軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87

今日はお休み……というわけで、医務室にちゃんと行く事にしましたよ!!

頬の火傷はやっぱり気になりますもんね。痛みはもうほとんどないけど……。

そう思って朝から医務室に行ってみたんですが、思ったよりも混んでました。

まあそれはしょうがないよね。

前線に出た護衛騎士団の方々が怪我をしたのはわかるし、それ以外にも園遊会に出ていた侍女や給仕が精神的なショックを受けてカウンセリングを受けているみたいです。

園遊会に出ている侍女と言えば貴族位の娘が殆どだから、普段脅威にさらされることもない生活からのモンスター出現は相当ショックだったんだろうね。かくいう私も気絶したクチですが、まあ夜寝れないとかはなかったです。

医師の診察を受けた結果、頬の火傷は傷跡が残らないという事を聞いて安心しました。

ただ、塗り薬は処方されたけども。……ちょっとくさくね? コレ。

いやいや良薬は口に苦しと言いますし。塗り薬だけど!

それはともかく、朝から出ていたのに医務室に行っていたらあっという間に昼前ですよ。

アルダール・サウルさまが迎えに来ちゃうんじゃないかなと思うんだけど、どうしたもんだろうか。

え、あれですよね?

昨日の夜のことは夢でも何でもないですし、あれって要するに「お付き合いしましょう!」「はい喜んでー!!」っていうやり取り、でいいんですよね?

どうしましょう、経験があまりにも無さ過ぎて確証が持てません。

あれがゲームならエンディングを迎えるんだと思うんですけども。そんな考え方だからダメなのか……そうか……。

いや、流石にあれが夢だとかはもう言い出しませんけど、こういうのってどうしたらいいんでしょう。

あからさまな意識をしてはいけないような、でも意識するなって方が無理ですよね。かと言ってじゃあ張り切ってお洒落した方がいいんですかね? いや、なに浮かれてんだイイトシしてって思われたら落ち込むを通り越して寝込むわ。

かと言ってまるで何もしないのも変だろうか? え、こういう時ってどうしたらいいの?

いやいやユリア。こういう時は落ち着くのです。落ち着いて考えればわかるじゃありませんか!

……着飾ったところで所詮は私であると!!(どーん)

うん、悲しい現実を見ただけだった。

顔にガーゼも貼っているんだしお洒落したってどうしようもなかろというもんです。

昨日の今日で浮かれてもしょうがないし。死者が出なかったとはいえ、王城で起きた不祥事だものねー。

いつも通りで良いでしょう。まあ、髪の毛くらいは弄ろうかな……流石に女心ってものが私の中にもあるわけですからね……普段は仕事の邪魔にならないよう結い上げてるから、今日はもう少し編み込みを入れて下ろしてみようかなあ。

あんまりダウンスタイルって普段しないから新鮮だなあ!

化粧は、まあ普段通りで! BBクリームがあればもうちょっと顔色良く見せれたのに……ってガーゼ貼ってるから無理じゃんって話ですね。うーん、これで……デートするのか。

え? デートですよね? お付き合いをした男女が二人っきりで出かけるとかデートじゃないですか。私の認識は間違っていない筈です。

おっと、案外支度に手間取って……いや、すごく楽しみにしてるとかではありませんよ。意外と診察に時間がかかったってだけです。本当ですよ?

そんなことしていたらノックの音が聞こえたので思わず背筋が伸びました。

「はい!」

驚いてノックの音に元気良く返事しちゃいましたよ!

しかし返事をしたものの誰と名乗るわけでもなし、開けてくる様子もないし。

なんだろうとドアを開けてみると、そこには何とも言えない表情を浮かべたアルダール・サウルさまとにっかり笑ったギルデロック・ジュードさまがそこに居ました。え? おかしいな、国賓扱いが何故ここに。

「ユリア・フォン・ファンディッド、貴様に会いに行く時にアルダールとそこで一緒になってな!」

「はあ」

「……本当に、すみません……こちらに来る途中、城内を歩いていたコイツに捕まってしまって……」

頭を抱えたいらしいアルダール・サウルさまの気持ちはなんとなくわかる。

おかしいでしょ。だって一応この人シャグラン国からのお客さまだからね? お客さまが勝手に城内を闊歩するとかないでしょ。私のこの執務室は確かに使用人区域だけど、王宮の近くだからね? おかしいでしょ!(二回目)

「……何か私にご用事でしょうか」

「うむ。それにしても今日はメイド服ではないのだな!」

「非番ですので」

「そうか! 髪をおろしているとまぁ見れるではないか。普段からそのようにしていれば良いものを」

「……業務に障りがあってはなりませんので。それでご用件は」

なんだ。会って早々この人は喧嘩を売ってるのか? 即金で買えばいいですかね?! 勝てないけど。

地位的にも金銭的にも肉体的(?)にも勝てる要素は無いんだけどさ。この人の「まぁ見れる」は褒めてるつもりなんだろうが見た目だけでどうこう判断しないでいただきたい!

……決して悔しくなんてないぞぅ!!

