軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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さて、ライアンには『筆頭侍女として』は手を借りるわけにいかないなんてかっこよく宣言いたしましたが、だからといって何もしないわけにはいかないでしょう。

何もしない、というのも選択肢の一つだとは思いますけどね!

実際のところ、実害を受けているのは他でもないミュリエッタさんだけって感じもしますし……かといって放っておいても『あそこの家は舐めてかかっていい』と思われるのも癪じゃありませんか。

まだミスルトゥ家ってのは確立されておりませんから、アルダールと私っていう二人に対しての評価が下がるっていうかなんというか。

そして私たちの親にまで波及する……ことはないでしょう、相手が貴族ではありませんし。

(……問題は何がしたいかよね)

わざわざミュリエッタさんに絡みにいっているってところが問題か?

それにしてもシェルラーニ嬢、もはや嬢とつけるべきかも怪しいんだよなあというどうでもいいことで悩み始めてしまいました。

だってアルダールと同い年で既婚者だったわけですし。

今は姻族関係終了しているかどうかも定かではないので、もしかしたら姓もシェルラーニじゃないかもしれませんしね!

どう扱うのが良いのか微妙なところです。

身分差だけで物を言っていいなら呼び捨てでも良いんでしょうけど。

なんか親しげにさんづけとかもいやですし……。

(やっぱりこれは一度、相談しに行ってみるのがいいかしら)

ライアンには大丈夫と言いました。

実際、 侍女として(・・・・・) はこれ以上行動は望めないでしょう。

ライアンやセバスチャンさん、ましてやプリメラさまの権威を頼っては意味がありません。

むしろオーバーキル!

それが必要な時もありますが、今でないことは確かです。

では貴族としてはどう対処するのか?

これが正直難しいところですが……私の立場で相談できる人っていうのが難しいんですよね。

貴族夫人としてだけの立場ならば、お義母さまやアリッサさまにご相談するのが良いと思いますが……職場にも影響がある かも(・・) しれないというダブルの立場が今問題なのです。

どっちもバランス良くやるにはどうしたらいいのか?

というわけで、身近にそういうことを聞ける人が……実はいるのです。

身近ってほどじゃないんですけどね!

「……というわけでお時間をいただいたのです」

「あら、まあ、あらあらまあまあ! そういうことなのねえ」

そう……私の相談相手は、内宮筆頭と後宮筆頭です!

実はこのお二人は貴族家の夫人でありながら勤め人という、実に私と同じ立場。

とはいえお二人とも爵位持ちの貴族というわけではなく、私たちが最初に目指した騎士爵の夫人なのですけれども。

「でも、まあそうねえ、やっかみがほとんどでしょうけれど、ここで放置してはミスルトゥ家の門出の際に泥がつくかもしれないわねえ」

「……そう、ですね……。でも、やりすぎても、禍根は残るかしらね……?」

「やっぱりそうですか……」

二人の意見に私も頷きました。

思わず大きなため息が零れましたが、そんな私を見て二人の 先輩(・・) は顔を見合わせてお茶を淹れてくれました。

ポットから後宮筆頭が注ぎ、そこに内宮筆頭がお砂糖を加えて花びらをそっと載せる……えっ、なにその連携!?

ちょっとやってみたい!!

「まずはその女性の目的を探ることが大事ね」

「そうですね……果たして目的が貴女なのか、あるいは貴女の婚約者であるバウムさまなのか、それとも貴女たちの婚約をダシにウィナー男爵令嬢を貶めようとしているのか。それによって対応は変わってくるでしょう?」

「それは……そう、ですね」

確かに私たちは名前を出されているだけともとれます。

状況が状況で、そしてそれを口にしているのがかつてアルダールのお見合い相手だから……とついついこちらに矛先が向けられていると思い込みがちでしたが、確かに他国の意図がそこにあるのだとすればミュリエッタさんは突っつきやすい水風船のような存在です。

華やかで、可愛らしく、人々の注目の的。

国が推したアイドルのようなものです。

その偶像が恋愛沙汰で失態を犯せばちょびっとだけ国民はがっかりするでしょう。

ミュリエッタさんを通して、国を、国が認めた〝英雄〟を。

「それにしても本当に月日の経つのは早いわね~!」

「そう、ねえ……」

「貴女が見習い侍女としてやってきた時はこーんなに小さかったのに!」

テーブルの高さをポンッと叩く後宮筆頭ですが、私そんなに小さくありませんでしたよ!?

