軽量なろうリーダー

淑女の化けの皮の下は驚くべきことに……

作者: 満原こもじ

本文

朝目覚めたらサッパリした気分だった。

とゆーかサッパリし過ぎて落ち着かない。

大事な何かを落としてしまった感じ。

何これ?

「お嬢様、意識が戻られたのですね?」

「意識? 変な言い方だね。起きた起きた。お腹減った」

まー寝てる時は大体意識ないものだけど。

ん? どーした。

侍女がすっ飛んでったぞ?

「旦那様奥様! お嬢様の意識が!」

随分と意識に拘るね。

あれ、今の侍女の名前何だったかな?

それどころか自分の名前がわからんわ。

あ、何人かで戻ってきたぞ?

――――――――――三〇分後。

「ふーん。摩訶不思議なことがあるもんだ」

大体の事情が判明した。

あたしの名はポピー。

何とローランド伯爵家の御令嬢だそうで。

美形の父ちゃんと美形の母ちゃんと美形の兄ちゃんがいる。

何でもあたしは『ペイン風邪』という悪性の流行病にかかって、三日も意識不明で寝てたんだって。

『ペイン風邪』には予防薬があって、流行するってわかってりゃかかるもんじゃないの。

たまたまあたしは流行のごく初期でもらっちゃったみたいで。

これまたたまたまあたしが貴族の娘ですぐさま診断がついたので陛下に報告、『ペイン風邪』警報を出して王都民全員に予防薬を配ったから、流行はかなり限定される見込みだって。

つまりあたし偉い。

お医者さんが言う。

「どうもポピー嬢には部分的に記憶がないようです」

そう、知ってる人か知らない人かは顔を見て判断できるんだけど、パッと名前が出てこないの。

知識はあるんだけど利用できない部分があるとゆーか、記憶とうまくリンクしていないとゆーか。

『ペイン風邪』は稀にこういう症状が出ることがあるんだそうな。

自分が患者じゃなきゃ笑えるのに。

「まーいーや。身体は元気になった。ねえ、お医者さん。これいずれ記憶は元に戻るんだよね?」

『ペイン風邪』の記憶障害は数日から一ヶ月くらいで大体平常になるって知識があるわ。

何でこんなことばかり覚えてるんだろうな?

「さようですな。長くても二ヶ月くらいで記憶が戻るケースがほとんどです」

「平常運転になるまで寝たままでは退屈だわ。学校行っていい?」

「もう他者に感染させることはないので構いませんぞ。少々刺激があったほうが思い出しやすいかもしれません」

美形の兄ちゃんが言ってくる。

「ポピー、そなた喋りが相当雑だぞ」

「そーかな?」

「うむ。六、七年前に戻ったようだ。淑女らしいイメージが全くなくなってしまった」

「じゃあお医者さん。診断書書いてくれる? 『ペイン風邪』の後遺症で無礼だけどごめんねって」

「わかりましたぞ」

「その診断書見せびらかせば、大体のことは許されるだろ。学校は身分の上下なしが建前だし」

「そういうことは覚えているのだな?」

「うん。人の名前と人間関係があやふやだなー」

そして淑女っぽさを忘れているらしい。

家族が心配そうな目で見てるけどだいじょーぶだよ。

明日から王立学校に通えるな。

「ところでお腹減っちゃったわ。御飯にしてちょうだい」

――――――――――翌日、王立学校にて。グレース・スレシンジャー侯爵令嬢視点。

遠くに見えるあの方は?

ポピー・ローランド伯爵令嬢ですね。

流行病でしばらく休んでいらっしゃいましたが、元気になったのですね。

あっ、走ってこちらに来ました。

えっ? 走って?

淑女らしくないですね?

「おっはよー」

「御機嫌よう。ポピー様、お加減はいかがですか?」

ポピー様は華奢で儚げな淑女です。

平民みたいなフランクさとはまるで縁のない方なのですが?

「ごめんね。今日のあたしは無礼が標準装備なの」

「どういうことなのです?」

「これ見てくれる?」

診断書?

