作品タイトル不明
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結局のところ、ミュリエッタさんの心を折った理由がそれとは限らないものの……ミッチェランの創始者、それもリード・マルク・リジルくんの親戚が転生者だったかも知れない疑惑が出てきたわけですよ。
いやあ、世間って狭いですね……!
なんかちょっと違うけど!!
(もしもミッチェランの創始者が転生者だとしたら、プレイヤーだったのかしら? それともただ転生してきただけの、ゲーム知識とか何もない状態だったのか……あるいは、フィライラ・ディルネさまのようにまるで他人の人生を垣間見るような感覚とか……)
今となっては本人もいませんし、かといってリード・マルクくんに確認するかっていうとそこまで大事なことでもありませんし……。
ほんのちょっぴり私にとっては気持ち悪い話だなあ、程度です。
まあ、チョコレートは美味しいですしそこはもし転生知識のおかげでゲームよりもより美味しいチョコレートを味わえる展開になっているっていうなら感謝すべきところではありますが!
(もし転生者だとしたら、この世界はやっぱりゲームと違うんだって…… そもそもが(・・・・・) 違うんだって、改めて思ったんじゃないかしら)
ゲームに出てくる世界、名称、人物……そういった人たちに触れて自分が主人公として生まれたなら、物語通りにやれば そう(・・) なると思っても不思議ではありません。
とはいえ、主人公と同じルートを辿ったところでそれは真似ているだけで本人ではないので、結局のところ全く同じものになるのか? と問われると誰も答えは出せないと思います。
まあ、現実だから違う部分が多すぎて結局のところ物語通りになった可能性はどうなんでしょうね……?
私にはわかりません。
ただ、物語よりも前に転生した、登場人物とまるで関係ない私がここにいるように、ずっと前に転生した人が いない(・・・) とは確かに言えないんですよね……。
その人が転生者だという確証もないわけですが。
チョコレートだけをとってそうと決めつけるのは早計ですから。
でもその話題でミュリエッタさんが大人しくなったのなら、多分彼女の中ではもう決定的な何かがあったんじゃないかなと思います。
ゲームとはまるで違う現実、それに気づいて尚どこかで〝ヒロイン〟という座に縋っていたのかもしれません。
でもある意味でまるで違う現実ということで、自由選択の道でもあると私には思えたわけですが。
だってゲームだとエンディングって決まってるじゃないですか。
恋愛という点で言えば攻略対象者は決まっていましたし、隠しルートもあったわけですが……とにかくその人たち以外を選ぶことはできませんでした。
職業に関してはパラメーター次第って部分はありましたが、治癒師なんて職業あったっけな……?
(それで心が折れたとして、彼女はどうするのかしら)
リード・マルクくんも今後彼女をどう扱うのでしょう。
私たちが別の場で顔を合わせる度に気まずいのもちょっと……ねえ?
「ユリア? 大丈夫かい?」
「え? ええ……ハンスさんがさっき言っていたことと、ミュリエッタさんの関連が結局よくわからないなって思って」
「それはまあ……確かに。こちらとしてはよくわからないことが増えたって感じだね」
自宅に帰ってからもぼんやりそんなことばかり考えていたせいか、アルダールに心配されてしまいましたよ!
結局、ハンスさんから話を聞いた後にわかったことはそれ以上でもそれ以下でもないってこと。
とりあえず〝ミッチェランの創始者〟について、チョコレートをお茶請けにリード・マルクくんがミュリエッタさんに語った。
彼女はまるで萎れた花のように大人しくなった。
そこでそれ以上の話があったのかどうかまではわからない。
ただ、それだけ。
それだけだからこそ、私たちが踏み込んで調べる必要性は感じない……だけどこの消化不良な情報に、戸惑いだけが残るのです。
そう! まさしく胃もたれのように!!
(無駄な情報が多すぎて結局何が本題なのかわかんなくなっちゃうとか最悪じゃない!)
わかったのは、よくわからないってこと。
ミッチェランの創始者については転生者かどうかもわからない。
彼が為し得たものはリジル商会を大手の商店にするのに貢献したこと、そしてチョコレートを世に広めたってことだけだ。
それだけで転生者と言っていいのか……。
そもそも転生者だからってプレイヤーだったかどうかもわからないし、どっちだろうと現実にとってそこまで大きな意味もないのではないかとか。
(ただ、プレイヤーなら必ずしもゲームの時代に転生するわけじゃないってことになる。それならそれはもうシナリオと転生は無関係ってことだ)
そしてプレイヤーじゃないなら、そもそもその仮説すら成り立たない……ってことになるんじゃなかろうか。
どちらにせよ、ミュリエッタさんが思い描いたような『ヒロインに転生して無双しちゃう』なんてことはやはり夢のまた夢で、最後の最後まで希望が打ち砕かれちゃったんだろうなあ、という想像しかできない。
アルダールにそんな話ができるわけでもなく、また考えたことも憶測の域を出ないことばかり。
「……とりあえず、プリメラさまの誕生日パーティーで挨拶くらいはしておきましょうか」
「それが無難かな」
周囲の貴族たちにリジル商会の跡取り息子夫婦と不仲だなんて思われたら面倒くさいですしね!
モヤモヤする気持ちはありますが、結局のところ私たちが知ってもどうしようもないことですしね……。
たとえばもしその創始者がまだご存命だったとして、転生者かどうか聞いてなんになるって話ですし。
「まあ彼女が落ち着いてくれたなら、今後は安心してユリアもリジル商会を使えるんじゃないかな?」
「それは……まあ、そう、かしら」
直接的な関与はしないよう努めてくれるとは言っても、跡取り息子夫婦となれば本店である王都店にいるでしょうし、王都住まいの私にとっては確かにちょっとな……と思うところではありましたからね。
とはいえ正直そこまで今は『リジル商会でなきゃ!』ってことはないです。
なんだったらある程度品を知っている今だからこそ、行かずに人に頼むってことができますしね。
目利きがどうのってなるとまた別の話かもしれませんが、そういう意味でもマーニャさんとカルムさんはお任せするに値する人材ですからね!
後々そこにハンスさんとセバスチャンさんが加わると思うと……むしろ一介の子爵家に目利き揃いすぎでは?
(……プリメラさまの誕生日パーティー、何事もなく終わってくれたらいいのだけれど)
ドレスも決まっているし、幸せたっぷりで今回は楽しむぞって思っていただけに不穏なものを感じずにはいられません。
まあ逆に言えば、ミュリエッタさんがもう転生者特典(?)に縋ることも諦めて堅実に生きる方法を婚約者相手に相談できるようになって大団円って可能性も捨てきれませんから、そちらに懸けたいところですね。
(しかし今後ミッチェランでお買い物をする度に考えちゃいそう……)
そうだよねえ、チョコレートケーキとかガトーショコラとかだけでなく、プラリネやチョコレートボンボンなんてよくよくデパートで見るような品揃えなんですよ。
むしろどうして疑問に思わなかった!
「……ユリア?」
「今反省中なの」
「? ……反省……?」
アルダールからしたら意味がわからないと思います。
思いますがこれは私にとっては必要なことなのでね! 気にせず!
どうかお気になさらずに!!
この反省が済んだら、私も気持ちを切り替えて『それはそれ』で済まそうと思っておりますのでね!