軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48.オタク

高垣さんと集合した後、俺達はまず早めの昼ご飯を食べることにした。

俺達が訪れた空港には、出国階からエスカレーターで行けるレストラン街が存在する。そのレストラン街は高校生という立場的には結構値段がかかるお店が連なっているが……まあ、そこは人生経験の一つとして三人全員が割り切ることにした。

「えー、この値段でこの量しかないのー?」

いや、全然割り切っていなかった。

特に高垣さん。高垣さんは日頃はモラルにうるさいたちなのだが……どうやらお金が絡むと少し様子が違うらしい。

「まあ、空港内のレストランって外貨を持っている相手に商売するのが基本だからね。円安ムードが高まる中、こうなるのも当然の結果と言えるよ」

「ちっ。やっぱり政治家は信用ならないわ」

相変わらず、高垣さんの悪口はエッジが利いているなぁ。

「……味がもう少し美味しくなかったら、レビューで星一つけたのに」

ご飯が美味しかったためか、幾ばくか不満は減ったようだ。

「あっくん。あっくん」

「何?」

「それで、これからの予定はどうするの?」

ご飯を食べ終わった頃、食後に落ち着いた時間を送っていると、奏に尋ねられた。

「そうよ。空港到着即お昼ご飯なんか食べさせて。これで無計画でした、とか言い出したら怒るからね」

「……綾香ちゃんがあっくんに怒るの?」

「圧つよぉ……」

高垣さんは奏の笑みに委縮していた。

「あはは。大丈夫。ちゃんと作戦は練ってあるから」

「本当でしょうね」

「……ふむ。じゃあ、ここいらで説明をしておこうか」

俺は鞄から数枚のA4用紙を取り出して、テーブルの上に広げた。

「……な、ナニコレ」

「何って、今日の撮影対象の資料だよ」

俺は数枚のプリントを高垣さんに手渡した。

そのプリントには高垣さんが写真を撮りたがっているラッピング飛行機の詳細。この空港の滑走路図。後は今日の一時間ごとの天気予報が記載されている。

「まず、今日の撮影対象は、勿論この飛行機。結構前からのこの某有名IPと色んな航空会社と提携してラッピング飛行機を運行しているけど、それの最新版だね」

「ほへぇ」

「この飛行機は新千歳行き。つまりは国内線だから、まずはターミナルを移動します」

「えっ、この建物で写真撮れるんじゃないの?」

高垣さんは少し驚いた様子だ。

「うん。あっちの方の建物だね」

「……えー。じゃあ、どうしてこっちのターミナルで集合したの?」

そりゃあ……。

俺と高垣さんは、奏をチラリと見た。

「……ごめん。どうしてもこっちに立ち寄りたくて」

奏は申し訳なさそうにしていた。

「まあ……食後の運動にはちょうどいいんじゃないかな?」

「……そういうことにしておきましょうか」

俺は次のプリントを高垣さんに渡した。

「これはこの空港の滑走路図。新千歳行きだから、使用するのはこの滑走路だろう」

飛行機の離陸予定の滑走路には、事前にマーカーで線を引いてきておいていた。

「で、この滑走路はこのターミナルの六階展望デッキから一望出来る」

「ふむふむ」

「出発時刻は十二時二十分だから、まあ十二時半くらいに写真を撮る感じになるだろう。その時の天候は快晴。これは中々、ベストコンディションだね」

「……出発時刻に写真を撮るんじゃないんだ」

「出発時刻は飛行機が駐機場を離れて動き出す時刻って意味だからね。滑走路に入るのはそれよりも遅い時間だ。かつ昼の時間は滑走路もよく混むから、もしかしたらもう少し離陸は遅くなるかも」

「あなた、キモいくらいに詳しいわね」

「で、まあ写真を撮るなら……撮りたい構図は、飛行機が空へと旅立っていく構図だろう? でも、その写真を撮るのは実は結構難しいんだ。何せ、被写体は猛スピードで進んでいくからね」

「た、確かに……」

「その時に便利なアイテムが……」

俺はどや顔で鞄からブツを取り出した。

「……ふっ。これさ」

移動中、肩に相当な負荷を与えてきていたブツをようやく日の目に浴びせることが出来て、少しだけホッコリとした。

「……カメラ」

「違う。一眼レフさ」

「……えぇ?」

「しかも、望遠レンズ付き」

「うわぁ……」

「高かったんだよ、このレンズ。なんせ二十万だからね」

「どこからそんなお金が出たのよ」

「……ふっ」

俺はドヤ顔を作った。

「親にねだった」

「……いきなり子供の趣味に戻らないで」

「あたし達の子供にしては勉強頑張ってるし、本気みたいだからいいよって言ってくれた」

「だから子供みたいなことを……」

「カメラ趣味がきっかけで誰か友達出来るといいねって買ってくれた……」

「うわあ、急に悲惨な過去を掘り起こしちゃった……っ!」

……悲惨とか言うなよ。悲しくなるだろ?

「あっくん。あっくん。じゃあ、あたしもあっくんの趣味に付き合うよ」

「か、奏……?」

「ね。二人で楽しもうよ、カメラ撮影」

「……か、奏ぇ」

「あー、また変な雰囲気になっちゃったよ。もう」

高垣さんは呆れた様子だった。

「とりあえず……萩原君、ありがと」

照れ臭そうに、高垣さんがお礼を言ってくれた。

「……あなたに頼んで、正解だったよ」

中々に嬉しいことを言ってくれるではないか。

「そ、それじゃあ、そろそろ行こうっ! なるべく写真を撮るのに良いポジションを見つけないとっ!」

席を立ち、お会計に向かう高垣さんの背中を、俺と奏は見ていた。

「ねえ、あっくん」

「何?」

「やっぱり高垣さんって……ツンデレだね」

「そうだねぇ」

「可愛いね」

「そうだねぇ」

……途端、奏は首をグリンと反転させ、光沢のない瞳で俺を見つめていた。