ああ、『ペイン風邪』の後遺症で記憶に障害が。

「もう他人に感染す可能性はないから登校が許可されたんだけどさ。人間関係とか喋りとかがいい加減で」

「大変ですわね」

「まあねえ。神様も愉快なことしてくれる」

アハハウフフと笑い合います。

ポピー様って淑女の仮面の裏にこんな面白い一面を隠していたのですね。

知りませんでした。

「失礼ついでに教えてちょうだい。あなたのお名前は何だったっけ?」

「グレースですわよ」

「そーだ、グレースちゃん。スレシンジャー侯爵家の」

「わたくしがスレシンジャー侯爵家の娘ということはわかるのですね?」

「うん、知識はあるんだ。そしてグレースちゃんが知り合いってこともわかるんだけど、繋がりが切れてる感じ。見かけた人の名前を教えてくれると助かるな」

ふうん。

記憶障害ってそういうことになるのですね。

でも……。

「ポピー様覚えていらっしゃいます? 今日から定期考査ですわよ?」

「あっ、今日からだったっけ? でも座学だったら何とかなると思う」

「そうですか?」

「ただ今のあたし、マナーがヤベーわ。キャサリン先生の説教食らう前に元に戻るかな。休業期間中にマナーの補習で毎日キャサリン先生の顔見ないといけなくなったら、憂鬱でかなわんわ」

うふふ、キャサリン先生が大変厳しいということは覚えていらっしゃるのね。

普段のポピー様でしたらマナーは完璧ですのに。

あっ?

「おっと。どうしたグレースちゃん」

「足が滑って……」

ポピー様に寄りかかったらお姫様抱っこされました。

ポピー様こんなに力があるのでしたっけ?

とっても格好いいです!

「石畳が濡れてるせいだね。大丈夫?」

「痛……足を捻ってしまったようです」

困りましたね。

教室移動を伴う試験もありますのに。

「左足首だね。ヒール!」

「えっ?」

「もう大丈夫でしょ」

ほ、本当です。

ポピー様すごい!