「そうだったな。ユリア・フォン・ファンディッド。貴様の頬の傷は遺憾ながらこのオレの責任だ。未婚の女の顔に傷を与えるなどあっては男の沽券にかかわる事態。故、改めて言うが貴様を俺の愛人に――」

「お断りします。そのような理由で申し込まれる謂れはございません。傷跡はほどなく消えると診断もいただいておりますのでバルムンク公子がお気になさるようなことは一切ないと断言いたします」

「一度ならず二度までも……一体何が不満なのだ?!」

「いい加減にしないかギルデロック!」

一度ならず二度までもって言うけど、じゃあこっちが断ったのもちゃんと聞けよと言いたい。

言いたいがまあ、そこはぐっと我慢ですよ。でも実際、私の顔の傷は消えますし責任云々は私が訴えてないんだから気にしないでもらえたらいいんです。だって仕事ですから。

詰め寄ろうとするギルデロック・ジュードさまをアルダール・サウルさまが押さえてくれたので内心ほっとしました。この人、結構ガタイの良い男性ですからね、圧迫感があると言いますか……正直鬼の形相で詰め寄られたら怖いじゃないですか。

まあ、こういう時は怯んではいけません! かと言って喧嘩腰もよろしくないでしょう。

あくまで相手はお客さまですからね。

でもアルダール・サウルさまの方が怒ってくれたみたいで厳しい顔をしておられますね。

「彼女は私の恋人だ。昨日は王太后さまや来賓の方々の手前黙っていたが……お前の振る舞いは貴族としても男としてもあり得ない!」

「な……なんだと?!」

うっ……わーーーーーーーーーーーーーー。

恋人! 恋人って言われちゃったよ!! まさかこのタイミングでカミングアウトするとは思わなかった。適当に煙に巻いて来賓室に戻ってもらおうと思ってたけどきっぱりはっきりとアルダール・サウルさまの方が仰ってくださった。

じわじわとまた顔が熱くなるけど、あー……うん、正直嬉しいなあコレ!

「アルダール……貴様正気か?! 剣聖候補であり貴族の息子でもあるお前ならばもう少し……こう、選択肢はあるはずだが」

おい。

手で見事なカーブを描くな。確かにモテる系貴婦人に比べれば私の胸はささやかだが、ないわけじゃないんだぞ?! というか、そこで女性の価値を決めるんじゃない! 世の女性を敵に回す男だなホントに!!

「剣聖候補は関係ないし、お前こそ人間としてその発言、下品極まりないな。いい加減彼女を見下すような発言は止めてもらおうか。聞いていて不快だ」

「む……」

冷たく言いきったアルダール・サウルさまの言葉にギルデロック・ジュードさまも流石に口を噤む。

いいぞもっと言ってやってください。

でもこれ以上はどうも話にならないなと思った私は、踵を返して机に置いてある呼び鈴をちりりん、と鳴らした。

私が戻って廊下側に出れば、音を聞いたのであろうメイナが急ぎ足で私の前にやってきて、丁寧にお辞儀をした。視線はアルダール・サウルさまとギルデロック・ジュードさまへちらちらと向いていたけど。

「お待たせいたしました」

「メイナ、バルムンク公子は城内を散策中に道に迷われてしまったご様子です。来賓室までご案内してさしあげて」

「はい!」

「ちょっと待て、オレは別に……」

「城内を散策なされるのは結構ですが、来賓の身で不用意な場所に足を踏み入れては外交問題にもなりましょう。どうぞ速やかにお戻りになりますよう、不肖の身より進言させていただきます」

筆頭侍女としてね! 個人的には一回痛い目を見たらいいと思うけど……。

そもそも王宮近くまで来た事を咎められても文句言えないからね。いくらこの人が裏表のない脳筋バカだったとしてもそんなの関係ないですから。

まあそこをどうこうしないのは私が小心者で、実際あの時助けてくれた人だという恩義があるから。今回は忠告だけで終わらせておきますよっと。まあこれで貸し借り無しだ!

「バルムンク公子におかれましては、城内で不自由なくお寛ぎくださいますよう。当宮の侍女がお送りさせていただきますので、不自由などおありでしたらお申し付けください。担当の者に必ず伝えます」

「……。くそ……わかった。今回はオレが悪かったのだろう。良いだろう、ここは退く」

(いや、駆け引きとかじゃないんですけど……まあなんだ、言葉にしたら厄介そうだなあ)

面倒な男だな!!

とか思っても顔にも出しませんよ。絶対面倒になりますからね。

メイナもちょっとめんどくさい男だなあと思ったに違いありません、ちょっとそんな顔してましたからね。あの子はまだまだそういう点で素直ですね……でも侍女としては減点です。まあそこは経験ですね。

「はー……やれやれ。ご迷惑をおかけしました」

「いえ。振り切れなかったのでしょう?」

「ええ、城内で騒ぎを起こしては彼の方が咎められてしまいます。個人的にあの男は裏表のないバカですが、悪人ではないと信じていますから……できれば穏便に済ませたかった」

「アルダール・サウルさまらしい」

弟弟子ってことで気にかけておられるんでしょうね。面倒くさいとも思ってることは隠してませんけども。あからさまに面倒くさいって顔してましたから。

「それでは改めて……今から城下の野苺亭で昼食をとりませんか」

「あ……はい」

脳筋男の出現で一瞬忘れかけてましたけど、そうですよ今日はデートしようって話だったんですよね!

いやあ……改めて、そう、ええと……恋人って呼ばれて浮かれていいんですよね。

「あっ、あの……」

「なんでしょう?」

「……宣言してしまって、よろしかったんですか?」

ってちがーう!!

出来たら名前で呼んでくださいって言いたかったんだよ!

流石私、チキン! おばかさんめ……。

こういう時リア充ってどういうやり取りするんだっけなあ……。ゲームを参考にとか超難しい。

きょとんとしたアルダール・サウルさまが私の方を見つめて、ふっと笑った。

「寧ろ自慢させてもらわないと。随分、待ったんですから」

「え? 随分ってどういうことですか?」

「さて。その辺りについては気が向いたら教えて差し上げますよ」

それっていつから。

聞いていいのかな、聞いたら私の鈍感め! とかにならないかな?!

いやいやいや、待て待て。

もしかしたらつい最近だよとかいうオチかもしれないじゃん。

ああああ、どうしよう。

デートってどうすればいいのかな! 選択肢が出てくればいいのに……!!