軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「……という話が昼間あったの」

「へえ……それはまた、なんていうか」

アルダールが苦笑しながら野菜を突っつきました。

今日は帰りに野苺亭で食事をしております。

なんとハンスさん付きで。

というのも、ハンスさんはいずれ近衛騎士隊を辞めてアルダール付きになる予定ですので最近は従者として今後どういう形でいるのかの話し合いがですね……。

基本的にはアルダールが登城する際に付き従ってそこからうちは領地があるわけではないけれど、子爵家としての手続きがあればそれらを代理で進められるだけ進めるとかそんな感じですかね。

で、仕事の終わり頃を見計らってアルダールを迎えに行って……ってな感じで。

基本的には他家との手紙のやりとりですとかそういったことを任せる方向に固まりつつあります。

ほんと考えることが山積みでいやになっちゃいますね!

で、今回はヒゲ殿下から教わった話を彼にも聞かせるのには一応理由があって、ほらまあ、ハンスさんも何かしらの上の人たちの指示でミュリエッタさんに近づいていた人の一人じゃないですか。

そんな人だからこそわかることもあるかなーってことで。

「まあ、あちらが直接連絡を寄越さなかっただけ評価してもいいかな」

アルダールはそう言いつつも苦笑気味でした。

まあねえ。私もそこは理解しているつもりです。

直接的な接触は避ける……そう明言しておいて、ミュリエッタさんが一方的に私に接触。

その後、まさかのパーティーで一緒になる予定があるんですからね!

とはいえ、あちらも商会長の名代。

出会う人出会う人に挨拶して回る役割もあるでしょうし、広い会場とはいえ移動していればどうしたって近くになる可能性だってあるでしょう。

だからってわざわざこちらが避けてあげる理由はありません。

そうなればあちらは大商会の名代とはいえ、私たちに挨拶をしないわけにはいきませんよね。立場上。

そうして挨拶されたなら私たちだって無視するわけにはいきませんもの。

なら『そういう可能性があります。ご迷惑かけてすみません』って遠回しでも連絡を入れてきただけましかなあっていうアルダールの言葉も頷けるってもんです。

鷹揚に構えて受け入れてあげるのも貴族の美徳ってやつですから……。

正直なところ、あれだけの大商会の跡取り息子とその婚約者ですもの。

こういったことは今後あり得るだろうなとは私も考えていたので別にそこに対して思うところはありません。

「……彼女が『反省した』というか、これまで真っ向から向き合おうとしなかった相手とどうして……って気にはなるけど、深入りはしない方がいいでしょうね」

「まあ、そうだろうね」

ヒゲ殿下には気になりませんって言いましたが、普通に考えて気になるところですよ。

いったいどんな会話をしたらあの夢見がちな彼女に現実を突きつけることができたのでしょう?

いえ、彼女は今ものすごく現実に追い詰められているからこその逃避感がありますけど……その状況で現実を見つめさせる威力のある何かがあったのかってのはやっぱり気になるじゃないですか!

とはいえ、そういうことに首を突っ込んでいいことなんて絶対にないですからね。

興味本位で藪をつついて蛇を出したら意味がないんです。

こういう身内だけの会話だから許される話ですよ。

それでも外だからボカしての会話ですけど!

「あ、それ俺わかるかも」

「えっ」

それまで鳥の丸焼きを一人で黙々と食べていたハンスさんが、朗らかな笑顔を浮かべて……いやすごい食欲ですね?

所作が綺麗だからついつい見逃してましたけど、私がまだグラタンを三分の一も食べ終わってないのにハンスさんの丸鳥、もう半分以上ないですね!?

