作品タイトル不明
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ライアンは非常に優秀だった。
基本的には控えめな態度でセバスチャンさんの後ろにつき、スカーレットとメイナに対しては年上の余裕を見せつつ丁寧な態度なんだけどほどよくフレンドリー。
距離感がとてもほどよいというか、そういうところを熟知しているというか……。
初めこそ年若い同僚ということで緊張していたスカーレットとメイナも今では〝仲が良い親戚のお兄さん〟くらいにライアンのことを見ているように思える。
ちなみによく考えなくとも私の方が年下なんだな……?
(でも同年代の同僚ってのは新鮮かも)
同じ侍女でも私は早々にプリメラさまの専属侍女になったこともあって、同期の侍女っていう感じで親しくするような相手はいなかったものですからね。
ああいえ、一応外宮や内宮には今も同期の人たちはいますよ!
既婚者だったり結婚を機に辞めて田舎に帰った人が多いですけど……なにせ私の同期っていうか一緒に入った頃の人たちって大抵が貴族のご令嬢なわけですのでね。
(同じ頃に入った市井の子と親しくなる前だったしなあ)
さすがにね、王女宮に移る前の後宮で働いていた際もプリメラさまの世話役として選ばれていたのは後宮でそれなりに勤務年数を重ねている方々でしたから、つまるところ私にとっては先輩だったわけです。
大事な王女さまを新人に世話させるわけがないっていう。
私は本当にそういう意味では異例中の異例、プリメラさまが気に入ってくださったからこその奇跡の人事だったわけで……。
(その奇跡に感謝しなくてはいけませんね)
今でも目を閉じればまぶたの裏に思い浮かぶ、赤ちゃん時代のプリメラさま。
今のお姿だって十分に大天使で愛らしく素敵ですが、あの頃はあの頃で天使でした……ふわもち天使……。
「ユリアさま」
「あらライアン。どうかした?」
「はい、こちらの書類なのですが……」
これまで書類に関してはスカーレットと私で分担することが多かったのですが、人が増えたということでライアンにも手伝ってもらうようにしました。
といっても、いろんな業務に携わる必要がある時期なので、研修のようなものですね。
スカーレットは字も綺麗で処理能力に優れているという部分が大きかったですが、ライアンはおそらく……実務で似たようなことをしていたのではないでしょうか。
これまでどんな仕事をしていたのかっていうのは本来身上書に書かれているわけですが、そこは〝影〟出身ですので『まるっと全部嘘』とまではいかないとはいえ本当のことでもない……とセバスチャンさんが言っていました!
まあ、うちの宮に限って言えば後ろ暗いところなどありませんし、フォーマットを定めているので指導も楽ちんなんですけどね!
初めのうちはそのフォーマットに面食らったようでしたけど。
「適応力が高くて助かるわ」
「ご指導いただいたおかげです」
「それにライアンさんがご一緒してくださると、提出先の文官たちが嫌味を言わないのでとても助かるんですのよ!」
「まあ」
これについては頭の痛い話ではあるんですよね……。
女性も働くことが多いですが、このクーラウムはやはり男性上位な国なのです。
ただ男性上位だからって働く仲間として王城内では殆どの人が対等に見てくれていますし、私のように役職持ちの女性に対して敬意を払ってくれるものですが……中には困った人もやはりいるのです。
まあそれは性別関係なくってやつなのですが、スカーレットやメイナが書類関係で届けに行くと『お高く止まっている小娘』みたいな陰口を叩かれることがあるらしくて。
私が行った際にはものすごく愛想良く振る舞うんですが、きっと裏ではいろいろ言っているのでしょう。
気にせずスルーしておいて、それによって被害が出たらやり返してやろうとあの子たちには常々言っているのですが……なんせ残念ながらそういった考えの人も一定数いるのです。
ちなみにこれは男女ともにいるので、性別の問題ではなく性格の問題でしょう。
「僕でよければ書類を届ける役目を担いましょうか?」
「……そうね、いえ、あなただけに任せるわけにはいかないわ。回数が減るだけでも大分気持ちも違うし……でもいざとなったら頼らせてくれる?」
「はい、勿論」
「ありがとうライアン」
「いえ」
そうなのよね、頼れるところは頼りたいけれど……全部任せっきりにしちゃうと今後の運用とかで頭を悩ませることになるしそれはそれで陰口の理由になるしであいつらいつか天罰が下ればいいのにって思っています。
まあそれは表に出しませんけど!
