軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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泣いてるスカーレットを宥めすかして色々話を聞いて、あれこれやらせてみて不機嫌になられたり暴言っぽいものを吐かれたり、それを繰り返してあっという間に一日が終わりました……。うーん。先行き不安ですね!

いえ、彼女は無能ではありません。これにはホッとしました!

ただ現状ではなんの能力もないのにやりたがる、 所謂(いわゆる) 『無能な働き者』と思われてしまう状態です。そしてそれを咎められると「自分はできるはずなのだ、周囲が自分を上手く導けないもしくは自分の能力を活かせていない」と意固地になるパターンです。

口癖のような「私は侯爵令嬢なのよ!」が当然いつまでも免罪符になるわけないじゃないですか。

そこで反省してちゃんと人の意見を聞けて、頭を下げて学べれば良いのでしょうが変なプライドが邪魔してできないからこうなるんであって……。

誰にも代わることができないと主に思っていただける使用人になることさえできれば良いのですが……プリメラさまと私のように。ですがそういう関係性はなかなか難しいと言いますか、そういう風になれるってことはきちんと人の話を聞いたり学んだり、相手に頭を下げる心を持ったり、努力を惜しまないなどの精神が必要なわけですよね。私だって幼いころは内宮や後宮でよく学べと言われたものです。

プリメラさまの為に努力を重ねて、あの方にも信頼していただけたから今の私になるわけですが。スカーレットにはまだそのことが理解できないようです。

自分は侯爵令嬢である。そこに固執して、有能な人材に違いないと思い込んで、頭を下げることも嫌がって、人からの忠告を自分が下に見られてはたまらないと断っていては人が離れて当たり前です。

流石に親の躾からは離れた社会人なのですから、上役がそういう慢心をぽっきり折ってあげればよいのでしょうがパワハラにならないか心配になりますよね! そんな言葉、こちらの世界にはありませんがそういうことを恐れて内宮筆頭はなにもできなかったんでしょう。実家の力関係もありますし。

とにかく私の所に来たならば、内宮筆頭ほど優しくはありません。お仕事はきちんと覚えてもらいましょう! 今日はとにかく書類をさせて終わりました。

腕が痛くなる、地味だ、もっと華やかなことはないのかとまあ言われましたけども。

侍女の仕事なんてそんな華やかなものはないと繰り返し言うだけです。彼女も本当はわかっているけどプライドが邪魔してるんじゃないのかな?

私の方をちらちら見たり、出来上がった書類をドヤ顔で私に見せてきたりと……お前は生意気盛りの小学生か! と突っ込みたくなりましたね。いえ、可愛らしいことこの上ないですけど。おっかしいなースカーレットの年齢……げふ、げふん。

彼女もきっと今日は腕が痺れたことでしょう。たくさんやってもらいましたからね!

明日も書類が待っていると知ったら発狂するとかないですよね? 午前中だけだから頑張ってもらおう。午後はセバスチャンさんが紅茶の講義を引き受けてくださったから私も自分の仕事に専念しないと。

「……アルダール・サウルさま」

ノックの音の後に、顔を出したのはアルダール・サウルさま。

うん、まあ。警護の件、後程と言われていましたから。

自分の気持ちを改めて理解してみると、やはり気恥ずかしくてお顔を見ることはできません。

けれどももう挙動不審にはならないと思います。私もこの方を好いているからあんな風に挙動不審になったのだと理解しましたからね! 恥ずかしいけど嬉しい、嬉しいけど恥ずかしい、どうしたらいいのかわからないというパニックだっただけです。いやはや、本当にお恥ずかしい……。

「遅くなりましたが警護の件で改めて。王女宮の護衛騎士たちとも顔合わせは済んでおりますが、いくつか打ち合わせておきたい点がありますので」

「はい、承知しております。どうぞ中にお入りください」

「それでは失礼いたします」

去年まではプリメラさまが秋の園遊会に参加なされることはなかった。まだ子供だから、という王妃さまの意向に陛下も同意されたという話だけど、実際のところはプリメラさまの婚約者が定まらない状態でパーティに出して外交であれこれカードとして出されるのを陛下が嫌がったってだけみたい。

まあ王族の政略結婚ともなれば外交のひとつだからね、それが必要ならしただろうけど……今のところその必要性はなかったから国内に婚約者を据えた今、参加してもらおうってことになったらしい。

でもプリメラさまはともかく、この園遊会には各宮の侍女が引っ張り出される……ということで私は王女宮の筆頭侍女になったその年から今まで参加していたわけで、こうして護衛の騎士の方とお話をすることもたくさんあったのです!

まあプリメラさまがご参加なさらない際は王女宮の警護について云々、であって今回は園遊会という場において、という全く違うことですからね。初めてのことだけに頭に叩き込んでおかないといけません。

「ユリア殿もご存じのように、園遊会では王族の方を中心に近衛と護衛騎士団が警護に当たります。配置については詳しく申し上げられませんが、王女殿下には護衛騎士団の女性騎士が二名つきます」

まあ警護の内容をバラす馬鹿はいないでしょう。

最低限の事だけ伝えられていればなんとでもなります。当日私はプリメラさまにつきっきりというわけにはいきませんし。

流石に近衛の中に女性騎士は殆どおらず、いてもその方は王妃さまのほうにおつきになるんだとか。

護衛騎士団が実力で劣るとは思いませんし、この王女宮にいてくださる護衛騎士団の方がついてくれるならばプリメラさまも安心でしょう。

じゃあアルダール・サウルさまはなにをするのかって?

