軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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セバスチャンさんがあんな事を言うからちょっと身嗜みが気になったけど、でっかいガーゼが色々と気分を落ち込ませてくれたよね!

流石に剥がして頬がどうなってるのか確認する勇気もなかったんでそのままにして、とりあえず乱れた髪を直すためにほどいて、お休みを貰ったんだからもう休むだけだし着替えて……もう夜だし流石に向こうだって来ないんじゃないかなあ。

アルダール・サウルさまの方だって、忙しいわけだしね。

モンスター、あれだけだといいけど。全部倒したって言うのはセバスチャンさんから聞いたけど、やっぱり怖いじゃない?

エーレンさんが暮らしていた辺境だと、あれが身近な危険として存在するのよね……そりゃ辺境から出て来たいって思っても仕方ないのかも。冒険者で一旗揚げようとかそういう人なら逆に望むところなんだろうけどね。

私には絶対無理だな! 膝が笑いっぱなしだったもの。

あ…ノックの音が。も、もしや?!

「はい……!!」

「……ユリア殿、その。アルダール・サウルです」

「……? はい、どうぞお入りください」

おっと、いくら外に出ても恥ずかしくない夜着だからってこのままじゃだめだね。カーディガンを羽織って……って入ってこないな?

ドアを開けると、ちょっと困った顔をしたアルダール・サウルさまが立っている。

入らないのかなと思ってもう少しドアを大きく開けてみたけれど、彼は躊躇っているようだった。

「……もう、お休みになるところでしたか」

「え? ええ、今日明日はお休みをいただきましたから、流石に体を休めようかと」

「そう、ですか……そうですよね、大変な一日でしたから」

「ええ。そうです、何度もお見舞いに来てくださっていたとか。申し訳ありません、でもすっかり良くなりました」

「……ですが、怪我を」

「これは役目上仕方のない事です」

そうだよ。これは侍女として最後までお客さまの避難誘導を行った結果負った傷なのだから、誰の所為でもない。ちゃんと職務を全うした証です。……でもまあ、消えない傷とかだったら嫌なので明日覚悟を決めてお医者さんに聞いてみましょうね。正直痛みもそんなにないので多分大丈夫です。

痕が残るような火傷だったらもっと痛むと思うんだよね。

「アルダール・サウルさまの方こそ、お怪我はございませんでしたか?」

「私は平気です。そもそも騎士ですから」

「ええ、お強いことは耳にしております。けれど……いえ、出過ぎたことでした」

「ユリア殿……。……お休み前で申し訳ありませんが、もし大丈夫なようでしたら少し庭園に出ませんか」

「え、……はい」

あーはい!! これは、これですよねアレですよねぜったいアレですね!

あっ、一気に心拍数上がる! ナニコレ超緊張してきた。でも断る理由もないし。でもあれですよ、そう、あれ。なんだっけ。

どどどどうしよう。

あっ、あれか、一応ほら妙齢の男女だし?!

夜にお部屋でオハナシとか意味深過ぎるもんね?! 今日色んな事件あったばっかりで不謹慎だもんね?!

いえ、告白につながるのかなーってちょっと期待してる段階で不謹慎ですね、ハイ。

そんなこんなでアルダール・サウルさまと一緒に移動したのはそんなに遠くない所にある、使用人たちがよく休憩に使う小さな庭だった。中央に花を咲かせる木があって、他には花壇とベンチがあるだけという質素な感じの小さな庭です。

だけど、今日は流石に時間も時間だったし色んなことがあったからか、人がいる様子もない。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます……」

手でベンチを軽く払ってエスコートしてくれるアルダール・サウルさまは相変わらず紳士だ。

でもなんだろう。なんだか落ち込んでいるような……?

「ユリア殿」

「は、はい」

「……お怪我を負わせてしまったこと、謝らせてください。勿論、お役目を果たしたということは理解しています。けれど、あの事態は予測して然るべきだった。そう思うと……」

「予測して然るべきだった……?」

「はい。……顛末を聞いておいでですか?」

「いえ。私如きが知るべきではないと思っておりますし、報告が来ていないということはそれで良いのだと」

「そうですか。恐らく、後日連絡があると思います。無関係とは言い切れないと思いますので……」

「え?」

「まあ、私も無関係ではないと判断されているのですが」

「ええ?」

どうしよう。全っ然わかんないわソレ。

そう思った私の様子から察したのであろうアルダール・サウルさまはようやく小さく笑って、簡単に説明してくださった。

あれは剥製と思われていたモンスターで間違いない事。仮死薬という特殊な薬を使って持ち込まれたんだとか。本当に見分けがつかなくなるので大変危険な薬なのだけれど入手も困難なので、今回は『持ち込ませた』点が問題視されるだろうという事。

持ち込ませたのは王太后さまが仰っていたどこかの高位貴族。その貴族が『可愛い娘の我儘』を聞いたためにこんな事態を招いたということで、内密に処罰があったようだということ。それが『誰』かは公表しない方針らしい。

持ち込んだというライゼム辺境伯は知らぬ存ぜぬ、という風に側近は供述しているらしいけどシャグラン出身の冒険者を雇って手に入れたと証言したから今度はシャグランの客人に飛び火した。

っていうか辺境伯のお家騒動とか、シャグラン内部の方で前回の失態から尻尾切りが……とかまあ色々調べる内容は事欠かないみたい。

これによってバルムンクご一家は当面調査が終わるまで賓客という名の軟禁生活を送るそうです。シャグランの対応次第で変わるんでしょうけど。

まあ、下っ端にはあんまり関係ないかな!

私にも報告が上がってくるならばそれを待って、余程のことが無ければそれに従うだけですね。

え? 役職持ちが下っ端なワケねーじゃんって?

