軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

67.いい加減にしろ

奏と共に自室に向かうと、とりあえず奏は俺の部屋のクローゼットを開けた。

「うーん。今日はどんな格好で出掛けてもらおうかな」

奏はタンスを漁りながら言った。

なんだろう。

今日は、どんな格好で出掛けてもらおう……と言う口振りだと、俺が着ていく服はいつも奏に決められてるみたいな誤解を生みそうだ。

「綾香ちゃんがお昼に指定したお店は小洒落た個人店のイタリアンだし……フォーラムな格好がいいかな。いやでも、あたし達はまだ高校生だし、やっぱりカジュアルな服装……?」

……思ったよりもしっかりと悩んでくれていた。

「……うーん」

……悩む奏を傍目に見て、ふと俺は気付いた。

「奏、俺のタンスの中身、熟知してるんだね」

さっきから奏は、タンスを漁る際に一切の躊躇や迷いがない。

なんだかどこに何が入ってるかわかっているみたいだ。

「うふふ。うふふふふ」

「あはは。あはははは」

まあ、躊躇や迷いがないくらいでタンスの中身を熟知していると思うのは、少し早計……か。

「あっ、あっくん。これとかどう?」

奏は結局、フォーマル路線で服装を固めることに決めたのか、手にしていたのは薄手のジャケット。

「うん。いいね」

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……うーん」

提案してきたのに、奏は難しい顔で首を傾げ始めた。

「何かお気に召さないことがあった?」

俺は尋ねた。

「……あっくん、この服はよく着る?」

「え?」

今度は俺が首を傾げた。

「……よく着る方、かな」

戸惑いがちに言いながら……。

「そういえば最近は、気温が暑すぎるからあんまり着てないかも」

「そうだよね。そうだよね」

……あれ。

「じゃあ……このジャケットを着ていくのはやっぱりやめよう。多分、このジャケットは夏が終わるまでは着れないね。そうだよね」

「……うん」

よく見たら、奏の瞳から光が消えている。

「じゃあさ、じゃあさ。このジャケット、今日借りてもいいかな?」

「うん。いいよ」

今日は一日中真夏日らしいけど、もしかしたらエアコンにあたりすぎて少し寒く感じていたのだろうか?

……。

…………。

かわいそう。

「うふふ。あっくんのジャケット、ぶかぶかー」

早速俺のジャケットを羽織った奏は、瞳に光を宿しつつ、嬉しそうに微笑んでいた。

こうやって彼女の幸せそうな顔を見ていると、こっちまで幸せな気分になってくる。

「……クンクン」

奏は唐突に俺のジャケットの匂いを嗅ぎ始めた。

「うふふ。あっくんの匂いがする」

「本当?」

「うん。あっくんの匂いがする」

「そっかー」

「うふふ。あっくんの匂い……。うふふ」

奏は恍惚とした表情を見せた。

「あっくんに包まれてるみたい」

「あはは。奏は大袈裟だなぁ」

俺は笑うが、奏はジャケットに夢中で返事をくれない。

「そろそろ行こうか、あっくん」

しばらく俺のジャケットの匂いを嗅いだ後、奏は言った。

内心、俺は驚いた。

だって、俺達が自室に来た理由は、今日の俺の着ていく服を決めてもらうためだったから。

結局、奏がワンピースの上に着る服を貸しただけになってしまった。

……はぁ。

彼女が寒い思いをしなくて済んで良かった。

「あっくん。早く早くっ」

「あ、うん」

……とりあえず外は暑いし、白のオーバーサイズTシャツとワイドパンツで行くか。

「奏、ちょっと着替えるから廊下にいてもらえる?」

「え、どうして?」

「え?」

俺はタンスから服をだしつつ、相変わらずジャケットの匂いを嗅いでいる奏の方を見た。

「……俺、服を着替えるために一旦服を脱がないといけないから。だから廊下にいてくれる?」

「え、どうして?」

「……ほら、恥ずかしいじゃないか」

「え、どうして?」

奏は微笑んだ。

「あたし達、小さい頃は一緒にお風呂に入ったりしたじゃない」

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……確かに」

「うふふ。でしょ?」

「あはは。確かにね」

あはは。俺は一体、何を恥じらっていたのだろう。

「じゃあ、少しだけお見苦しい姿を見せちゃうけど、ごめんね」

「うふふ。うふふふふ。うふ……」

まず、寝間着のTシャツを脱いで上裸になったタイミングで、奏の薄ら笑いが止まった。

「あ、あっくん。ごめん。あたし、やっぱり一旦廊下にいる……」

「え? 急にどうしたの?」

「……お、思ったより男らしい肉体で刺激が」

「ん? ……よくわからないけど、廊下は暑いしここにいなよ」

「へっ!?」

「すぐに着替え終わるし」

俺は白Tシャツを着たあと、ズボンに手をかけた。

「わっ。わあぁぁっ!?」

奏は慌てて部屋を出た。

「あっくんのエッチ!」

部屋を出ていく奏に、俺は謎の捨て台詞を吐かれた。