軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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人間、現実逃避する時色んな方法があるよね。

とにかく共通して言えることは、『そのこと』を考えないで済むように何かに集中するってことだと思う。

とりあえず、スカーレット嬢はあの時別れたっきりだけどちゃんと書類を届けたと報告が来た。

ただ渡す時に居丈高に「書類よ、受け取りなさい!」と言ったっていうのはいただけないね! 矯正ポイントですね!! ……直せる気がしないけど。

でも彼女がいてくれたら教育に気を向けていられたのにとちょっと理不尽にも思いましたがスカーレット嬢の勤務は明日から。幸い戻ったら執務用の机に書類がたくさんありましたのでそちらに取り掛かることで思考放棄できました。

そして正気に戻った時には書類はあら不思議! なくなってましたとさ。

それが午前中から夕方にかけてのお話。園遊会の準備都合で当面お昼はセバスチャンさんが仕切ってくれるから安心できます。

「ふふ、うふふふふ……」

でも私の一心不乱に書類に取り組む姿は鬼気迫るものがあったんでしょうね。

途中メイナがちょっと震える手でお茶を置いていってくれました。申し訳ないと思うので落ち着いたらあの子にお菓子でも作ってあげましょう。ちゃんと周りを見るくらいの余裕はあったんだよ……?

しかし、終わっちゃったよ……普段なら途中で「休憩しよう、そうだ私には休憩が必要だ」とかなんとか言っちゃってた自分が懐かしい勢いで仕事した……。だって手を止めたり休憩したりなんかしたら、思い出しちゃうじゃないですか!

何をって? こ、こめかみのところの感触とか……?

「……はあ」

ぽつりと溢した溜息。

溜息をつくと幸せが逃げるよなんて前世では一般的によく聞きましたが、溜息だってつきたくもなります。

うん、まあ。照れくささを逃がすためのものなんだけどね。

あれはどう考えたって告白でしょうね。『告白みたい』なんて自分で思ったけど、改めて考えると告白だよね。ってことはよ、アルダール・サウルさまは私が好きだと仰ってくださっていたわけで、じゃああの髪飾りとかこの間のお食事とかはそういう好意の上にあったってことで、そうなると私は彼のそうした好意にまるで気が付いていませんでした、ってことになるじゃない?

どんだけ鈍感だったんだ! って話よね……?

いや待つんだ、もしかしたら向こうも好意に気が付いたのはつい最近かもしれないしさらにさらに言うならば気の所為っていう可能性も微かに……ないな。

あああああ、今までの私よ。何してたの?! いや仕事してたよ!

ふぅ、脳内で自問自答しても何も答えが出ませんね。

「……なあ、そろそろ気が付いてくれても良くね?!」

「あら、王弟殿下。いつの間に」

「いつの間にも何もお前が一息つく前からだ!」

「やだ、ノックくらいしてください」

「した! 返事もあった!!」

「……あら?」

記憶に全くございません。どっかの政治家の発言みたいですけど本当に記憶ないわ。やばい。

とりあえず来客用の椅子に座った王弟殿下に急いでお茶の準備をした。

「殿下がお越しの際には誰ももうおりませんでしたか。お待たせしたご様子で……」

「いい、いい。気にすんな。……つってもだいぶ行詰まってんなあ!」

「殿下ほどでは。目の下の隈、すごいことになってますよ」

「おう、地方の報告がなあ……軍の派遣も楽じゃねえんだ」

先日耳にしたモンスターの出現ですね。国の為とは言え、軍だけでなく近衛までとなると、補給も含め色々と貴族間のやり取り等面倒な書類が発生しているんでしょう……なにせ戦争の時は税金だけで賄いきれない分を領主たちが負担したり新たな税を徴収したりとしたとありますので、モンスターの出現も同じように扱われることは私でも知っています。

そしてゲーム開始のことを考えれば、冬にモンスターが繁殖前のエサを求めて人里に来てそれを撃退……なのに今年は数も多ければ巨大なモンスターも出る、という流れだったはず。ということは前線はとにかく大変なのでしょう。もはやゲームの世界ではなく私にとって現実の世界ですからね、楽観視なんてできるはずありません。

だって、もし ゲーム通り(・・・・・) だとしたら私が流れを変えてしまったことで、主人公が存在しない、或いは巨大モンスターが出現しないなどの可能性だって捨てきれません。

もしそうだったら?

巨大だったり大量だったりするモンスターは軍で解決できたとして、その被害は?

私の中ではプリメラさまが幸せになってくれることを願うのと同時に、それによって何か奇妙なことが起こったらどうしようという不安が拭いされないのです。いいえ、今まで何もなかったのだからきっと、とも思っていますけど。

「まあお前が心配するこたねぇよ、それよりお前こそどうなんだ?」

「私ですか? まあ、園遊会もありますし新しい侍女を宮に迎えることになって教育も頭を悩ませてはおりますが」

「そうじゃねえよ。なんかあったろ」

「……は?」

「アルダール・サウルと」

思わず体が固まりました。

え、そんなわかりやすいですかっていうかなんで突然……。

私の反応で当たりだと判断したのか、王弟殿下はにやぁっと笑みを深める。

「おお、当たりか。わかりやすくていいなお前」

「なっ、なっ?!」

にんまりと笑った顔はまさに悪役ですよ、王弟殿下!

