軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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一度執務室に戻って、統括侍女さまに今からご報告があります、と召使に先ぶれをしてもらった。

あの人、結構細かいことに厳しいタイプだからこういうのがないと叱責がね、どうしてもね……。いや、私がグズグズとどのタイミングでお話に行こうかと悩んだからいけないし、思い立ったが吉日とばかりに行動しちゃったのがアレだという点は反省しています。

統括侍女さまのオーケーが出るのを待ちつつ、何を話すのか時系列ごとに聞いた話を頭の中でまとめてみましょう。

まず、エーレンさんの私への態度は『ミュリエッタ』という少女が元であること。

ミュリエッタは辺境で暮らしていた際に出会った、今回の『英雄』となった冒険者の娘であること。

まるで予知能力があるかの如くエーレンさんの未来を言い当てたこと。

そしてその未来の中で王女宮の人間が意地悪だという風に言っていたから私が彼女に嫌がらせをするのだと信じていたこと。今はそれが誤解だと理解し、謝罪をしてくれたので受け入れたこと。

ミュリエッタのことを口外しないよう伝えたが、暴力的だと聞いていたので近衛騎士に同行してもらったからこの話は聞かれているのでもう近衛隊長には話が行ったはずであること。

そしてその近衛騎士はアルダールであること。

うん、こんなもんだろう!

私の考えを聞かれたら「本当に予知能力があるのかどうかは不明だが注意すべきだと思われる」で通せば大丈夫でしょう!

実際何が目的かわからない、というのが怖いですからね……ゲーム展開通りに物事が進むと信じているお花畑な考えの女性だったなら、恐らくエーレンさんを味方に引き込むなどの裏工作的なことはしないと思いますし……それに冒険者である父親と『一緒に』巨大モンスターを倒すこともないでしょう。

そこに協力しなくたってゲーム展開は必ず訪れる! と信じていたわけじゃなく、恐らくですがこの世界の現実を【現実】として、私がそう受け止めたように彼女もまた受け止めたのではないでしょうか?

まあ、あくまで憶測でしかありませんが。

結局のところ、私としてはプリメラさまに害が及ばなければ特に気にするところではないんですがそこのところが不明瞭です。

あちらが味方を用意して王城生活を送りたいと思っているならば、こちらだってそれ相応の準備だけでもしておきたいですよね。

実際、訪れた統括侍女さまの部屋で先程まとめた報告をしたところ厳かに頷かれました。

「よくわかりました。しかし案ずるには及びません」

「え? と、おっしゃいますと?」

「元より英雄殿はうだつの上がらぬ冒険者であったのに、娘が言葉を喋るようになってから頭角を現した報告が過去に上がっていたようです。それ故どのような経緯であれ、急激な変化……国にとって有益となるか否かを見定めるために冒険者ギルドに働きかけ、ある程度彼らの行動を把握していたのです」

えーと。

つまり、ミュリエッタが父親に何かしら行動をかけていたってことはモロバレで、隙あらばスカウト対象だったってこと……かな!

まあ国の為に尽力してくれれば御の字、してくれなくても監視下に置けたら……くらいの考えかもしれない。そして、万が一敵対するとなれば容赦はしないってことなのでしょう。あら怖い!

「特に娘の方とやらは賢く魔法も使えるとか。もしやすれば精霊の導きを得て、そのような予言めいたことをしているのでは……と予想がされています。勿論、そなたが言うように多くの者が知るべきではない案件でした。ですので口外無用としたことは褒めましょう」

「ありがとうございます」

うわああ、やっぱり唐突に巨大モンスターを倒した英雄誕生! という楽観視を上の人たちはしてなかったんだね!!

結構物語の英雄譚とかだとこういうのを自然に受け入れて民が万歳、国王が賞賛、綺麗な王女さまとか女神さまが現れて……とかな展開になるけど現実はやっぱりこういうシビアな面を突きつけられるものです。

しっかしまあ、どこの国でも実力者とかの存在には目をつけているとは聞いたことがあったけど、どこでどうなってるかわかったもんじゃないなー……怖いなあ!

「近衛隊長もこの事はご存知ですし、陛下の身辺警護も抜かりはありません」

「それを聞いて安心いたしました」

特に心配してないけどな! とは口が裂けても言わないよ!!

まあじゃあ私が根回ししなくても大丈夫だったってことは確かですね。

王弟殿下とか王太后さまに相談するまでもないのかな……いや、一応お話だけでも……。

「しかし、王女殿下に対しそのように思っているというのであればそなたが案ずるのも無理はありません。誰にも聞かれていないと思っていたとしても不敬罪には違いありません。とはいえ、我らが直に耳にしたわけではないことを咎めの対象としては越権行為も甚だしい暴挙となりましょう」

「はい」

「これは確定事項として知っておくように。生誕祭の後に冒険者父娘が王城に招かれるのは事実ですが、此度の褒賞で叙勲は父親のみとなり、一足飛びで男爵位を陛下はお与えになるおつもりです。そして城下の町屋敷の中でも簡素なものをひとつお与えになるでしょう」

「……!!」

貴族たちが議会やら役職関係で登城するため城下に滞在する必要があるんですが、その為に持つ家の事ですね。貴族区画とあだ名されて城下でも王城にほど近い一等地にあるんですけれども、結果として国中の上流階級が集うのですから、社交も当然盛んになります。

