軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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後に人は言うのだ、ユリア・フォン・ファンディッドは目立たぬ侍女に過ぎなかった。

だが彼女は確実に、この国に影響を与えたのだと。

……主に、菓子事情かしらね。

脳内で変なナレーションを付けつつ、私は休日を満喫していた。

でも正直クーラーが恋しい。このクーラウムという国は天然の城塞である山に囲まれている分、暑くて辛い。

もうすぐ夏になってしまうので、辛いところです。

ああ、UVカットのBBクリーム……。

ところで、疑問かもしれませんが侍女だからって休日くらいありますよ?

先日のお茶会で、プリメラさまに労いのお言葉と共に休日をいただいたのです。

さすが私の王女様! マイエンジェル!!

え? そこまで姫のことを敬愛してるならお休みなんてとんでもないと言い出すかと思った?

そんなことはありません。

どんなにデキる侍女だからって、お休みが無くてはいけません。人間ですもの。

ええ、泣いて笑って嫌味も言えばトイレも行く、人間です。

鉄面皮なんて言われてますけども。知ってるんですよ、うふふ。

侍女として与えられるには立派な個室。

なんとも恐れ多い事ですが、筆頭侍女という立場でお部屋をいただく場合は個室なのです。

筆頭執事などもそうですね。

何故ならお仕えする方に関する書類やお客様情報などのメモ、今年の流行情報、季節によって手に入る茶葉やテーブルクロスなどもろもろの事柄が統括されて存在する。

何も姫様のおはようからおやすみまでおそばに居るだけが侍女の仕事じゃないのだ。

勿論、ご公務とかになったら私とかの出番ではありませんよ。

それ専門の秘書官とかが付きますからね!

とはいえ、今のところプリメラさまはご公務の予定はございません。

社交界デビューをなさるその日まで、ひとまずレディとしての資質を磨き、帝王学を始めとした学問を修め、花嫁修業として刺繍や詩の作成などをなさるのです。

そうして社交界デビューをなさって正式な婚約の後、今度は嫁ぎ先について学び、いずれその土地の領主夫人としてすべきことを学ばれるのです。

とまあひとまず筆頭侍女としての役割は置いておくとして。

私は今、実験をしているのです。これは革命です。

この世界において、私はひとつの革命を起こそうとしているのです!!

何を作っているのかって?

なんと、アイスクリームです。

砂糖も生クリームも卵もあるのだから、作れないはずがないのです。

なにせこの個室有能すぎて、簡易キッチンまでついているのです。

仕事をする上で徹夜することもあるからですかね……。

おっと、前世でOLしてた時にぼっちで残業した思い出とかちょっと過りましたけど気にしません。

過去は過去でございます!!

「……それで、王弟殿下は何故窓から侵入なさいますのか、ご説明いただけますでしょうか?」

「いや、ちょいと執務を投げ出したくなってな! 木を伝って逃げようと試みていたところでお前さんが珍しく部屋にいるのを見かけたものだから寄ってみた」

「失礼ながら、威張っておっしゃる内容ではございませんね」

「ははは! ああ、その通りだな!!」

はあ。まあもう完成段階だから良いのですけどね。

私の持つ魔法使いにはなれない程度の魔力でも、目の前のボウルの物を凍らせたり動かしたりするくらいはできる。

それを利用して凍らせ、動かし、混ぜ。形作れば……。

「ほーぉ、また何やら面妖な菓子を作り出したもんだなあ!」

「よろしければ召し上がって行かれますか。じき、アルダール・サウルさまも来られますのでお茶をご用意いたしますが」

「あの頭の固い近衛か。ふぅん。じゃあご相伴にあずからせてもらうとするかな」

「畏まりました」

アルダール・サウルさまは今日、弟さんからの相談の手紙とやらを持ってくるらしい。

ちょっと独特の字をしているから、解説と解読の手伝いで直接届けますねというお手紙を昨日の夜いただいていたので、こうやってお茶菓子を用意する。

だってプリメラさまのご婚約者のお兄様ですからね。

やはりお客様としてお迎えするのは侍女として当然のことです。

ちょっと予定外の 王弟殿下(アルベルト・アガレスさま) の乱入もあったけれど作り上げたバニラアイスはそこそこの量もあるし。

どうせなら濃いめのコーヒーにして、アフォガートにしたほうがいいのかしら。

いやいや、やはりここはアイスというものそのものを味わっていただきたいし普通に紅茶にしておこう。

砂糖はなしの、ストレートだ。

「王弟殿下」

「アルベルトでいい」

「それはなりません。尊きお方の第一名をお呼びするなど、妻でもない限り許されぬ行為です。それに私は社交界デビューをしておらぬ身ですので、どうぞご容赦くださいますようお願いいたします」

「つまんねエなあ……」

「決まりでございますから」

脳内でお名前をお呼びすることはあれど、ルールはやはり守らないと。

特に年長者の私が守ることでプリメラさまに対しての教育にもなるというものです。

大人がきちんとした姿を見せないとね!!