いやいや、侍女なんてそんな陰謀系からは下っ端も良い所ですから。

「シャグランが関わっているとなればギルデロックの兄弟弟子である私は情があるのでは、と思われるので調査からは外されたんです」

「まあ」

「ユリア殿は……まあ、シャグランの陰謀だとすれば貴女にも累が及ぶかもしれない、という危惧だけです。恐らく王女宮での警護が増すかもしれません」

「……そうですか」

いや、どうぞ累が及びませんように!!

ほら、私知らないからね、何も知らないからね。至ってただお仕事してるだけの人間ですからね。

まあ陰謀説が外れれば私のことも除外になるんでしょうが……ああ、平穏な生活、とは……。

「あと、ギルデロックが求婚した件もありますし」

「ふぐっ?!」

おっと急激に変な話題ぶっ込まれて変な咳出そうになった! それを我慢したら余計変な声出た!!

なんという……若干その話題でアルダール・サウルさまの方が不機嫌になってるし……。

「い、いえ。ちゃんとお断りしたのはアルダール・サウルさまもご覧になっていたでしょう?」

「ええ、見ていましたとも。この目でしっかり見て、この耳で聞きました。ですが」

不満そうな青い目が、私の方を見て。それから壊れ物を触るかのように頬のガーゼに触れかけて、下ろされた。

「……その傷の責任を取る、なんてまた言い出すかもしれませんよ。アイツはそういう男です」

「わあ……」

超めんどくさい。

そう思ったけど、一応声には出さなかった。我慢した。偉いぞ私。

「あの時モンスターを止める方に私が行かなければ、貴女がそんな傷を負わなかったかもしれない」

「結果論です。あの時モンスターを留めてくださったから、私は生きているのですし」

「……そう言っていただけると少し救われます」

「それに」

ああ、もう。この人は本当に優しいから。

ずるいなあ、絆されちゃうじゃないか。罪悪感から、告白するとかそういうのを躊躇っているってありありじゃないか。ヤキモチ焼くのを隠しもしないで、でも言わないとか本当にずるいよね。

「それに……その、そうですよ。そんな風に責任を感じてくださるなら、それこそ。アルダール・サウルさまの方が私に対して、その、言ってくださればいいじゃないですか!」

「え?」

「え?! あ、いえ、違う。求婚してくれとか言ってませんからね? そこは誤解の無きようにですね、ただあれですよ、そうです、あの……」

いや、ただきっかけになればなと思っただけなんだけど。

あれ、結構私が突っ走ってしかも道が逸れて激突して事故った勢いじゃない?

責任取ってくださいね☆ って逆プロポーズみたいなセリフになりそうな意味のこと言っちゃったよね?!

「……私は、もし……またこのようなことがあれば、きっと公務を優先いたします」

でも、アルダール・サウルさまは笑ったりなんかしなかった。

それどころか。一層真面目な顔をして、私にきっぱりとした口調で言った。

その言葉は、人によってはひどいと思うのかもしれないけれど。

「それでいいんです。だって、私もきっとそうですから」

「……貴女って人は本当に、……」

少しだけ驚いたような顔をしてから笑ったアルダール・サウルさまが私の前に跪いた。

うわあ、イケメンが跪いた! ナニコレすごいシチュエーションじゃないですかね!!

……ってこういうところが残念女なんでしょうね。いや待て、違いますからね。目の前にいるのにアルダール・サウルさまの方を直視できてませんけど。

「私は、私の心の内を貴女に既にお話ししました。でもきっと貴女が思うよりもずっと、独占欲も強いし嫉妬深いし、こんな性格ですから貴女に不快な思いをさせるかもしれません」

膝の上にあった手を、取られて握られる。

たったそれだけの事に、急激に心臓が早鐘を打ち出して、顔に熱が集まるのを感じた。

「それでも、貴女が辛い時に寄り添って支える相手でありたい。ですから、どうか……貴女の心を私に、くれませんか」

くれませんか、だなんて。なんて直接的な請い方なんだろう。

多分朴念仁の私に合わせてくれたんだろうなと思う。

どうしよう。どうしよう。返事なんて決まってるんだけど、なんかもう、感極まっちゃったっていうか。ドキドキしすぎてまた気を失いそうとか乙女みたいなセリフが頭の中に出てくる。いや私も乙女の仲間入りですね!

「ユリア殿」

「は……はい、ふ、不束者ですがそれでよろしければ」

「貴女がいいんです」

「は、い……」

「……ああ、良かった。この期に及んで断られたらどうしようかと――」

嬉しそうに笑った、アルダール・サウルさまがふと視線を横にずらして固まった。

それにつられるようにして視線をずらせば、そこには松葉杖を片手ににんまりと笑った青年が一人。

「おおっと……悪い、邪魔しちまった……」

「……ハンス……」

「えっ、えっ、」

「いやあ、堅物にとうとう自分から膝を折るような相手が……ってあれ、アルダール? ちょ、ちょっと待て? なんか顔が怖いっていうか……えっ、ちょっと待て、俺は怪我人で……」

「ハンス、ちょっと話があるんだ。ユリア殿、宜しければ明日は私も非番なので城下に参りましょう。昼頃迎えに参りますね」

言うが早いかアルダール・サウルさまがハンス、と呼んだ男性を引きずるようにして去って行く。

え、あれ……あの人がハンス・エドワルドさま、かな。スカーレットの想い人の。

って、あれ……? 告白の余韻とかは……一体……?

そして聞こえてくるハンス・エドワルドさまの悲鳴のようなものは……。

ええと、うん、あんまり考えないようにしましょう!!