その時住むのが、町屋敷。各領地とは違って土地が限られるため、狭さを階数の高さで補ったりする様式が多いですがやはり上位貴族ともなると普通に庭つきの館ですよ。

ちなみにファンディッド子爵家も一応町屋敷を持っておりますとも、ええ、まあ領地持ちですから。

ただ、管理人もいないような小さな、本当に小さくてお恥ずかしいほどに小さな一軒家です。

屋敷とかじゃないの。一般家庭の一軒家サイズなの。勿論時々人を雇って清掃はしてますけど……。領地の財布事情で管理人も置けないというのは貴族としては恥ずかしいことなんですけど実は割と多いと思います。

話がずれましたが、恐らくミュリエッタ父娘はファンディッドが所有している町屋敷と大差ない小さなものが与えられるんでしょうね。当面の所人を雇うほど余裕があるとは思えませんし……。

でもそれを国が与える、というのがすごい事ですよ。

基本的には国に許可を得て貴族街に居を構えるというのが決まりですからね。それを陛下自らが住まうようにとお世話してくださるというのはどれほどの栄誉でしょうか!

そのくらい囲みこみたい、もしくは見てるぞ、という意思表示でしょうか……。

私がその立場だったら怖くて竦みあがった上に胃がきりきり痛みそうです。

「そして娘のためにドレスを何着か与え、家庭教師を派遣し、令嬢教育を受けさせて定期的に王城内でテストを行う予定です。その際には厳しく教育がなされることでしょう。それによりその娘が不敬罪を改めるか否かで今後が決まるものと考えなさい」

「……その娘は魔法を良く使うということですが、どのような将来を送るのでしょうか」

「冒険者が騎士になれるとは思いません。あっても一握りの事でしょう。ましてや平民から貴族、それも国王陛下が直に与えた館まで持つという贅沢を覚えた小娘が、どこまで芯を通すのか……そもそも芯があるのかもわからぬ状況です」

くっと笑みを浮かべた統括侍女さまのそれはちょっと冷たくて怖い感じです。

あれ? なんかすでに勇者父娘って持て囃されてるのに直に見る前に嫌っている感じがぷんぷんするんですがなんででしょうか……。

打診の際にでも何かあったんでしょうか。怖くて聞ける雰囲気ではありませんが。

「令嬢としての地位を与え、クーラウム貴族に属するものとしてそれに恥じぬ所作を身に付けてもらうことで様子を見ます」

「どこかの宮に見習いとして配属することはございますか?」

「ありません。どこまで基礎があるかも不明ですし、何より当面は『英雄の娘』という名ばかりが先立っていずこのサロンも、噂好きの貴族も放っておかないでしょう」

ふーむ、家庭教師の派遣というのはゲームにはなかったけどその方が自然だよね。

テストは王城で受けるっていうのも社交界に出して平気かどうかっていうのを複数人に見せて合格点を出してもらえるかってことなんだろうし。

その際には厳しくって言っていることを考えるとやっぱり生まれながらに教育される人の経験を一気に学ぶってのがどれほど大変なことかってのが偲ばれるよね。

でも主人公補正とかで軽くこなしちゃう可能性もあるのかな? そうだとやっぱり展開そのものは大きく外れないのかな?

「生誕祭は恙なく行われなければなりません。国の行く末に翳りがあってはならぬのです」

「はい」

「……もしそなたがその英雄の娘に対し心配で仕方ないというのであれば、当日のパーティは令嬢として参加してみてはどうです? 使用人という立場では話もできないでしょうが、令嬢として参加するならば……」

「……それは……」

「いえ、そこは自由にするが良いでしょう。筆頭侍女としての立場もあるのですから」

「はい」

ちょっと魅力的なお話ではあるよね。

直接言葉を交わしたらわかることだってあるかもしれないし……いや、でも不用意に接触することが良いとも言えないよね。うーん、何が良いのかわからない!!

それに、生誕祭のプリメラさまの準備とかもあるし。

そこはやっぱりきちんと、王女宮の筆頭侍女っていう立場を全うしたいよね。ちょっとした興味本位で行動していては規範にならないと思うし、私自身もプリメラさまのお役に立ちたいと思っているんだから。

勿論、ヒロインを警戒するのは大事なことだけど、職務を投げ出してまで……って程じゃない。

「それにしても、報告があると言うからもっと別な事柄かと思っておりましたのに」

「え?」

「近衛騎士のアルダール・サウル・フォン・バウム殿とお付き合いしているそうですね。ですから婚儀の報告かとばかり……」

「えええ?!」

どうして知ってるの?!

っていうか何故に婚儀?! そんな話題までまだ達していないっていうか手を繋ぐので精一杯っていうか名前も呼べない私のチキンハートでごめんなさいという状況です、はい、ごめんなさい!!

残念そうに溜息までつかれちゃったけど、最終的には「騎士と侍女という立場を忘れたりモラルのない行動は控えるように」というご忠告をいただいて退出しました。

退出した私は、動揺が収まらずに廊下で何度も転びかけたけれど……誰にも見られてないと、いいなあ……。