とはいえ、アルダール・サウルさまに関しては近衛騎士さまとお呼びするのは他の方も反応してしまうので、バウム伯子とお呼びしようかとも思ってご相談しましたところ名前呼びをお願いされました。

案の定、跡目争いからリタイアしているという立場を貫きたいので他の侍女や召使たちにもそのようにおっしゃっているそうです。

そうですよね、伯爵家を継ぎたいわけでもないのに周囲からあれやこれやと好奇の目で見られたりひそひそされたりするのは面倒ですよね……なまじっか弟と仲が良いだけに、周囲のその態度に辟易するというか。

私にも弟がいて、彼が跡目を継いでくれるだけの優秀さを持っているから安心はしていますけれど、もしも、もしも弟があまりにも阿呆だったら私を女子爵に据えようという考えの者が出てもおかしくなかったのですから。

まったくもって貴族社会は面倒くさいのです。

ちょっとアルダール・サウルさまに共感いたしました。

しかしこの目の前の王弟殿下は納得なさっていないようです。

貴族の男児は二つ、名前を持ちます。

父と母からもらった名前。

それらを合わせてひとつの名前。

公式で呼ばれる名前はその二つですが、主に意味合いを持つのは父親から授かる最初の名前です。

ですのでご家族、あるいは親しい――恋人、婚約者、妻に準ずる者しか呼ぶことは許されません。

だというのにこの人は数多の浮名を流す中で、とうとう私みたいな侍女にまでその特別な行為をさせようというのですからちょっと呆れてしまいますよね!!

「なんだったらお前、俺の妻にならないか? お前とだったら退屈しねエと思うんだよなー」

「お断り申し上げます」

まったく、この人の冗談は冗談で済まされないから困るのよね……。

ここが廊下じゃなくて本当に良かった!!

何気にこの方は今30歳とそう年齢が離れているわけでもないし、国王陛下は年の離れた弟が可愛いから結婚して欲しがっていると聞いているし、私は子爵家で王権争いに再び担ぎ上げるような家柄でもないので喜び勇んで婚姻を整えられそうだ。

私だって憧れがないわけじゃないが、ノリで結婚するほど若くもないのできっぱりはっきりお断りさせてもらっている。

ちなみにこの会話するのもう何度目だ。

っていうか王弟殿下、脱走しすぎです。馬車馬になれとは言わないから働け。

おっと。

「いらっしゃいませ」

「お邪魔いたします、ユリアさん。……それと、王弟殿下も。先ほど侍従の方と軍務省の方と秘書官の方が揃って青い顔をしながら四方に散っていきましたよ」

「おっと、さすがにヤベえかな。でもま、ユリアの新作茶菓子食ったら戻るとするわ。お前の用件ってのも面白そうだからな!」

「弟がらみですので殿下が面白がるようなことはなにもございませんよ。ところでユリアさん、こちらは町で見かけたものなのですが宜しければもらってくださいませんか」

「まあ、ありがとうございます」

まったく、男が寄ってきちゃって困っちゃう☆

と誤解されそうな構図だが、要するに『プリメラさま(ディーン・デインさま)の婚約がうまくいきますよーに☆』という協力体制&冷やかしの親戚という図式なのだから困っちゃうよね。

まあ新作菓子という名のアイス、もう少し出来を良くしてからプリメラさまにお出ししたいからとりあえず意見を貰おうか!!

ちなみにアルダール・サウルさまのお土産は、綺麗な綺麗な飴でした。

なかなかに女心を理解なさってますね、きっとモテるんでしょう!

私も一度はそんな美形に生まれたかった……ゲームの中みたいな逆ハーになっちゃうようなヒロイン的ポジションに憧れちゃうよな……。

うん、ないけど。めっちゃモブだけど。