軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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エーレンさんは辺境に戻されないかとずっと心配していましたが、何度も大丈夫だと繰り返すうちに落ち着いたようで小さな声で話し始めました。

一体どれだけ辺境の暮らしが辛かったんでしょうか? メッタボンの冒険者時代の話を聞いた時にはそこまで酷いことを目にしたなどということはなかったんですが……いえ、彼が気を遣って楽しめる話だけを聞かせてくれた可能性もありますけど。

「ミュリエッタという人と貴女はどういう知り合いなんですか?」

「今回の討伐で活躍したっていう冒険者の娘よ。あの子に初めて会ったのは、アタシが子供の頃だったわ。アタシよりもいくつか年下で……あの子は村の子供の誰とも違った。魔法を自在に操って、大人も知らないような事を言ったり、計算して見せたり……そんな彼女はアタシがいずれ王城で働けるようになるって言ったの。そんな馬鹿なって思ったわよ、だってその時のアタシは薄汚れて、字も書けないような子供だったから」

この世界、識字率は高いはずですがエーレンさんはそうでなかったというならば相当生活に困窮していたに違いありません。前世のような義務教育などは存在しませんが、国の補助金を受けた青空教室のようなものは存在していたはずですが……それすら受けれなかったということなのでしょうから。

いえ、もしかすれば彼女が言う「辺境移民への差別」の所為なのでしょうか? 闇が深いですね。

そして四則演算レベルになると途端に教養レベルが上がる扱いだったので、ミュリエッタという少女がそれをやってのけたことは(できていたかどうかは今となっては判別できないそうですが)それはそれは神がかった少女に見えたんだそうです。

そしてそんな彼女からエーレンさんは文字や言葉遣いを教わったんだそうです。その後その美貌から辺境伯の館で下女として雇われ、下女としては聡明だとメイドとして引き上げられ、そして今に至るんだと……。

「あの子がいたからアタシはここまでこれた。あの子が言ったことは本当になった。王城に勤められて、護衛騎士の男性に求婚もされた。モンスターの出現だってそうだった! ……でも、王女さまは意地悪でも太ってもいなかったわ。あの子の予知は完璧じゃないんだわ。ねえ、じゃあアタシは辺境に戻されたりなんかしないの?!」

(んんんん?!)

私はミュリエッタをゲームプレイヤーであり転生者である、と仮定しましたがそれにしても妙です。

いえ、外れてはいないはずです。だってプリメラさまのことを「太って意地悪」とエーレンさんに語っていたならば、それはあの【ゲーム】の中の設定ですからね。

でも疑問が増えてしまいました。

何故『ミュリエッタ』はエーレンさんに声を掛けたのか?

そして護衛騎士に求婚される……だなんて本当に未来が見えるのでしょうか?

もしかして私が思っている【ゲーム】とその『ミュリエッタ』がプレイしたゲームは別物とか?

ああ、わからないことが増えてしまいました!!

とりあえず分かったことは、例の『ミュリエッタ』はエーレンさんに対して幾つか助言をし、そして導いたようです。時々は手紙も届いたそうですが、旅をしているから返信はしなくていいといつも記されていたんだとか……あれ、胡散臭くないそれ。

元々のミュリエッタがしたという『予言』は要約したらこんな感じでしょうか。

エーレンさんは王城に下女として入ってメイドまで昇格する……が、ミュリエッタの教えを受けたら侍女にだってなれる。そして王城では護衛騎士に求婚されるからそれは迷わず受けた方が良い。

プリメラ王女は意地が悪く太っていて、綺麗な女に厳しく当たってくるはずだから気をつけるように。下手したら辺境に追い返される。彼女の取り巻きも同様。避けた方がいい。

後、宰相閣下の所にいる白い少年にも気をつけた方がいい。やっぱり避けるのが一番。

そしていずれ巨大モンスターが現れて自分と父親が退治し、国王に評価してもらえるはずだからその時に王城内で味方になって欲しい。

勿論予知能力なんて知られると会いに来るのも難しくなるから誰にも内緒だよ! じゃないと辺境で一生を終えることになるからね!!

