軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

597 とある男の日記(抜粋)

――○月×日

兄に手伝ってもらって父親にも出資してもらえることになった。

自分の作ったチョコレートが認められたと思うと心が躍る!

彼女にもそのことを伝えたらとても喜んでくれた。

お祝いにおれの作ったガトーショコラが食べたいと言ってくれて、張り切って作った。

――○月▼日

店の外観もできてきて、登記をするのに店名を考えるように兄にも言われて彼女に相談した。

おれと一緒にいつかは店を切り盛りするのだからと彼女を現場に連れて行ったら目を輝かせて『ああ、ゲームに出てきたお店……!』と大きな声を上げたからびっくりした。

どうやら彼女が言うゲーム? におれの店が出てくるらしい。

彼女のごり押しで店名が決まった。ミッチェランだ。

どういう意味なのかは彼女も知らないらしく、おれとしてはなんとも言えない気持ちになったが……でも彼女が喜ぶなら、いいかと許容した。

――○月○日

店は幸いにもオープンから人気となり、出資分はすぐに父と兄に返せそうでほっとした。

このまま営業が上手く続いてくれたら彼女にプロポーズだ。

結婚式費用だってきっとすぐに貯められるだろう。

念願だったショコラティエとして店を持てて愛する人に出会えて、ああ、人生って素晴らしい!

――×月×日

彼女の様子がおかしい。

店は繁盛し、彼女も王都の暮らしに馴染んでいたはずだ。どうして?

――×月▼日

好きだったゲームの中だと知れて嬉しいと笑っていた彼女はいつの間にか『自分は舞台を準備するためにいるのだろうか』『なんのためにこの世界にいるのか』としきりに口にするようになっていた。

笑わなくなった彼女のために、彼女の好きなガトーショコラを作ったが口にしてもらえなかった。

――×月●日

帰りたい。彼女はしきりにそう言うようになった。

どこへ? ここが現実だというのに。

おれと共に生きるここは現実ではないのか?

いつまでも以前の名前に、思い出に固執する彼女。

彼女の目にはおれが見えていないのだろうか? どうしたらいいのかわからない。

――△月○日

彼女はぼんやりと外を見て、ここは現実じゃないとおれに言い、帰りたいと繰り返す。

遠い地にいる家族のことについては一切触れない。

ただ『あの世界に帰りたい』とそればかりを口にする。

そんな彼女の様子に、周囲は心を病んだのだと言った。

兄はおれに彼女との仲を諦めるよう言ってきた。

どこかの教会に預け、良くなるまでの面倒を見る金は商会が出すからおれに彼女を忘れて自分の人生を生きろと言う。

兄を殴った。初めてのことだった。

悪いことをしたと兄に謝ったが、それでもおれは彼女を諦められない。

どうして。

――◇月●日

かのじょが いなくなった

――◇月△日

店を運営しながら彼女を探す。その行方は未だにわからない。

諦めろと周囲は言う。

兄は今も彼女を諦められないおれに怒り続けている。

家族として心配してくれている兄に感謝をしているし、彼女を諦めるべきなのだとおれ自身わかっているのにこの衝動を止められない。

彼女はおれのことなんて見ちゃいなかったんだと、わかっているのに。

――■月●日

彼女は今も見つからない。生死がわかれば、おれのこの気持ちも晴れるのだろうか。

――□月×日

兄が曾祖父になった。おれも会わせてもらったが、赤ん坊はやっぱり可愛いものだ。

だがそれよりもきになることがある。

ゲームの中に出てくる登場人物とこの子が同じリード・マルクであったことだ。

彼女が唯一残したゲームの情報を記したメモ。

いつまで経っても彼女のことが諦められなかった未練がましいおれが後生大事にとっておいて毎日のように眺めていたから覚えている。

じゃあ、この世界は本当に、彼女が言っていたようにゲームの中ってことなのか?

いいやここは現実だ!

――□月◎日

リードはおれの作るチョコレートを美味しそうに頬張る。

現役は引退したが、この子が喜んでくれるならショコラティエとして誇らしい。

それと同時に彼女の残した情報を元に、この子が歪んだ道を行かないよう正していくつもりだ。

ここはゲームなんかじゃないと、おれが証明して見せよう。

きっとどこかで生まれているであろうヒロインのためだけの世界なんかじゃない。

おれたちが生きて、この可愛いリードが自由に自分の人生を生きる世界なのだと。

――(日付記載なし)

かのじょは かえれたんだろうか