いやまあよその子の成長は早いと言いますからね……内宮と外宮で見習い期を過ごし、プリメラさま付きとなってからは後宮で過ごした私は当時から筆頭侍女だった彼女たちからすれば親戚の子供みたいなものだったのかもしれません。

「……そうですね、私もなんだか急に子供の頃に戻りたくなる時があります」

「あら。後宮でいつも先輩たちにいいように使われて悔し泣きしていた頃?」

「知ってたんですか!?」

「そりゃそうよ。でもあそこで私が出ていったらだめだと思っていたから……頑張っている貴女が挫けそうになったら手助けしようって見守っていたのよ? これでも」

後宮筆頭がふふふと笑いながら私の頭を撫でました。

まるで『あの時できなかった分』とでも言わんばかりの、優しい手つき。

「結局私が手を出すまでもなく、貴女はプリメラさまの専属侍女になってみせたものねえ」

「気がつけばスカーレットのことも導いて、こうして結婚を間近に控えたレディになって……」

ハンカチを取り出して目尻を拭う内宮筆頭。

そんなに感動するところですかね!?

いやでも見守られていたんだなと思うと、心がほっこりしました。

「あ、そうだわ」

「どうしました、後宮筆頭……」

「話を聞く限りだけれどね、私はその女性は貴女たちの婚約狙いで間違いないと思うのよ。後ろにいる人物が何を目的としているかが問題だけど、そこは間違いないと思うわ」

「は、はい」

後宮筆頭は王妃さま、王太后さまの関係で裏であれこれ動く女性の機微に聡い方。

見た目はおっとりしてますが、女の戦いに関しては熟知していると言われています。

誰にって? それは言えない。言えない。

「そういう女性って私の経験上、簡単に挑発に乗ってくるの。だから捨て駒にちょうど良いのだけど……」

「後宮筆頭、言い方が少しばかり乱暴ですよ……」

「あらごめんあそばせ」

そう、この二人もそういえばものすごく遠いとはいえ遠縁だったんですよね。

ピジョット侯爵家の血縁はクーラウム全体にいる、なんて噂話が真実じゃないかなって私は思っております。

まあとにかくそんな息ぴったり(?)なお二人によると、こういう時に〝貴族らしく〟駆け引きするだけではなく相手に合わせた方法も取り入れるのが下位貴族のやり方だと言われました。

相手が小者のうちこそあちらも探りを入れてくる、それをどうやって引きずり出すかが問題らしいですが……えっ、それが難しいんですけど?

当たり前のように教えてくださる話でしたが難易度高くてそれをどうしようって話なんですけど?

「あの……具体的には……」

「私も噂は耳にしたことがあるんですのよ、シェルラーニ家のその我が儘娘の噂」

「はあ……」

まあバウム家の長子とお見合いするくらいですからね。

老舗ということもあって貴族家と付き合いも多いシェルラーニ、そことお付き合いができれば貴族家としても財源の面でサポートしてもらえる期待を寄せていればそりゃ適齢期の異性を持つ家族としてはチェックするってもんでしょう。

まあそういう点でうちは縁がなかったから存じ上げなかったとも言いますが!

(アルダールの見合い相手までアンテナ張って嫉妬するほど私も暇じゃなかったですしね……)

次から次にお仕事で忙しかったからであって、決してアルダールを蔑ろにしているわけじゃありませんよ!

そう! 私は過去よりも未来を大事にする女ですからね!!

考えもしなかったなんて言えやしません。ないしょね、ないしょ。

「おそらくこれまでのことを考えれば、貴女たちが新居にちょくちょく顔を出しているならそのうち勝手に痺れを切らして行動に出てくるわ。その際はとっとと切り捨てられるでしょうけど、どこが黒幕かその後ろ姿だけでも見つけられれば今後どこに向けて対処すべきか見えるはずよ」

「……つまり自分たちを囮にしろと?」

「 ついでに(・・・・) ミスルトゥ家として毅然とした態度で『招かれざるお客さま』をお見送りして差し上げれば良いのよ」

うふふと後宮筆頭が優しく微笑みました。

その『招かれざるお客さま』ってのは私たち侍女の間で使う、手ひどく言葉で言いくるめて二度目の来訪ができないよう矜持をぶった切っておやりなさいって意味なんですけど……。

「が、がんばります……!」

「……無理はしなくて良いのよ」

ポンッと私の肩を叩いて慰めてくれる内宮筆頭が、女神に見えました。