……ということですが……うん、超! 具体的だね!! そして最後のはもう脅しじゃないかな?!

まあ、うん。物は考えようか。結果としてエーレンさんは学を得て成り上がりに成功したんだから良いことですよね。何事も始まりはともかく、学ぶ姿勢があったということは評価に値するんですから。

でも、これでミュリエッタは結構未来を見据えて行動している気がしますね。エーレンさんに恩を売り、王城に勤めさせていずれ自分が行った後の味方を作るとは……。

それに、巨大モンスターが退治されたのって『冒険者親子』とかってハナシでしたね。ゲームでは冒険者だけだったはずなのに……ってことはやっぱりシナリオとちょっとだけ違うってことなんでしょう。ヒロインとしてのステータスを子供の頃から自分なりに高めてより自分に有利に物事を運ぼうとしている……と考えるのが妥当かしら。

でもそうすることでシナリオと違う展開が起こり得ると感じているはずですが、一体『ミュリエッタ』の目的は何なのでしょうか?

それと宰相閣下の所の白い少年って……クリストファのことでしょうね。あの子が一体なんだというのでしょう。

とりあえずエーレンさんにはミュリエッタという少女について口外しないように伝えて、辺境に戻す予定はないこと、ここで反省をきちんとして事情聴取などに協力的な態度をとればきっと侍女を辞さなくて済むことを繰り返し伝えました。

ようやく彼女も落ち着いてくれたようでわかってくれたので一安心ですね。

結局エーレンさんとお別れした時にはずいぶん時間が経っていて、私はどっと疲れてしまいましたがまあしょうがないですよね。少なくとも彼女が落ち着いてくれたなら、まあ結果的に良かったんじゃないでしょうか。

これで外宮筆頭の白髪と皺が増えるのを止めたんだと思えば、ある意味私は彼女の恩人ですからね!

いえ。勿論これ、口に出して言えるはずがありませんからね! 女性に白髪と皺を指摘してはデリカシーの欠如と言われたっておかしくないからね。

そんなこと言う訳ないじゃないですかー、やだなーもー!

それにしても……ミュリエッタという少女が記憶ありの転生者ヒロインである線が濃厚になったというより確定ということがわかったのは良かった、と思いますが……。

(……わからないことが多すぎる。でも『ミュリエッタ』はプリメラさまを悪役令嬢だと思っていて、だから王女に関わると辺境に戻されちゃうぞと脅していた……じゃあ何のために?)

「ユリア」

(予知めいた発言はどこの誰にまで言っていたのかしら。噂にもならないってことはあまり広めてはいないと考えていいのよね、でもじゃあ何のためにエーレンさんにそんな話を……ああ、でも口止めをしていたってことは危険性もしっかり考えているってことなんでしょうね)

「ユリア!」

「えっ、あ、ああ。はい!」

いけない、考え事に没頭しすぎました!

内容が内容だったからでしょう、アルダールも騎士棟を出て私の執務室につくまで何も言わないでくれましたが……やっぱりそりゃ聞きたいことがあるでしょう。

とはいえ、前世の記憶があるとかゲームがとか説明できるはずもないんですが……。

「あ、えーと……あの、一緒に話を聞きに行ってくださってありがとうございました。……聞きたいことがあるんですよね?」

「そうだね。とりあえず、執務室に人は来ないのかな。話していて大丈夫?」

「ええ、この時間帯でしたら多分。大声で話さなければ内容も筒抜けにはならないと思いますし……」

流石に筆頭侍女の執務室兼私室です。

防音性にも優れてますし、ドアに鍵だってかけれますから。

一応鍵をかけて、お茶を出してから私はアルダールと向かい合わせになるようにソファに腰掛けました。

「――……それで、君はあの話をどうして内密にするように言ったのかな」

「別段報告をしないわけではありません。ただ、広めるのは得策ではないと思ったから……」

「どうして?」

「エーレンさんは予知だと信じていたけれど、そんな能力があるんだったらとっくの昔に父親だという冒険者をもっと上の地位に押し上げられたんじゃないかなと思ったんです」

うん、まあ。ゲームの記憶があるからって言えるわけもない。

でも普通に考えると予知があったんなら“ただの”冒険者を“一流”にすることだってもっと早くにできたんじゃないかなーって単純に思えたんだよね。一流冒険者が巨大モンスターを倒したって言うんなら周囲は「あの冒険者なら納得できる」みたいな雰囲気になったんでしょうけど今回の周囲の反応を考えるに、聞いたこともない冒険者だったからこその衝撃があったみたいですから。ってことは、彼女の父親という冒険者は今のところそういう立ち位置なんだろうなというあくまで予測ですね。

