軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21_逃避行の末に出した答え

自分の素性をついにエルゼに打ち明けた。緊張で口の中は乾き、手足が小刻みに震えている。ふわふわとした心地で、自分がここに立っているという感覚さえはっきりしない。

(エルゼの顔……見られない。怒っている? それとも呆れている?)

ノルティマは俯いたまま唇をきゅっと引き結んだ。

「ノルティマ、」

「ごめんなさい! 本当はもっと早くに言うつもりだったの。でも、なかなか言い出せないまま時間だけが過ぎてしまって……。ずっと親切にしていてくれたのに、騙していてごめんなさい。あなたに嫌われたくなくて……っ」

「ノルティマ、俺の話を聞いて、」

「許してほしいなんて言わないわ。軽蔑されたならそれでいい。この大宮殿から出て行くし、二度と顔を見たくないと言うならそうするわ。どの道、私は母国に戻らなくてはならないから、あなたの目の前から消える。だから――」

だから本当に、ごめんなさい。じわりと目に涙を滲ませながらそう伝えようとしたとき、エルゼはノルティマのことを掻き抱いていた。

胸の鼓動や体温が伝わってくる。子どものような姿ではあるが、その胸はたくましくて、ノルティマに安らぎを与えた。湖の中から救ってくれたときと同じ心地良さに包まれる。

「大丈夫だから、落ち着いて。ノルティマ。俺はあなたを嫌いになったりなどしない」

「……」

「知っていたよ。あなたが――ベルナール王国の王太女だってこと」

「……! う、嘘………」

「本当だ」

彼の腕の中で、目を見開く。エルザはそのまま囁くように続けた。

「もうとうの昔に、アントワール王家を恨む気持ちは癒えている。それに、先祖の罪とあなた自身は無関係だ。あなたがどんな生まれであろうと、どんな過去があろうと、嫌いにはならない」

「…………っ」

エルザの言葉に安心して、ぼろぼろと大粒の涙を零す。

よかった、この人に嫌われなくて本当によかったと思いながら。

彼はそんなノルティマの頬に手を添えて、きわめて優しい手つきで涙を拭う。彼の手の温もりがあまりに心地よくて、さらにノルティマの目頭を熱くさせた。

ひとしきり泣いたあとで、エルゼが言う。

「あなたがリノール湖で倒れていた理由も……うすうす気づいていた。王室にあなたを追い詰めた人間がいたんだろう。だからあなたをベルナール王国へ行かせたくない。どうして戻るなんて言うの?」

「アントワール王家は精霊の呪いを受けているの。王家の純血である者が、慰霊碑に祈りを毎日捧げなければ――雨が降らない。そして礼拝には……壮絶な苦痛が伴う。私は王太女に即位してから、欠かすことなく礼拝をしてきたわ。幼かった私には過ぎた試練だった」

それが、長らく秘密のベールに包まれていた呪いの真実なのだと打ち明けると、エルゼはこれまでのノルティマが味わってきたであろう苦痛を想像し、眉を曇らせた。

だったらなおさら行かせられないと頑ななエルゼに対して、ノルティマは首を横に振る。

「私はもう逃げるだけ逃げたわ。泣いて、悲しんで、これまでほったらかしにしてきた自分の感情に寄り添うことができた。そして気づいたの。自分の感情に寄り添いつつも、ちゃんと問題に向き合わなくちゃって」

「だが、あなたが犠牲になるやり方では、同じことを繰り返すだけだ。同じ悲劇を、未来永劫繰り返すつもりか?」

アントワール王家が存続する限り、この呪いに終わりはない。

だが、他の政務に関しては代わりがいたとしても、礼拝だけは代わりがいない。エスターは全くあてにならないし、女王も礼拝に行けば政務に手をつけられなくなる。

「やりたくないことからなんでもかんでも逃げれば良いというものではないわ。痛いのも苦しいのも大嫌い。でも、それで無実の人が苦しむのはもっと嫌。だから、私の意思でもう一度ベルナール王国に戻るわ。今までは人に尽くすばかりだったけれど、自分勝手に生きるばかりでもだめだと気づいたの。自分のことを大切にするのと同じように、他の人のことも大切にしたいの」

先ほど、気の良い中年女性からもらった飴をぎゅっと握り締める。

この国の人たちがノルティマに親切にしてくれたように、ノルティマが知らないだけで、母国の民の中にも優しい心を持った人たちが大勢いるはずだから。不条理に苦しむのは、自分だけでもう散々だ。

それとエルゼは、困ったように眉尻を下げる。

「……あなたは優しい人だ。あなたの言う通り、自分と他人、どちらかのために尽くすだけでは不調和が起こる。偏りのない思いやりの心を持つことで、初めて物事が調和しスムーズに進んでいくものだ。だが――重要なことを忘れていないか?」

「重要なこと……?」

「誰かを頼ることだ。あなたはひとりではないのだから」

「!」

まっすぐに告げられた言葉に、鼻の奥がつんと痛くなる。

(そっか。私はもう……ひとりでなんでも抱えなくていいのね。この人なら、甘えてもいいんだ……)

彼は穏やかに微笑みながら続ける。

「今度は違う角度からこの問題に向き合ってみよう。生贄のような礼拝ではなく、違う方法で怒りを鎮められないかとかね。例えばこの――元精霊王の力を利用して」

彼は偉大な力を持つ水の精霊国の元王。精霊たちと意思疎通を図り、悪霊を浄化することに長けている。

エルゼは自分の胸に手を当てながら、きまりよく言った。

「俺がその慰霊碑とやらに行って、精霊たちと直接交渉をしよう」