軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

56.喫茶店

「ふう、暑かったー」

「本当だね」

待ち合わせ場所の喫茶店に到着した俺達は、今日が猛暑日であることが原因で大粒の汗を掻いてしまっていた。

少しレトロな雰囲気を醸し出す喫茶店に入った瞬間、外とは大違いの冷たい風が全身を包み込み、俺達は早速喫茶店内で癒された。

「二名ですか?」

「あ、はい」

「え、奏。後で高垣さんが来るよ」

「……うふふ。忘れてたぁ」

奏は笑顔を見せて、店員に一人遅れている旨を伝えた。

すると店員は、俺達をカウンターではなくテーブル席に案内してくれて、まもなくメニューを運んできた。

「あっくん。何飲む?」

「俺はコーヒーで」

「わかった。あ、でも、コーヒーでも色んな種類があるよ?」

「え、そうなの?」

俺は奏の持つメニューを覗き込んだ。

すると……前かがみになっていた奏のTシャツの首元から、奏の上半身が微かに覗けて、俺は慌てて座席に深く座り直した。

「え? あっくん。どうしたの?」

「あはは。なんでもない……」

俺は誤魔化すように苦笑した。

「……んー? なんだか怪しい?」

「そんなことないよ」

「……むぅ。本当?」

「本当だよ。奏、俺がこれまで、君に嘘をついたこと、ある?」

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「ないっ!」

「だよね」

「うん。うふふ。うふふふふ」

俺達は微笑みあった。

「……あんた達、こんな場所でも自分達だけの空間を形成しているの?」

そんな俺達の前に、待ち合わせ相手である高垣さんが姿を現した。

……が、顔は何故かうんざりげだった。

「あ、綾香ちゃん。こんにちは」

「こんにちは」

「うふふ。待っていたよ、綾香ちゃん。あっくんに心配してもらっている綾香ちゃん! あっくんを不安がらせている綾香ちゃん!」

「ち、ちょっと……! 萩原君! この子、いきなりフルスロットルなんだけど。一体何があったのよ!」

「え? 何もなかったよ?」

「あー、もうっ。あなた達と関わると本当に疲れる……っ!」

はて、高垣さん……会って早々、どうしてこんなにいら立っているのだろう?

「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」

「……あ、すみません。すぐに決めます」

店員が中々注文をしない俺達の方に歩み寄ったことで、俺達はとりあえず注文を済ますことに考えをシフトした。

五分後……。

「ご注文のアイスコーヒーです」

「ありがとうございます」

俺達全員の前に、飲み物が届いた。

「それじゃあ綾香ちゃん。今日は忙しいところ、時間を割いてくれてありがとう」

「いいえ、気にしないで。……嘘。やっぱり気にして。用事終わりに、あんな甘い雰囲気を醸した二人組に絡むのは結構体力がいるから」

「うふふ。ごめんね」

「……なんでこんな余裕な表情を見せてくるの、この子は」

高垣さんはため息を吐いた。

「……ただこちらこそ色々と手伝ってくれてありがとう。写真、ありがとうね」

高垣さんが頭を下げた。

「気にしないでよ。好きでやっていることだし」

「そう言ってくれると……助かる」

「それで……なんだけどさ」

俺は鞄からコンビニでプリントしてきた一枚の紙を手渡した。

「……これは?」

高垣さんは少し困惑しているようだった。

「これは、この前に撮った写真」

「え」

「一番映りの良いこれだけ、プリントして持ってきたんだ。データよりも紙の方が弟君も喜ぶかなと思って」

「……」

「……あれ、高垣さん?」

もしかしていらなかったか?

俺は内心、少し慌てていた。

「……ありがとう」

しばらくして、高垣さんが目尻で光る何かを指で拭って、そう言った。

「あいつ、きっと喜ぶと思う。だから、本当にありがとう……」

「ううん。気にしないでよ」

……本当、これくらいのこと、何の気にもしないでほしい限りだ。

「……ねぇ、高垣さん」

少し場もホッコリしたところで、俺は単刀直入に尋ねてみることにした。

「君の弟さん、もしかして今、入院中……とかだったりする?」

瞬間、さっきまでホッコリしていた空気が冷え切った気がした。

「ごめん。いきなりこんなこと……ただ最近、なんだか君の元気がない気がして」

果たして今、俺は何の弁明をしているのだろう?

「……もしかしたら、そうなのかもしれないって思って。そして……」

そして……。

「……全部、俺の考えすぎだったらいいなって」

高垣さんの最近の不調も。

俺と奏が導いた憶測も……。

全部、俺の考えすぎだったら……。

もし、本当に全部俺の考えすぎだったら、高垣さんはきっと怒るだろう。

あたしの弟に不幸な目に遭ってほしいのか、とグラス一杯に満ちている紅茶をぶちまけられても文句は言えない。

……でも、もし間違いだとしても、紅茶をぶちまけられるとしても、その方がマシだと思えてしまった。

「……ふふっ」

高垣さんは微笑んだ。

「萩原君、あなたあたしの弟と会ったことないのに、なんでそんな深刻そうな顔をしているのよ」

「……」

「弟の身に何かあったとして……あなたには関係ないことでしょう? あなたが当事者みたいに凹む必要なんてないじゃない」

「……嫌なんだよ」

「何が?」

「友達の辛そうな顔を見るのは」

高垣さんが目を丸くしていた。

「……あんまりそういうこと、一ノ瀬さんの前で言うべきじゃないよ」

「そんなことない。奏だって同じ気持ちだよ」

「……あはは」

奏は少し気まずそうに頭を掻いた。

「……そう」

高垣さんは俯いた。

「優しいのね。……あなた達」

そして、苦笑した。

「そうよ。ウチの弟は……あなた達の考え通り、今、入院している」

観念したように、高垣さんは教えてくれた。

「ごめんね。色々と」

そして、謝罪するかのように頭を下げた。