まあ、実際にはゲーム知識だからゲーム開始時期まであんまり『ミュリエッタ』にも情報がなかったからその存在を知られることはなかった……ってところだと思うんだけど。

「じゃあユリアもどこかの間諜だという疑惑を?」

「まあ、そうなりますよね……アルダールさまはそう考えているんですか?」

「……まあ、ね。何故王女殿下のことをあのように言ったのかが納得はできないけれど……普通はモンスターの出現なんて予想できるものじゃない。実際に予知だったならば、昨年だって災害などがあったんだからそれを未然に防ぐために行動をしていてもいいと思うんだ」

「何故、今年の巨大モンスターを倒す時にのみ現れたのか……という疑問は出ますからね」

名もなき冒険者の娘が高級勉学である四則演算を操り、なおかつ無学の辺境の民に言葉遣いまで教える。

そして王城に勤めさせていずれは国王に目通りを叶えて行くから手助けをしろ……っていうのは明らかに怪しいでしょ。

じゃあなんで今まで災害とかの時は何もしなかったのかってことになるでしょ?

まさかゲームの知識がーなんて言えるわけないんだから、普通に考えたら怪しいの一言ですよ!!

でもだからってエーレンさんの同郷で出会った例の英雄冒険者親子は予知能力を持っている、または間諜の疑いがあるなんて大っぴらにできませんからね?! もう表彰するとまで公表されてるんですから。

「もし本当に限定的な予知だとしても、広めたことによってそのミュリエッタさんが狙われることにも繋がりかねませんし……貴族たちの中によからぬ考えを持つ者も現れるかもしれませんから」

「そうだね」

予知ができるなんて便利な娘、金の卵を産む雌鶏並みの価値ですからね。

真偽はともかく、そんな噂が立とうものなら此処、クーラウム王国だけでなく周辺諸国から身柄が狙われてしまうかもしれません。

「ですから、王弟殿下と王太后さまにご相談申し上げようかと思います」

「なるほど。……やっぱりそこまで考えていたんだね」

「アルダールさまにも、近衛隊長さまにお伝えいただけたらと思います……あと、バウム伯爵さまにも」

「うん。必ず伝えるよ」

「それにしても白い少年ってやっぱりクリストファでしょうか。どうしてあの子が……?」

「あー……うん、まあそこはあまり踏み込まない方がいいと思うよ。公爵家ともなれば色々なものが伴うからね」

「え?」

「それにしてもエーレン殿はアレが素だったのか……君を悪しざまに言った時には口出ししようかと思ったよ」

言葉を濁して、すっと話を切り替える辺りあまり話題にしてはいけないみたい。

クリストファに、一体何があるというの……あんな可愛い男の子が?

私としては納得もできませんが、これ以上色々な問題を抱えるわけにもいきませんし……わかるところから少しずつ片付けるしかないんでしょうね。やっぱり。

とりあえずはプリメラさまがヒロインと会って嫌な思いをしないように気をつけなければ!

「あっ、そうだ」

「うん? どうかした?」

「あの、まだもう少しお時間ありますか」

「? あるけれど」

「あの……あの、私今日、パイを焼いてあって。冷めてますけど、味は悪くないからどうかなって……」

まだアルダールのことを呼び捨てにできないし、話し口調も固くなってしまうけど。

でも、……うん、あの。

もう少しだけ一緒に居たいんだよね……! 照れるじゃないかコノヤロウ!

「ありがとう。嬉しいよ」

「……お、お茶! 用意してきますね!!」

ああーだめだ!

やっぱりイケメンすぎて直視できないわー!!