「ポピー様は回復魔法が使えるのですのね?」

「グレースちゃんは知らなかったかな? あたしは一般的な魔法だったら大体自由に使えるんだ」

「ええ? あっ、ではわたくしを抱えているのも?」

「そう、身体強化魔法使ってるから」

魔法なんて特殊な技術ですのに。

ポピー様には驚かされますね。

「以前のあたしは魔法を使えることを公開してなかったのかもしれないな。まーそう使う機会なんかなかったか。よいしょっと。足平気かな?」

「はい、全然問題なく。ありがとうございます」

「よしよし、よかった」

にこっと微笑むポピー様は魅力ありますねえ。

いつもの淑女のポピー様とは全然違う様相です。

「さて、一時間目の試験は教室どこかな。掲示板見に行こうか」

――――――――――定期考査全科目終了後、王立学校にて。デニス・ウェッジウッド侯爵令息視点。

「ようやく試験が終わりましたな」

「ホッとしたよ。デニスはどうだった?」

「まずまずかと思います。殿下は?」

「僕もまあまあかな。まあまあだといいな」

アハハと笑い合う。

自分は第一王子ユスティフ殿下の側近を自認しているので、殿下のお供を仕ることが多い。

ただ今日みたいな日はさすがに気が抜けるというものだ。

「今年から殿下も政務に携わるのでしょう?」

「そうなんだ。デニスにも協力してもらおうと思っている」

「はい、望むところです」

ユスティフ殿下は着実に成年王族への道を歩まれている。

第一王子として王太子から王になられる方であるから当然だな。

すると避けて通れないのが……。

「……これは伺っていいのかわかりませんが」

「えっ、何だい?」

「殿下の婚約者がどなたになるのかというのは、重要なポイントだと思うのですよ」

ベーリニア王国の行く末に関わることだ。

王家の考えが奈辺にあるのかは、特に自分のように殿下の側にいる者は察しておかねばならない。

例えば殿下の婚約者がグレース・スレシンジャー侯爵令嬢に決まるのなら、陛下は経済政策を重視していると見ていいだろう。

またジョセフィン・マウスエルク辺境伯令嬢であるなら、国境防備や隣国との関係に問題ありと考えているのであろうし。

「そうだねえ」

「他人事みたいな言い方ではないですか」

「まあ。父陛下の胸一つで決まるだろうから、僕の希望がどうとかって多分影響ないんだよね」

「かもしれませんね」

完全に政略ということか。

だろうな。

しかし少々寂しくも感じる。

「……例えば殿下の意中の令嬢はどなたなのですか?」

「ポピー・ローランド伯爵令嬢だね」

即答だったことに虚を衝かれた。

ポピー・ローランド伯爵令嬢か。

可憐で慎ましやかな令嬢だ。

穏やかなユスティフ殿下がポピー嬢のような令嬢を好むのもわかる。

伯爵家出身の王妃という前例がないわけではない。

しかしローランド伯爵家では殿下の後ろ盾としてやや家格が足りないのではないか?

またポピー嬢が淑女であることは疑いの余地がないのだが、将来の王妃としてはどうだろう?

リーダーシップに欠けるのではないか?

「殿下、デニス君、こんにちはー」

噂をすれば何とやらか。

ポピー嬢が現れた、が……。

……妙にフレンドリーでポピー嬢らしくない気がする。

定期考査が終わって気分が解放されたからということで解決できるのか?

警戒しろ。

「ねえねえ、試験が終わったけど、何か予定ある?」

「それ以上殿下に近付かないでもらおう、がっ?」

殿下とポピー嬢の間に割って入ろうとしたら、いきなりポピー嬢に投げ飛ばされた。

油断していたわけではない。

またポピー嬢が武道の達人という話は聞いたことがない。

それに自分とポピー嬢ではかなりの体重差があるはずなのに。

「デニス君ごめーん。殿下とあたしのラブロードに立ち塞がる敵に見えて、つい投げ飛ばしちゃった」

「ラブロード……えっ?」

「ハハッ、つい本音が漏れちゃったわ」

ニコニコしている様子は、普段の淑女の原色見本のようなポピー嬢とかけ離れている。

しかし妙に魅力的だな。

ユスティフ殿下も喜んでいるじゃないか。

「ポピー嬢は武道の心得があるのか?」

「あるね。本来あたしはお転婆で」

「お転婆……いや、ポピー嬢性格が変わったか?」

「それについてはこちらを御覧くださーい」

診断書?

何々、『ペイン風邪』の後遺症で記憶障害がある?

「それで素のあたしが表に出ちゃってるんだ。抑えが利かないから失礼があったらごめんね」

「素の……。いや、いくら武道の心得があっても、自分とポピー嬢の体重差があって簡単に投げられるのは納得いかないのだが」

「デニス、ポピー嬢は魔法の使い手なんだよ」

「魔法? いやしかし……」

「殿下はあたしが魔法使えること知ってたか。身体強化魔法使えば簡単なの」

身体強化魔法?

仮にそうだとしても、発動するタイミングがあったか?

「ポピー嬢は大変な魔法の使い手なのだな。全然知らなかった」

「魔法は無手武道より自信があるよ」

「魔法のことはいいんだ。ラブロードのほうを聞かせてよ」

「うはー、愛しの殿下にリクエストされちゃったわ」

アハハと笑い合う。

何これ?

こんなあけっぴろげなことってある?

「別に不思議なことではないじゃん? ユスティフ殿下は落ち着いた大人な雰囲気と子供っぽい無邪気さが同居しててさ。あたしじゃなくても殿下萌えの令嬢は多いと思うよ」

「ハッキリ言ってくれてありがとう」

「ポピー嬢は殿下が王子であることは重視しないのか?」

「無関係ではないね。殿下は王子であるからこそこーゆー性格なんだろうし」

教育と立場が現在のユスティフ殿下を形成しているということか。

うむ、納得できる。

「まー殿下の婚約者が政略で決まることが理解できないほど、あたしも子供ではないんだ」

「残念なことだね」

「あれ、殿下も残念って言ってくれるのか。口がうまいんだから」

殿下の意中の令嬢がポピー嬢だと知っている自分としては複雑な気分だ。

殿下はポピー嬢の魔道の実力まで知っていて、いいと考えていたらしい。

「ポピー嬢は何か用だったのか?」

「そーだ。試験が終わると暇じゃん? 領地に帰る子も長期休みまでは王都にいるだろうし。それまでに何かクラスでイベントやんない? って言いたかったの」

普段のポピー嬢ならこんなことは言わないだろう。

だがポピー嬢の本音はこれか。

積極性がある。

「残念なことに、これから政務がはいることになってるんだよね」

「そーかー。あっ、じゃあその政務を皆に見学させてもらえない?」

「「えっ?」」

「秘密を要する政務ばっかりじゃないでしょ? 王家がどういう仕事しているかっていう理解が深まるし、皆の意見を聞いていいアイデアが出るかもしれんし、少なくとも文官希望の子にはすごく参考になると思うわ」

