軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14.あの日の返事

「ちょっと長居しすぎたね」

しばらくの間、空港展望デッキから飛行機を眺めていたら、周囲は既に真っ暗闇に包まれていた。

滑走路に輝く色とりどりのLEDがクリスマスのライトアップのようだと綺麗だと喜んでいた奏も、少し疲れた様子だ。

「そろそろ帰ろうか」

「その前に、空港で夕飯食べて行かない?」

奏から提案された。

「うーん。でも、空港のレストランって結構値段、高めなんだよね」

「そうなの?」

「うん。……高校生の身だと、ちょっとキツイ」

「そっかー。残念」

奏は少し残念そうに俯いた。

「……あっくん」

しかし、すぐに顔を上げた。

「じゃあさ、帰る前にもう一か所、寄り道してもいい?」

奏は一体、どこに行きたいと言うのだろうか?

「いいけど」

断る理由もなく、俺は奏の提案を素直に受け入れた。

「じゃあ、行こうか」

「うん」

俺達は展望デッキを出て、空港内へ。

大きめのトランクを持った外国人に前後を挟まれながら、向かった先は国際線の出発階。

国際線の出発階は、この空港がたくさんの国際線の乗り入れをしているためか、とても広い。

端から端まで歩くだけで、運動不足の人なら少し息が上がるくらいである。

「……どこに行く気?」

「ふふ。これからあっくんと駆け落ちしようと思って」

奏は上機嫌にジョークを飛ばしていた。

勿論、航空チケットを持たない俺達では、これから飛行機に乗ることも、保安検査へ向かうことも出来ない。

「……ここは」

奏のジョークに微笑んでいると、奏が足を止めたため……俺はたどり着いた場所を確認した。

「あっくん、ここがどこか覚えている?」

奏が尋ねてきた。

……俺達が今立つ場所は、国際線の出国ゲートの前。

ここがどういう場所か。勿論、覚えている。

……忘れたこともない。

『……バイバイ』

ここはかつて、フランスに旅立つ奏を見送った場所だ。

「あっくんは覚えているかな。このゲートをくぐる直前、お母さん達が別れの挨拶をしたこと」

「……覚えている」

「じゃあ、その後、お母さん達が、あたし達に何を言ったかも覚えている?」

「勿論」

……俺達の両親は、互いの別れ際、互いの健闘を称えるかのように激励をしあった。

そして、別れを前に無言を貫いていた俺達を見て……。

『ほら、あなた達も』

……別れの挨拶をしなさい、とそう言ったのだ。

「そこからの会話、覚えている?」

「……うん」

……今でも、目を瞑れば、思い出す。

「……あっくんは」

奏が先に声を発した。

「あっくんは、フランスに行ったこと、ある?」

そして、あの日と同じことを言ってきた。

「……ない」

「そうなんだ」

奏は微笑んだ。

「あたしはあるよ」

「……そうなんだ」

「うん。すごい……楽しかった、かと言えば、嘘になる」

「……観光名所は巡ったの?」

「うん。……巡ったよ」

……彼女の声は、震えていた。

「出来れば、あっくんと一緒に巡りたかったな」

奏は俯いていた。

「……それだけが、心残りだった」

俯いた奏の瞳から……水滴が滴り落ちた。

……そんな彼女の姿を見て、言うべきことは一つしか思い当たらなかった。

「じゃあ、今度は一緒に行こうよ」

俺は微笑んだ。

「奏、あの日の最後の俺達の会話は覚えている?」

「……うん」

「『頑張って』。そう激励した俺に、結局君は返事をくれなかったよね」

「…………うん」

「……薄々、わかっていたんだろうなって思った。きっともう、俺達が二度と会うことがないって」

「……」

「だから、俺に変な期待を持たせないように、返事をしなかったんだと思ったんだ」

「……返事をしなかったこと。後で後悔したの」

奏はポツポツと胸中を語った。

「言われた瞬間は、あっくんの言う通りだった。下手なことを言って、あなたを裏切るような結果になることが怖かった。だから何も言えなかった。でも……あの日、何も言えなかったことが、後々になって深い後悔に繋がった」

「……」

「あんな思いをするくらいなら、素直に言えばよかったと思った。『ごめん。無理だと思う』って」

「……」

「でも、言わなかったから……苦しくなって。考えるようになった」

「……何を?」

「あの日、なんて答えるのが正解だったんだろうって」

「……」

「あの日、あっくんならどう返事をしてくれていただろうって」

「…………」

「もし再会出来たら、あっくんに何を言おうかなって」

空港のエントランス。

異国から来た外国語を喋る陽気な人。

これから仕事で海外に行くのか、うんざりげな人。

以前と似たような光景が眼前に広がっている。

でも、以前とは明確に違う部分もある。

エントランス内には知らないレストランが出来ているし。

以前はなかった航空会社が参入しているし。

……俺達の背丈も、随分と伸びたし。

「……何を言おうと思っていたの?」

彼女はとても、綺麗になった。

「ただいま」

奏の笑みに、気付けば俺は見惚れていた。

「ただいま、あっくん」

……目尻に涙を蓄えながら微笑む奏を見て。

「おかえり。奏」

俺も微笑んだ。

「……っ」

唐突に、俺の胸に衝撃が走った。

気付いたら、感極まった奏が俺の胸に飛び込んでいたのだ。

「……痛い」

「ごめん。ごめん……」

奏が俺の胸に顔を埋めた。

「……あっくん」

そして、囁きかけてきた。

「あっくんは……本当、優しいよね」

俺の胸に顔を埋めたまま、奏は続けた。

「あっくんが優しいから……あたし、君のことを離したくなくなっちゃったんだ」