それにしても私どんな顔してたんでしょう、いえ、きっと真っ赤になったんでしょう。だって熱いもの!!

「お前でもそういう反応するんだなあ……俺も驚きだ」

「うるさいですよ!!」

「おや、冷静な侍女の顔はおしまいか? ユリア」

「ああもう、この人性格悪い!」

いやまあ口にするまでもなく知っておりましたがね。

私にとって変わり者仲間というか、近所のお兄さん的な人だから気安いというのはあるんですけど……向こうもこの揶揄い様でおわかりでしょうが、私の中身がただのヘタレだって知ってますしね。

まったく……心配してきてくれたなら最初からそう言いなよ!

「プリメラも心配してな、俺に相談してきた」

「え!」

「相談くらい乗るぞ、俺はお前に比べりゃ恋愛経験豊富だからな!」

「誰に比べても多いと思いますけど」

「ははっ、違いねエ! ……けどよ、本気の恋はひとつだけだぜ」

「それも存じております」

この人の恋物語、は語る口を持っていないけど。勝手に話すことでもないし?

だけどこの人が女たらしになった経緯は本人が何故か教えてくれた。私が軽々しく他人に話さないと踏んでのことだと思うけど、今でも理由は正直分からない。

でも、うん、まあ。難しく考えるのはよくないな。

ぺち、と両手で自分の頬を叩く。

そう、私はちょっと難しく考えて、迷子になっているんだ。

だからここは、素直に助言を聞いた方がいい。

それがろくでもないものだったら、「ろくでもない!」って突っぱねりゃいいんだから!

「それじゃあ聞いてくださいますか」

「おう、……急に素直になると気持ち悪いな!」

「なんですとこのサボり魔」

「誰がサボり魔だ、ちょっとした息抜きしてるだけだろうが!」

いいや、誰に聞いたって王弟殿下のサボり癖は有名ですから誤魔化せないでしょう。息抜きにも限度ってものがあるんですよ?!

とまあ、くだらない何時ものやり取りをしたおかげでしょうか。

私も少しだけ気分が落ち着いて話を冷静にできるような気がしました。

「……アルダール・サウルさまが、私にお心をくださった……と思います」

「へえ、とうとう」

「とうとうって?!」

「いいからいいから。続けろや」

心をくれた。

その言い方はきっとこの国独特の言い回しで、まあ要するに告白されたって言うのが直接的過ぎるっていう貴族の女の嗜みのひとつだね! 男の人はそこまで気にしないらしいんだけど。まあ流石に私も令嬢の端くれですのでちゃんと言葉は選びますよ!

「でも、私……その、ありがたいこととは思うんですけどお慕いしているかはわからないんです」

「わからない?」

「そうなんです。物語の恋とか、頭では理解できるけれど自分に置き換えた時、物語のような感情を誰かに抱いたことがない……そう思います」

そう。それはきっと前世の私の記憶が関係している。

その記憶のおかげで今でもシフォンケーキが食べられるし、プリメラさまのことを守ってあげる方法を探すことができたんだと思う。だけど同時に、生まれたて直ぐから精神が大人ってことは、それだけ子供時代が大人視点での行動だったってことだ。つまり冷めた子供だったに違いない。

本来の同年代にトキメクこともなく、「よし仕事しよう!」ってスイッチ入った私はこちらの世界の恋作法もすっ飛ばして生きてきた。

本来の道である令嬢として家の為の婚約者って形で結婚だって結論を家族に出されてたらきっとそうしていただろう。

でも出会いがあった。

プリメラさまと出会って大好きだからこそ幸せにしたくて、仕事一筋になったのが現在。でも結局そうなると、私は『恋していない』ということに気が付いたんだ。縁があればなんて言ってたけどかなり衝撃だぞこれ。

そりゃアルダール・サウルさまは良い人だ。カッコいいしイケメンだし気遣いもできる。優しいし、ちょっと意地悪なところもあるけど、じゃあそれだけで選んでいいのか? そんないい人を? 好きになれなかったらどうするの?

付き合って好きになれなかったからごめんなさい、なんて不誠実すぎるでしょ?

それどころかそんな確認するような付き合い方して、私に幻滅したら? 逆にそれはあり得るでしょ。超可能性あるでしょ!

そういうことが頭をいっぱいにするんだよね。

いや、それ以上にアルダール・サウルさまがイケメン過ぎるのもいけない。

直視できない、これすごい問題だし!

それに、「彼が恋人ですー」なんて明言してみろ。刺されるぞ、私が。

「……とまあ、そういうわけでして」

あら?

なんで王弟殿下、机に突っ伏してんのかしら。私の話のどこに呆れる要素があったよ?!

「……王弟殿下?」

「お前なあ……あー……どうしてくれよう!」