一理ある。

ユニークな視点だ。

「面白いね。ではそういう方向で調整させてもらうよ」

「わーい! 楽しみが増えたぞー! 殿下、デニス君じゃーねー」

ポピー嬢の新しい一面を見た日だった。

――――――――――王立学校の夏季休業期間中、王宮にて。第一王子ユスティフ視点。

「どうなっておるんだ?」

父陛下に呼び出された。

用件は大体わかっているけど。

「何のことでしょう?」

「とぼけるな。そなたの婚約者候補リストのトップにジャンプアップした令嬢だ」

「ひょっとしてポピー・ローランド伯爵令嬢ですか?」

「そうだ。影からの報告書だけでは状況がわからん。ポピー嬢はユスティフと王立学校で同じクラスなのだろう?」

同じクラスではある。

ただ僕が変化を感じてからすぐに休業期間に入ってしまったからな?

僕自身も見定めかねているのだが、推測はできる。

「要するに『ペイン風邪』の後遺症で本性が現れているということのようなのです。ポピー嬢本人に聞きました」

「ポピー嬢とは、淑女である点と魔法の実力を評価されていたのであろう?」

「陛下の元へ上がっていた報告の内容について僕は知りませんけれど、客観的に考えてそうでしょうね」

「今期の定期考査成績がトップ、クラスメートをリードし率先してイベントを企画したとある。これが本性なのか」

「おそらくは」

僕もビックリしているんだ。

ただポピー嬢は真面目で頭のいい令嬢だとは思っていた。

「普段は自分を抑えていたとすると説明がつきます」

「推測でいい、続けよ」

「僕と同じ最優秀クラスにはデニス・ウェッジウッド侯爵令息とグレース・スレシンジャー侯爵令嬢がいます」

「つまりポピー嬢より身分が上の令息令嬢だな?」

「はい。ですからポピー嬢は自分が出しゃばるべきではないと普段は考えていた。成績もわざと落としていたのではないでしょうか? しかし精神的なリミッターが外れると……」

「本来はもっと優秀で積極的な令嬢だということか。何という……」

僕がポピー嬢に惹かれたのは、可憐な外見と慎ましい性格からだった。

ところがどうだ。

クラスの皆をまとめ、楽しそうにイベントを企画するポピー嬢から目が離せない。

一層魅力的なのだ。

「今日も星を見る会が行われるのですよ」

「うむ、聞いている。出席者の安全を確保するために王宮庭を貸せということだったな」

「はい。ポピー嬢は動きが早いですし、どこをつついたら許可が出そうかってことをよくわかっていますよね」

「これだけの実力を見せつけてくる令嬢か……」

後遺症が抜けたら元の慎ましやかな令嬢に戻ると思うんだけど。

いや、本性が変わるわけじゃないから、ポピー嬢のリーダーシップを知った皆は期待するよな?

これどうなるんだろう?

「ポピー嬢と他の令嬢との関係は?」

ある程度の報告は上がってるはずだ。

それ以外で父上の知りたそうなことと言えば……。

「今晩の星を見る会には上級生や下級生も参加するんですよ。例えばジョセフィン・マウスエルク辺境伯令嬢やテオドーラ・ワーズグラントス公爵令嬢も」

「ふむ、いずれもそなたの有力な婚約者候補だな。関係は悪くないか」

「というかジョセフィン嬢やテオドーラ嬢と僕を会わせようとしているんだと思うのですけれどもね」

「面白い」

多分ポピー嬢が僕を好いてくれてるのは本音なんだろう。

一方で僕の婚約者は政略で決まると考えているから、僕や僕の婚約者候補に恩を売ろうとするのだと思う。

極めて現実的な感覚だ。

というかポピー嬢を僕の婚約者候補と見た時、足りないと思われていた部分がほぼ補完されているじゃないか。

唯一足りないと思われる身分も、より高位の貴族令息令嬢と関係が良好なら……。

「ポピー・ローランド伯爵令嬢をユスティフの婚約者とする。文句はないな?」

「ありません」

本当に?