基本的には貴族としての補助、護衛騎士の方々との連携、及び我が国の騎士団がいかに優美で強いかを見せる……というまあそういう役目なんだよね。

実際のところどのくらい強いのかとかは私にはわからないけど、王弟殿下はアルダール・サウルさまのことを強いと言っていたことがあるし、元冒険者であるメッタボンも強いだろうと言っていたからきっとお強いんでしょうけれど。

そういえば去年もいらっしゃったかも? あの頃はまだ言葉を交わす関係じゃなかったからなあ。いや、侍女たちはここぞとばかりに近衛の方々に話しかけていたのは覚えてるけど。

……じゃあ今年も……。あ、いや、イラッとしたわけじゃないです。ただこう、胸の中でもやっとしただけです。

そんな私の気持ちなどわかるはずもなく、アルダール・サウルさまは涼しい顔で幾つかの書類を目で追いながら私に説明を続けています。

「今年はシャグラン王国からの使者が、プリメラさまがご参加と聞いて是非お話をと仰ったのだそうです。国王陛下と王太子殿下は南国の王家より第二王女がお越しでそちらの顔合わせの方を担当、王妃殿下は貿易国家の盟主どのと会談を予定しておられます。他にも他国からの重要人物が大勢いらっしゃってますからね」

「いずれも大物ですわね」

「今年はプリメラさまのご婚約が内定し、次は王太子殿下であろうと皆が期待しているのでしょう。特に国内の有力貴族は相当力を入れているようですから。プリメラさまの補助として王太后さまがお傍にいてくださるそうです」

「まあ、それなら安心ですわね。今年は華やかなものになりそうですね」

「そうですね、まあ……陛下もですが、王太子殿下も人を見る目が大層厳しいですからねえ」

ああ、それはわかる。

あの王太子殿下ったらまだ一応未成年なのに、もうすでに施政者として立派なんだよね。いくつかの政策は王太子殿下が打ち出しているって私の耳にも届くもの。その度に王子宮の筆頭侍女がものっすごくドヤ顔してるけど。気持ちはわからんでもない。

私だってプリメラさまのお誕生日パーティの後、あの方が褒められるたびに「どうだ! うちのプリメラさますごかろう!!」って気持ちになったからなあ……でも傍から見るとああなるんだな、次から気をつけよう。

「シャグラン王国の大臣は、現国王の従弟に当たりますがそれはもうご存知で?」

「ええ。それに……大公妃殿下とは義理とはいえ姉弟であられると」

「その通りです。ですので今年のシャグラン王国は先日の件で肩身が狭い上、人によっては逆恨みをしているのではと危惧があるのです。……それとですね、大変申し訳ないのですが……」

「なんでしょう?」

「あちらの護衛としてそこに名のある男、その大臣の息子なんですが私と少々因縁がありまして。いえ、私にはないんですがあちらにはあるようで」

「え?」

一方的に因縁つけられてるってこと?

どういう意味かよくわからなくて曖昧にしか言わないアルダール・サウルさまの方を見ると嫌そうな顔をしていた。

「……いえ、子供のころの話です。剣の師が私に免状を与えた後シャグランに渡り、彼に教えたようですが……どうもそこで私の名を聞いたそうで前に剣での勝負を挑まれたのです。ですがその時、私も騎士の端くれとなった身でしたので謂れなき私闘などできないとお断り申し上げたのですが……なんと申しますか、時候の挨拶の代わりに勝負を挑まれるようになりまして」

「……はあ」

超迷惑な話だね!

そのお師匠さんがどんな人か知らないけど、弟子同士がこんなことになっているってどう思うのかしら?

アルダール・サウルさまは苦笑いするだけで、後は特別今のところ打ち合わせておくこともないようだ。

うーん、シャグラン王国からの使者かあ。私自身はそう言葉を交わすのも挨拶程度だろうし、宰相閣下ご夫妻がなんとかしてくれるんじゃないかな。とはいえ、油断してお父さまみたいに嵌められても困るから気をつけましょう。

「ユリア殿」

「はい」

「本当に昼間は申し訳ありませんでした。どうも私もまだまだ未熟らしく、醜態を貴女の前で晒してばかりですね」

「そんなことありません」

寧ろ、そのくらい私のことを好いてくれている……と自惚れていいってことでしょう。

あらやだ、恋してるって自覚した途端これですか! 恋に溺れる女にはなるまいと思っていたはずが、なんという……気を引き締めねば。

「いえ。私自身これを戒めとし、役目をきちんと果たしたいと思います。お互いに職務を全うしましょう」

「ええ、お互いに頑張りましょう。よろしくお願いいたします」

すっと差し出された手はただの握手。

アルダール・サウルさまは最後まで、ちゃんと騎士の顔をして私に接してくださったから私も侍女としてちゃんと接したと思う。私個人の女の顔なんて出していないはずだ。

……こういうところが『鉄壁侍女』とか呼ばれる、可愛くない所以なのかしら……?