軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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昨夜の晩餐はとても良いものでした。

ええ、とても。何度思い出しても優しい気持ちになれます。仲良い叔父と姪のやり取りは微笑ましく、料理は美味しそうで、見ている私たちを幸せにする……そんな和やかなものだったのですから。

思い出すことで心の平穏を取り戻そうとして何が悪い!

私の目の前には床に正座するメイナと、スカーレット。

本日プリメラさまにご挨拶する前に当然筆頭侍女である私に挨拶があり、仲間となる侍女や執事たちに紹介がされるのですが……早速二人がやらかしました。

まあ遅刻しないで来たのは偉いですよ。社会人としては当然の行為ですが、当然のことができても認めてあげるべきだと私は考えています。

次に、挨拶ですね。私に対してまず挨拶。ところがスカーレットは――

「おはよう。今日からお願いするわ。……します」

一応訂正したものの、アウトですよアウト。何故にヒラの侍女で上司に上から目線?!

まあそこはまだ初日という事で一応軽く注意して終わらせようと思ったんだけど、メイナからしたらちょっとカチンと来たんでしょうね。

そして私が執事長のセバスチャンさんをまず紹介、それから順に他のメンバーを紹介していったのだけれどスカーレットは鼻で笑って「なによ、大した家柄の人がいないなんて王女宮ってそんなに重要視されてないのかしら? ワタクシが格を上げてあげるんだから感謝しなさいよ」なんて言い出しちゃったものだから……。

頭痛いわ、と思った瞬間にメイナが「なによ、はみ出し者でクビ寸前のくせに!」と怒っちゃって。

そうしたらスカーレットも自分が喧嘩売った自覚が無いんでしょうね、売られたことに怒り出しちゃってキャットファイトの開始ですよ。

まあ確かに王女宮の使用人は私も含めて高位貴族の子女はいません。ですが質は高いと文官たちにもっぱらの評判です。使用人に関しては質が大事なのであって、地位の重要視云々ではないのですが……勿論高位貴族の子女であれば、教育という点で素地がある分質が良いと言えますがそれこそ教育すれば良いのですから別に下位貴族でも裕福な商人の娘でも一切問題ないのです。

そこのところをスカーレットは何も理解していないから、厄介なんですけどね……。

というわけでセバスチャンさんが二人に猫の子を掴むようにしてから雷を落としこうしてお説教をしたわけですが、二人とも納得したんでしょうか……困りました。先輩侍女としてメイナには頑張ってもらうつもりだったんですが。セバスチャンさんがあまりにも素早くて私、出番なかったのもトホホです。

いいえ、私は筆頭侍女! ここから挽回いたしましょう。

「スカーレット、今日から貴女はただのスカーレットです。前にも言ったかもしれませんが、ピジョット侯爵家から貴女を侯爵家の人間として見做す必要なしと言われてもいますからね、厳しく接するつもりです」

「なっ……なんですって!」

「それだけのことをしでかしたということはもう説明されていたのではありませんか、内宮で」

「うっ」

「メイナ、貴女も新人の発言にひとつひとつ反応しない。今日は罰として反省文の提出と、庭の掃除をしてくるように。後、今日の仕事は良いからお客様情報にまた新しいものが増えていますから目を通してしっかりと覚えなさい」

「……はい、かしこまりました……申し訳ありませんでした、ユリアさま」

「反省できるのは良い事ですよ」

うんうん、メイナはちゃんと反省していたようなのできちんと言われたことをやり遂げるでしょう。

庭の掃除って案外大変なのよね、勿論庭師が大半をやるけど。それでも落ちてくる葉っぱなんてずっとだしね……。綺麗だけど片付けは大変なのです。虫も出るし。変な芋虫ですとか、蜘蛛ですとか……。

あれはなかなか精神的苦痛を感じざるを得ません。メイナは実家の宿屋掃除で慣れているのかあまりダメージ食らってる様子はないですけど。強いな。

スカーレットの方は……反省よりも不満が顔に出てますね。ばかしょうじ……じゃなかった、なんと素直なことでしょう。彼女くらいの年齢の貴族の女性は多少のことは顔に出さずに対応できないといけないと思うんですが……そういえば彼女は社交界には出ていないのでした。

多産系家族にありがちな、上の兄弟から紹介してもらって……のパターンですが彼女はこの性格ですからお茶会などにもお誘いがないと内宮筆頭から聞いてます。余計意固地になってるんでしょうが……プリメラさまの前にこの顔のまま行かれては困ります。

「良いですかスカーレット。この王女宮で働く限り私の指示にはきちんと従ってください。また執事長であるセバスチャンの言も同じです。主たる王女殿下は寛容なお方で大概の事はお許しくださるし私たちのような使用人にも優しく接してくださいますが、それに甘えて傍若無人な振る舞いなどしてはなりません」

