作品タイトル不明
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さて、お茶会についておさらいをしましょう。
今日はビアンカさまのその一言から始まりました。
お茶会を開くための場所、招くお客さまの選定、それから招待状。
それからご参加いただけるお客さまのアレルギーなども考慮した上で季節に合わせた茶葉や菓子類を複数用意すること。
茶器はその時に合ったものの中で最高の物を用意し、お客様方に対し『自分たちは招かれた 特別な(・・・) 客である』と思っていただけるようおもてなしすること。
これが使用人側で必要なことです。
細やかなあれこれは他にもありますが、大筋はこんなものでしょう。
招く側である主人によって選定される物事の前、つまり下準備こそが我々の仕事なのです!
とはいえ、今回はあくまでアリッサさまをお招きするにあたり、茶会を開く練習である……ということで再びビアンカさまの指導が行われているわけですが……。
「あの、ビアンカさま」
「何かしら? ユリア」
「招待状を送る相手の選び方、その理由。身分に応じた招待状の書き方……招く側が知っておかねばならない内容であると思いますし私たち使用人側でも知っておいて損はないと重々承知しております。おりますが……」
「ええ、それが?」
「何故! 私が! プリメラさまと席を並べて学んでいるのでしょうか……!!」
「今後役に立つからよ」
いや、そうじゃないから。
我が国の王女様とその侍女が何故に同列で学ぶんだよって話なんですって、ビアンカさま!
楽しそうにコロコロ笑っているけど、身分差ァ! そこ考えて!!
こんな現場が見つかったら、私が統括侍女さまに呼び出されて反省文を提出の上で減給間違いなしですからね!?
「まあ、そうねえ。正直なところを言えば、ユリアには学んでおいてもらって損はないから、かしら」
「どういうことですか? 先生」
手を挙げて質問をするプリメラさま、可愛い。
さっきまで私と一緒にお勉強できるの嬉しいとか言っていてもうそりゃ天使かよって思ってましたけど、ああもう可愛い。
「そうねえ、確かに説明が足りなかったわ。ユリアは侍女であると同時に基礎の令嬢教育が終わっている子爵令嬢。その両方の観点が必要なのよ」
「……両方の観点、で、ございますか」
ビアンカさまが説明してくれたことはこうだ。
プリメラさまやビアンカさまはこの国で言えばヒエラルキーの頂点にいる淑女、それゆえに下の者を招く立場にしかなれない。
嫁いで立場が変わることはこの国の女性として往々にしてあることなので、下の立場になって上の者を誘う文言を学ぶことは必要であること。
ただし、それに関しては教科書上にあることしか学べないために、信頼できる他家の人間からそれらについて教えてもらうのが良い……そういうことでした。
「本来ならばわたくしの一門に連なる誰かに話させても良いのだけれど、そういう点では貴女がうってつけじゃない」
「はあ……しかし、私は茶会についてはほとんど知りませんよ? 実家で茶会を主催するなどありませんでしたし、聞いたこともありませんし……」
「あらそうなの? みんな開いているんじゃないの?」
私の言葉にプリメラさまが不思議そうな声を上げた。
おや、と思った私にビアンカさまがホラ見たことかと言わんばかりにニッコリと笑う。
なるほど、そういうことか。
「いいえ、プリメラさま。そのようなことはございません」
確かに領地持ち貴族は一般的に言えば国の中で中層から上に位置する富裕層と言っていいと思いますが、それだって領地の経営状態によってはカツカツな懐事情を抱えているのです。
茶会を開くということは小さな社交場を作り出すということ。
影響力がある人に招かれればその人と繋がる、或いはその関係者と知り合える可能性があるのです。
逆に開くことによって招待状を送ることで親しくなるチャンスだって得られるのです。
これらの横の繋がりは時としてそれぞれの家に影響を及ぼすこともありますので、馬鹿にできません。
また社交の場で知り合いが増えるということは、どこの社交場に行っても知り合いがいる、あるいは友人がいるという心強さもあるのです。
ぼっちのパーティー会場なんてアウェイもいいところですからね!!
