軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十七話 兄への判決

兄の裁判の日程は、思いの外早く決まった。

というのも、本人がどんなに聴取に不真面目な態度で臨んでも、様々な事が現行犯として抑えられているので逃れようがなかった。

更に、多数の証拠や証言も集まり、証言の正当性も認められた。

こうして、兄が国境の戦闘時に捕縛されてから二ヶ月後に、軍と司法の合同裁判が開かれることとなった。

「それでは、行ってきます」

「行って参ります」

「気をつけて行ってらっしゃいませ」

判決の日、僕は貴族服を着てハンナおばさんたちの見送りを受けた。

因みに、この日はマネー伯爵への処分も言い渡される事になっており、ミュウさんも貴族令嬢らしいドレスを着て僕と同行していた。

ただ、場所が場所なのでアクセサリーなどは控え目だ。

そして、クリスは屋敷で勉強をすることになり、シンシアお姉様も同じく勉強をしていた。

ナッシュさんは、今回の判決対応で軍人として動いていた。

勉強と並行で業務を行っており、かなり大変そうだ。

僕とミュウさんを乗せた馬車は、法廷が開かれる王城に到着した。

そして、兵が僕とミュウさんを王城地下にある法廷に案内した。

「「おはようございます」」

「おお、ケン君か。それにミュウもご苦労だ」

法廷を外から眺める事が出来る部屋には、既にエレンお祖父様が待っていた。

エレンお祖父様に手招きされ、僕とミュウさんは窓のところに置かれた椅子に座った。

窓から判決を受ける人を見ることが出来るが、逆に判決を受ける人から僕たちは見えないという。

魔導具のガラスらしく、マジックミラーみたいな物なのかもしれない。

「これより、法廷を開始する。被告人を中へ」

すると、最初に連れてこられたのはマネー伯爵だった。

後ろ手に拘束されて随分とやつれた表情だが、体はまだ大きかった。

陛下なども入ってくるが、被告を裁くのはあくまでも裁判官だ。

陛下は必ずしも裁判に参加する必要はないが、今回は貴族当主が裁かれるためだという。

そして、裁判官がマネー伯爵の罪状を読み上げていった。

「被告は、違法なブローカー業を通じて贈収賄を常習的に行っていた。また、傘下の商会では、表面上は普通の商品を扱いつつ裏ではブローカーとの手引きを行っていた」

うーん、思ったよりも大きな犯罪が出てきたので、ミュウさんも思わず閉口してしまった。

しかしエレンお祖父様曰く、贈収賄関連の裁判は年に数回は行われるという。

今回は、金額は大きいが飛び抜けて凄いという訳ではないらしい。

「マネー伯爵、何か言う事はあるか?」

「ふん。どうせ俺はもう終わりなんだ、終わりなんだ!」

裁判官の問いかけに、マネー伯爵は若干壊れ気味に返事をしていた。

やはり、連日の聴取はかなり堪えたみたいだ。

とはいえ、ここは日本とは違う異世界だ。

人権への意識はあるが、犯罪者に対してはかなり制限されていた。

「それでは、判決を下す。マネー伯爵家は、子爵に降格とし資産の六割を罰金とする。当主であるマネー伯爵は、貴族から平民に落とした上で十年の強制労働刑とする」

「は、はは、ははは……」

判決を聞き、マネー伯爵は少し壊れたような反応をした。

とはいえ、規模の大きな贈収賄事件だと標準的な判決だとエレンお祖父様は言った。

他のマネー伯爵家の家族や親類への判決も順に言い渡され、全て平民落ちとなった。

結果、ミュウさんがマネー子爵家の当主となる事が確定した。

「マネー子爵家傘下の商会も処分を受けたが、存続は許された。普通にしていれば、問題なく屋敷の経営ができよう」

「ご配慮頂き、ありがとうございます」

エレンお祖父様は、ミュウさんに今後の事を少し説明していた。

屋敷の陣容が固まり、ミュウさんが初級官僚試験に合格したら晴れて元の屋敷に戻るという。

屋敷の新しい使用人に関しては、財務官僚が探しているという。

逆を言うと、財務官僚はマネー子爵家への影響力を持つということになる。

「とはいえ、一番影響力を持つのは間違いなくケン君のところじゃ。ケン君は、こちらの思惑など関係なく真摯に対応していた。そういう事こそ、本当はとても重要なのだ」

「確かに、ケン様の屋敷の方も皆とても良くしてくれました。あの子たちもとても良くしてくれて、初めて私以外に懐いてくれました」

僕は、保護した当初からミュウさんや魔物たちに早く元気になってくれればって思っていた。

それに、スラちゃんたちも常にミュウさんや魔物たちを気にかけていた。

