軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アンデッドグランドドラゴン戦③+???

ダンジョンコアから少し離れた場所で、八咫烏の3人は距離を取りつつ、少しずつではあるが、ダンジョンコアのあるフレームから引き離すことに成功していた。

一方のアンデッドグランドドラゴンにあるのは、目の前の敵を叩き潰すこと、それのみ。

ダンジョンコアの脅威になるもの全て粉砕する、それのみを与えられたアンデッドグランドドラゴンは忠実に実行していく。

西ゲート寄りに誘導されたアンデッドグランドドラゴンは目の前の邪魔な建物に向かって咆哮を放つ。

ビルの壁を複数枚、無造作に砕いて落とすと、そのまま目障りな敵との距離を詰めようとする。

破片が落下する先には、まだ避難中の小さな影が残っていた。

咆哮はそちらに向いていないが、衝撃波の影響範囲内であったため、容赦なく蹴散らしていった。

服部がその瞬間、舌打ちをした。

「上手く気を引いたのはいいが、行動が直線的だな」

服部は構えていた長刀の刃を、肩の高さに戻す。

服部の隣に立つ久遠が、ミスリル小手をまとった両拳を胸の前で軽く打ち合わせて答えた。

「もろアンデッドの性格でてるよねこれ」

2人の背後、街区を1つ挟んだ後方のパビリオン屋上で、東雲がスキルブックの中央ページに指を置いている。

ページは光を増していた。表紙を縁取る銀の刻印が、震えるほど細かく揺れている。

空気が、スキルブックを中心に渦を巻いて、その一点に向かって圧縮されていくのが目に見える。

服部が刃を肩から下ろして、久遠を見た。

「ことね、スイッチでいくぞ」

「あいあいさー」

服部が屋上から空中に身を投げる。

今までと違う軌道だった。

腹下へ向けて、勢いをそのまま落下に乗せて潜り込む。

空中で半回転して、玄之丞の刃を、腹部の鱗へ叩きつけた。

「蜃刀」

刃が伸びて、腹部の鱗を両断し、その下の腐肉まで深く切り裂いた。

今までとは違う竜鱗ごと押し切る重い一撃。

久遠は服部と合わせる形で、上段に飛んだ。

ドラゴンの首の高さを少し上回る位置で、空中に立ち止まったかのように静止する。

ミスリル小手をまとった拳に濃密な魔力を集中させた。

両の拳を頭上で組み合わせ、振りかぶる姿勢のまま、頭頂目がけて落下軌道に入る。

「龍蓋撃!」

組み合わされた拳が、アンデッドグランドドラゴンの頭蓋の頂点にめり込んでいく。

頭が衝撃で深く沈み、鱗の奥で頭蓋骨が鈍く軋む音が周囲に走る。

その魔力を孕んだ打撃の余波が、頭蓋を通して首、そして全身に駆け抜けていった。

服部はその余波を確認して腹下から再度構え直す。

目を閉じ、刀に力を溜め、そして呼吸を整えた。

一方、久遠が撃ち終わった直後、拳と拳を突き鳴らせた。

身に纏ったミスリルの小手に刻まれた術式が、衝撃に呼応するかのように表面に浮き上がる。

それと同時に服部が持つ柄の部分も呼応して術式が浮かび上がった。

「「スイッチ!!」」

一瞬で服部と久遠の位置が入れ変わる。

服部は空中へ、久遠は地面に降り立つとすぐに構えを取った。

服部が空中で柄を両手に握り直し、玄之丞の刃を頭上に高く掲げる。

刃の鎬に、銀の光が一筋走った。

「── 鳳天閃!」

振り下ろされた刃が、龍蓋撃で沈んだ頭蓋の同じ位置を、空から両断するように叩き切る。

久遠の打撃で剝き出しなっていた頭蓋にそのまま斬撃が落ちた直後、盛大に炎が発せられて腐肉が飲まれていく。

ほぼ同時に久遠が地面を蹴り上げ、アンデッドグランドドラゴンの腹に向けて一気に距離を詰めた。

ミスリル小手の両拳を腹の鱗に添えて、腰を深く落とした。

「砕骨魔波!」

拳から放たれた魔力を帯びた波動が腹部から勢いよく浸透する。

