軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「うう、緊張してきた……」

「大丈夫だよ、普通に家族で食事するだけだから」

今日はとうとう、婚約前の顔合わせ……というかまあ、ほぼ食事会のようなものなんですが……その日がやって来てしまったのです!

いえ、来てもらわないと困るんですけども。

ただまあ、なんていうんでしょうね?

嬉しいけど、緊張するし、恥ずかしいし、でもやっぱり婚約はしたいし。

色々と女心は複雑なんですよ、ええ。

私とアルダールはそれぞれの実家から連絡をもらってきちんと手続きを踏んでお休みをとったわけですが、周囲の目が温かいってのもある意味困ったものです。

セバスチャンさんなんて本当に嬉しそうに『結婚式には私も参加したいものですなあ……』なんて、気が早いからア!!

でも、そうです。結婚式の際には、王女宮のみんなにも参加してもらうつもりですよ!

そのことについてはアルダールとも相談済みですからね。

ちなみに、今回顔合わせに行くのは色々と調整が入った結果だそうですが……宰相閣下の、つまり公爵領にある高級ホテルになりました。

どうしてそうなった?

いやうん、わからないでもないけど……。

「しかしこの季節に保養地でホテルを借りられるだなんて思いませんでした」

「……どこからどういう働きかけがあったのかなんて考えたくもないね」

アルダールが苦笑してそう言いましたが、そうなんですよ、 何故か(・・・) 保養地として人気の土地で最高のおもてなしを受けられるという評判のホテル、そこで顔合わせ会とかどんだけ人々の羨望を集めることかと。

私も話に聞いただけのその高級ホテルですが、数年先まで予約で埋まってるって話でしたからね?

(……ビアンカさまかなあ、やっぱり)

バウム伯爵さまが申し込んだとは思えないので、おそらく話を聞いた宰相閣下か、ビアンカさまが気を利かせて融通してくださったんじゃないかなと思います。

でも宰相閣下とは思えないので、やっぱりビアンカさまでしょう。

「ああ、大分見える景色が変わってきた」

「本当」

私とアルダールが馬車に乗って移動するうちに、景色は当たり前ですが変わっていって……整備された町並みに、私たちは顔を見合わせて笑いました。

国内に保養地は数あれど、ここは別格だって話です。

過ごしやすい気候に美しい湖、そこには珍しい渡り鳥もやって来る……季節折々の自然が堪能できるというのが売りですね。

「今回はおとなしく感謝しておこう。折角の気遣いに水を差すのは良くないからね」

「……そうね」

あれこれ考えるよりもまずは自分たちの婚約、そこが大事です。

折角ここまでお膳立てしていただいておいて失敗しましたじゃ笑えませんからね!

……まあ、失敗する要素が一つもないんですけど!!

私たちのお付き合いはそもそも両家公認だし、むしろ自然な流れだし。

偉い人たちからは横槍を入れさせないって約束までもらっちゃってるし。

なにより、私たちは両思いですしね!!

(しかしホテルの宿泊費用ってどっちが出すのかしら?)

一般的にはどちらかの家に訪ねて顔合わせし、そこで親睦を深めるために宿泊……という流れですが、今回はホテルなんですよね。

金銭的に余裕がある方が払えばいいってものですし、ワリカンでもいいと思いますがそこはそう簡単にいかないのが貴族社会ってものです。

見栄とメンツの張り合いですからね!

たとえば、下位でお金を持っている側が全額払ったなら上位側は感謝の意と今後のお付き合いを考えてそれ相応の贈り物をする。

逆に上位の側がもてなした場合、下位側は盛大に感謝していかに上位側が寛容で素晴らしいと他の貴族たちに伝えて派閥を強固にする……なんて感じですね。

面倒くさいですが、そうやって地盤が固まっていくってものなんですよ。

勿論、お互いに好意があって思いやりからのやりとりが大半でしょうけどね、そこに私欲が絡む可能性はどうしたって出てくるものです。

今回に関しては私たちが両思いでいずれは……とどちらの親からも思われていたということで、単純に『良かった良かった』で終わる話だからいいんですけど……ただ高級ホテルってことだけが私にとって心配なわけですよ。

(まさか折半ってことも無いでしょうけど)

それはさすがにバウム家の沽券に関わる問題ですかね。

かといって感謝を言って回るにも我が家はどこの派閥にも属していないような弱小貴族、何かお役に立てることがあるのかしら……。

特にそういうのは望まれていないってわかってますが、何もしなかったらしなかったで『あそこの家はさあ』って言われちゃうかもしれないでしょ!?

