軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「妻にも息子にも、相談しろと言われたな」

私に向かって頭を下げた後、バウム伯爵さまはそう言ってアルダールに視線を向けました。

それを受けてアルダールはムッとした様子の表情を、うん?

「親父殿が勝手に突っ走りすぎたせいだろう」

「知れば責任を取る側にならざるをえんだろう」

「だからって結局身内である以上、全てがなかったことにはならない」

「知らなかった、知らされなかったとあれば情状酌量の余地も出る。家人に対しても厳しい目が向けられることはなかろう」

「それはそうかもしれないけど、家族には伝えておくべきだ。信頼していなかったと思われても仕方ないだろう?」

「……そうかもしれんな」

ちょ、ちょちょちょっと待ってください。

おそらくアルダールも、バウム伯爵さまが不穏勢力をおびき出し、そして連帯責任として一斉に当主、あるいはそれ相応の地位から退く形に持って行かせた件を知ってそれについて文句を言っているのでしょう。

たしかに私もあのやり方は一方的だと思うし、家族側の立場からするととても……こう言ってしまうと身も蓋もありませんが、失礼な話だと思うのです。

ある意味で言えば、確かにバウム伯爵さまの取った行動はバウム伯爵さまの責任です。

全ての責任を取ってと言えば聞こえもいいでしょうし、実際その責任を自分で取るのですからそこはいいでしょう。

でも『バウム伯爵の責任』としてアリッサさまは何も聞かされていなくとも妻として一緒にその女主人としての立場を退き領地に戻るとなれば、社交界での立場をなくすと同意義ではありませんか。

そういう意味ではやはり無責任。

知らされずに跡を継ぐことになるディーン・デインさまだって、あんな父親がいて大変だったねと同情されてありがたいやら恥ずかしいやら。

そりゃプリメラさまの婚約者という立場もありますから表立って変なことを言う人はいないでしょうがそれでもやっぱり良い気分はしませんよ、普通の感性ならね!!

(だからってここで親子喧嘩されても困るんですよ!!)

私としてもこの話題はどうしたものかと少し思っていたのは事実です、でもこの場でこんな風になるとは誰が想像したでしょうか?

いえ、まあ……そういう意味では親子でこうしてきちんと意思疎通を図ろうとしているのはとても良いことだと思いますけどね!

でもなんていうかですね、私とお父さまはそこに入れないっていうか、入りたくないっていうか……つまり、親子喧嘩はよそでやっていただきたい。

「バウム伯爵さまのお気持ちは、確かにいただきました」

「……感謝する」

「ですが、将来……アルダールと結婚する私を、家族の一員として認めていただけるのであれば一言だけよろしいでしょうか?」

「なにかな」

バウム伯爵さまは不器用で。

家族を愛していて、愛し方を間違えていて、それを理解すれば謝罪することも厭わない人だということは、今ならわかる。

自分だけ悪者になればいい、そういう守り方もあるのだと私は知っています。

それが、必要であることも。

誰かに理解されなくても、誰かに知ってほしくても言ってはならないことも、王城で長く働いていれば知ってしまうものですから。

「今回の件に関しましては、家族を巻き込むべきであったと愚考いたします」

「……何故か聞いても?」

「バウム伯爵さまは軍部の 標(しるべ) 。貴方さまの行動により、多くの不穏な気配が断たれたことは事実ですが、やりようがあったのではありませんか?」

そうだ。

多くの人を巻き込まない、自分だけを悪者にすればいい。

そう考えたから、バウム伯爵さまは新しく爵位を受け継いだパーバス家に近づいて、その自尊心をくすぐって、劣等感を煽って、今に至る。

でも陛下を含め、他の方々は『別にバウム伯爵がやる必要は無かった』というようなことを言っていた。

それはつまり、 もっと(・・・) 上手くやれたってことではないのだろうか?

「奸計は、正道を行かれる騎士さまには望ましくない方法かもしれません。ですが、それをやるにもそれなりの礼儀があるとご存じと思います」

軍の作戦も、政治の運営も、綺麗ごとだけじゃやっていられない。

それをこの人は、 きれいごと(・・・・・) でやろうとしたからいけないんだ。

もしそうじゃなかったら?

そりゃまあ言い方が悪いですけど、腹黒い人たちならもっと角が立たない方法でやってくれたでしょうよ。

「……どうぞ、頼ってくださいませ。微力ながら、知恵はないよりマシでございましょう」

「なるほど」

私の言い方は、とても、そう……とっても失礼で、生意気な物言いだったでしょう。

それがわかっていても、私はあえてそんな言葉を選んで言い放ったんです。

理由? そりゃまあ……あれですよ。

私だって思うところがたくさんあったってことです!

「君はこちらが思っていた以上に、気の強い女性のようだ。いや、そうでなくば筆頭侍女など務まらんか」

「……お褒めの言葉と受け取らせていただいても?」

「勿論だ。唯々諾々とそこにいるだけでは、主君の支えとはなり得ない」

侍女としての私を褒めてくれているってのはわかるけど、念のためね!