直後、服部が蜃刀で裂いた切り口から盛大に腐肉が噴出された。

手応えはお互いに感じていたのだが、やはり違和感だけが残り一旦距離を取った。

「想像以上だな」

「うん。確実にダメージ与えてると思うんだけど」

頭蓋が燃え盛り、腹部からは大量の穢れた肉と体液が噴き出していたが、全く意に介す素振りはみせていない。

「アンデッド化の厄介な部分が思い切り出てるな」

アンデッド化特有の事象として痛覚が無い、破壊衝動に飲まれるということが挙げられるが、通常個体ならば行動できないようにして、あとで肉体を処理すればよかった。

だが、相手は超巨大な元ドラゴン。

元々の防御能力の高さに、ダンジョンボス化したことによるダンジョンからの魔力供給もあってか、ここまで大技を連続で叩きこんでも、今見える程度のダメージしか与えられていなかった。

これを行動不能にするにはどれだけ攻撃を当て続けなければならないのか、そう考えた時。

遠く離れた場所から魔力の高鳴りを感じた。

「おっそ」

「ようやくか」

2人は同時に、後方の東雲へ視線を向けた。

東雲のスキルブックは、ページが完成形に変わっていた。

空気の圧縮が、頂点に達する。

属性紋がページの上で完全に組み上がった。

「詠唱、最終節」

服部と久遠は、ドラゴンの注意を引きつけたまま、退避の予備動作に入る。

2人が、屋根を踏み切って大きく後方に飛んだ。

アンデッドグランドドラゴンと、東雲の間には障害は一切ない。

ページの上の属性紋が、空気を巻き込んで一点に収束しきった。

刻印が走り終え、東雲の指先が、最後のページを軽く撫でる。

「── 終焉、抱いて凍れ。《エクスティンクション・グレイサー》」

空中の収束点から、極寒の白い槍が1本、生まれた。

サイズが異常だった。

アンデッドグランドドラゴンの体長と同じ長さ、首から尾までを一気に貫けるほどの白い氷塊。

《フロスト・スピアズ》の10本が1本に圧縮され、更に色は澄み、巨大化していた。

白い氷塊が、空気を引き裂いて飛ぶ。

その軌跡は白く輝く塵を航跡のように痕を刻み、まるで長い尾のような姿を残していった。

アンデッドグランドドラゴンの首目掛けて駆けて抜けた。

身に纏う魔力の鎧をあっさりと貫通し、首の付け根に直撃した片翼の付け根もろとも、凍結して粉砕した。

アンデッドグランドドラゴンの巨体が、まるで操り人形の糸が切れたかのように、重力に引かれて落下軌道に入る。

周辺環境はまるで極地域のように真っ白に染まった。

周囲の建物の外壁に、白い霜が一斉に走る。

「決まったな」

服部が遠くからつぶやいた。

その時であった。

アンデッドグランドドラゴンの落下が、急激に止まる。

地表に近づいた瞬間、巨体が不自然な形で空中で静止したのだ。

「なんだ?!」

服部はアンデッドグランドドラゴンが落ちる場所に目をやった。

そこにはアンデッドグランドドラゴンの直下、地表に黒い人影が立っているのが見える。

黒い祭服を着て、胸元に銀の逆さ十字を下げている。

そしてその怪しい神父は片手を、軽く上げた。

粉砕されていたはずの首の付け根が、灰色の腐肉を纏い直して、まるで動画の逆再生されるかのように元に戻されていく。

凍結も、粉砕も、東雲の決定打が、巻き戻る。

この地獄の極致の夜で、アンデッドグランドドラゴンの膨大な魔力が、再び周囲を侵食していった。

神父は顔を上げて、屋上の東雲の方を見ると、低く落ち着いた声で言った。

「こちらにも予定というものがあるのでな」

服部の構えが止まる。

久遠も同様に動きを止めた。

東雲は次の詠唱に入りかけた指を、ページの上で止めたまま、動かない。

世界が止まる。

ただ、アンデッドグランドドラゴンの肉体が再び元に戻るその音だけが、止まった時の中で静かに残っていた。