作品タイトル不明
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まあ私の気持ちがもやもやとして晴れないからって朝が来ないわけでもなく、お仕事が消えるわけでもなく……。
世の中ってのは平等に時間が過ぎるモノです。
というわけであれから何がどうってこともなく、変わらぬ日々が続いて……いや王女宮は相変わらず忙しいです。
誕生日パーティーの準備に追われております!
やはりね、規模が大きくなりましたから!!
おのれ陛下ぁ、やはり人手が必要ですよ!!
とはいえこれは嬉しい悲鳴でもあります。
だって我らがプリメラさまが、本格的に 淑女(レディー) としての活躍の幅を広げている……その証でもあるのですから。
こちらの世界における王侯貴族のステータスの一つに、どれだけ立派なパーティーが開けるかってのがあります。
財力は勿論のこと、招待した客層やもてなしの内容でどれだけ主催者が優れているのかってのがわかりますからね。
主催者が優れているっていうのは本人の采配がどうのってことだけではありません。
目に見えるところから貴族たちは『第一王女プリメラ』を判断する糸口とし、今後の付き合い方にそれを反映していくのです。
現段階のプリメラさまの評価は『国王陛下が溺愛している王女』の位置づけからそう変わっていないように思います。
少しずつ公務が増えてはおりますが、今回の婚約発表を機に社交界デビューとなるわけですから第一印象は大事ですよね……。
(私も参加客である以上、プリメラさまのサポートに入る立場にはないもの……)
いいえ、以前アリッサさまが仰っていたように、貴族令嬢としての……あるいは貴族夫人としての私の立場が確立されていたならば今回のような状況で、プリメラさまのサポートに入ることはできたと思います。
しかし。
しかしながら!
私には侍女としての人脈はあっても貴族家の女としての人脈がない……!
ええ、こんなところで実感ですよ。
侍女としてずっと後ろに控えているもんだと思っていましたが、そりゃそうですよパーティーの真っ最中は少し離れた位置で見守るのが基本!
社交のお手伝いはまた別!!
そういうところで気が回ってなかったんだなあと思うと本当に反省ですよ。
いえ、アルダールと出会う前の私はそれで十分だと思っていた節がありますので……大人だと自負しておりましたが、面倒くさい現実から目を逸らしていた気がしますね……。
(でも! 今回はちゃんとアルダールと挨拶回りするんだから!)
アリッサさまが親しいご友人を紹介してくださるそうで。
バウム家の繋がり……というほど濃密ではなく、各派閥でご紹介くださるとのこと。
各所に配慮してのオツキアイ、勉強させていただきます……!!
ちなみにビアンカさまも紹介してくださるって話なんですが、なんだかとっても……ええ、こんなことを言ってはいけないとわかっていますが、ビアンカさまとアリッサさま、お二人と話をしたってだけで私のステータス爆上がりしそうな予感ですがそれはどうなんでしょう……。
実際にはお二人がすごいのであって私はすごくないんですが、あのお二人と知り合いってだけですごい人認識されてしまいそうで厄介な予感!
でもこれを利用してこその社交界なのかとも思うし……気が重いなあ!!
「今日の晩ご飯を悩むだけじゃだめなのかしら……」
「だめでしょうねえ」
思わずそんな話をしつつそう零したらあっさりばっさりメッタボンに切り捨てられてしまいましたよ! トホホ!
招待状やらそのお返事やらについてはデボラさんとスカーレットにお任せし、私は調理場でパーティーに出すメニューについてメッタボンと協議真っ最中です。
勿論大半は決まっていますが、それでも季節の野菜や果物、招待客の中でも重きを置く相手に配慮した……たとえば、その方の出身地の料理を出すとか、そちらにばかり気を遣って偏りがないようにですとか。
とにかく配慮、配慮、配慮の日々ですよ!
その他にも食材が万が一遅れる、手配ミスがあるなどといった場合の想定で二次案三次案と作って城内の料理人たちと共有、決定稿を私が預かって更に上奏、オッケーをもらってくるという感じですね。
今回も王族の行事なので当然、そちらに担当官がいるわけですが……王女殿下のことは王女宮の管轄でもあるので、そこら辺は足並みを揃えないといけないってわけです。
去年も一昨年もそうやってましたよ!
ただ本当にね、今年は規模が変わりましたから……今年を機に今後もこのように慌ただしくなることは確定です。
それでも今年、この流れをきちんと押さえさえすれば来年以降の指針ができるのできっと楽になるはずですからね!
人が増えてくれるのが一番なんですけど……。
「そんでこのマリンナル王国の海産物を使ったスープやソテーなんかはいいとして、チーズの産地で今意見が割れている感じですなあ」
「……そうねえ」
いっそのことチーズの違いを楽しむフォンデュとかにしてみたらどうかしらなんて思いましたが、それはそれで難しそうです。
コースメニュー以外にも舞踏会の会場では軽食を用意しなくてはなりませんし、そちらは見栄えも食べやすさも考慮して……本当に料理人の方々には無理を言ってばかりで申し訳ないです。
「このサーモンのサラダ美味しいわ」
「そいつは王城内の料理人でも若手の案らしいですよ。俺も負けてらんねエと思いました」
キリッと言うメッタボンですが、そうやって他の人の料理をきちんと認められるのって素敵だと思いますね。
いやしかしこのカクテルサラダ、美味しいわ……。
当日も楽しみにしましょう!
「そういやユリアさま、ユリアさまの結婚式の料理はどうすんですか」
「……このパーティーの準備が終わってからよ。婚約式が終わったばかりで式場の手配、その他諸々でまだ手一杯なの」
「まあそうでしょうなあ。慌ただしいことこの上ないですから」
メッタボンは笑っていますが、こっちは笑えないんですよ……。
うーんいやしかしこの毎年のパーティー準備をこなしているからこそ、自分の結婚式に向けての弾丸作業も難なくこなせているんですよね。
こうなってみると国王陛下に言い渡された難題を、国王陛下のおかげでやり通せる……?
ってんなわけあるかい。
思わず脳内で突っ込む程度には疲れている、そんな風に思うのでした。
「あら、ミニケーキはチョコレートにしたの?」
「ああ、はい。フィライラ・ディルネ姫がこの国に来てチョコレートケーキを召し上がって以来、大層お気に召したらしくて王太子殿下から入れられるようなら頼むと連絡があったそうです」
「そうなの。確かに美味しいものね」
この国だけではなくよその国にも〝チョコレート〟は存在しますが、我が国のものが味と品質において群を抜いているという話を聞いたことがあります。
それはミッチェランの秘伝の技術だかなんだかという話で、よその国からも出店依頼があったり店ごと移転してこないかという交渉があったっていうのも有名な話。
それでもミッチェランはずっとこのクーラウム王国の、それも王都に店を構え続けていることに何か意味があったんでしょうか。
深く考えたことはなかったですが……先日の話を思い出すと、やっぱりもやっとしてしまいましたね!!
「ははは、まあチョコレートケーキに関してはミッチェランのものを一部納品してもらうことで話を進めているそうで……そちらは別部署が担当するそうです。それに関しての書類もその中にありますんで、後で読んでいただけたら」
「わかったわ。……やっぱりチョコレートと言えばミッチェランねえ」
「そうですなあ。そういやご存じでしたか、ミッチェランの創業者ってすげえ冒険者だったらしいですぜ」
「えっ」
「まあ噂程度の話なんで、眉唾ものかもしれませんが」
カラカラと笑うメッタボンですが、私は驚きを隠せません。
なにそれまたもや初耳なんですけど!?