軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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スカーレット嬢の登場からげっそり疲れた。

あの後きゃんきゃん文句を言ってくる彼女を黙らせることはとても難しく、王宮の侍女姿の彼女が喚く姿は大変悪い意味で目立ったのだ。まあ、あれが王宮の侍女だと町の人すべてが知っているわけではないので単純に痴情のもつれからくる修羅場だと思われていたかもしれない。それはそれで困ったものだよ!

幸いにも彼女はひとりではなかったらしく、彼女よりも 年嵩(としかさ) の侍女が慌てた様子で現れて様子を見るなりスカーレット嬢の頭を掴んで事情も聴かず我々に頭を下げさせた。一連の動作が流れるような動きで慣れているとしか思えないほどに美しい動きだった。

私はその侍女を知っていたので「あとで内宮の筆頭侍女にお時間をいただきたい」旨を伝えてもらうことにして、とにかくスカーレット嬢を連れて行ってもらったのです。

っていうかひとりじゃなかったんなら勝手にふらふらしてたってことでしょうかね。侍女をクビになったりしたら彼女どうするんでしょうか……侯爵令嬢だからってこういうのはシビアなんですよ、世の中。わかってないんだろうなあ……。でもまあ王城に勤めている以上、簡単にクビにはせず降格からがっつりしごかれる可能性ばっかりですけど。

「申し訳ありませんでした、アルダール・サウルさま」

「ユリア殿が謝る要素がひとつもありませんね」

「ですが、同じ王宮の侍女として、」

「慣れてますよ」

「えっ、彼女そんなにアルダール・サウルさまのとこに押しかけて?!」

「ああいえ、そういう意味ではなく」

さっと顔色を無くす勢いの私にアルダール・サウルさまはちょっと慌てた様子で笑ってくれた。

そして促されて、一緒に歩き出す。

何事もなかったかのように差し出された腕に手をそっと添えて歩くのはやっぱりちょっと恥ずかしいが、まあ致し方あるまい。令嬢として経験を積んでいるのだと思えばこれも修行であってこれによって侍女としてさらなる高みにとかそんなことでも考えてないと恥ずか死んでしまう。いや、死なないだろうけど。

とかまあ茶化す場面でもないんだろう。

いくらなんでもスカーレット嬢の態度はなかったし、アルダール・サウルさまが怒ってもしょうがない話なんだから。

「私が望まれた子供ではなかったことはご存知でしょうか?」

「えっ……あの、はい。噂程度ですが……」

「遠慮なさらず。私が即近衛に入れたことで不満を持った人々が色々と面白く語って回った結果ですからね。まあ事実ですし……父も経緯はともかく息子として認めてはくれていますから」

アルダール・サウルさまがごく自然に、ただの世間話のように幼少の頃のお話をしてくださった。

バウム家の別宅で、家人はいるものの家族というのがあまりよくわからなかったそうだ。けれどもご当主が結婚して、ご正妻さまが長子としてバウム家に改めて受け入れてもらって今幸せだと仰って。

「弟は可愛いですからね、ちょっとやんちゃで心配ですが」

「ふふ……そうですね、ディーン・デインさまはちょっと無茶をなさりたいお年頃なのかもしれません」

「それで怪我をしては愛しの方に心配をかけるだけなんですがねえ」

「でも少しくらい無茶をしてでも大人になりたいものなのではありませんか?」

思わずそんな風に言うから、私も弟がちょっと大人ぶりたい風で手紙にそういうそぶりを見せていることを思い出してしまった。背伸びしたいお年頃なんだろうなあ。

「そうですね、そうかもしれません。だから、ね。ユリア殿」

「はい」

「私はそういう軽んじられる言葉を投げかけられることに慣れています。不快にも悔しくも思いますが、今はきちんと家族と向き合えているのでそれだけで済むのです。だから、貴女が謝る必要はありません」

「でも、」

「侍女としてと仰るならば、やはり必要ないかと思います。それこそ彼女は内宮の侍女なのだから、私が苦情を入れるならば内宮の筆頭侍女殿か全ての侍女の頂点におられる統括侍女殿になるでしょう」

出すぎた真似、だっただろうか。そうかもしれない。

王宮で共に働く侍女だからと思っての謝罪だったけれど、言われてみればそうだ。でも私の管轄外とはいえ知らぬ存ぜぬはできないし、じゃあどうすればよかったのだろう?

それに、ただ謝ったのは侍女としてだけだったのだろうか、と自分に問いかける。

そうじゃないな、と結論は案外あっさりと出た。

「でも、私は……私は、アルダール・サウルさまが私と同じ侍女に嫌な思いをさせられたことが嫌だったんです」

「え?」

「私は私で別の存在であるし、彼女と私は一律で語るわけではありません。けれど同輩が貴方を貶めるような言い方をしたことがとても嫌だったんです」

「……ふむ、難しいですね」

苦笑したアルダール・サウルさまが立ち止まる。

うん、まあ、そうだよね。

私の勝手な気持ちの問題だ。

侍女をしていて、アルダール・サウルさまと知り合えて。

この人が噂にあるような身の上である以上に、家族と今きちんと向き合っていることも、弟を支えたいという気持ち、分家の話を真摯に受け止めつつも騎士として生きていきたい、そんな気持ち。

