軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たったひとつだけ、望むのは 6

魔物を斬り伏せながらこちらへ向かってきたのは、見間違えるはずもない、ゼイン様その人だった。

最悪のタイミングだと思いながらも、無事な姿を見ると安堵で泣きそうになる。

「…………っ」

どうか私には気付かないでと祈り、視線を逸らそうとした瞬間──間違いなく、目が合った。

驚いたように目を見開いたゼイン様の唇が「なぜ」という言葉を紡いだのが分かった。

「エヴァン、早く行って!」

優しいゼイン様は、こんな場所にいる私を絶対に止めるだろう。そして事情を話してしまえば絶対に、自ら魔道具を壊そうとするはず。

絶対にそんなことはさせないと、私はエヴァンと共に走り出した。

「グルアアァアアア!」

「お嬢様、伏せてください!」

エヴァンが切り伏せても魔法で倒しても、すぐに視界は魔物で埋め尽くされる。一緒にいるのが彼でなければきっと、あっという間に死んでいただろう。

返り血で全身が汚れながらも、エヴァンのお蔭で私は傷ひとつないまま木の下に辿り着いた。

「なんて酷い、空気なの……」

聖女の力なんてない私でも、この場の空気がひどく穢れ澱んでいるのが分かった。

眩暈がして呼吸をすることさえ躊躇いながらも、木の根本を必死に手で掘っていく。

「……あった」

やがて古びた鏡が出てきて、息を呑む。

──魔道具というのは、物理攻撃には耐性があるとエヴァンから聞いた。壊すには直接触れ、限界を越えるほどの魔力で溢れさせるのが手っ取り早いと。

「ねえ、エヴァン。魔道具が壊れて私が倒れた後は、すぐに抱えて屋敷へ戻ってね」

「えっ? どういう──」

エヴァンがそこまで言いかけたところで私は魔道具に触れ、一気に魔力を流し込んだ。

グレースは元々潤沢な魔力を持っており、これまでエヴァンやハニワちゃんと共に魔法の練習を続けてきたことで、魔力の扱いは格段に上達していた。

「う……あ、っ……!」

「お嬢様! 何をしているんですか!」

「いいから、エヴァンは……魔物を倒すことだけに、集中して……! っこれは、命令よ」

少し離れた場所で魔物から私を守ってくれているエヴァンも、異変に気が付いたらしい。

苦しむ私の元へ今にも駆け寄ってきそうで、絶対に巻き込みたくないと、必死に叫ぶ。

仲間や友人だと思っているエヴァンに対し「命令」という強い言葉を使うのは、転生してから初めてだった。

彼は辛そうな顔をしたものの、再び背を向けてくれてほっとする。心の中で何度も謝罪の言葉を紡ぎ、きつく唇を噛むと再び魔道具に集中した。

「お願い……壊れ、て……!」

全力で魔力を込めながらも、必死に祈り続ける。

魔道具を握っている手のひらから腕へ黒い痣のようなものが広がっていき、痛くて、熱くて、苦しくて泣き叫び出したくなる。

小説でのシャーロットはこれほど苦しんではいなかったし、もっと簡単に壊していた記憶があった。

やはり私は端役でしかなく、彼女のようなヒロインにはなれないのだと思い知らされる。

それでも、ここでやめる訳にはいかない。あと少しで壊れるという、確信もあった。

「グレース! なぜ君がここにいるんだ!」

そんな時、不意に私の名前を呼ぶ声が聞こえてきて、顔を上げる。

必死に魔道具を壊そうとしている間に、すぐ近くまでゼイン様がやってきていたらしい。

白い騎士服は血で真っ赤に染まり、ところどころ裂けていることから、返り血だけでなく彼自身のものも少なくないと、すぐに分かった。

これ以上長引けば、いくら強いゼイン様と言えど、傷付き消耗する一方だろう。

「君は一体、何を……!」

「っ離れてください!」

信じられないという表情を浮かべ、私の元へと駆けて来ようとするゼイン様に対して大声を出せば、彼の肩がびくりと跳ねる。

けれど、私の様子や手元の痣を見たゼイン様は、迷わずこちらへ向かってきてしまう。