そう思うと、僕の屋敷にいる使用人はとても良い人ばかりなのだと改めて実感した。

これでマネー伯爵家に関する裁判は終わったが、ミュウさんはこのまま兄の判決を聞くことになっている。

この後、ミュウさんへの正式なマネー子爵の爵位授与式がある。

陛下も、引き続き裁判に参加するためでもある。

「続いて、ギャイン騎士爵家ベンスへの裁判を行う。被告は法廷の中へ」

「くそ、なんで俺が判決を受けないといけないんだ!」

マネー伯爵とは違い、兄は大声を上げながらいきなり不満たらたらな様子で入廷した。

髪の毛や服はボロボロで痩せこけているのに、目だけはギラついていた。

「それでは、被告人の確認をする。ギャイン騎士爵家ベンスで間違いないな」

「違う! ギャイン騎士爵家当主のベンスだ! 俺は、騎士爵家当主なんだ!」

「はあ......ベンスは、騎士爵家の嫡男を廃嫡されている。その事実は不変のものだ」

まさか、あの上の立場の者には萎縮していた兄がこうも不満をぶちまけるとは。

兄は感情を制御できなくなっており、手負いの獣みたいにも見えてきた。

裁判官は、思わず溜息をついてから淡々と罪状を読み上げた。

「以上の罪状について、全て裏付けが取れている。特に、軍の作戦中に重要人物に危害を加えようとする行為は、国家反逆罪に相当する」

「全て、魔法の爆音で俺を叩き起こしたケンが悪い。ケンが悪いんだ!」

「被告人に発言を許可してない。発言を慎むように」

裁判官に注意されても、相変わらず全て僕が悪いという発言を繰り返すだけだった。

これには、エレンお祖父様も溜息をつくばかりだった。

「被告人、最後に言う事……」

「俺は悪くない、ケンが全て悪い! ケンを殺せ!」

もはや、裁判官もダメだこりゃと兄を制御するのを諦めていた。

そして、裁判官は早々に兄に判決を言い渡した。

「判決を下す。ギャイン騎士爵家は取り潰しの上で爵位取り上げ、屋敷などの財産も全て国が取り上げる」

「はあ!?」

兄は、まるで聞いてないよというふざけた態度を取っていた。

とはいえ、ギャイン騎士爵家が取り潰しになるのは時間の問題だし、兄は嫡男に戻れる機会などを全て潰していた。

自業自得としか、言いようがなかった。

そして、兄自身への判決が言い渡されようとした時に、大事件が起きてしまった。

「くそー! この国が悪いんだ! 国王が悪いんだ! 国王は、死んで俺に詫びろ!」

「なっ!?」

兄は、明確な陛下への侮辱を口にした。

これは、いくらなんでもあってはならないものだった。

しかも、法廷侮辱罪まで追加される。

ここで裁判官は陛下に相談したが、陛下は法に則って普通に対応するようにと指示を出した。

「ごほん、それではベンスに対する判決を言い渡す。ベンスは犯罪奴隷に落とされ、仮釈放なしの無期強制労働刑とする。執行場所は、国内で一番厳しい所とする」

「ふざけるな! なんで俺が奴隷なんだ! ふざけるなーーー!」

兄は、大声で騒ぎながら兵に両脇を抱えられて強制的に退場させられた。

兄は、今日中に強制労働刑が行われる場所へと移送される。

つまり、この瞬間僕達は永久に兄と会わない事になった。

「「はぁ……」」

僕とエレンお祖父様は、兄が退場した瞬間同時に思わず溜息をついた。

勿論兄の馬鹿さ加減に、だった。

以前クリスは兄を獣と言ったが、僕も今日の兄は獣にしか見えなかった。

そして、僕とエレンお祖父様は法廷を出た陛下の所に急いで向かった。

「陛下、本当に本当に兄が申し訳ありません。あんなとんでもない事を言うなんて、全く予想外でした」

「私からも謝罪します。処分は甘んじて受けます」

陛下は、頭を下げている僕とエレンお祖父様を見るなりかなり複雑な表情をした。

そして、僕とエレンお祖父様にこう言ったのだ。

「余への言葉は、あくまでもギャイン騎士爵家だったベンスが言ったのみだ。ケンやノーム準男爵が罰を受ける必要はない。それこそ、そんな事をしたら国は優秀な人材を失う事にもなりかねない。罰せられるのは、罪を犯した愚かな者だけで十分だ」

「「ありがとうございます」」

僕とエレンお祖父様は、再び陛下に深々と頭を下げた。

兄は、死刑になってもおかしくない事を言った。

しかし、陛下はあくまでも犯罪事実のみで兄を裁くよう指示をした。

僕とエレンお祖父様に配慮したのは間違いなかった。

こうして、短時間で終わったのに精神的に疲れ切った裁判は終わりを告げた。

そして、僕たちは気を取り直してミュウさんのマネー子爵叙爵の為に足早に玉座の間に向かったのだった。