そういうものを私は知っていたからこそ、同じ侍女がアルダール・サウルさまに無礼を働いたのはなんだか屈辱だったのだ。

ううん、違うな。

侍女として、というのは建前なんだろうと思う。

「……私が、嫌だったんだと思います。貴方が嫌な気持ちになるということが」

そうだ、きっとそうだ。

アルダール・サウルさまは“たかが伯爵子息”でも“跡取りになれなかった”人でもない。

そりゃスタートは親の七光りもあっただろうけれども、実力重視の近衛隊に於いて今や一目置かれている人なのだ。この人自身が努力家で、優しくて、ちょっと意地悪だけど気遣いができる、そういう人だから。

「それで謝ってくれた、と?」

「はい」

「そういうことでしたら、受け入れなければ男として恥ですね」

「え?」

「では、詫びとして……そうですね、園遊会が終わりましたらまたこうしてご一緒しましょう。今度は遠乗りなどいかがですか。城下を出た先の街とかも趣が違って楽しめると思いますよ。約束です」

にこにこと笑ったアルダール・サウルさまは、なんだか機嫌が良さそうだ。

あれっ、……よく考えると自分の考えに夢中で口走った言葉を反芻するとですね、私……結構恥ずかしいこと言いましたね。

でもこれは恋じゃありませんよ!!

純粋に、そう純粋に友人を案ずる一人としての憤りなのです。

それにしても城下の外ですか。

うーん、ちょっと魅力的なお誘いですね。

私も実家に帰る時馬車の中から見るくらいしかないですから……あらやっぱり私は世間知らずなのかしら?

「それじゃあ本屋に行きましょうか、新しい冒険譚など見つかるといいんですが」

「そうですね、そういうもの以外にも最近の流行など見てはいかがでしょうか。中にはきっと面白いものがあると思いますよ」

「そうですね。実は私もちょっと気になる本があって」

「あら奇遇ですね、私もです」

園遊会の後か。

実家に帰る前に、ちょっとまたのんびりしてもいいのかも。

アルダール・サウルさまと一緒にいるというのはイケメンだけに緊張するけど、悪い人じゃないしね。

あーでも園遊会が終わったらまずはディーン・デインさまのお茶会ね!

「そういえば園遊会が終わったらお茶会を予定しておりますが、アルダール・サウルさまもお越しに?」

「ええ、弟に望まれていますから。……ちなみにその時にはどのような茶菓子をご予定で?」

「ちょうど林檎が美味しい季節ですからね、タルトをご用意するつもりですよ。……勿論、アルダール・サウルさまにもご用意いたします」

「楽しみにしています!」

本当に嬉しそうに笑った彼は、いつもの年齢よりも落ち着いて見える姿より。

ほんのちょっとだけ、子供みたいに笑ってそっちのほうがカッコいい、なんて思ったことは秘密である。

うん? なんだかいつの間にか約束が増えてないか?

「ああでもユリア殿、ひとつ申し上げておきたいことがあるんです」

「え?」

別れ際、アルダール・サウルさまは軽くウィンクして唇に人差し指をあてた。

気障な所作だというのに、彼がやると茶目っ気たっぷりにもなるから不思議だ。

「今日お話しした同室の男、実はスカーレット嬢のお目当ては彼なんですよ」

「えっ」

「最初は王城内で顔見知りがいて嬉しかった程度だった関係性だったんですが。ただちょっと彼らはウマが合わないと申しますか……彼女の一方的な片思いなんです。だから私を通じて彼の様子を聞きたかったのでしょう。同室の男はハンス・エドワルド・フォン・レムレッド、彼女と同じ侯爵位の父親を持つ三男坊で彼女とは深い縁を持つ、言うなれば幼馴染みたいな関係です」

「え……えええ?!」

「内緒ですよ」

王子宮で王太子殿下に見初めてもらおうと意気揚々と侍女になったはいいが出鼻を挫かれて内宮所属、しかも一般侍女として労働を強要されるわで(仕事に来てるんだから当たり前のことだけど、彼女の中では侯爵令嬢なんだから優遇されると思っていたらしい。これ割とマジで)心が折れそうな時に幼馴染が声を掛けてくれた。

そしてスカーレット嬢がいつのまにか男らしくなった年上の幼馴染に恋心を抱いていたというよくある展開なんだとか。

ところがハンス・エドワルドさまとやらは結構女好きでしかもこの国の美人の条件、儚げな細めの女性が大好きなのだという。

スカーレット嬢の名誉の為に言うが、彼女は美人である。とびっきりの美人だが、超キツメの顔立ちの美人だ。その上性格も高飛車で上から目線と……ああー、ちょっと難しいなそれ。

というわけでハンス・エドワルドさまから見向きもされない彼女はそれこそ本当は他の女なんて見ないでと素直に言えず、この女ったらし、貴族の恥だなんて詰る始末。結果彼の方に心の距離ができるのは当然の成り行きで、そこで彼女は何故か矛先をアルダール・サウルさまに向けたということらしい。

だが当然アルダール・サウルさまとしては友人とはいえ他人の色恋沙汰に巻き込まれるのはごめんだ、ということで……。

はぁー。じゃああの言っちゃいけない感じの言葉も売り言葉に買い言葉ってことなのか?

私も大概個性的なんだとは思うけれど、彼女も相当なものね……!