結局のところなんにでも不満を持つ人があら探しをして 誰でもいいから(・・・・・・・) 個人に攻撃を仕掛けるのに、私たち侍女ってのは格好の的でもあるんですよね。
貴族令嬢ってだけでまず色眼鏡で見られますし、そこで結婚云々でまたチクチク、それから侍女はお茶くみでいいですねえってところでしょうか。
それらを踏まえて『優しい王女殿下に守られてぬくぬくしている』と言われるのが一番腹が立ちますので、それを私に言ってきたヤツに対しては私も行動させていただきましたよ。
結果? その人は王城で見かけなくなりましたねえ。
(でもそれでも『手ぬるい』って当時は宰相閣下に一言だけ言われたっけ)
あの時はこっわぁ……って思いましたが、まあどの程度で許すかは人それぞれってことで。
これまでもセバスチャンさんがいたのです。
ずっとセバスチャンさん『だけに』お願いしなかったのは、メイナとスカーレットのためでもありました。
彼女たちが本気で嫌がったり、怯えたりするならば考えましたが……普段から守られている私が言うのもあれですが、守られてばかりではこれからどうするのかっていう話でもありましたので。
仕事は仕事。いやな相手だからといって避けられない場合もあるので、その際にどのように対応するかを彼女たちにも話してきました。
「……スカーレットもメイナも、それでいいかしら?」
「はい、ユリアさま! わたしは気にしていないので……でもライアンさん、ありがとうございます」
「はい、勿論ですわ! まあ今はタイミングがなくてできていませんけれど、いつかあのキツネ顔をぎゃふんと言わせてみせますわ!」
相変わらず言葉のチョイスがなあ。
って待てよ?
「……スカーレット、割と初めの方でキツネ顔の男性と口げんかしてなかったかしら?」
「してましたねえ、わたし一緒に行ったから覚えてますよ……」
確か経理部の人だったと思うんですけど。キツネ顔でスカーレットと相性悪かった人。
思い出してメイナと思わず遠い目をしてしまいましたが、まあそれもこれも経験です。
これからも侍女としてやっていく中で、苦手な人を避ける方法も、避けられないなりに対処する方法も身につけなければなりません。
どうしようもない時はいつだって言ってくれて構わないと告げてありますし、なるべく相談しやすい環境を整えて頼りになる上司として振る舞っているつもりなのでそこは彼女たちを信頼して私はでしゃばりすぎないようにしないと。
(……なんでもかんでもやってあげるのは違うって、昔セバスチャンさんにも言われちゃいましたからね……)
いやあ、私もまだまだ未熟ってことですよ!
そういえば愛人枠狙いの人って確かキツネ顔の男性と親戚だった気がしますね……はあ、王宮内は本当に 魑魅魍魎(ちみもうりょう) が 跋扈(ばっこ) する恐ろしいところでもありますから気をつけませんと!
(まあ、でも)
私にもこうして王女宮という安心できる場所がありますし。
おそらくは陛下や上の方々も、ミスルトゥ家問題に関しては今後も基本はノータッチでしょう。
そのくらいは自分たちでなんとかするのも経験だぞ、と今回と同じような感じで思われているに違いありませんからね!
「ユリアさん、お迎えですぞ」
「ああ、もうそんな時間なのね。それじゃあセバスチャンさん、後のことは……そうだわライアンを紹介しなくては。来て、ライアン」
「はい」
みんなで書類を片付けつつ今日の業務を終わらせていると、アルダールが迎えに来たようです。
まだアルダールとは直接会ったことのないライアンを連れて、私は廊下にいる彼のところへ行くのでした。