これはポピー嬢の実力の勝利だ!

「近日中にローランド伯爵家に申し入れを行う」

――――――――――それから七日後、王宮にて。ポピー視点。

「大変、大変申し訳ありません」

何が起こったかですか?

わたしは『ペイン風邪』の後遺症で調子に乗っていました。

人生エンタメに集中していた状態と言いますか、暴走していましたね。

ユスティフ殿下やわたしより高位の貴族令息令嬢がいるのに、場を仕切ったりして。

ここ数日で急速に元のわたしに戻りました。

そしておかしかった期間の自分の行動に悶絶しています。

ああああああろうことか、ユスティフ殿下に愛の告白に近いこともしてしまいました。

何とはしたないことでしょう!

そして今日、ユスティフ殿下の名で王宮に呼び出されたのです。

「何を謝っているんだい?」

「ええと、わたしの所業に対する叱責ですよね? 本当に自分の行動がコントロールできなかったのです。信じてください!」

「必死に嘆願するポピー嬢も可愛いけど、『ペイン風邪』の後遺症に侵されている時だってとても魅力的だったよ」

「えっ?」

可愛い? 魅力的?

否定的ニュアンスはないですね。

思わずユスティフ殿下の顔を見つめてしまいます。

優しげな表情は好物です。

ありがとうございます。

「結論から言うと、ローランド伯爵家に婚約を打診することになったんだ」

「ええと、まさかと思いますけれども、ユスティフ殿下の婚約者をわたしにということですか?」

「うん、そう」

ええっ?

わたしよりもっと相応しい令嬢が……冗談ではなさそうですね。

家格ではない部分が評価されたということですか。

「お話を伺いましょう」

「ようやく普段のポピー嬢らしい落ち着きになったね」

「恐れ入ります」

落ち着いてなんかいませんとも。

外面を取り繕っているだけです。

でもまず王家とユスティフ殿下の考えを聞きたいというのが本音です。

「ポイントはポピー嬢の本性だったね」

「わたしの本性?」

「後遺症が前面に出ていた時、ポピー嬢は皆が考えていたより優秀だったと」

「……かもしれませんけれど、出過ぎたマネではなかったですか?」

全然淑女らしくなかったです。

ええ、しっかり自覚しています。

「王妃に必要な要件は淑女ではないから」

「……」

言われてみれば。

王妃は上に立つ者ですものね。

ですからわたしの本性が認められたということになるのですね?

納得いたしました。

「よくわかりました」

「では婚約を受けてもらえるかな?」

「家族との相談になりますが、わたしの返事としてはイエスです」

今後わたしに求められるものは、積極性と説得力なのでしょう。

出し惜しみしてユスティフ殿下に恥をかかせてはいけません。

本気でいきます。

「……これは言っておかないとフェアじゃないから言うけど」

「何でしょう?」

「僕がポピー嬢のことを気にしていたのは『ペイン風邪』関係なくて」

「そうなのですか?」

「有り体に言えば可愛いところが好き」

「ありがとう存じます」

顔が火照ったのを自覚します。

王妃の条件とは別枠で、わたしを気に入ってくださっていたという意味ですね?

もう、恥ずかしいではないですか。

「ポピー嬢の正直な気持ちはもう聞いてるから」

あっ、後遺症期間にですね?

だから言わないとフェアじゃないと?

ユスティフ殿下がわたしの目を見つめ、手を握ります。

「僕達はうまくやっていけると思うんだ。王と王妃としても。夫と妻としても」

「そうですね。わたし、もっと努力いたしますから」

殿下の手をぎゅっと握り返し、ちょっとだけ淑女らしくない笑顔を見せました。

わたしの本性が応援してくれているような気もするんです。

殿下の微笑みに応えられるわたしでありますように。