軽量なろうリーダー

どうしましょう殿下

作者: are2019

本文

晴天に恵まれ、花が咲き誇り、春うららかな学園の庭。

綺麗な水を流す噴水の縁に、金髪の女生徒が座っていた。

美しい庭に負けない、上品さと麗しさを兼ね備えた少女が噴水の縁に座っている様は、絵画を思わせる程、様になっていた。

そこに、似つかわしくない男性の鋭い声が響く。

「リリア!ここにいたか!貴様またマリアに嫌がらせをしたそうだな!今日という今日は許さん!」

「クリス様、あのっ、そんなに責めないであげて下さい…」

鋭い詰問を始めたこの国の王子を止めようと、桃色の髪をした可愛らしい少女がオロオロと声をかけるが、更に大声が辺りに響く。

「マリアの揚げ足を取ってチクチク嫌がらせをしたそうだな!公爵令嬢として恥ずかしくないのか!!」

響き渡る詰問に、昼休憩をしていた生徒達も目を向け、にわかに空気が緊迫する。

しかし、当の詰問された少女は、声をかけられても無視をし、ただ座っている。その様子に、クリスの眉間にシワが寄り、さらに空気が悪くなる。

「なんとか言ったらどうだ!!お前はいつも細かくてどうでもいい事をグチグチと言いつのる!!!それなのに今日はダンマリか!」

「クリス様、リリアさんをそんなに責めないで下さい。私が悪いんです」

「ああ、マリア。君は優しいな。こんな女とは大違いだ」

「どうしましょう、殿下」

クリスとマリアが見つめ合い、声が途絶えたタイミングで公爵令嬢リリアーナ・サンフラヌはほうっと息を吐いてつぶやく。

その視線は忘我とし、どこともなく向けられている。

さっきからずっと、リリアーナはぼんやりと座っていたのだ。

ようやく相手の様子がおかしい事にクリスは気がつく。

そう、いつもならとっくにリリアーナは反論し、怒気をみなぎらせた顔を向けているはずである。

それがまったくこちらに視線を向けず、ただ庭の花を眺めているだけだ。

「…どうしましょうとは、なんだ。反省する気になったのか?」

かけられた声にやはり目を向けず、リリアーナは視線を下にやり、淑女としてあるまじき事に指を重ねてもじもじし始めた。

心なしか顔が赤い。

「…求婚されたんです」

「…はぁ?」

クリスは何を言っているんだコイツは?と言いかけたが、あまりに普段と違う様子に一応続きを聞く気になってしまった。

「誰に」

「覚えていらっしゃるかどうか…昔、殿下にお目通りさせた事もある、我が家の陪臣のトニーでして…。色黒で黒髪の…」

「えー!幼馴染って事ですか!なんだか素敵ですね!クリス様、覚えてるんですか!?」

さっきまでの緊迫した空気をぶった切ってマリアが話に乗ってきた。

「ん?んー。ひょっとして私が剣の稽古をつけてやった奴か?チビで鈍臭い。お似合いじゃないか」

「はい。そのトニーです」

クリスの嫌味も通じず、相変わらず視線も合わせずボンヤリとリリアーナは頷いた。

「クリス様、剣の稽古をつけてあげたなんてお優しいんですね」

「ふん。私に楯突いたからちょっと小突いてやっただけだ。今なら不敬罪だが、当時は子供だったからな。…求婚されたからなんだ?私とお前の婚約は陪臣に求婚されたからと何か変わる訳ではないだろう。忌々しい事だが」

当たり前のことを指摘されたリリアーナは両手を頬に当てるといやいやと首を振った。淑女にあるまじき振る舞いが続き、若干クリスが引く。こんな女だったか?

「それが…昔から私の事を諦めきれないと、武勇で有名な辺境伯に弟子入りし、認められ、養子にまでなっていたそうで…」

話の飛躍具合にマリアとクリスが目をシパシパさせてつい聞き入ってしまう。

「この前、国境線の砦が陥落し、電撃的にカンツァーの街まで迫っていた敵軍を将として蹴散らして功績をあげ…」

「ちょっと待て」

聞き捨てならない情報が現れ、クリスが止める。リリアーナは特に逆らいもせず、はい。と応える。

「カンツァーの街に敵軍が迫っていた?聞いていないぞ?貴様の妄想か?」

「恐れながら殿下、その頃殿下とマリアさんはお二人でご旅行中でしたから…。まぁカンツァーは無事だったので大したお話ではありません」

にっこりと微笑むリリアーナにクリスは今度こそ引いた。

マリアは不思議そうな顔をしているが、クリスには分かる。カンツァーの街が落ちていたら次は王都が危険だったのだ。国が滅ぶかどうかの瀬戸際の話は本当であり、そしてリリアーナが、公爵令嬢で厳しい教育を受けていたリリアーナが!大した話ではありません。などと!本気で言っているのも感じたのだ!

「あ〜…大した話じゃないなら、その大した話はなんだ?」

「はい。トニー様は多大なる功績をあげた褒賞に、私に求婚する権利を陛下にお願いされたのです。それに激怒した父がトニー様に決闘を申しんで…」

「…」

情報量が多い。

クリスが処理しきる前にリリアーナは続ける。

「トニー様は決闘をお受けになって勝利しました。あくまで褒賞は求婚する権利だと、貴女の意思で私に嫁いで欲しい。と言われました」

キャッ!と声が聞こえそうな所作でリリアーナが顔を覆う。耳は真っ赤だった。

「…」

いつも良くしゃべるマリアも何を言えばいいのか迷っているのか沈黙している。

「…。その話、聞いて、ないんだが…」

若干震える声になりつつあるクリスに、

はい。と恥ずかしそうにリリアーナは頷く。

「殿下はご旅行中でしたから…王妃殿下が王都陥落の危険性が高いからと避難させてさしあげていたそうですよ?」

続けて投下された爆弾情報にクリスは青ざめる。クリスの敵派閥にとっては国難の時に不在であったと、格好の批判材料である。というか我が国が本当の本当に滅びる間際だったという事では…

しかしマリアは王妃殿下に気を遣って貰った!としか認識していないのか目を輝かせた。

「わー!で、どうするんですか?リリアーナ様!お受けするんですか?!」

マリアの言葉にリリアーナの顔がこれ以上ないほどに真っ赤になった。

「その、お受けしようかと…」

「ええー、素敵!じゃあ結婚したら田舎…じゃなかった辺境へ?」

「ええ。あの人とならどこへでも行けるわ」

きゃあきゃあと女性同士のかしましい声が辺りに響く。

赤らむリリアーナの顔と反比例してクリスの顔は更に青くなって行く。

「ちょっと待て、私達の婚約は…」

「解消になります。戦後処理が落ち着き次第、正式な連絡が来るのではないのでしょうか?」

「いや、ちょっ」

「ええ〜やったぁクリス様!これで婚約出来ますね!私達!」

「はい。私は今日で学園を退学して辺境へ参ります。今までわずらわせて悪かったわマリアさん。思えばマリアさんに注意する必要もなかったわね」

「いいんですよぉ〜リリアーナさんも大変でしたね!お幸せに!」

「いや、マリア、君の家は男爵なので婚約は」

「殿下」

喜び勇んでいるマリアになんとか声をかけたクリスに、リリアーナが今まで見せたこともない美しい微笑みを見せる。

その美しさに一瞬クリスは見惚れた。

「真実の愛って、いいものですね」

「えっ」

「殿下がよく真実の愛っておっしゃっていた意味が良く分かりました。マリアさんと末永くお幸せに」

本当に幸せそうに去っていく元婚約者に、クリスは何もかける言葉を思いつかなかった。