軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

波乱だらけのお茶会 1

翌日の昼下がり、私は自室で分厚い本へ視線を落としながら、深い溜め息を吐いた。

「愛の力って何なのかしら……」

「そのセリフ、恥ずかしくないですか?」

「黙ってちょうだい」

側に控えていた失礼なエヴァンを咎めつつ、そっと本を閉じる。

聖女に関する文献は一通り目を通したつもりでいるけれど、やはり聖女の力に目覚めるきっかけとされる「愛の力」については何も書かれていなかった。

──ゼイン様やマリアベルのお母様であり、前公爵夫人だったロザリー・ウィンズレット様のように、この世界には稀に聖女が現れる。

けれど聖女はどうやって目覚めるのか、聖女となる人間はどう選ばれているのか、といった疑問についても、書かれている文献は見つからなかった。

私とゼイン様が結ばれたことでストーリーが大きく変わった以上、今後の展開が変わることも考えられる。

けれど時系列のずれはありつつも、これまで小説通りに様々な事件が起きているため、戦争が起こらない保証はない。

「……シャーロットが目覚めるのは、ゼドニーク王国が攻め込んできた時だったはず」

傷付いたゼイン様を救いたいと願った時、シャーロットは聖女の力を発現する。

やはり世界を救うシャーロットには聖女の力に目覚めてもらわないと困るものの、ゼイン様と愛し合う未来はないとすれば、他の方法を探さなければならない。

「……はあ」

我ながら自分勝手な願いだとは分かっているけれど、どちらも譲るわけにはいかない。

魔道具を破壊した際、瘴気を浴びて危険な状態だった私を救ってくれた金色の光が何だったのかも、未だに分からないまま。

そして気がかりなのは、これだけではなかった。

「来週のクライヴ子爵令嬢のお茶会もありますしね」

「そう、それも気が重いのよね……」

これまで関わりがほとんどないシャーロットが、なぜ自宅での私的なお茶会に私を招待したのか分からない。

そもそも私達ほどの身分差があれば、いきなりの招待など失礼に値するはず。

何より私がゼイン様とシャーロットがキスしていると誤解してしまった時の表情を見る限り、ゼイン様に対して好意を抱いているのは明白だった。

聖女の力のヒントを見つけるためにも、シャーロット自身のことやその真意について知りたくて参加すると返事をしたものの、憂鬱で仕方がない。

大好きな作品の憧れのヒロインが恋のライバルになるかもしれない日が来るなんて、想像していなかった。

「ぱぴぽぷ……?」

「ありがとう、ハニワちゃん」

私が思い悩んでいることに気付いたのか、テーブルの上におすわりしていたハニワちゃんは心配げな顔をして、私の指にきゅっと抱きついた。

かわいさに胸をときめかせながら、よしよしともう一方の手で頭を撫でる。

「そもそも瘴気を浄化できるのは聖女だけなのよね」

「はい。間違いなく」

私の側に立ち、退屈そうにパラパラと本を捲っているエヴァンは即座に頷く。

それなら私があの時見た光は、聖女の力だったのだろうか。あの場にシャーロットはいなかった以上、小説の主人公であるゼイン様の力だった可能性もある。

「あの光が何か分かれば、糸口が見えそうなのに……」

「お嬢様が聖女だったりして」

「もう、そんなわけないじゃない」

エヴァンの冗談にくすりと笑っていると、ノック音が室内に響いた。

「お嬢様、マリアベル様がいらっしゃいました」

「ありがとう、すぐに向かうわ」

ヤナに返事をして立ち上がり、玄関ホールへ向かう。

ゼイン様が多忙なため、今週は公爵邸へ遊びにいくのをやめておくと伝えたところ、マリアベルが我が家に遊びに来たいと言ってくれた。

私も大好きなマリアベルには毎日でも会いたいくらいだし、快諾して今に至る。

「グレースお姉様、こんにちは!」

「ようこそ、マリアベル。今日も世界一かわいいわ」

天使のように愛らしい笑顔のマリアベルを、ぎゅうっと抱きしめる。するとすぐに「嬉しいです」と抱きしめ返してくれて、顔が溶けるかと思った。

ハニワちゃんにも会いたいとのことで自室へ案内すると、マリアベルのことが大好きなハニワちゃんは、彼女を見るなりすぐに飛び付いた。

「ぱぴぱ! ぺぷ!」

「ふふ、かわいい。実は今日、ハニワちゃんにお洋服を持ってきたの」

二人が仲良く触れ合う姿はあまりにも愛らしくて、笑みがこぼれる。

それからはお茶をしながら、ゆっくりお喋りをした。

最近、マリアベルは自分が作ったものだけでなく、公爵邸の料理長が作ったものも食べられるようになったそうで、本当に良かった。

「ぷ?」

「良かった、ぴったりです!」

そんなマリアベルはハニワちゃんサイズの洋服を用意してきてくれて、ピンク色のフリフリのドレスを着せてあげている。ハニワちゃんも嬉しいのか「ぴ!」とはしゃいでいて、本当にかわいい。

「お姫様みたいね」

「ははっ、こんな似合わないことがあ──痛っ」

「とってもかわいい! 良かったわね、ハニワちゃん」

ほのぼの空間を台無しにする、余計な発言をしかけたエヴァンを思いきり肘打ちする。

ぴょこぴょこと飛び跳ねているハニワちゃんは自分の姿を見てみたくなったのか、やがて姿見の近くにある棚の上に立った。

その様子を微笑ましく眺めていたものの、マリアベルが不意に「あ」と声を上げる。

「お姉様、聖女について調べていたんですか?」

「あっ……」

ハニワちゃんの立つ棚の上には、先程まで読んでいた聖女に関する本が重なっていた。