「その、私もです……」
ミュウさんとティオさんも会議に参加する事になり、かなり戸惑った表情を見せていた。
それもそのはず、陛下に閣僚、更に王妃様や主だった貴族が集合していたからだ。
「クリス、ミュウ、ティオは、あの場にいたのだ。キチンとした情報を聞いておく必要がある。その上で、当面は他言無用だ」
「「「はい」」」
陛下の真剣な言葉に、クリス達三人も真剣な表情で返事をした。
そして、ヘルナンデス様が色々話をしてくれた。
「ユータは元々軍の魔法兵だ。ゴードンの同期で、当時から上昇志向が強かった。だが、段々とその上昇志向が強くなり、遂に上司と衝突して首となった。その後の消息は分かっていなかったが、今回久々に姿を現した」
ユータはクリスと同じく身体能力特化型の魔法使いで、恵まれた体格と剣技もありかなりの戦闘力を持っているという。
あの時ユータから感じた危険な感じは、とても正しかったんだ。
「そして、ユータと同タイミングで複数の兵が軍を退役している。理由はユータと同じだ。何故このタイミングで現れたのかは不明だが、かなりの強者だと思って構わない」
ヘルナンデス様は、思わず溜息をついていた。
いずれにせよ、過激派にとんでもない実力者がいるのは間違いなかった。
「しかし、あのおっさんがいるとはな。ありゃ、かなりの難敵だぞ」
「放った魔法も、魔法剣で切り裂くことができるわ。あれだけの身体能力は、どう考えても普通には対応できないわよ」
ユータは、オーフレア様とローリー様も舌を巻く程の実力者だ。
とはいえ、ぼくだって負けたくない気持ちはあった。
「あの、僕ももっと強くなりたいです。あの人は、父親や兄とは違う意味で止めないといけないと思っています」
「ケン、焦るな。とはいえ、軍も鍛え直さないとならない。先ずは基礎訓練をして、剣の腕を上げるべきだ」
オーフレア様からも、待ったをかけられた。
そして、身体能力強化や魔法の訓練を更に頑張る事になった。
勿論、スラちゃんやクリス達も頑張るぞと気合いを入れていた。
こうして会議は終わり、この後軍でも緊急会議を行うという。
でも、対策をした上で年末の奉仕活動はする事になった。
こういう暴力に負けてはいけないですね。