軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

保護幼体考察

机の上に、昨日の探索で持ち帰ったものがそのまま並んでいた。

旧式封印箱の外装、保管袋に入れた触媒片×3、月次記録用のメモ。

メモには保護幼体の反応について数行だけ書いてある。

『B4F北側・封印箱方向に反応。殻の光・頭の向き・短い音』

保護容器を確認すると、保護幼体は底のほうで動かない。

殻の内側の光は薄く、安定している。

前日より少し落ち着いた印象はあるがそれが回復によるものか、環境に慣れてきただけかは、まだ判断できない。

動かない殻を見下ろしながら、これまでに保護幼体が見せた反応を頭の中で並べてみた。

はっきりした動きが出たのは2回だった。

1回目は横浜からの帰り道、バッグの中の何かに向けて。

2回目は品川B4Fで、壁の中の封印箱に向けて。

どちらも封印が絡んでいたが、まだ2件しかない。

条件が揃っているかどうかも、偶然でないかどうかも今の段階では言えなかった。

もう1回、こちらから条件を揃えて確かめる必要があった。

手元から4点を選んで机に並べてみる。

封印に関係するもの2点と、比較用に関係しないもの2点だ。

封印系は旧式封印筒の触媒片と、昨日の封印箱から出た触媒片。

比較用は精製済みの魔力結晶片と、品川で拾った素材価値なしの金属片にした。

最初に魔力結晶片と金属片を順に保護容器の前へ近づけた。

どちらも1分ほど様子を見たが、保護幼体は動かず殻の光も変わらない。

次に封印系の2点を順に試した。

旧式封印筒の触媒片を近づけると、殻の内側の光が一段強くなり、幼体の頭が触媒片の方向へ向いた。

短い音が一度出た後に触媒片を遠ざけると、光は元の薄さに戻った。

昨日の封印箱の触媒片でも同じことをして、同じ反応が出た。

封印系の2点には反応し、比較用の2点には反応しなかった。

メモに追記した。

『4回目確認。封印・術式保存された物への反応性、高い可能性あり。非封印物には反応なし』

封印や術式が保存された物に感応している可能性が高い、というところまでは言えそうだった。

ただし4回ではまだ確定ではない。条件をもっと変えれば別の傾向が出るかもしれない。

メモを閉じて、保護容器の蓋を確認した。

保護幼体は底でまた動かなくなっている。

今日の検証はここまでにすることにした。

この後に27回目の配信アーカイブを少し確認すると、保護幼体が映った場面の前後にコメントが集中していた。

『あの小さいの何だったんだ』

『回収屋の相棒みたいで草』

『あれが反応してたよな だから壁に気づいたのか』

『許可取ってるなら問題ないか』

スレも確認すると『許可証持ちの保護幼体』という題のスレが1本立っていたが、投稿数はまだ少ない。

『管理局の認可物だろ』『詳細は不明だが問題ない枠』『あの反応、使えるんじゃないか』というのが大体の書き込み内容だった。

特に気にするほどの内容ではなかったが、見え方が少し変わり始めているような気がする。

回収屋と幼体という組み合わせは、これまでとは別の枠で見られ始めていた。

夜、品川第七ふ頭ダンジョンでの28回目の配信を入れた。

携行ケースに保護幼体を入れて腰に取り付ける。

証明書を提示して、いつものように配信を始めた。

「お疲れ様です。今回も前回同様に、品川のB4Fを回りたいと思います」

『あの子またいる?』

『今日も一緒か』

『定番になってきた』

「前回からこの保護幼体も同行しています。管理局の許可を取った保護対象で、ダンジョン由来の生き物です。危険はないです」

コメントが少し増えた。

『ちゃんと許可あるのか』

『なんの生き物?』

『名前はあるの』

「種別は潮晶殻獣の幼体です。名前はまだ付けていません。仮同行の登録上は、管理番号で扱われています」

コメントが続けて動いた。

『管理番号って』

『役所っぽい』

『でも公的扱いってことか』

「正式な扱いが固まるまでは、こちらで名前を付ける段階ではないんですよね。いまはこちらで保護していますが、今後も同じように保護し続けられるかはわかりませんし」

切りの良い所で話を切って、そのままダンジョンの奥へと進んだ。

途中で腰の携行ケースの位置を一度確かめると、蓋の隙間から青灰色の殻が見えていた。

B4Fは前回と変わってはいない。

床に段差が多く、壁際には古い回収の痕跡が残っている。

周囲を確認しながら、時折腰の携行ケースに目を落とした。

反応があれば音か光で分かるが、今日はしばらく何も出てこなかった。

通路の中ほどで、壁際の床に旧式の封緘袋が落ちているのを見つけ、近寄ってみる。

確認すると中身が残っており、鑑定を向けると、劣化した術式残材が2点、合わせて1万2千円前後の結果が出た。

それらを回収して先へ進んだ。

保護幼体は携行ケースの中でほとんど動かなかった。

封印に関わるものには行き当たらなかった以上、反応が出ないのは想定内ともいえる。

「今日はこの辺で終わります。大きいものは出ませんでしたが、こういう日もあります」

そう言い終わると配信を閉じた。

配信終了後に、鷹坂からメッセージが届いた。

『確認したいことがあります。クランが回収した旧式の封印保管庫なんですが、中身の査定をお願いできますか。どうも開け方を間違えると内部が傷む構造になっていて、うちでは判断が難しい状態です。鑑定士の目で見てもらえると助かります』

『旧式封印保管庫』という言葉を見た瞬間、今日の検証結果と保護幼体のこれまでの反応が、頭の中で自然に重なった。

「連れていくのも悪くないかも」

封印系への感応性が本物なら、保管庫の現場ほど条件の揃う場所もない。

とりあえず鷹坂へメッセージを返す。

『承知しました。伺う日時を調整させてください』

次は、この保護幼体を封印だらけの場所へ連れていこうと思う。