アルダールはいつもゆっくりめに食べて……ってあれは私に合わせていてくれたのかと思うと、改めて彼のスパダリっぷりを感じましたよ……。

「ハンス、何か知っているのか?」

「知っているっていうか……まあ、俺の知り合いっていうか、そこはあまり聞いてくれるなよ? とにかくあの商会に出入りしている人間に 伝手(ツテ) があってさ」

「……それで?」

「あの商会って先々代からデカい商会になったってことは、二人とも知ってるよな? 有名な話だ」

「え、ええ。詳細は知らないけれど……」

そうです、リジル商会って昔はジェンダ商会と同じく、地元密着型の小さな商店だったそうです。

ところが先々代……つまり現リジル商会のあの狸さんの祖父の代で、急激な成長を遂げたのです。

それは先々代の息子たち、先代とその弟が優れた商売人であったというのは有名な話。

「先代は営業、その弟さんがたしか開発や目利きに長けていたんでしたっけ……」

「そ。でさ、先々代の弟さんってのが商会がデカくなったあたりで家を出て、店を興したんだ。それがミッチェラン」

「ええ……!?」

「今じゃチョコレートと言えばミッチェラン! だけど、その先々代の弟ってのがミッチェランを立ち上げて大々的に売り出してさ。それで実家の菓子部門に大打撃。おかげで兄弟喧嘩が勃発して没交渉になったって話」

「それは初耳です……」

「まあミッチェランを作るためにチョコレートを隠していたのか、実家で揉め事があったから家を出たのか……そこについては結局本人らしかわからないまま、両名とも今や墓の中だからね」

詳しく知る人はいないんだそうです。

曾祖父の代となれば確かに年齢を考えて、今やご存命の人の方が少ないかもしれないですしねえ。

それにしてもミッチェランもリジル商会繋がり……いや没交渉ってことは勘当されたようなもんでしょうか?

そう考えたら繋がりはないに等しいのかも?

でもまさかの繋がりですよ。

「……? でもそれとこの話、なんの繋がりが」

「そのミッチェランの創業者ってすごい長生きだったらしいんだよね。そんでもって兄のひ孫をことのほか可愛がっていて、その子もよく試作品を作る秘密の厨房に遊びに行っていたんだってさ」

「それって……」

つまり、リード・マルクくん。

いやでも確かに孫は可愛いって言いますし、そう考えると兄のひ孫であってもよその子ってほど遠くもありませんし可愛いと思っても不思議ではありませんよね。

カワイイはやっぱり正義ですもの!

純粋に懐いてくれる幼児が自分の作ったお菓子で蕩ける笑顔を見せてくれたらそりゃ兄弟の確執を脇に追いやって可愛がっちゃうかもしれません!!

私もプリメラさまがお菓子を作るのを楽しみに待っていてくれるあの笑顔を見たら、その日あった嫌なことも忘れられそうなほど幸せになれますからね……!

「っていう話を耳にしたあのお嬢さんがすごい動揺したって言うんだよ」

「えっ?」

「例の父親から諭された後にリジル商会に彼女が来たらしい日、茶請けにミッチェランのチョコレートを出すようあの若坊ちゃんが指定したらしくてさ。なんでかその話をし出して……そうしたら彼女の顔色が変わったって言うんだ」

「……」

「その後はわからない。ただまあ、ミッチェランのチョコレートがなんだっていうんだろうね。美味しいのはわかるけど」

「そう、ね……」

ハンスさんの言葉に私も眉間に皺が寄りそうになって、思わず顔面に力を入れました。

唸れ私の表情筋!

こんなところで驚いたり不審な行動をしたら、目の前の二人が違和感を覚えちゃうでしょ!!

確かに『チョコレートと言えばミッチェラン』で合っています。

この世界にはチョコレートケーキだのクッキーだのいろいろある割にアイスやタルト・タタンがなかったり不思議だなあとは思っていました。

でもそれも『ゲームだからそういう面は適当なんだろう』みたいに、軽く考えていました。

そして現実であると認識した今、そのことについて深く考えたことはありませんでした。

でも、でもですよ?

もしも、リジル商会の先々代兄弟、その弟も転生者だったなら……?

(ゲームのプレイヤーたちが体感する世代ではなく、その前からそういう人たちがいたとしたら)

それこそ、ミュリエッタさんの『自分がヒロイン』という心を折る一つのきっかけには、なるんじゃないかと……そんなことを考えて、私はなんとも言えない気持ちになるのでした。