とはいえ、私がそこを考えるのもまた違う気がするのでそこは家族会議を開くのがいいかしら……。

「そうだ、ユリア。食事の後に少し町を歩こうか」

「え? ええ、いいけれど」

「折角久しぶりにまとまった休みが取れて一緒にいられるんだ、デートの一つくらいしたっていいだろう?」

優しく笑うアルダールの甘いこと!

最近一緒に居るのが当たり前になって大分耐性がついたのも事実ですが、婚約すると決めてから彼の甘さがすごく増した気がするんですよ!

「い、いつも一緒にいるでしょう?」

「まあね、王城でもちょくちょく一緒にいることはいるけれど……こんなに長く過ごせるのは久しぶりだろう? 前回、セレッセ領に行った時ぶりじゃないかな」

「そ、それはそうかもしれませんけど」

「結婚すれば同じ家で一緒だとわかっているけどね。それでもこうやってゆっくり過ごせる時間も楽しみたい」

「……それは、私も同じですけど……」

「ありがとう」

アルダールは笑って私の左手を取り、薬指に触れるだけのキスを落としました。

ひぃ、悲鳴を上げなかった私を誰かホメテください。

なんですかもう!

イケメンがやったんじゃなかったらとんでもなく気障な所作ですよ。

いえ、イケメンであっても気障でした。

「あ、あの、アルダール!」

「指輪のできあがりが楽しみだね」

「そ、そう、ですね!」

本当に嬉しそうに言うから、こっちはもういっぱいいっぱいです。

もうね! 実はね!

王城を出発する日が決まってからアルダールに押し切られる形で、城下町に行って婚約指輪も発注してきちゃいました!!

あれこれデザイン決めるの楽しかったです。はい。

お披露目が楽しみです!

婚約指輪に関しては公式の場につけていく以外は部屋で大切に保管ということになるのでしょうが、やっぱりあるのとないのとでは大違いですから……。

「……トントン拍子で、少し不安なくらい」

幸せすぎて怖い、なんて使い古された言葉が脳裏を掠めましたが、ようやくその言葉を実感する日が私にも来たようです。

でも思わず呟いた私にアルダールは苦笑しました。

「そうかな? トントン拍子でもなかったと思うけどね」

「ええ? そうかしら……」

「ここに至るまでが私の中では長かったかな。それもいい思い出だろうけど」

「……出会って一年ちょっとで婚約だなんて、私は想像してなかったもの」

そうですよ、むしろ結婚なんて縁がないだろうなあと思っていたくらいで……。

私としてはこの展開に驚きです。

たかが一年ちょっとの時間なんですが、それがものすごく濃密だったからこそ余計に。

プリメラさまが天使だったり、その恋を見守ったり、アルダールとお付き合いを始めて……それからお仕事で認められたり、他国の貴族……主に脳筋公子に絡まれたり、ヒロインがライバルだったり、貴族の間にあるわだかまりに巻き込まれたりとこれを濃密と呼ばずなんと言う。

「私は、もっと早くユリアを妻にしたかった。私だけの、きみにね」

そんな私にアルダールは口づけた指を惜しむように撫でて、きゅっと手を繋いでくれました。

少しだけ、距離が近くて、私は思わず目をそっと閉じました。

……うん、雰囲気にあてられたんですよ。

そういうことにしておいてください。

アルダールが少し笑ったのが気配でわかりましたが、キスが優しかったから許してあげます!