そういう意味では王族や高位貴族は常時引っ張りだこですとも。
でもそれは例外。
基本的に侯爵家から上の、いわゆる高位貴族と呼ばれる方々はそのネームバリューからお呼ばれすることも、お招きすることも、両方こなすことが多いかと思います。
伯爵家も割と多いかなと思いますが……そこはある程度、懐事情が物を言うところかなと……。
では下級貴族はどうか?
そりゃもう、少し考えたらわかることですが……お金もない、領地に特色が少ない、領主に特別な能力があるわけでもない平々凡々なところが茶会を開いたとして、どれだけ人が集まると思います?
そう、大したことはないですよね。
下手したら親戚くらいで終わりますよ!
大々的に偉い方をお誘いして張り切った結果お越しいただけなかったら大ショック。
招待状を出すのは遅すぎても勿論ダメですが、早すぎてもダメなのです。
ということは、招待状を出した時点ですでにこちらは事前準備を始めているわけですから……張り切りすぎて一番のゲストと思っていた方に来ていただけなかったら面目丸潰れにもなりうるリスクを孕んでいる。
かといって、来ないだろうなんて高を括ってこぢんまりとしたものにして恥を掻く可能性だってあるのです。
「……そういうわけで、確実に成功する茶会でもない限り下級貴族が率先して開くことはございません。たとえば、新当主の就任祝いですとかそういうものでしたら寄子と寄親の関係で上位貴族の方にお越しいただけますので面目も立ちますし……」
「なるほど……勉強になるわ」
「こういったことはわたくしたちのような立場ではなかなか知ることができませんわ。自分の家のことを話すようで気が引けるという者も多いですから。その点、ユリアは侍女という観点もありますから多くの者たちの視点で物を語れることが強みですわね」
ビアンカさまは私の言葉を受けて満足そうに笑いました。
えっ、割と下級貴族の間では暗黙の了解っていうか、ビアンカさま絶対にその内情ご存じでしたよね?
……まあ、下級貴族出身の私が語ることで真実味が増すって思われたんでしょうけど。
実際、プリメラさまも私の話を聞いて色々と考えておられるようだし。
「そうよね、わたしが誰彼構わず誘ったら混乱させてしまうし……逆に身分差がありすぎる相手を招いたら分不相応と相手が言われてしまうこともあるのかしら? 例えば、そうね……ウィナー男爵令嬢を誘ったとしたら」
「さようですね、難しい話ではありますが。プリメラさまが親しくなりたいと願っているということでお誘いになるならば、表向き文句を言う者は誰もおりませんでしょう。けれど、あちらはいらぬやっかみを受けることは必定でしょうし、王女殿下のお誘いを断るなど恐れ多くてできません」
だから多くのご令嬢たちは同じ程度の身分で固まりやすいのだ。
そこに身分至上主義って厄介な人たちもたまにいるけれど、誰だって誰かを傷つけたり憎まれたり、それが原因で妬まれたり……そんなことに巻き込まれたくはないのだから。
プリメラさまもわかってはいても確認したかったのか、特に驚く様子はなかった。
「……それはわたしの お願い(・・・) であっても、強制となり、相手の負担になるということ、ですね?」
「そうです。わたくしたち上位に立つ者は、それらを考慮した上で行動せねばなりません」
厳しい表情でビアンカさまはそうプリメラさまに言って、それから視線を私に向けました。
まるでそれは『ちゃんと貴女も覚えておきなさい』と言わんばかりのもので……えっ、わかってますよ!?
(プリメラさまがこれから茶会を開かれる際には どなたに(・・・・) 招待状を送るのか、それらのリストを管理して必要とあれば諫言することもいたしますとも!!)
そんな私の視線を受けてなのか、ビアンカさまは何故か楽しそうに笑いました。
その笑顔の意味がわからなくて少しだけ私は困惑しましたが、もう教えてもらえそうにありません。
「さあ、それじゃあ今度は招待状の書き方についてしっかりとおさらいしておきましょう。ユリアも使用人側の立場で意見をどんどん出して頂戴ね!」
「頼りにしているわ、ユリア!」
「……かしこまりました」
どんどんて。
そんなに出てくること、あるのかしら……私はそう思いましたがとりあえず深く頭を下げておくのでした。