でもそれに対してキッパリとそういう発言をするところがアルダールと同じだなあと思うと、なんとなくくすぐったい気持ちになりました。

うん、親子なんだなあ。

ちらりと隣に座るアルダールを見れば、苦い顔をしていましたけどね。

(しかし気が強い、かあ)

あまり言われたことがない言葉だけに新鮮です。

鉄壁侍女だの、鉄仮面だのという言葉は以前何回か耳にしましたけど。

実際の私はかなり豆腐メンタルの持ち主ですし、プリメラさまのことがなければ事なかれ主義で『モブ生活最高!』とか思いながら城内の一般侍女に甘んじていたと思います。

そういう意味では確かに、プリメラさまのためにしっかりしよう、プリメラさまを甘やかすだけじゃなくてご側室さまの分まで愛情を届けよう、そして歓心を買うために甘やかそうとする人たちに負けないようにしようと思ったのは事実です。

だから私は必要だと思えば、堂々と意見だって言いますし、そのために言えるだけの地位を手に入れた……ってことに結果としては繋がっているのでしょう。

「アルダールの妻となる女性が君のような人で本当に良かったと思っている。……わしは、騎士としては誇れると自負しているが……父親としては、誇れるところがない」

「バウム伯爵さま……」

「だが、息子の幸せを願っている」

それだけは事実だと言葉を結んだバウム伯爵さまに、私たちはなんと言えばいいのかわからなくなってしまいました。

でも、お父さまが居住まいを正したのに気がついて私たちは全員、そちらを見ました。

一斉に視線が向いたことで驚いたらしいお父さまですが、すぐに何かを決意したような表情を見せて、口を開きました。

「バウム伯爵さま、人は過ちを起こすものと私も娘から学びました」

「……ファンディッド子爵?」

「無論、親として、年長者として本来ならば子に諭されるは恥ずかしいことでしょうし、当主としては己の力で解決できることが望ましいのだと、そう貴族教育でも学びますが……私はそういう意味では、バウム伯爵さまよりもずっと劣った存在でしょう」

「お父さま?」

劣っているだなんてそんな!

そりゃ、かっこいいところは今のところありませんけど……それでも私が働く気持ちとか、そういうのを理解して考えを変えてくれたり、常時愛情を注いでくれているのだから誰と比べて劣るだなんてそんなことはありません。

私にとって、たった一人のお父さまです!

慌ててその言葉を否定しようとしてた私に、お父さまは手を振りました。

「それでも、この子は私を父親と認め、愛してくれるのです」

「……お父さま」

「バウム伯爵さまは、できることも多く、また若くから責任を負ったのです。私如きでは、想像もできぬほどに」

「……」

バウム伯爵さまは、なんでもできた。

そうだろうか?

できたからこそ、できないことが多かったはずです。

意固地にならざるをえない環境だった、そう言われれば……そうかもしれない、と思うこともあります。

人によって『もっと上手くできた』ことも、受け入れられないことだってあったのでしょう。

恥を忍ぶという言葉はありますが、それを実践できるかどうかはまた別のこと。

お父さまの言葉でそれに気付きましたが、私が言葉に出したことも事実で……大変、複雑です。

結果を見て正解を定めるのであれば、バウム伯爵さまが選んだ方法は不正解であり、私の言葉は正しいのかもしれません。

(でも、それでいいのかな)

状況が異なれば、バウム伯爵さまの考えが正しいこともあったかもしれないのです。

誰も巻き添えにせず、一人の犠牲で何かが成り立ったかもしれません。

「領主として、難しい判断を迫られ、決断し、そして成功しようがしまいが、誰かには文句を言われる。私はそれが嫌いで、苦手で……それが故に家族を傷つけました。バウム伯爵さまとは正反対ですな」

笑ったお父さまのお顔は、どこか清々しいです。

お父さま、そういう面倒ごとが苦手でしたものね。

でも、それを言葉にしないできたのに今はきっぱりと口になさった。

「情けない父親同士と言われるのは困るやもしれませんが、逆に言えば子供たちに対して今よりは肩の力を抜いて接することができるようになった、そう前向きに思ってはいかがでしょうか」

「……そう、かもしれんな」

バウム伯爵さまが小さく笑いました。

それまで厳めしいお顔ばかりでしたが、本当に気が抜けたように笑ったのです。

お父さま、すごいですよこれは!!

「ユリア、それにアルダール殿。これからもこうやって悩むことは多いだろうし、二人では正解できないこともあるだろうし、逆に二人でなければ答えが出せないものはあると思う」

「……はい」

「承知しております」

「時には子に諭されることも、子を諫めることも、人間だから過ちがあるとはいえ、許されないことだってあるし……うん、まあ、何が言いたいかって言えば、自分たちなりに頑張って、どうにもならなかったら相談しておくれ」

「お父さま……!」

多分あれこれ言いたいことはあったのだろうけど、上手くまとめられなかったのでしょう。

なんとなく無理矢理結んだ言葉でしたけど、私たちにとってはとても嬉しい言葉のように思えました。

「まあ、私が役に立てる気がしないけど」

その余計な一言がなかったら多分最高でしたよ、お父さま!!