軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変わり始めたのは

ゼイン様と恋人になって、5ヶ月が経った。

あっという間に毎日が過ぎて行くことで、なんとなく焦燥感が募っていく。1日1日を大事に過ごし、やるべきことをこなしていかなければと、気合を入れる。

「お嬢様って、予知能力者なんですか?」

「フフ……実はそうなんだ」

「こいつがそんな大層なものなわけねーだろ」

そんなある日の昼下がり、私はエヴァンと捕獲されてきたストーカー美少年、そして復帰したヤナとテーブルを囲み、お茶をしていた。

そして昨日、以前購入した土地の値段が小説の通りに跳ね上がったことで、私とついで買いしたエヴァンは無事に大金を手にしたところだ。

こんな簡単にお金が稼げてしまうなんて、なんだかとても悪いことをした気分になる。正直、嬉しいより怖いが大きいけれど、大切に使わなければ。

「お前、その金何に使うわけ?」

「これはね、お店を開くお金にするの」

「ふーん。ドレス屋でも開くのか」

「ううん、平民向けの食堂だよ」

正直にそう答えたところ、美少年はひどく驚いたように「は」という声を漏らした。未だに名前すら教えてくれないけれど、すっかり馴染んでいる。

先に使わせてもらったグレースの貯金分を戻し、食堂準備資金と私用の貯金に分け、贅沢はしないでおく。

ヤナとパティには臨時ボーナスをあげたところ、とても喜んでくれて、私まで嬉しくなった。エヴァンはカジノで倍にしてくると、恐ろしいことを言っている。

「あ、そろそろ時間だ。私、公爵邸に行ってくるね」

「はい。行ってらっしゃいませ」

最近も食堂の準備や社交で忙しいものの、ゼイン様と会う時間は以前より多くなっていた。

◇◇◇

「よく似合っている。かわいいな」

「あ、ありがとう、ございます……」

そして今日も今日とて、どちらが落とされる側なのか分からない空気のまま。

ゼイン様が贈ってくれたドレスを着て行ったところ、恥ずかしくなるほどに褒めてくれて、嬉しくなる。

彼からのプレゼントは何もかもが素敵でセンスが良くて、何より恐ろしいくらい高そうだった。

「おいで」

ゼイン様の部屋に通され、隣に座るよう勧められる。

以前よりも距離感はずっと近くなり、どきどきすることも増えた。座って話をする時に手を繋ぐのだって、当たり前になっている。

私は内心どきどきしっぱなしだけど、ゼイン様はいつも平然としていて、私ばかり動揺していて悔しい。

「今日はここへくる前、何をしていたんだ?」

「エヴァンやヤナとお茶をしていました。エヴァンってば、またカジノに行こうとするんですよ」

「君は結局、一度も行っていないのか?」

「はい。カードをちょっとめくったり玉を転がしたりして一瞬でお金が消えると思うと、胃に悪いので」

「君は本当に変わってるな」

くすりと笑うゼイン様につられて、私も笑顔になる。

最近は「私のことを知りたい」と言って、色々なことを質問してくれるようになった。会話も以前よりずっと弾み、私も素でいられるようになった気がする。

「ゼイン様は行ったことがあるんですか?」

「ああ、何度かボリスに連れられて行ったことがある。今度一緒に行こうか、俺が払うから」

「そ、そういう問題じゃないんです……」

「俺は何をやっても勝つから大丈夫だ」

そんなことをさらりと言うゼイン様は、かなりの豪運なんだという。さすが主人公だ。

「あの、それとお気持ちはとても嬉しいんですが、高価なプレゼントも沢山いただかなくて大丈夫です」

「君は何を贈れば喜んでくれるんだ?」

「えっ? ええと……そ、その辺で摘んだ花とか……」

咄嗟にそう答えると、ゼイン様は「なんだそれ」と吹き出した。たった4つしか変わらないというのに、大人びて見える彼のたまに見せる年相応の笑顔には、いつも心臓が跳ねてしまう。

「ほ、本当ですよ! 花束を貰ったことがないので」

「そうか。では、初めては俺に贈らせてほしい」

「はい、楽しみにしていますね」

とは言え、ゼイン様がその辺の花を摘んでいる姿を想像するとなんだか似合わなくて、思わず笑ってしまう。

「……どうして、こんなにかわいいんだろうな」

私の頭を撫でると、ゼイン様は柔らかく目を細めた。ゼイン様はいつも、私に「かわいい」と言ってくれる。

今はその全てが演技だとは思っていないし、マリアベルに向けるものと近いのではないかと考えていた。

恋愛感情ではなくとも、ゼイン様の中で少しずつ私の存在が大きくなっていたらいいなと思う。あと七ヶ月もあるのだから、きっと別れる時に少しくらいは傷付いてくれるはず。

何より私の付けた傷なんて、シャーロットがあっという間に癒してくれるだろう。

「あ、そうだ。実はレシピをまとめたノートを──」

今月はバタバタしていて、まだマリアベルと会えていなかったため、簡単に作れる料理のレシピをノートにまとめてきたのだ。

先日話したように基本的には一緒に作りたいけれど、少しでも食事の量や回数が増えたらいいなという気持ちもあった。それを取り出そうと鞄に手を伸ばしたものの、床に落としてしまう。

そうして手を伸ばせば、同じく拾おうとしてくれたらしいゼイン様とこつんと額がぶつかった。

「…………っ」

あまりの近さに、心臓が跳ねる。睫毛の数すら数えられそうな近距離で、視線が絡む。

蜂蜜色の瞳に映る私は、泣きそうな顔をしていた。

「ご、ごめんなさ……」

「グレース」

ひどく甘い声で、名前を呼ばれる。更にゼイン様の顔が近づいてきて、思わずきつく目を閉じた、けれど。

「……大丈夫だ、何もしないから」

そんな声がしてゆっくりと目を開けると、困ったように微笑むゼイン様の姿があった。

びっくりした、と早鐘を打つ心臓のあたりをぎゅっと押さえ、必死に落ち着くよう自分に言い聞かせる。

「な、何か大きな集まりがあるんですか?」

ノートを渡してお礼を伝えられた後、話題を変えようと、私はゼイン様にそう尋ねた。

テーブルの上には一通の封筒が置いてあり、そしてその封蝋の刻印から、王家からの招待状だということに気が付いたのだ。同じものが以前、お父様のもとに届いていた記憶がある。

「ああ。君のところにも近々届くんじゃないか」

ゼイン様はそう言うと、封筒を手に取った。

「それに、君を誘おうと思っていたんだ」

「私をですか?」

最近では、ゼイン様のパートナーとして社交の場に出ることも少なくない。だからこそ何気なくゼイン様の手元の招待状を覗き込み、息を呑んだ。

「来月末、王家主催の舞踏会が開かれるんだ。第二王女の婚約を祝うものらしい」

「…………え?」

そんなはずはないと自身の目を疑った私は、瞬きを繰り返す。それでも招待状にははっきりと、第二王女の婚約を祝う舞踏会が開催されることが綴られていた。

訳が、分からなかった。頭の中が真っ白になる。

「ど、どうして……」

この王家主催の舞踏会は、シャーロットとゼイン様の出会いの場──私がゼイン様を振る日だった。