「……しないわ、そんなこと」

「言葉遣い」

「……いたしません。これでいいんでしょう!」

「ええ、結構。反抗的な態度はおやめなさい。私は貴女を解雇したいと統括侍女さまに願い出られる立場ですからね。状況によっては私の判断だけで解雇もあり得ます」

「なによ、なによなによ子爵家の娘の癖に!」

「そうですね、ですがこの王女宮にあっては貴女は私の部下に過ぎません。その事から覚えるように」

「見た目も地味なくせに!」

「仕事をする上で華美にする必要がどこに?」

私たち、侍女ですからね。

雑用や身の回りの世話をする人間なんですから、ものっそい着飾ったり化粧をしたりする必要性は私感じませんから! いや、面倒なわけじゃないよ? ちゃんと薄化粧くらいするったら。

そりゃBBクリームと色付きリップクリームあったら一発だよなと思わない朝がないとか……いやそんなことはどうでも良くて。

まあスカーレットは貴族の古くからある考えの『青き血の序列』というのが好きみたいなので、地位が上の人間には大人しく従うんでしょうが……すでに私たちに対してこれだけの態度ですからね。雰囲気最悪とかになってプリメラさまに余計なご心配をおかけしてはなりません。今回の園遊会の方に集中していただかないと。

私もシャグラン王国の大臣とやらの情報、もう少し詳しく読んでおきたいですし……以前プリメラさまに対して婚姻申し込みがあったとかいう第二王子の派閥だとかいうのは知っています。見た目はでっぷりとしていて奥様が正反対にものっすごく細い方だとか。わあ、凸凹コンビ。その好みとかを把握したいですよね、詳しく。

あとはドレスデザインをお決めになったのですから詳細部分でご要望をまとめていただいてからお針子のお婆ちゃんに会いに行かなくては。あの方の技量でしたらきっとすぐにご用意いただけるとは思いますが、数か月前から準備というわけにはいきませんでしたからね。あ、準備してなかったわけじゃないんです。

デザイン画で数種いただいていたドレス、型紙はある程度もう準備済みなんですって。色味と細かい部分を聞いて直ぐにでも取り掛かりますっていう段です。プリメラさまが成長期なのでお直しができるようにね。

勿論それでもお婆ちゃんを筆頭に幾人ものお針子さんが寝る間を惜しんで仕立て上げてくれるんですけれども。はあ……刺繍ひとつで必死な私からすると彼女たちの手の動きはまるで魔法そのものですね。どうしてあんなに美しく縫えるのやら!

「スカーレット、貴女が内宮でどのような教育を受けたかは聞いています。が、ここでは最初から学ぶつもりでいてください。この王女宮は今主たる王女はプリメラさまただおひとり。故にそこまで範囲が広く行動するわけではありません。ですがその分求められる資質は高く、内外宮とはまた違ったものが求められるのです」

「……違ったもの?」

「王族の方が、国の象徴でありあらゆる貴族の模範となる存在であり続けること。それをお支え申し上げることです」

まあやってることは身の回りの世話とか、怖い話だと暗殺から身を挺してお守りするとか。

ざっくり言ってしまえばそんなものだ。別に誰がやったってかまやしないであろう、仕事ができりゃいいんだっていう内容だよね。雑務とかだから。

ただそこにより主の為に考えて動いて、少しでも過ごしやすくしてそんな模範とか象徴とかいう重圧をわずかでも軽くして差し上げたい。そのそばに仕えている者が一流であればあるほど、「流石はあの方にお仕えしているだけある」と主人が褒められることにつながるのだ。

勿論、それが敬愛するお方だからこそこちらも努力のし甲斐があるってものなんだけどね!

プリメラさまは私にとって最愛の娘であり、お仕えするべき主なのだから。

それをすべての侍女や執事に要求するつもりはないですよ。

ただ、そういう気構えが必要ですってだけ。

そして外宮や内宮が、それぞれの役目に適した動きをするようにここではここなりの行動が必要ってだけ。

だから学ぶことの基本は同じでも、新しく学ぶ、その姿勢を持ってもらわないといけないってお話だからおかしいことなんてひとつもないのです。

「まあまだ初日ですもの、少しずつ覚えてください。当然園遊会にも侍女として参加してもらう予定ですので並行してそちらの勉強もしてもらうつもりです」

「な、なんですって……」

「侯爵令嬢なのですから素養は十分でしょう。さあ、そろそろ時間です。皆準備は良いですね? 今日も一日怪我のないように。王女宮の使用人として矜持を忘れぬように。しっかりと勤めましょう」

私が筆頭侍女らしく周りを見渡して言えば、スカーレットを除いて皆が一礼してそれぞれの持ち場に向かった。うんうん、今日も皆しっかり動けてますね。流石です!

「……さ、スカーレットも行きましょう。乱れた髪を直してからね」

どこにって? 勿論、我が愛しいプリメラさまのもとにご挨拶にね!