作品タイトル不明
第百六十六話 眼鏡をかけた悪魔
翌日、屋敷で勉強をするクリスを残して僕たちは馬車に乗って軍の施設に向かった。
僕と一緒に行きたかったとクリスが駄々をこねたが、ケイトちゃんの面倒を見る必要もあるので泣く泣く断念した。
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃーい!」
玄関で、ケイトちゃんが元気よく僕を送り出してくれた。
比較的表情も明るそうで、僕もホッとした。
「ブドウちゃん、おはよう」
軍の施設の検問で、ブドウちゃんが張り切りながら僕たちに触手をフリフリとしていた。
今日は職員用検問所にレモンちゃんがいて、こちらも張り切って頑張っているらしい。
僕たちも、兵の護衛と炊き出し用の荷物を受け取ってスラム街の教会へと向かった。
パカパカパカ。
「ふふふ、ならず者は叩きのめさないとね……」
馬車の僕の向かい側にすわっているローリー様が、ゴツい杖を握りしめながらニヤリとしていた。
正直言って怖すぎます。
スラちゃんたちも、ローリー様の黒い笑みに抱き合いながらブルブルと震えていた。
婚活キャンセルの恨みは、かなり重いみたいだ。
こうしてスラム街の教会に着くまで、馬車内は重たい空気に包まれたのだった。
「リーフちゃんとアクアちゃんは、いつも通り炊き出しの仕込みね。スラちゃんは馬に乗って悪い人を捕まえる係で、シロちゃんは僕と一緒に治療だね」
いつも通りの役割が決まり、スラちゃん達も直ぐに動き始めた。
最近、アクアちゃんは普通に料理も覚え始めたんだよね。
リーフちゃんの切った野菜をアクアちゃんが念動で鍋に入れて、アクアちゃんが水魔法で鍋に水を入れて煮込んでいった。
勿論味付けもバッチリで、シスターさんを驚かせていた。
だが、このくらいならまだ平気だ。
別の所で、ある動きがあった。
ガシッ。
「ふふふ、教会内で自分の罪を懺悔しましょうね……」
「おい、おーい!」
スラちゃんが鑑定で見つけた犯罪者をローリー様が受け取って、教会内に引きずっていったのだ。
ローリー様も鑑定魔法が使えるけど、時々教会内から叫び声が聞こえてくるのは気のせいだと思いたい。
因みに、軽犯罪者に関してはローリー様はスルーしていた。
つまり、ローリー様は重犯罪者だけを尋問していた。
うん、僕は治療に専念しよう。
バタン!
ビクッ。
急に教会のドアが開き、僕たちは思わず驚いてしまった。
恐る恐る振り返ると、不敵に笑うローリー様の姿があった。
「ケン君、近くに犯罪組織の拠点がある事が分かったわ。ちょっと潰してくるね」
ちょっと潰すって、そんな近所に買い物に行くように言わなくても……
因みに、僕たちは奉仕活動に専念しなさいと指示された。
かなりホッとしたのは、ローリー様には内緒だ。
そして、ローリー様が部隊を率いてスラム街の奥に行った時だった。
ズドーン、ズドーン!
突如として、大きな破壊音が聞こえてきたのだ。
炊き出しや治療に並んでいる人たちも、勿論僕達も大音響のする方を見てしまった。
すると、一人のならず者と思われる男が、かなり慌てた様子で僕たちの方に走ってきた。
魔法で迎撃の準備をしようとするが、その男は兵を見つけるなりすがりついたのだ。
「お、俺を、俺を捕まえてくれ! め、眼鏡をかけた悪魔が、拠点をぶっ壊しまくっているんだ!」
「わ、分かったから。落ち着け」
兵は、困惑しながらもその男を連れて行った。
自ら逮捕をお願いするなんて、ローリー様がとんでもない事をしているのは間違いなかった。
そして、兵が僕の所に急いでやってきたのだ。
「ほ、報告します。ローリー様一人で犯罪組織の拠点を制圧しました。まるで鬼神の如く物凄い動きでした。犯罪組織の構成員が全員動けなくなった為、こちらにある担架を拝借します」
「わ、分かりました。よろしくお願いします」
うん、あまり聞きたくない報告だった。
スラちゃん達も、思わず身震いしていた。
そして、拘束した犯罪者を乗せた護送用馬車が忙しく動いていたのだった。
「ふう、良い運動になったわ」
程なくして、ローリー様がとても良い笑顔でスラム街の教会に戻ってきた。
その、鈍器の様な杖に血がついているのですけど……
ローリー様と同行していた兵も、若干顔色が悪いですね。
そして、ローリー様は炊き出しと治療の列に並んでいた人達に向かって、ニコリとしながらこう言ったのです。
「ふふ、では次の尋問を行いましょうか。犯罪者は、素直に名乗り出た方が身の安全のためですわよ」
「「「「「お願いですから、捕まえて下さい!」」」」」
犯罪者が、一斉に兵の所に向かったのです。
しかも、中にはブルブルと震えている人もいますね。
可哀想なので、シロちゃんが犯罪者の治療をして、リーフちゃんが念動で炊き出しのスープを持ってきて食べさせてあげた。
犯罪者の中には「人生最後の晩餐」だと言っている人がいるが、キチンと悔い改めて罪を償えば大丈夫ですよ。
こうして、自首をした犯罪者は素直に連行されていった。
「ふふふ、では、次からは楽しい尋問が待っていますわね……」
ローリー様、黒い笑みがとっても怖いです。
こうして、もう二回犯罪組織の壊滅作戦が行われ、その度にローリー様が大活躍した。
でも、その、毎回返り血がついているのはとても怖いですよ。
結果として、奉仕活動としてはとても上手く行ったのだが、精神的にかなり疲れてしまった。
屋敷に着く頃には、僕達は思わずぐったりとしてしまったのだった。